IF9・Go let it out

208 名前:Go let it out :04/06/23 22:40 ID:NzeHyjs.
体育祭が終わり夜空も暮れ始め、校庭ではキャンプファイヤーを中心に全校生徒がフォークダンスを踊っている。校舎のスピーカーから流れる音楽に合わせ、大きな人の輪がリズミカルに動いていく。
勝ったクラスの生徒も、負けたクラスの生徒も、全員が笑顔でダンスを踊っている。祭りの終わりを惜しみながらも、皆がこの一瞬を心から楽しんでいた。

そのダンスの輪から離れ、一人たたずむ少女がいる。
校庭のはずれの芝生の上に腰をおろし、両膝を抱えてフォークダンスを眺めていた。
「八雲。あなたは参加しないの?」
突然声をかけられたことに驚き、少女が声がした方を見上げると、いつの間にやら隣には同じ部活の部長が立っていた。高野晶だ。彼女もまたフォークダンスを眺めていた。
「高野先輩・・・」
そうつぶやくと、八雲は再びフォークダンスに目を移した。
「・・・私は・・・こういうのは苦手ですから・・・」
フォークダンスの音楽にかき消されてしまいそうな、そんな小さな声だった。



209 名前:Go let it out :04/06/23 22:41 ID:NzeHyjs.
「あら、それはどういうことかしら?苦手なのは踊ること?それとも、その相手?」
晶が八雲に顔を向けた。その顔には、いつものように表情と呼べるようなものは無かった。
八雲も晶を見上げ答えるが、
「先輩、それは」
言葉は最後まで続かない。
「どちらにせよ同じことよね。」
見詰め合う二人。
「でもこれだけ大勢人がいるんですもの。一人ぐらい、いてもいいんじゃないの?」
「・・・」
その言葉で、八雲が晶から視線を外した。
彼女が座ったまま新たに視線を向けたその先は、校庭の中心でのフォークダンスの人の輪ではなく、彼女達がいる場所とはまた別の校庭のはずれだった。そこではたった一組の男女が二人きりで踊っていた。その踊りは、どこかぎこちない。播磨拳児と沢近愛理だった。
「なるほど、ね」
「そんな、私は・・・」
別に、と、どこかあせったように八雲は視線を晶に戻した。
その姿を見て、こう言った。
「でもね、八雲。いつまでも二人だけで踊っているわけでは無いでしょうし、それに踊る相手は一人だけと決まっているわけでもないわ」
「・・・・・・」
うつむく八雲。
「彼ならきっと断りはしないわ。あなたも知っているんでしょ」
「・・・はい」
と、小さな声で、小さくうなづく。



210 名前:Go let it out :04/06/23 22:42 ID:NzeHyjs.
そのうなづく八雲の姿を見て、晶はかがみながら手を差し出した。
その手と晶の顔を交互に見上げる八雲。
「じゃあ、楽しんできなさい。せっかくのお祭りなんですから」
そう言って晶は、もう一度手を八雲に差し出した。
その顔は、かすかにではあるが、確かに微笑んでいた
八雲は驚きの表情を見せたが、すぐに表情を引き締めてうなづくと、その手を取り勢いよく立ち上がった。
「はいっ。ありがとうございます。先輩」
どこか恥ずかしがりながらも、しかし笑顔でさっとお辞儀をすると、八雲は、播磨と愛理が踊るその場所へ走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、晶がつぶやく。
「ありがとうございます、か。八雲は誰かに背中を押してもらうを待っていたのかしら。」
その彼女が眺める先では、八雲が拳児に向かって小さく右手を差し出していた。播磨は驚いたのか、愛理とのダンスをやめ、慌てて首をきょろきょろ回し自分に指を向けている。そして播磨を蹴飛ばしてその場から離れていく愛理。
「でもね、八雲。お礼を言われても困るわ。だってこれは自分のためでもあるんだから」
そうして、晶は全校生徒が踊るフォークダンスの輪の方角へ再度視線を戻した。


211 名前:Go let it out :04/06/23 22:42 ID:NzeHyjs.
どこまでも単調な音楽に合わせ、ぐるぐるとまわり続ける人込み。その中から、砂煙をまき上げながら走ってくる、眼鏡をかけた背の高い男がいた。花井春樹である。
花井は晶の目の前まで来ると、中腰で両膝に手をあて、肩で息をしながらこう尋ねた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。た、高野君。や、八雲君を見かけなかったかね」
「あっち」
晶は無表情のまま、即座に八雲がいる方向とは逆を腕を上げて指し示す。
「そうか、ありがとう」
花井は、ぽんと晶の肩を叩くと、晶が指を指す方向へ走り去っていった。
「八雲くーん、僕と踊ってくれないかー」
再び砂煙を上げながら走る花井。
晶はその後ろ姿を眺めていたが、やがて見えなくなる。ようやく指し示していた腕を下げ、ふう、ため息をつくと小さく肩をすくめた。自分の右手を見つめる。
「どうしていつもこうなのかしら。私も誰かに押してもらう必要があるのかしら」
そうつぶやき、今度は空を見上げた。
すっかり暗くなった夜空の中、キャンプ・ファイヤーの火花だけがどこまでも高く上っていった。



212 名前:HAL :04/06/23 22:45 ID:NzeHyjs.
初トライです。
どんどん叩いて下さい。

改行のこと全く考えてなくてすいません。
2007年02月10日(土) 20:50:47 Modified by ID:BeCH9J8Tiw




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