IF3・Beloved?

202 :Beloved? :04/01/16 23:50 ID:???
182氏のSSを、自分なりにアレンジしてみたものです。
SSをアレンジすることを承諾して下さった、182氏に感謝。

一応>>179の続きからということで…

それではどうぞ。





203 :Beloved? :04/01/16 23:51 ID:???
「答えて。あなたはヤクモのどこが好きなの?」

 少女の悲しげな問いかけ。二人の間に、何とも言えない空気が流れる。
 花井は、しばらく少女をじっと見つめていた。
「フ……どこが好きなのかって?僕に対して、そんな問いかけは愚問ではないかな?」
 花井は、フッと不敵な笑みを浮かべる。光が届いてないにもかかわらず、
花井のメガネが、なぜかキラーンと不気味に光る。そんな花井を見て、一瞬たじろぐ少女。
「ど、どういう意味かしら?」
「僕が八雲君を好きな理由。それは──」
「それは──?」
 ぐっと固く拳を握り、ためを作る花井。そしてそれに釣られるように、先を促す少女。
「それは……全てだ!!!」
 どっぱーん!という、どこかの映画の出だしにあるような、押し寄せる荒波をバックに、キッパリと言い切る花井。
「す、全て?」
「そう、全てだ!──あの八雲君のつぶらな瞳、あの均整のとたプロポーション、そしてあのはかなげな表情!
 八雲君の全てが僕を虜に……狂わせてしまうのだ!──あぁ、や、八雲くーん!!」
 途中から、アッチの世界にいってしまったのか、不気味にクネクネと体をくねらせる花井。
 そんな花井を見て、その整った顔に、ちょっぴり縦線が三本ほど入ってしまう少女。


204 :Beloved? :04/01/16 23:54 ID:???
 二人の間に、なんとも形容しがたい空気が流れる。
 やがて気を取り直したのか、少女は、その生暖かい空気を切り払うかのように、口を開いた。
「そ、そう……でもね、あなたは、まだ八雲の秘密を知らないわ」
「む……どういうことかね?」
 はっ、と我に返った花井は、少女に先を促した。
「あの子には──八雲には大きな秘密があるわ。あなたは、この事実を知っても、
 まだ八雲を好きでいられるかしら……?」
 少女は、フフッと小さく笑う。その目は、まるで花井の反応を楽しむかのように、花井の目をじっくりと見つめていた。
「どんな秘密があるのか知らないが、僕は、例えどんなことがあろうとも、八雲君を好きでいる自信があるぞ」
 花井が、そんな少女の視線に気付いたのかどうかは、分からない。
だが、花井は、少女のほうをしっかりと見つめ返すと、はっきりと言った。
 一方、少女は、そんな花井の答えを聞くと、その反応を楽しむかのように、氷のような笑みを浮かべる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「八雲はね──

 ──自分を好きになった人の心が読めるの──




205 :Beloved? :04/01/16 23:55 ID:???
 少女の口から告げられる、一つの真実。
 まだ9月の終わりだというのに、肌寒い空気が二人の間に流れる。
 花井は少女を、少女は花井を見つめる。お互いを見つめ合い、二人の表情は、まるで凍り付いたかのように変わらなかった。
 やがて花井は、ふぅっと大きなため息をつくと、少女の方に向き直った。
「それが、一体どうしたっていうんだい──?」
 思いもよらない花井の答えに、驚きの表情を浮かべる少女。
「ど、どうしたって……あなた、人の心が読める人間を、好きに──普通に愛せるの!?」
 少女は、自分でも想像できなかったほどの、大きな声で言い放った。
「それこそ愚問ではないかな?僕は、八雲君の全てが好きだと、先ほど言ったハズだが」
「……」
 口を真一文字に結んだまま、微動だにしない少女。表情は先ほどから全く変わらなかったが、
その瞳は、わずかに揺れ動いていた。
 そんな少女の様子に気付いたのか。花井は、ゆっくりと眼鏡をはずし、
その素顔を少女の方に向けると、ゆっくりと口を開いた。
「それに僕は──今まで、自分の心を偽ったことがないのでね」
 ニッと笑いながら言う花井。
 一方、少女は、固く手を握りしめ、花井のほうを、じっと見つめていた。


206 :Beloved? :04/01/16 23:58 ID:???
 二人の間に、再び、沈黙が訪れる。先ほどまでとは違う、重い、文字通り重い空気が二人の間に流れる。
 だが、やがて、その沈黙を破るかのように、花井が口を開いた。
「おっと。そろそろ八雲君のところに行かなければ!──君、一人で帰れるかい?
 なんなら僕が送っていくが……」
 スチャッとメガネをかけながら、花井は少女に尋ねた。
「──遠慮しておくわ。私、みかけほど子供じゃないから」
「そうか。では、僕はこの辺で失礼する。機会があれば、また会おう!では──はっはっは、ヤクモーン!すぐ行くぞ!!」
 そう言い残すと、花井は、まさしく風のように、教室から飛び出していった。
 奇声をあげながら飛び出していった花井を見送ると、少女は、花井がいた場所を、固い表情で見つめた。
 だが、やがてクスッと小さく笑うと、ゆっくりと窓の方へと歩いていった。
そして、その窓から、雲一つ無い秋空を見上げる。
 きれいに晴れ渡った青空。そんな青空を見つめながら、少女は、以前八雲に尋ねたときの、八雲の答えを思い出した。

 ──今はわからない……だけど、私も、きっと誰かを好きになる──

「──そうね。あんな人がまだいるのなら、きっとあなたが好きになる人も、出てくるかもしれないわね」
 そう少女はつぶやくと、まるで光の中に包まれるようにして、スウッと消えていった。

 誰もいない教室。そこに流れる空気は、まるで春風のように暖かかった。
 
(了)
2008年03月06日(木) 01:37:03 Modified by ID:aljxXPLtNA




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