IF3・friendship

336 :friendship :04/01/19 23:50 ID:???



 こんな夢を見ました。




 播磨さん。播磨天狗さん。
 新撰組がやってきます。




337 :friendship :04/01/19 23:51 ID:???
 むくっ
 身体を起こすともう朝でした。ベッド脇の窓から朝日が差し込んできます。
 目覚め前の、ゆめかうつつかの境目で、私は良いんだか悪いんだか
よく判らない夢を見ました。多分、昨日八雲から借りて見たアラカンの
ビデオのせいでしょう。

 あ、すいません。自己紹介しますね。
 私はサラ・アディエマスと言います。英国の生まれで、今は日本に
留学しています。高校生です。
 八雲というのは、日本でできた最初の友達です。静かで、優しくて、
素敵な娘です。
 夢に出ていた播磨先輩は私達の一年先輩で、サングラスとヒゲの人で、
八雲の特別な人です。でも天狗ではないです。
 最初の頃は怖い人かなと思いましたが、ひたむきで優しい、素敵な人です。
 二人が並ぶと、さながら美女と野獣です。けなしてるんじゃないですよ?
野獣は、とても心優しい人なのですから。
 私はいまだ恋というものをした事がありませんが、播磨先輩の隣で幸せそう
にしている八雲を見ると、それはとても素晴らしい物なのだろうと思えます。
 とは言え、二人を見ていると同時に不満も感じます。
 播磨先輩は八雲に想われていることにまるで気づいていないのです。
 休日ごとに動物園で会っているのに。八雲は毎週三人分のお弁当を用意して
いるのに。まるっきり気づいていないのです。呆れます。
 播磨先輩のような人のことをニブチンと言うんだそうです。やれやれです。


338 :friendship :04/01/19 23:52 ID:???
 八雲も八雲です。自分の想いをはっきり自覚しているのに、それを言葉に
しようとしません。やきもきします。潤んだ目で見上げても。ためらいがちに
シャツの裾をつまんでも。播磨先輩は気づいてくれないのだから、面と向かって
伝えなければ前に進めないというのに。どうかと思います。
 八雲のような人の事をオクテと言うんだそうです。困ったものです。

 ちゃーちゃっちゃ・ちゃちゃちゃちゃ・ちゃーちゃっちゃー・ちゃちゃ
 ちん
 私よりもねぼすけな目覚ましを止めてベッドから起き上がります。
 今日は日曜日。着替えて、髪をまとめて、八雲と一緒に動物園にでかけます。
 播磨先輩と動物達に会いに行くのです。
 断っておきますけど、邪魔しに行くんじゃないですよ? ほら、なにしろ、
ニブチンとオクテですから。誰かが背中を押さないと、ね?


   ・  ・  ・


「風邪ですか?」
「ああ。ま、ひき初めで気づけたのはいいんだけどよ。これがどうにもなあ」
 隔離用の特別房の中で、三人は鼻をすするピョートルを見上げていた。
「何か、問題があるんですか?」
「問題っつうかよ、薬飲まねんだ。苦いからやだって」
 息を吐いて首を振る播磨。八雲は恐る恐る播磨が手に持っている『薬』
を指差して言った。
「でも、それはさすがに無理なんじゃ」


339 :friendship :04/01/19 23:53 ID:???
「確かにやばそうな感じだけどよ、これがベストだって獣医さんが言うんだよ」
 『薬』は一掴みほどの草団子になっていた。どす黒い茶色で、しかも怪しげ
な匂いまでする。正直、苦いの一言で済むような生易しい味ではなかろう。
 播磨はピョートルに歩み寄り、噛んで含めるように話し掛ける。
「なあピョートル。いやなのは判るが我慢して食ってくれよ。獣医さんに
聞いたら普段の飯もロクに食ってねぇらしいじゃねえか。
それでなくてもオマエは日本の生まれじゃねぇんだから、
この寒さに慣れてねえだろ? たかが風邪なんて甘く考えてたら
偉いことになるぞ。だからさ、な?」
 播磨と八雲から一歩引いていたサラが播磨の台詞を聞いておや? と
首をかしげる。右手をあげて、
「播磨先輩。ピョートルってあんまりごはん食べてないんですか?」
「ん? ああ。そうらしいんだよ。他のキリンは普通に食ってるてのにさ」
「・・・先輩。一緒にいた頃はどんな物を食べさせてました?」
「どうって、別に変なもんは食わせてねぇよ。俺とおんなじモン食ってたんだから」
 はあ。ため息をつく。播磨は驚いたような顔で、
「なんか、まずかったのか?」
「先輩。動物が人間のための食事に慣れちゃったら、動物のための食事が苦手に
なっちゃうんですよ」
「・・・・・・・・・マジ?」
「マジです」
 ・・・
 ぶわっし。ピョートルのくしゃみが静まった部屋に響いた。

 結局、普通に食事を作ってそれに薬を混ぜることになった。


340 :friendship :04/01/19 23:54 ID:???
「根本的な解決になってませんけどね」
「うん。でも風邪を治すのが先だし」
「すまねえ。頼む」
 割烹着を着て調理室であれこれと材料を検分する八雲に片手で拝む播磨。
 サラはエプロンの紐を後手に結びながら、
「それで、何作ろっか」
「そうだな。やっぱカレーを」
「だめです」
「いや。野菜カレーをだな」
「そういう問題じゃないです。病気なんだからカレーなんて刺激の強い
料理なんてもっての他です。播磨先輩だって風邪引いたらお腹に優しいもの
食べるでしょう?」
「それもそうか。じゃ粥なんかか?」
「そうですね。それなら」

 ・・・食べなかった。
 首をかしげながら作戦会議を開く三人。
「どーして食わねえかなぁ」
「まるっきり人用のごはんというのも駄目なんでしょうか」
「じゃあ、野草のおひたしを作ってみます」

 ・・・駄目だった。
「・・・困っちゃったね」
「・・・うん」


341 :friendship :04/01/19 23:55 ID:???
「・・・草もちの餡に混ぜるってのはどうだ」

 ・・・見向きもしなかった。
「・・・」
「・・・」
「・・・いっそカレーを」

 ・・・食うわけなかった。
「・・・結局、薬の味が強くなりすぎちゃうんですよね」
「でも、薬の量を減らしたら効き目が出ないし・・・」
「くそっ。どうすりゃいーんだよ!」
 がんっ
 特別房の壁を殴って叫ぶ播磨。ぎりぎりと食いしばった歯の隙間から
考えろ、考えろ。と呟く。
 それを気遣わしげに見ていた八雲は、少し考え込み、強く頷いてから
隅によけていた草団子を手に取りピョートルに歩み寄った。
「八雲? 何か思いついたの?」
 問い掛けるサラに頷いてピョートルの前で立ち止まる。草団子を顔の
前に持ち上げ、薬におびえてさえいるピョートルに語りかける。
「ピョートル、よく見ててね」
 かりっ しゃく
「妹さんっ!?」
「八雲!? それ動物用なのよ!」


342 :friendship :04/01/19 23:56 ID:???
 慌てて止めようと駆け寄る播磨に首を振って目で語りかける。

 大丈夫、です。

「なっ。んな事言ってもよ。なんでいきなりそんな」
 狼狽する播磨を安心させようと無理やりに笑い、ピョートルに
わかるように大きく咀嚼する。
 じゃり じゃり じゃり
 こくん
 草の塊を飲み下し、不味さのあまり目尻に浮かんだ涙をぬぐって、
「見てた? これは大丈夫。貴方の為の薬なの」
 草団子を両手で差し出す。
「貴方に元気になって欲しいの。播磨さんも、サラも、私も、動物園の
職員さんも。みんな貴方を心配しているの。だからお願い。この薬を
飲んで。大丈夫。美味しくないけど、食べられるから。」
「妹さん・・・」
 ピョートルは、差し出された草団子を長いことためしつがめしていたが、
覚悟を決めたように一気にかぶりついた。
 ばり ぼり ばり


343 :friendship :04/01/19 23:57 ID:???
 ごぐん


   ・  ・  ・


「播磨さん。そんな、頭を上げてください。私、お礼を言われるようなこと
してませんから」
 動物園の正門前。八雲は深々と頭を下げる播磨に困っていた。播磨は
頭を下げたまま、
「いいや、そんなことねえよ。妹さんのおかげでピョートルが薬を飲んで
くれた。妹さんがピョートルを助けてくれたんだ。感謝してる。本当に、
本当に。有難う」
「・・・」
 恥ずかしさと嬉しさでうつむいて黙り込んでしまう八雲。播磨はサラにも
頭を下げて、
「お嬢さんも、ありがとうな。手伝ってくれて、助かった」
 しかしサラは腕組みをして難しそうな顔で
「うー、むぅん」
「・・・サラ?」
「いけません。播磨先輩。それじゃ駄目です」
 言ってむぅん、と唸る。播磨も八雲も訳がわからない。播磨が恐る恐る
「駄目・・・って、何が?」
 サラは腕組みをといて自分を示すように胸に手のひらを当て、


344 :friendship :04/01/19 23:58 ID:???
「サラ・アディエマス、です。知らない仲じゃないから、ファーストネームで
構いません」
「え、いや、しかし、それは」
 狼狽する播磨を無視して八雲の腕を両手で掴み
「この娘は塚本八雲。親しみをこめて八雲ちゃんと呼んであげてください」
「いぃっ!?」
「えっ!? サラ!?」
「他人行儀が過ぎます。妹さんだなんて。いけません」
「ちょっと待って、サラ。私別に」
「ファミリーネームは駄目です。お姉さんと区別がつきません。八雲ちゃんです」
「いや、そんな。一端の不良がちゃん付けなんてよ」
「八雲さんも八雲君も駄目です。八雲ちゃんです」
「あ、あのさ。聞いてる?」
「さあ、播磨先輩。どうぞ」
「いやどうぞってそんなあなた」
「どうぞ!」
「・・・・・・・・・マジ?」
「マジです」
 ・・・
 播磨は長いこと唸ったりぶつぶつ呟いたり頭をかきむしったりしていたが、
とうとう観念して、
「・・・えー、では、その」


345 :friendship :04/01/19 23:58 ID:???
「・・・」
「や、くも、ちゃん」
「はい」
「八雲、ちゃん」
「・・・はい」
「・・・このような感じで宜しいでしょうか?」
「ええ、それはもう」
「・・・ありがとう、ございます」

   良かったね、八雲。


      おわりー
2008年03月06日(木) 02:16:58 Modified by ID:aljxXPLtNA




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