IF3・Bad Communication

254 :Bad Communication :04/01/17 21:40 ID:???
「……もう、なんで私が」
 屋上への階段を登りながらぼやく沢近。だいたい天満が悪いのよ、と思ってみたものの、
貧乏くじを引いてしまったのは自分であり、事態はまったく好転しない。
「あれよ、結局あのヒゲが悪いのよ」
 いつも通りと言えばいつも通りの結論に落ち着いて、憤懣やるかたなし、という様子である。
 さて、ことの起こりはと言えば。
 遡ること数分前――

「あれ?ずいぶん早かったな、塚本」
「うん。今そこでカレリンに会ってね……」
「……カレリン?」
 誰だそれは、という反応の一同の中で、晶がぽつりと言う。
「……一条さんのこと?」
「もちろん……って何?みんな変な顔して」
「いや、別に僕は何も……」
「……」
「カレリン、ねぇ……」
「天満、あなたってほんっとに……」
「えー、可愛くないかな、カレリンって……」
 まあそれはいいけどさ、と本題に戻す美琴。
「播磨のヤツは?」
「……あ」
 そのリアクションにやっぱり、と思う一同。
「あなたに行ってもらったのがそもそも間違いだったかしら……」
「そ、そんなことないよ!私だってそれくらい、」
「出来てないじゃない。……そうだ、あなたたち二人、どっちか行ってきたら?友達でしょう?」
 花井と今鳥に話を振る沢近。


255 :Bad Communication :04/01/17 21:40 ID:???
「んー、オレ別に友達じゃないし」
 実はそれより一条のことが気になって――喰われるか否か、それが問題――仕方ない今鳥である。
「……お前にゃ期待してないよ、花井は?」
 問う美琴に、行くわけないだろう、と胸を張って答える花井。
「この僕を差し置いて八雲君と行動するような男だぞ!何故わざわざ僕が……」
「あー、わかったわかった。じゃあ高野……は行くわけないよな」
 黙って頷く晶。
「んじゃ沢近だな」
「冗談。行かないわよ、私は」
「……ったく、わかったよ、それじゃ私が」
「待って美琴ちゃん!」
 びしっと人差し指を立てて言う天満。
「ここはやっぱりじゃんけんだよ!」
 ふびょーどーだもん、と続ける。
「いや、別に私はいいんだけど……」
「よくないの!ほらみんなも!」
 こういうときだけ妙に強い天満、もちろん私は参加するからね、と息巻いていたりして、結局
自分には出来ない、というレッテルを貼られたのが嫌なだけだったりもする。
「それじゃいくよ。せーのっ、じゃーんけーん……」

 ――とまあ、そんなわけで。
 ぶつくさと文句を言いながら、屋上へと向かう沢近がここにいる。
「そもそも、最初の一回で一人負けっていうのが納得できないわ……」
 グチはとどまるところを知らないが、進んでいる以上はいつかは目的地にたどり着く、いつのまにか
屋上への扉はもう目の前。
 その前で少しだけ躊躇して、今度はそんな自分に馬鹿じゃないの、と思いつつ扉を開ける。
「……」
 ごう、と風が吹いて髪を揺らす。まず目に入ったのは空の青、そして金網のフェンス。別段何と言う
こともない光景……だったのだが。


256 :Bad Communication :04/01/17 21:42 ID:???
(何かしら、この感じ)
 一瞬、いつもと違う雰囲気――例えばそれは、空が近くに見えるような――を感じ取る沢近。しかし、
次の瞬間にはそんなことはいいのよ、と本来の目的を思い出す。
(昼休みなんだから余計なところで時間を食ってる場合じゃ……)
 ぐるり、と辺りを見回して、その目的――播磨を見つける。何やら隅の方でごそごそと何かをして
いて、こちらには気がついていない様子である。
(もう、さっさと気がつきなさいよね)
 さすがにそれは理不尽ではなかろうか、ということを考えながら、つかつかと歩み寄る沢近。対する
播磨はまだ気付いていない。余程何かに集中しているようである。
「ちょっと、ヒゲ――」
「うおおっ!?」
 声をかけられて初めて気がついた、という様子で、文字通り飛び上がるようにして驚く播磨。沢近は
沢近で、思いもかけないそのリアクションに驚いている。
「っ、何よっ!そんなに驚かなくてもいいでしょ!?」
「わ、わわわわわりぃ」
 不自然なまでに動揺しながら、何かを後ろに隠しつつ答える播磨。
「何やってんのよ、アンタ……まあいいわ。ほら、この間の写真」
「お、おう。た、たた助かったぜ!じゃあなっ!」
 差し出された写真をひったくるようにして受け取り、そのまま脱兎のごとく駆け出して屋上を飛び
出していく播磨に、沢近はあっけにとられるばかり。
「何なのよ……あら?」
 その播磨がいたところに、一枚の紙切れのようなものを見つける。
「何かしら……」
 どうやら何かが書いてあるらしいそれを手に取って、その内容を――――
「……ふふ、ははは、あはははははははっ!」
 読んで思わず吹き出した。


257 :Bad Communication :04/01/17 21:43 ID:???
「な、何よコレ」
 そこに書かれていたのは、それこそ小学生でも書きそうな内容の。
(ラブレター、よね。たぶん)
 笑いをこらえながらも何度か読み返してみたが、そうとしか取れない。
 そうとしか取れないほどに拙くて――そしてストレートだった。
(あのヒゲが、ね……)
 ふん、と思いながら、一度はそのまま捨ててしまおうとしたそれをポケットにねじ込んで屋上の
出口に向かう。
「……」
 そしてその出口の前で一度だけ振り向いて。
(まあ、悪くない景色ではあるわよね)
 そんなことを思った。

「あ、愛理ちゃん。ちゃんと渡せた?」
 戻ってきた教室で天満に声をかけられ、ちゃんと渡したわよ、と答える沢近。
「なんだかもの凄いスピードで逃げられちゃったけどね……」
 呆れるようにそう言ってから、辺りを見て気がつく。
「あら?戻ってきてないの?」
「うん、だから愛理ちゃんもちゃんと会えたのかな、って」
 少し心配そうな天満に、そのうち戻ってくるでしょ、と素っ気なく沢近。
「どうせ放課後には出てくるわよ、それより次の授業始まるわよ?」
「うん……」
 もう一度心配そうに隣の席を見る天満。その思いとは裏腹に、結局放課後までその席は無人だった。


258 :Bad Communication :04/01/17 21:44 ID:???
 そしてその放課後。
 授業が終わるのとほぼ同時に――それに対して何かを言うようなクラスメイトはもういない――教室に
入ってくる播磨。そのままずんずんずん、と沢近の前までやってくる。
「……ちょっと話がある」
「何かしら?別に私は話なんてないけど」
「っ……お願いします沢近サン」
「急いでるから手短にね」
 下手に出た播磨の態度をあっさり無視して、鞄を持って廊下に出る。
「で?何かしら」
「……お前、屋上で何か」
 ああこれのこと、と播磨が言い終わる前に件の紙切れを取り出す。
「……返せ」
 そう言ってすっと伸ばした播磨の腕をさっと避ける沢近。
「……」
「……」
 すっ。
 さっ。
「……」
「……」
 すっ。
 さっ。
「前にもこんなことあった気がするわね」
「するわね、じゃねぇっ!とっとと返しやが……」
 ぎろり。
「……返して下さいお願いします」
 あっさり土下座。


259 :Bad Communication :04/01/17 21:45 ID:???
「軽いジョークよ、ジョーク。ほら」
 その言葉に歯を食いしばりながら手を差し出す播磨に紙切れを手渡しながら、馬鹿じゃない、と
言おうと沢近は口を開いて――
「――ま、がんばりなさい」
 出てきたのはまったく違う言葉。
「……は?」
(――え?)
 凍りつく二人。
 それはまるでいつかのときのようで――
「……っ」
 先に我を取り戻した沢近が逃げるように歩き出し、残された播磨はまだ呆然としている。
「…………?」
 と、その背後に立つ影。
「……俺は」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉををっっっ!?」
 後ろから覗き込むような恰好で紙切れを音読し始めた晶に、またしても飛び上がるようにして驚き、
そのまま走り出す播磨。
 そして。
「きゃっ!」
「ぬおっ!」
 お約束のように、沢近と激突する。
「……なあ、あの二人ってさ」
 こちらも教室を出てきた美琴が晶に問いかける。
「ケンカするほど、っていうやつかな」
「どうなんだろうね……」
「さあ」
 そんな二人の視線の見つめる先。
 廊下の真ん中でいつも通りに言い争う二人の姿があった。


260 :Bad Communication :04/01/17 21:46 ID:???
一応♯61の裏、ということで。
なんだかいろいろやりすぎなのは……ゴメンナサイ。
2008年03月06日(木) 02:00:44 Modified by ID:aljxXPLtNA




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