IF7・Cross Sky

187 名前:Cross Sky :04/04/27 00:46 ID:6t.lQJGU
どんなに楽しい時期も、いつかは終わりの時が来る。
時間は誰にでも平等に流れ、過ぎ去っていくものなのだから。
高校生活での三年間は、人生の中で最も思い出に残るという人も多いだろう。

そう、今日は卒業式。七分咲きとなった桜の花が、卒業生達を優しく祝福していた。

式を終え、全員がそれぞれ、思い思いの行動を取っている。
友達と泣き崩れる者、後に遊ぶ約束を交わして早々に帰る者、感慨深げに校舎を見つめる者など様々だ。
そんな中、人ごみから外れた桜道に一組の男女が立ったまま向かい合っている。
その二人とは、花井春樹と塚本八雲―――――
花井の八雲に対する気持ちは周知の事実だ。二人の会話の内容もおおよそ見当がつく。


「…気持ちは……嬉しいです……、でも…」
「……」
「…………ごめん…なさい。」
「そうか……いや、ありがとう。この気持ちを君に打ち明けることができただけでも良かった。」
「……花井先輩」
「それじゃあ…元気で、八雲君」
「あ……はい、花井先輩も・・・お元気で…」
申し訳なさそうに、その場を離れていく八雲。花井はその場に佇んだままだ。
結果はやはり、玉砕。
「ふう……」
予想していたのか、それとも平静を装っているだけなのか。花井は大きくため息を一つつく。
と、その時、自分の背後に気配を感じ、花井は振り返った。
「周防…」
そこにいたのは、幼馴染であり、最も心を許している異性でもある、周防美琴。



188 名前:Cross Sky :04/04/27 00:50 ID:6t.lQJGU
「あ…あのよ、残念…だったな……」
少々バツの悪そうな顔をしながら花井を慰める美琴。
一瞬、表情をかげらせた花井だったが、すぐにいつもの様子に戻る。
「いつからそこにいたんだ?」
「妹さんが去ろうとしてるあたり…かな。でも、話も…聞こえてた」
「そうか…」
再び、顔をかげらせる花井。そんな様子を見た美琴は、やはり彼が傷ついているのだ、と察していたたまれなくなる。
「悪い……、聞くつもりはなかったんだけど」
「いや、別に気にすることはない。遅かれ早かれ、分かることだ」
寂しく微笑み、美琴に気を使わせないようとこころがける花井。
しかし、彼女にはそれが余計に悲痛に見えた。
「これで……思い残すことも無くなったわけだしな」
花井は受験で都内の有名大学に進学が決定していた。そうなると、当然親元を離れ、一人暮らしをしなければならない。
つまりは…生まれてから、ずっと慣れ親しんでいたこの町を離れるということだ。
そのことは、もちろん美琴も知っていた。
彼女のほうも、地元の大学に進学が決まっている。
小学生の頃から、ずっと道場や学校で一緒だった二人。だがその二人にも、別れの時期が近づいていた。

横並びになりながら桜道をゆっくりと歩く花井と美琴。春先特有の、少々強い風が二人の髪をなびかせている。
「いつ、ここを発つんだっけか?」
もうすぐ、花井との別れがおとずれてしまうことを思い出した美琴は花井に問いかけた。
「10日後だ。早めに行って、向こうがどんな場所か詳しく知っておきたいからな。」
「そっ…か、意外と早いんだな……」
少しだけ、顔をうなだれる美琴。
「見送りの必要はないぞ。」
「行きたくても行けねえよ。その頃にはあたしも、大学への準備をしてるだろうからな。」
言葉はきついが、声に彼女のいつもの元気はない。



189 名前:Cross Sky :04/04/27 00:52 ID:6t.lQJGU
「お前のことだ。別に僕がいなくても、困ることなどないだろう?」
「お前がいないほうが気が楽になることは確かだな。………ただ」
そこで一旦言葉を切る美琴。そんな彼女を不思議に思い、顔を覗き込みながら問いかける花井。
「ただ…なんだ?」
そこで顔をあげ、花井と目を合わせながら美琴は言葉を返す。
「ただ………少し、寂しくなるかな…って。お前とは…昔っから、ずっと一緒にいたからな。」
口許は笑みをたたえながらも、もの悲しげな表情でそういう美琴。
「周防……」
予想外だった。
彼女なら、笑いながら「当たり前だろ!」と即座に言い返してくるものだと思っていた。
だが、180度違った答えに面食らう花井。
言葉に窮する。

「なんでそんなビックリした顔してんだよっ」
そんな彼の様子に不満を持ったのか、急にいつもの調子に戻る。
「いや……、お前がそんな事を言うとは思わなかったんでな。少々驚いた。」
「なんだよ、失礼な奴だなー」
そう言いながら軽く花井の体をボスっと殴る。
しかし、また寂しげな顔になり、そのまま言葉を続けた。
「もう…お前とこうする事も、できなくなるんだな」
「ああ……そうだな。だが、もう会えなくなるわけではないだろう。たまには帰ってくるさ。」
「帰ってきたら、ちゃんと道場にも顔出せよ?」
「分かってるさ。むしろ顔を出さなければ、父さんに叱られる。」
「それもそうか。」
ハハハッ、と笑う美琴。
と、その時、今までにない強い風がビュウッと吹き荒れた。
周りの桜の花びらが舞い上がり、二人を包み込むように、音もなく地面に落ちてくる。
その様を見た花井は、思わずポツリと洩らした。
「桜吹雪…か、今のは忘れられない光景になりそうだ。」
「?」

 


190 名前:Cross Sky :04/04/27 00:55 ID:6t.lQJGU
花井の真意を掴みそこね、小首をかしげる美琴。
意味を聞こうとした瞬間、花井が急に立ち止まった。いつの間にか校門の所まで来ていたようだ。
「では周防、元気でな。」
「え?」
「この後、塚本君や沢近君と遊ぶ約束をしてるんだろう?」
「あ、ああ。よく分かったな。」
「分かるも何も、皆お前を待っているようだぞ。」
花井の向けた視線のほうを辿ると、天満に沢近、晶が校門を出たところで待っている。
「美琴ちゃーん、遅いよー!」
「あ、わりぃ塚本。待たせちまってすまねえ。」
そう言いながら、天満達の傍に走ってかけ寄る美琴。
花井はそれを見届けると、逆方向にある自分の家に帰るため、静かに背を向けた。
そんな様子を見て、美琴は彼の背中に大きな声で言い放つ。
「花井ーーー!向こうに行っても頑張れよーーーーーー!!」
美琴の激励に、花井は振り返ることなく、卒業証書の入った筒を持った手を大きく振って返答する。
そんな彼の返答に、ほんの少しだけ切ない表情を見せる美琴。
今まで、ずっと一緒にいた二人。だが、遂におとずれた別れ。
春風が、二人を慰めるように再び音を立てて吹いた。


そしてそれから二年後、一度は止まった、二人の物語が再び動き出す―――――――――





191 名前:168 :04/04/27 00:59 ID:6t.lQJGU
今日はここまでです。
プロローグに当たる部分を投下しました。

続きを投下するのはいつになるか分かりませんが、
気長にお待ちいただけたら幸いです

しかし、本当に申し訳ない…
2007年02月02日(金) 14:58:32 Modified by ID:BeCH9J8Tiw




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