概念・定義

低レニン性高アルドステロン血症性HTNである。本疾患は、副腎皮質腫瘍または過形成病変により自律的にアルドステロンの過剰産生を示す。原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)の病型分類にて、片側性か両側性に分けて考えると理解し易い。
すなわち、
1) 片側副腎病変:
副腎腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)
片側性副腎過形成(primary adrenal hyperplasia:PAH)
  片側性副腎性多発微小結節(unilateral multiple micronodules:UMN)
  癌腫(aldosterone producingcarcinoma:APC)
2) 両側副腎病変:
両側副腎過形成(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)
両側副腎腺腫
糖質コルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid remeadible adenoma:GRA)
である。

片側副腎病変であればその摘出を、両側病変ではアルドステロン受容体拮抗剤(GRHでは、ステロイド)などによる薬物療法を行う。
片側性のアルドステロン産生腺腫(APA) (Conn症候群)と、両側性副腎過形成による特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism: IHA)が多くを占める。典型例では、低K血症やそれに伴う症状があるが、食塩摂取量や薬物の影響により初診時に必ずしも低K血症を示さない症例が多い。

疫学

本疾患の発生頻度は、以前低K血症を示すHTNを対象に診断していた結果、全HTN症患者の1.0%以下と極めて稀な疾患と考えられていた。しかし、血中アルドステロン濃度PAC/血漿レニン活性PRAの比を指標にスクリーニングしたところ、HTNの5-20%程度の頻度で発見されるとの報告が相次いでいる。施設により、スクリーニング対象母集団が異なり、本疾患の正確な頻度はまちまちである。以前稀少疾患と思われていたが、最近ではより高頻度に診断されている。1)血圧が160/100mmHg以上、2)治療抵抗性HTN、3)低K血症、4)副腎腫瘍を持つHTN、5)40歳以下の脳卒中の既往のあるHTN、6)一等親の中に本疾患を発症した家族歴のあるHTN、等で特に発症頻度が多い。糖尿病を伴うHTNに頻度が高いとも報告されている。可能な限り、HTN初診時にスクリーニングする必要がある疾患である。

病因

原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)の病型を分類すると、
1)片側副腎病変:
副腎腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)、
片側性副腎過形成(primary adrenal hyperplasia:PAH)、
片側性副腎性多発微小結節(unilateral multiple micronodules:UMN)、
癌腫(aldosterone producingcarcinoma:APC)、
2)両側副腎病変:
両側副腎過形成(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)、
両側副腎腺腫、
糖質コルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid remeadible adenoma:GRA)  
である。

副腎腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)が、約70%を占め、両側副腎過形成(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)が20%程度を占める。その他の病型は稀である。この中で唯一病因が遺伝子レベルで明らかなのは、GRAである。アルドステロン合成酵素(CYP11B2)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1)は、同じ第8染色体上にコードされ、この2つの遺伝子が不均等交差によりキメラ遺伝子CYP11B1-CYP11B2ができ、このキメラ遺伝子産物が副腎皮質束状層(zona fasciculate)に異所性に過剰発現することにより、ACTHによりアルドステロンが束状層で過剰に産生されるようになり、GRAの病態を呈することになる。したがって、デキサメタゾンによりACTHを抑制すると、アルドステロン産生が抑制されることになる。

症状

HTNおよび低K血症が典型例での症状である。低K血症がある場合は、口渇、多尿、多飲、筋力低下、四肢麻痺などを示すことがあるが、低K血症を呈するのはPAの約20%で、PAの診断における感度・特異度は低い。

診断

日本内分泌学会の「原発性アルドステロン症診断の手引き」(原発性アルドステロン症検討委員会作成)に基づく。診断は、(1)スクリーニング、(2)確定診断、(3)局在診断の3段階。
  • A.スクリーニング法
血漿アルドステロン濃度(PAC)、血漿レニン活性(PRA) or血漿活性レニン濃度(ARC)の測定(安静坐位15分後)
<PA疑う場合>
PAC≧100〜120pg/ml、PRA<1.0ng/ml/hr、PAC(pg/ml)/PRA(ng/ml/hr)比>200
血漿活性レニン濃度(ARC)を用いる場合には、ARC≒5x血漿レニン活性(PRA)の関係より、血漿PAC(pg/ml)/ ARC(pg/ml)>40
    • β遮断薬内服下ではPRAを抑制するために偽陽性となる
    • それ以外の降圧薬内服下ではPRAが上昇⇒PRA低値であればPAを疑う
    • 降圧薬が必要な時は、2週間カルシウム拮抗薬単剤(+α遮断薬)に変更
    • アルドステロン/レニン比の値は、分母のレニンに依存し、薬剤や高齢者の低レニン状態ではその比が高値となるので注意が必要
  • B.確定診断法
アルドステロン/レニン比高値でも偽陽性があり、低K血症があれば補正後に以下の確定診断を行う。(1)カプトプリル試験、(2)立位フロセミド負荷試験、(3)生理食塩水試験、(4)経口食塩負荷試験、(5)フルドロコルチゾン負荷試験などを行う(日本内分泌学会の手引きでは、(1)、(2)、(3)を推奨)。(1)では、カプトプリル50mgを内服して90分後のアルドステロン/レニン比>200であれば原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)と診断する。(2)では、フロセミド40mg静注+立位負荷120分後の血漿レニン活性(PRA)<2.0ng/ml/hrの時に原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)と診断する。(3)では、生理食塩水2リットルを4時間かけて点滴静注し、4時間後に安静臥位で採血し、血漿アルドステロン濃度(PAC)>85pg/mlであれば原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)と診断する(脳心血管イベントリスクが高い動脈硬化進行例では行わない)。 (1)〜(3)の中で2種類以上陽性ならば原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)と確定診断する。
  • C.局在診断法
原発性アルドステロン(Primary Aldosteronism:PA)の腺腫は小さい例も多くあり、腫瘍径6mm未満の腫瘍はCTでは検出できない。また、40歳以上では副腎偶発腫瘍の頻度が増加し、例え副腎腫瘍がCTで発見されてもそれがアルドステロン産生病変とは限らない。そこで、手術を前提とする症例では、副腎静脈サンプリング検査が必須である。判定は、(1)副腎静脈中アルドステロン濃度がACTH負荷後で14000pg/ml以上であればアルドステロン過剰分泌ありと判定、(2)左右副腎静脈のアルドステロン/コルチゾール濃度(A/C)比を計算し、高値側A/C比÷低値側A/C比(lateralized ratio)≧4の時、高値側の片側病変と判定、(3)左右副腎静脈の低値側A/C比÷下大静脈A/C比<1の時に、低値側は健側副腎と判定、などの基準が示されているが単独の指標で判定できない場合もある。

治療

原則:片側病変は外科的摘出、両側病変は薬物治療、GRAはステロイド
1.外科的処置
片側副腎腫瘍に対して、腹腔鏡下副腎摘出術を施行する。
2.薬物療法
原則として片側病変であれば、外科的処置を行うが、手術を希望しない例、手術不能例、両側副腎病変では薬物療法を行う。
  • a. 片側副腎病変:副腎腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)、
    両側副腎病変:両側副腎過形成(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)、
   片側性副腎過形成(primary adrenal hyperplasia:PAH)に対して
1)単独あるいは2)を追加する。
<処方例>
1) アルダクトンA錠(25mg) 1―4錠 分1−2
または、セララ錠(50mg) 1-2錠 分1-分2
2) ノルバスク錠(アムロジン錠)(5mg) 1-2錠 分1-2
低K血症があれば、K製剤を適宜追加投与する(アルダクトンA,セララ錠使用時K製剤の併用に注意。高K血症となる為)。
  • b. GRAに対して
はじめに、デキサメサゾン0.125〜0.25mgまたはプレドニゾロン2.5〜5mgを眠前投与する。
1)単独、2)単独あるいは1)と2)を併用する。
<処方例>
1) デカドロン錠(0.5mg) 1/4-4錠 分1
2) アルダクトンA錠(25mg) 1-4錠 分1-2
または、セララ錠(50mg) 1-2錠 分1-分2

予後

本症を放置すると脳卒中、心筋梗塞、不整脈、腎不全を高率に合併する。片側副腎病変:副腎腺腫(aldosterone producing adenoma:APA)では腺腫摘出術後に高アルドステロン血症は是正され、ほとんどの症例で血圧は改善するが、約30%の症例では血圧が正常化しない。これは、手術までの罹病期間や本態性HTNの合併さらには肥満の影響などが想定されている。しかし、高アルドステロン血症は、脳血管疾患や心肥大などの危険因子であることから、早期の診断および積極的な外科的処置による治療が優先される疾患である。
タグ

管理人/副管理人のみ編集できます