橋下弁護士の記者会見に対するコメント

(平成19年9月6日 記者クラブ宛送付コメント)



第1 はじめに


1 今回のコメントの趣旨

 9月5日12時より,2時間にわたり,橋下弁護士が反論の記者会見を開いたと聞いており,原告本人らが報道機関数社からコメントを求められたようです。
 私たちは,記者会見に参加したわけではなく,記者会見の内容を直接把握することはできませんが,得られた情報に基づき,現段階でのこちらの認識を述べさせていただきます。
 なお,記者会見でも述べておりますとおり,本件提訴においては,弁護活動の当否を問題としていません。ただ,一方で,原告本人らは,不当な批判に対する釈明をしたいという思いがあります。そこで,当弁護団としての見解(もちろん原告本人の主張に反するものではありません)と,原告今枝の反論を区別してコメントさせていただきます。

2 把握している記者会見の内容

 前述したとおり,当然のことながら当弁護団が記者会見に出席していたわけではありませんので,記者会見の内容は,コメントを求めた記者の方にお聞きした説明,及び確認できた報道を前提にせざるを得ません。行き違いが生ずることを避けるため,こちらにて把握している発言内容を列記します。この段階での誤解があった場合にはご容赦下さい。

    裁判については争う。
    代理人は付けない。友人はいるが頼むつもりはない。
    大阪への移送を考えたが、広島の事件だから広島で受けて立つ。
    なぜ旧1・2審の主張と変わったのか、説明義務違反。
    最高裁でドタキャンしたマナーの問題がある。
    裁判を遅延させている。
    弁護団の更新意見書も読んで検討した上での発言。
    懲戒請求が誰でもできるというのは事実である。
    自分が懲戒請求をしていないことについては,時間と労力を費やすことを避けたという面は否定できない。
    自分も法律事務所の経営者であり,無償で3900人の代理をするわけにはいかない。


第2 弁護団としての見解


1 本件における争点の確認

 これまでの記者会見やお問い合わせへの回答でもお伝えしているところですが,あらためて説明させていただきます。
 弁護団が訴状において争点としているのは,橋下弁護士が懲戒事由があるかどうかについて十分な調査・検討をせず懲戒請求をするべきだと視聴者を扇動したこと,その際,制度について明らかな虚偽の説明を行ったこと(懲戒請求が請求さえ行えばそれ以外に何らの負担もなく,かつ,請求の数により当否が決定されるものであるかのような説明をしたこと)の2点につきます。

2 はじめに

 橋下弁護士の会見内容のうち,本件民事訴訟の争点に直接関連するのは,Л┐世韻任后
  銑については,本人の対応姿勢の表明であり,特にこちらからコメントすることはありません。
 きキΔ砲弔い討蓮じ市弁護団の弁護方針に関する問題ですので,本件の争点とは必ずしも関係ありません。その是非については,当弁護団が言及すべき立場にないと自覚しています(後に第3において原告今枝からの直接のコメントがあります。)。しかし,きイ砲弔い討蓮ぬ世蕕に誤った説明で,これらが懲戒事由になりえないことは一見して明らかです。当弁護団としても,このような誤った法律解釈が公然と弁護士の口から発されることは,到底看過することができません。
 については,直接裁判とは関係ありませんが,橋下弁護士の説明はあまりに不合理ですので,若干指摘をさせていただきます。
 以上のような観点から,当弁護団としては,きキЛ┃について,コメントさせていただきます。

3 い砲弔い

 弁護人が社会や被害者に対して説明をした方がよい,という議論は,全くあり得ないものではありません。しかし,それは,決して弁護人の法律上の義務ではありません。そのような法的解釈は,橋下弁護士独自の理論であろうと思われます。
 弁護人が弁護方針について被害者や社会に説明するということは,弁護人の守秘義務違反と隣り合わせの問題です。したがって,どんな事項であれ,被害者や社会に説明する際には,被告人本人の了解(十分な理解に基づいた同意)が不可欠です。当然,どんな事案でも,公に説明できない事柄はたくさんありますし,説明できない理由さえ話すことができない事案もたくさんあります。弁護人が守秘義務に違反して公に秘密を漏洩すれば,それこそ懲戒事由であるばかりか,刑法の秘密漏示罪にもあたります。被害者や社会に対する説明が弁護人の法的義務であろうはずはありません。
 「被害者・国民に対する説明義務違反である」との見解を橋下弁護士がブログで展開していることは当弁護団においても把握していましたが,まさか,本当にその主張を裁判で主張するつもりであるとは信じられない,耳を疑った,というのが,当弁護団としての率直な感想です。

4 イ砲弔い

 放送中,橋下弁護士は,「21人」に対する請求であると明言しています。
 しかし,最高裁を欠席したのは,現在,すなわち差戻審の光市事件弁護団ではありません。差戻審の弁護人のうち,最高裁の弁護人でもあったのは,2人しかいないのです。
 少なくとも他の19人に対する懲戒請求の根拠として挙げるのは,明らかにおかしいのです。

5 Г砲弔い

 「更新意見書を読んだ」というのは,十分な調査・検討を行った,という主張なのではないかと思いますが,いつ読んだのか,あわせて他の裁判書類(これまでの判決文等)も読んだのか,どのような事実を把握し,検討したのかなど,詳しい事情が分からなければ,こちらとしてもコメントできません。
 裁判の中で詳しい主張がなされた際に,反論を検討したいと思います。

6 ┐砲弔い

 結論からいえば,「懲戒請求が誰でもできるというのは事実である」というのは,誤解を招く表現です。
 記者会見の際の繰り返しになりますが,懲戒制度は,いわば,弁護士資格にとっての刑事裁判に等しいものです。弁護士会が裁判官であり,弁護士が被告人です。そして,刑法172条が,虚偽の告訴・告発と並んで,虚偽の懲戒請求を処罰の対象としているように,懲戒請求は,捜査機関に対する告訴・告発と同等の行為と解釈されています。署名活動とは違うのです。たとえば,警察への通報や告発も「誰でもできる」「国民の権利」かもしれませんが,対象となる人が犯罪を犯したか否かを調査することなく,「気に入らないから」「納得できないから」といった軽い気持ちで,特定人を対象にした通報や告発を多数行うよう呼びかける行為が,適法で正当な行為でしょうか。
 さらに言えば,懲戒手続においては,懲戒請求者は,捜査機関の役割も受け持たなければなりません。すなわち,懲戒事由について詳しい説明を求められたり,懲戒事由があると判断した根拠や資料を示すことを求められたりする可能性があるのです。当然のことながら,請求する側も相当な負担を覚悟しなければなりません。だからこそ,広島弁護士会での平成18年度の懲戒請求件数はわずか20件に留まるのです。
 当然のことながら,懲戒処分がなされるか否かは,請求の件数で決まるわけではありません。裁判と同様に,請求の内容と証拠から事実を確定し,懲戒すべき事由があるのかどうか,という点を判断するのです。
 懲戒制度がこのようなものであるにもかかわらず,橋下弁護士の行った説明は,上記のとおりの内容です。懲戒制度がどのようなものか知らない人がこのような説明を受けたら,懲戒請求が署名のように手軽でかつ数が重要という印象しか持てないのではないでしょうか?
 繰り返しますが,「誰でもできる」というのは,形式的には誤った事実ではないとしても,それだけでは一般の視聴者を誤解させる表現であると考えます。

7 について

 これらは,橋下弁護士自身が懲戒請求を行っていないという指摘に対して反論をされたものと思われます。
 について,自分の時間と労力を節約するためにマスコミを通じて視聴者にその作業をやらせることは正当なのでしょうか? また,自分自身,時間と労力がかかる作業だと自覚していたのでしょうが,放送の中でそのようなことを視聴者に伝えていたでしょうか?
 について,我々は,橋下弁護士が3900人に代わって懲戒請求をするべきだと主張しているのではなく,橋下弁護士が個人として懲戒請求を起こしていないことが視聴者に対して無責任ではないかと指摘しているのです。


第3 今枝弁護士の反論


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 そもそも刑事弁護人には被害者・公衆に対する説明義務自体が法的に存在しない,という点は,弁護団の説明のとおりです。その点を置くとしても,主張の変遷理由は本人の承諾の上で,すでにさまざまな場面で繰り返し説明しています。
 被告人は,旧1審の被告人質問で,殺意や強姦の計画性を否認するような供述をなしていましたが,刑事記録の差入れを受けていないことから,検察官の主張と自己の記憶との矛盾が具体的に指摘できない状況でした。最高裁の段階で,刑事記録一切の差入れを受けて初めて証拠の内容を理解し,記憶を喚起するとともに,今までの供述と証拠との矛盾に気がつきました。
 このような主張の変遷理由は,更新意見書にも記載していますし,これは5月4日の記者会見でマスコミに配布しました。
 逆に,問題となっている番組での発言をみる限り,橋下弁護士は,弁護団の説明義務違反が懲戒事由であるという自らの考えや,一方で弁護団の説明はどの程度なされているか等,視聴者に説明や情報提供をする努力を怠っていたのではないでしょうか。

2 Α丙枷修鮹抉笋気擦討い襪箸亮臘ァ砲砲弔い

 現在,約1ヶ月おきに,3日間連続の集中審理による証拠調べが行われていますが,これは光市弁護団から高等裁判所に提案したものです。その意図は,本件の事案の解明を集中的に・早期に達成しようとの目的からです。
 本件について,1〜2ヶ月に1日の通常ペースで審理を行っていれば,もっと審理に時間がかかったのではないでしょうか。

3 ァ丙嚢盧朷臉覆離泪福式稟拭砲砲弔い

 最高裁段階で弁論期日を欠席したのは,差戻審弁護団のうちの2名だけなのに,現在の弁護団全員に懲戒請求をする理由として主張するのはおかしいのではないでしょうか。
 なお,橋下弁護士が放送でも述べていたとおり,原告足立弁護士が最高裁での弁論期日を欠席した件については,広島弁護士会綱紀委員会においては,懲戒不相当と判断されています。このように,すでに懲戒手続にかかり,単位会での判断がなされている事実をとりあげて再度懲戒請求を扇動したのだとすれば,なおさら違法性が強い行為であるといえます。

4 ─閉┣請求が誰でもできる)という点について

 懲戒請求が誰でもできるというのは事実です。
 しかし,刑事告訴や民事訴訟も誰でもできることですが,それ相応の負担や責任,調査や資料収集等の必要が生じることは,理解されているところです。
 誰でもできる手続かどうかということと,報道を見て不愉快という理由で即座に行ってよいかどうかということは,直結しないのではないかと思います。

5 総括

 刑事弁護活動というものは,社会に敵視されても被告人の利益を守り被告人の言い分を支えていかなければならないという困難を伴います。原告である私としては,マスコミは弁護活動の枝葉だけを取り上げて,根幹や本質はなかなか伝わらないという状況の中で一生懸命弁護活動をしているというのに,弁護士である人が,そのような風潮を是正しようとするどころか,かえってその枝葉だけの報道に乗っかり,「葉っぱが腐っているから木ごと斬り捨てろ」というように煽るという行為を,到底許すことができません。


第4 今後について


1 今後のコメントについて

 今回は,橋下弁護士が初めて反論を行った場面であることから,こちらとしても,若干詳細なコメントを準備させていただきました。
 しかし,今後,裁判以前に報道上の論戦が続くことは本意ではありません。
 したがって,今後橋下弁護士の反論があっても,反論は裁判の中ですることとしたいと思います。申し訳ありませんがご了承下さい。

2 第1回期日について

 現在のところ,平成19年9月27日 13時30分の予定です。

3 第三者弁護士のコメントについて

 公平な専門家の意見を聞くという意味で,第三者の弁護士のコメントや回答を求めることは歓迎です。
 ただ,これまで見聞したコメントの中には,光市事件の審理経過や被告人の主張について誤った情報を前提にコメントされているものも見受けられます。また,この問題に関連し,訴状にも引用しております最高裁平成19年4月24日判決は,ごく最近出された判例であることなどから,必ずしもコメントする弁護士が全員知っているものではないと思われます。したがって,単にコメントや回答を求めるだけでは,判例等と相反するコメントを述べさせる結果になるおそれもありますので,最終的に放送・掲載するマスメディアとしてご配慮いただければ幸いです。


※一部,誤解を避けるための加筆・修正をした箇所があります。


2007年09月17日(月) 22:22:37 Modified by keiben




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