刑事裁判 Q1

なぜ、刑事裁判では被害者の声がほとんど反映されないのでしょうか?

刑事裁判の目的は、刑事訴訟法第1条に書かれています。

「この法律は、刑事事件につき公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」

この条文に書かれている刑事裁判の目的は、大きく3つに分類されます。

ー詑療真実の発見=検察官が訴追を求めた事実と被告人が主張する事実の有無を判断すること
適正手続の保証=被告人に憲法上、また法律上認められた手続き上の権利を正しく保障すること
7哉核[瓩療正迅速な適用実現=国家の刑罰権の存否・程度の判断をすること

以上のとおり、被害者の権利や意見を実現することは刑事裁判の直接の目的とされていません。これは、もともと刑事法が個々の事件での「被害者の権利の回復」を目的としておらず、刑罰権の発動をすることによって社会秩序を維持することを主な目的としているからです。

刑事法には、犯罪の成立要件と、これに対する刑罰が定められています。
刑事法が法律として定められている目的は、 ̄報、一般予防、F段麺祝匹鯆未犬董⊆匆饕畚を維持するとともに、犯罪にあたる行為を明確にしてその他の行為が自由であることを保障することにあります。
 ̄報とは、犯行への報いとして罪を課すことです。
一般予防とは、制度としての刑罰の威嚇効果をもって、広く犯罪発生を予防することです。
F段麺祝匹箸蓮犯罪者に刑を課すことによって再犯を予防することです。
ただし、これらのどれを重視するかについては多少の意見の相違があるところです。
しかし、いずれにしても被害者の救済は刑事法の直接の目的とはされていません。

被害者個々の権利の回復は、刑事裁判ではなく、原則として民事裁判によってされるのです。

したがって、刑事裁判では被告人と検察官が対立当事者とされており、被害者・被害者遺族は当事者になることができません。
刑罰権の発動を求めることができるのは、公益の代表者である検察官に限られています(これを「起訴独占主義」といいます。)。被害者がどんなに処罰を求めても、検察官が起訴しなければ、加害者に刑罰を加えることはできません。これは、個人の私的な感情によって刑罰が不平等に科されることを防ぐ目的もあります。
これに対して、私訴といって、私人による刑事訴追(起訴)を認める制度もあります。起訴不起訴の判断に市民の意見を採り入れる大陪審制度をとっている国もあります。しかし、日本ではそのような制度を取り入れていません(検察審査会が間接的に市民の意見を採り入れているだけです。)。

このようにして、現在の日本では、犯罪の処罰は刑事裁判、犯罪被害の回復は民事裁判と、手続きが厳格に区別されているのです。

このような原則に従って、これまで、被害者・遺族は刑事裁判からは遠ざけられてきました。
厳しい言葉でいえば、単なる証拠の1つとして扱われてきました。

被害者・遺族が犯人に対して処罰を求める感情は、裁判所がどのような刑を科すべきかを判断する材料(証拠)になります。
もちろん、一般的には処罰感情が強ければ重い判決になり、感情が慰謝されていれば刑が軽減されることになります。
しかし、被害者・遺族の処罰感情のほかにも、刑を決めるための前提となる要素があります。
それは、1つには、犯行の動機、犯行態様、結果の重大性など、犯行そのものの性質です。
もう1つは、被告人の反省の態度や更生可能性です。
これらについて目を向けずに、処罰感情のみで刑を決めることはできません。むしろ、これらの事情のほうが、刑を決めるにあたって重要な要素であると考えられます。
なぜなら、これらが被告人のコントロールの及ぶ範囲にある要素であり、これらを被告人の責任とすることが当然であるのに対して、被害者・遺族の処罰感情は被告人のコントロールが直接及ばない外部的な要素だからです。

しかし、最近では、光市事件でも行われたように、被害者・遺族の意見陳述が行われるなど、限定的ながら刑事裁判への参加が始まっています。さらに、来年から当事者として訴訟行為(尋問、証拠の提出等)を行える被害者参加制度が始まります。
また、附帯私訴といって、刑事裁判を利用して被害者の加害者に対する損害賠償を円滑にする制度も検討されています。
ただし、これらに対しては、被害感情にとらわれて刑事裁判の本質をゆがめたり、有罪無罪の的確な判断をそこなわせたりするおそれがあると危惧する意見もあります。



2007年10月03日(水) 00:59:31 Modified by keiben




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