IF7・any face girl

565 名前:any face girl :04/05/08 00:28 ID:JJUpa486
そろそろね――
ショートカットの黒髪に切れ長の目をした少女――年齢的には少女といっても差し支えないだろう
は静かに人の視線から外れるように動き始めた。
ラボの中には大量の人が右往左往しているが誰も少女の動きに気に留めていない、彼らにとっては彼女の事などどうでもいいのであろう
使えればそれで良い――だからこそ自分がこうも簡単に潜り込めたのだとも言えるのだが
そして唐突に変化が起こった。誰も彼もが突然糸の切れた人形のように倒れだす
監視カメラと研究者の死角に置いた時限式の装置――時間が来れば催眠ガスを放出する――が起動したのだ
監視カメラにはジャミングで画像を送り込んでいるから監視が変化に気付くのは後の事になるだろう
少女の手際は見事な物であり名の知られたエージェントである事は間違いないだろう。――実際イタリアでも騒動に巻き込まれたのだが――
あの少年―ジョルノ―は頑張っているのだろうか、と少女―高野晶―はあの人の面影を思い浮かべ軽く笑みを浮かべた
昼は女子高生、夜はエージェント。それが高野晶と言う少女だ
ボディーチェックが甘いようね――簡易ガスマスクを付け、一人平然と立って居た晶はPCの前に座り、キーボードを素早く叩き情報を集める
後は目的の情報を集めてエージェントと合流してから逃走、と言うのが今回の計画の大体の流れだ
エージェントも監視カメラの細工で簡単に潜入できる。とまでは行かないでも大分苦労はしないで済むだろう
前もっての情報ではSクラスのエージェントが――晶ですらBランクである事を考えると念の入った事だ――が来るらしい
どちらにしても自分の仕事をするだけね――晶は今まで潜入して手に入れた情報を駆使して目的のデータを見つけだす
そのために今まで潜り込んだのだ、MDを入れてデータをコピーすると後は完了するまで待つだけだ――とその時


566 名前:any face girl 2 :04/05/08 00:29 ID:JJUpa486
 「中々見事な手並みだな」
何時の間に――無意識は瞬間的に反撃と逃走経路の確保をしようとするが意識して抑える。
相手の方が確実に上手だ、ここは相手に従って大人しくした方が良い
 「お褒めに預かって光栄ね」
気を張り詰めながら返答する
 「そんなに警戒するな、俺は味方だ」
まだ若い男――声から晶はそう判断した
 「女の後ろに立つなんて良い趣味とは言えないわね」
 「気を抜ける仕事じゃねぇからな」
少なくとも敵意は無さそうだ――晶はそう判断して最後のシークエンスを終了させ、データの入ったMDを手に入れると
 「そうね、その点は同意するわ」
振り返る――
 「「・・・・」」
無言。
 「あー・・・もしかして・・・高野か?」
 「・・・麻生?」
エージェントは若い男と言う自分の予想は当たっていたが――正解は若い男どころかクラスメイトの麻生広義だった

用事が終わったならすぐさま消えるに限る――麻生と共に研究所内を走りながら晶は口を開く
 「まさか貴方がエージェントだったとはね」
 「同感だ」
Sランクと言えば裏の世界ではブラックリスト載りの事を指す大物だ。それ故に数が非常に限られる
実際にSランクのエージェントは100人前後しか居ないのだ――それが自分のクラスメイトだとは。
 「Sランクのエージェントの資料は全員目を通しているのに貴方の名前を見た事はないのだけど」
 「・・・鋼の後継って知ってるか?」
 「噂程度にはね、何でもSランクの―剣客―の教えを受けた凄腕の少年エージェントらしいけど」
 「その爺に鍛えられた少年エージェントが俺だ。Sランクなのは爺であって俺じゃねぇからな。俺は平和主義者だ」
 「Sランクエージェントが来るって聞いたのよ。期待して良いのかしら?」
 「あんまりされても困る」
晶は麻生の横を走りながら倒れている人――麻生がやったのであろう――を端目に見る
武器を使った形跡が無いまま昏倒している――これだけを見ても相当な実力だと言えるが、気になる事がある


567 名前:any face girl 3 :04/05/08 00:32 ID:JJUpa486
 「全員気絶させてるだけなのね」
1人2人ならともかくこれだけの厳重な警備網を突破するのに全員気絶で済ますのはどう考えても効率が良いとは言えない
危険性だって上がるし、何より接触する必要があるのだから時間がかかるのだ
 「・・・どうしてもってんなら仕方ねぇが、出来るだけ殺したくねぇんだよ。誰かを殺したら誰かが悲しむ」
麻生は呟くように答える
 「爺や八咫さんには甘いって言われてるけどな」
 「そうね、私もそう思うわ」
でも、そんな甘さは嫌いじゃない。あの人もそうだったもの――晶は口には出さない続きを心の中で呟いた
研究所を出て、晶は気がついた
 「そういえば、ここからどうやって移動するのかしら?」
研究所は山奥にある――ドラマのようだが、現実も結構そんなものだ――ここから目的地まではかなりの距離がある。とても徒歩では無理だろう
かと言って乗り物を持ってきては目立ちすぎる。それをどうにかするのがエージェントとしての腕の見せ所でもあるわけなのだが――
 「こっちだ」
麻生は何時もの様に無愛想に答えながら山奥の方へ歩む。とはいえ目の前には5m程の壁があるのだが。
麻生は付いて来た晶の腰をしっかり掴むともう片方の手を上に上げる
―バシュ―
と言う小さな音と共に手首にはめてあるワイヤーが飛び出し、壁の上に引っかかる
 「捕まってろ」
微かなモーター音を響かせながら2人の体が宙に浮く
まるで忍者ね――抱き寄せられて宙に浮きながら麻生を見つめた。実際片手で100kg近い―自分はそんなに重くはない―負荷を支えているのだから
一般人と比べてもかなり鍛えられてるのだろう。黒尽くめの服装も何処となく忍者と言うイメージを思い浮かばせる


568 名前:any face girl 4 :04/05/08 00:33 ID:JJUpa486
壁の上に着くとそこにはバイク―CB400―が1台。晶は身を離し、麻生はそれを気にする風もなくバイクに向かいヘルメットを晶に投げる
 「メットを付けとけ」
 「貴方は?」
 「ゴーグルがあれば良い」
 「そういうものかしら」
 「どちらにしてもあと少しだ。我慢しろ」
 「この後はどうするの?」
 「山道をこいつで抜ける。一般道はまだしも流石に山道までチェックは出来ないだろ」
 「また随分と素敵な作戦ね」
 「行くぞ。しっかり捕まってないと振り落とされるぞ」
キーを捻ると眠っていたバイクが息を吹き返し、鼓動を始める。晶は麻生にしっかり抱きつくと
 「今回は特別サービス」
 「そいつはどうも」
CB400と言うのは山道を走るのには向いていない。と言うより普通のバイクは文字通りの山道を走るようには作られていない
その中を麻生はまるで踊るようにバイクを操っていた
木々の間をすり抜け、段差を飛び越え、お世辞にもなだらかとは言いがたい道―道と言うのも疑問だが―を80km近い速度で駆け抜ける
晶はしっかりと捕まりながらも麻生の運転技術に舌を巻いていた。自分もバイクの運転位はこなせるがこれは全く次元が違う
謎の多い人――晶はそう思った直後、それは自分もか。と我が身を振り返る
あの人もそうだった――晶が普通の少女であったのはあの人に出会うまでの事だ。あの人に出会ってから自分は変わったのだ
だが、それでも良いのだ――あの人に出会えた事に比べれば変わった事などなんて事はない、むしろお釣りが返ってくる位だ
そう、恋する少女は強いのだ――だからあの人と一緒に居られるように変わったし、あの人が愛してくれたあの時の自分も残っている
 「そろそろ下に下りるぞ。揺れるからな」
晶が物思いに更けている間にバイクは先に進んだらしい――麻生はハンドルを切ると一気に山道を下る。その下には道路
晶には3mはあるであろう段差をどのようにしてかは判らなかったがバイクはふわりと着地すると速度を速める
道には見覚えがある――ここまで来れば相手もそうそう大きな手は出せない程距離は取れたらしい


569 名前:any face girl 5 :04/05/08 00:34 ID:JJUpa486
 「甘かったか」
 「え?」
麻生の呟きに晶は疑問を返した。
 「後ろだ。誰かが追ってきてる」
 「そう・・・」
後ろを振り返る。小さなライト――バイクの光だろう――が見える。この調子なら車も来ているのかもしれない
 「逃げ切れそう?」
 「微妙な所だな。何しろこっちはパワーがそれほどある訳じゃない」
 「何とかして欲しいところなのだけど」
 「車やバイクはあらかた潰しておいたはずなんだがな」
 「でも追ってきてるわよ」
 「だから甘かったとな。なんにしても逃げ切るしかねぇ」
麻生はアクセルを握りなおすと速度をより上げて行く。晶は麻生の腕を考えればそうそう追いつかれることもない。と考えた
しかし走り続けていくとその考えを改める事になった。距離が縮まっているのだ。目的地まであと50kmちょっと
残り10kmは街中だから相手も諦めるだろう――となれば残り40kmで勝負をかけてくる
ギリギリ入れる――晶はそう読んだ。残りの行程と今までの詰められた距離を見ればおそらくこちらの勝ち。
相手は街に入ってしまえば動けない。しかし反対に麻生は浮かない顔をして悩んでいる
 「高野――お前バイクの運転出来るか?」
 「一通りならね。けどどうする気?」
 「俺は降りて奴らを止めるからお前はそのまま行け」
 「このまま行けば逃げられるんじゃない?」
 「後ろから追ってる奴が諦めればな。下手すりゃ街中で追いかけっこだぞ。そんなのは御免だ」
 「貴方は大丈夫なの?」
 「やれる自信があるから言ってる。出来ないのに無理してそこまでする義理はねぇよ」
 「信じて良いのね?」
 「ああ」
 「――わかったわ」
何故そんな事をさせたのか。と問われればきっと晶はこう答えたであろう――
その時の麻生はあの人にそっくりだったから――


570 名前:any face girl 6 :04/05/08 00:35 ID:JJUpa486
後ろから手を伸ばしてハンドルを固定。それと同時に麻生は軽く飛ぶように身を投げる
晶はミラーで確認すると麻生は何も無かったかのように立ち上がっている。大丈夫と言ったのだから自分は信用するまでだ
 「やりにくいわね」
スーツでバイクを運転する物ではない――だが晶はアクセルを緩めずに走る。自分が今すべき事は信頼に応えるだけだ
程なくして晶は街でも有数の高層ビル――目的地に着いた。追っ手が全く来ないと言う事は麻生が相手の追撃を食い止めたのは間違いないだろう
 「後でお礼でもしなければならないわね」
麻生の心配する必要はない。あの人に似ているなら彼も約束は守るはずだ。だから後の事を考えよう。受付に行き
 「須藤に取り次いで頂戴。言えば判るわ」
 「はい、畏まりました―――部屋に来てくれとのことです」
 「判ったわ」
晶はエレベーターに乗るとビルの最高層の中の1部屋――雇い主が待っている部屋の前に着く。ノック――返事を待ってから扉を開ける
 「ご苦労だった」
 「いえ、それほどでも」
 「形式的な物だ。さほど気にせんでくれ」
 「判ってます」
 「疲れただろう、MDをそこにでも置いて帰って休みたまえ。これからは君への仕事も少し落ち着くはずだ」
 「―――はい」
晶はMDを机の上に置くと部屋を出る。その姿を眺めた男は悔しさをかみ締める様な声で
 「あのような少女すら使い、危険に晒さなければならないとは私達はどれだけ業深いのだろうな――」
晶は振り向かない。その先に待っている人が居るのなら自分はやり遂げるだけだ。あの人にはそれだけの価値がある
でも、ただの女子高生の高野晶にも大切な友人が沢山居るのだ――だからそれも大切にしたい
彼――麻生広義――もきっとそうなのだろう。気付かないだけで普通と言うものは本当は価値があるのだから


571 名前:any face girl 7 :04/05/08 00:35 ID:JJUpa486
そして―――
 「高野――居るか?」
 「あれ?麻生先輩?」
サラ・アディエマスが入り口を見て声を上げる。どうやら来たらしい
 「重要な用事があるから来てくれ。って事らしいが」
晶は麻生の家に電話をかけ――連絡網と言うのは便利なものである――麻生はその時家には居なかったのだから
親に伝言――明日学校の茶道室に来るように――を伝え、麻生はその伝言を聞いて茶道室にやって来たのだ
 「立ち話もなんだから座って」
 「そうですよ、麻生先輩」
納得の行かない顔をする麻生だがサラにも促された事で観念したのか、椅子に座るとサラも嬉しそうにその隣に座る 
 「重大な用事ってのは何なんだ?」
疑問符の浮かびそうな表情の――無愛想なのは相変わらずだが――麻生に向かって晶は質問の答えを返した
 「とっておきの紅茶を飲ませてあげるわ」
2007年02月02日(金) 18:12:20 Modified by ID:BeCH9J8Tiw




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