IF26・ばれんたいんな夢色

355 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:31 ID:ORbc7iVg
「…どうしよう」
思わずこぼれてくる言葉
「どうしたの、愛理?」
やっぱりするどい晶には分かっちゃうか
でも、私は無理に隠し通そうとする
「何でも…ない」
間を明けたのがまずかったのか
意味ありげな笑みを浮かべて、晶は話しに戻った
此処にいるのは晶だけではない。天満、美琴もいる
みんな遊びに行ったで盛り上がっているのに、私だけ話しについて行こうとしない
いや、ついていく気になれないのかしら?
何故かというと――――――
――――――――今日は、バレンタインデーだから。

今日こそは、今日こそは、彼に思いを伝えよう
何度そう思った事か。手作りのチョコも作った
彼は喜んでくれるだろうか
――――大丈夫。彼はおにぎりも食べてくれたんだから
――――大丈夫。彼はやさしい人だから
――――きっと…大丈夫…だよね
いいようのない不安を押し出すように
心の中で『大丈夫』を何度も繰り返す

そんな私を見て、天満や美琴が、心配してくれた
「エリちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」
「そうだぞ沢近。お前熱でもあるんじゃないか?」
「本当に大丈夫だから…。心配しなくてもヘーキよ。」
そうだ。本当の勝負は昼休みなんだから。




356 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:33 ID:ORbc7iVg
やっと昼休みがきた。昼休みまでがこんなに長いなんて…
彼はきっと屋上で寝ている
そう確信した私は早速屋上へと向かった

屋上へと続く階段を、一歩一歩のぼるごとに、心臓の音が強くなってゆく
やっとドアが見えて来た
彼の他には誰もいないわよね
そっとすきまから覗いてみる

その瞬間、何かが崩れるような音がした

八雲が彼にチョコをわたしていた
――――何よ、嬉しそうにしちゃって
こんな事なら早く来ればよかったなどと
後悔するヒマもなかった

―――――私の中で何かがはじけた

目から涙があふれてくる

誕生日会のような事にはさせない、と思っていたのに
素直になろうと決めてたのに

私は屋上から走り出していった




357 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:39 ID:ORbc7iVg
「ハァ、ハァ…」

たどり着いたのは、一本の木の下
彼がジャージを掛けてくれた場所
根元に腰をおろす。

「―――――何してんだろ…」
別に、八雲の後でもよかったじゃない
それなのに、何で?
自分で自分に問いかける

きっと――――

きっと先にこされたのが嫌だったのだろう
そんなささいな事でも、負けると嫌な程、この日が大事だったんだ
手の中のチョコレートを見てみる

強く握ったせいでぐちゃぐちゃにつぶれてしまった

こんなのあげる事なんてできない




358 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:39 ID:ORbc7iVg
悔しい、悲しいという気持ちより
虚しいという虚脱感が私を占めていた
自分の考えている事が分からない
整理できない
まるでこんがらがった糸のよう
手の中にあるチョコ
これをどっかにやってしまえばすっきりするかしら
「こんなもの…っ!」

ためらいがなかった、といえば嘘になるだろう

大きく振った手の中からチョコが遠ざかってゆくのを
ただ見ていることしかできなかった

投げた後、これまでにしたこのない程後悔した
自分の想いを自分で踏みにじる様な行為
それがどれほど自分を苦しませると思う?
全身の力が抜けてゆく
私は全身の力が抜け、へなへなと座り込んだ

体育祭の思い出。
彼がかけてくれたジャージ。
前みたいに彼は助けてくれるだろうか?
まだそんな期待をしている私
やっぱり好きなんだ
彼の事が、好きなんだ…
苦しい。苦しいよ、ヒゲ、播…磨…くん…




359 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:41 ID:ORbc7iVg
気がつくと、辺りはもう暗くなっていた
どうやら寝ていたらしい
私は尻についている汚れを取ると、門の方へと歩き出した

今日の事を考えるだけでどうにかなりそう

その途中、見慣れたバイクがあるのに気付いた
ヒゲの…バイク。
今日の事がまた頭の中でうずまいて来た
私は暫くそこに立ち尽くしてずっと回想に浸っていた

頬を涙が零れてゆく

「…じょう、おい、お嬢!」
呼ばれた気がして振り返ると、そこにはヒゲがいた
胸がキュンと痛む

思わず、逃げようとしたけど
体が、いうことを聞いてくれない

『素直になるってきめたんでしょ』
その時、その言葉が頭に響いた
でもどうすればいいのか分からなくて




360 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:43 ID:ORbc7iVg
「...お嬢?」
何も言わない私を心配してくれたのか、彼は私の前に回りこんできた
慌てて涙を拭き取る
「な、何よ…」
涙で腫れた目を見せないようにうつむく私
「何よ、じゃねえだろ。お嬢も忘れモンかよ」
「え、あ、うん。そう。忘れ物しちゃって…」
「ふーん...って、お嬢、顔色悪ぃぞ、大丈夫か?」

ヒゲの顔が近くまできて
ヒゲの手が私のおでこを触ってくれて
ヒゲの、ひんやりした手で私の頬を撫でてくれて

その時、とっさにいい案が浮かんだ



361 :ばれんたいんな夢色:06/02/16 19:45 ID:ORbc7iVg
別に、プレゼントはチョコじゃなくてもいいんだ


チョコじゃないけど

私の想いがこもっているから

お返し、きちんと頂戴ね


いいよ、ね?

そして、彼の唇に

私のソレを

静かに

重ねた

〜Fin〜
2007年11月30日(金) 14:09:40 Modified by ID:EBvjy16zhA




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