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イリヤの奇妙な冒険16

   【Fate/kaleid ocean ☆ イリヤの奇妙な冒険】


   『16:Price――犠牲』




【SPW財団最高機密書類より抜粋】

 そもそも我々、SPW財団という組織が設立された根本には、『吸血鬼』の存在があった。
 古代の遺産、『石仮面』によって肉体を変化させて生み出される怪物。その恐怖と戦うために、我々はつくられた。
 我々の祖、ロバート・E・O・スピードワゴン氏が、戦友から教わった言葉、《勇気とは、恐怖を知ること。恐怖を理解すること》――『吸血鬼』という恐怖を知り、乗り越える勇気を持つために、我々は研究を重ねてきた。
 その年月の果てに、我々は多くのことを知ってきた。

『石仮面』を発明した、『吸血鬼』以上の恐怖である『柱の男』。
『石仮面』同様、人間の秘められた力(善悪の区別なく)を無理矢理呼び起こし、『スタンド』を発現させる『矢』。
 そして、人類史の裏で動いてきた、科学と双璧をなすもう一つの世界――『魔術』。

 その中でも、やはり我々は『吸血鬼』にこそ、常に目を向けてきた。我々が得てきた知識の中には、『石仮面』や『柱の男』とは別の『吸血鬼』の存在があった。

 それは『真祖』と『死徒』。『真祖』は生まれた時から吸血鬼であったもので、星が人間に対抗するために造りだした、肉体をもった精霊であるという。精霊というとメルヘンチックで信じがたいが、我々とつながりを持つ、とある漫画家が接触したという『山の神々』もそんな精霊の一つなのかもしれない。
 そして、『真祖』には人の血を吸いたくなるという欲求があり、そのために『真祖』に血を吸われた人間が、吸血鬼と化したものが『死徒』である。永遠の命を持つが、その肉体を維持するためには人間の血液を必要とする。魔術によって、『真祖』に噛まれずとも、『死徒』になる者もいるようだ。
 これらの知識は、チベットやヴェネチアの波紋使いたちを通し、『聖堂教会』から学んだものである。彼らの目的は人の道を外れた異端を滅ぼし、人に害なす神秘を管理することである。彼らはSPW財団を、財力、技術力、影響力、組織力、人員、知識の質と量、いずれの面においても高水準にあると評価してくれているが、だからこそ道を踏み外し、異端となった時の脅威も高いとして、警戒している。我々としては地道な交渉で信頼関係を築いていきたいものだ。


   ◆


「おはよー、美遊さん」
「イリヤスフィール………おはよう」

 学校の教室で、明るく挨拶をしたイリヤに、美遊はややぎこちなく挨拶を返す。

(ううーん………まだ打ち解けてもらえないのかなぁ。特訓の手伝いを………そんなに役に立たなかったけど、したりしたし、ちょっとは仲良くなれたんじゃないかって、期待したんだけど………)

 最初に『戦うな』と否定された時より、悪感情はないとはいえ、まだ壁が感じられる。


(肩を並べて戦ううちに、芽生える絆! とか、実際は難しいのかなぁ。でもそれじゃどうすれば………)
「イリヤスフィール」
「………え? わ! な、なに? 美遊さん!」

 考え事にふけっていると、考え事の対象本人から話しかけられ、イリヤは慌てて返事をする。

「まだ戦うつもり?」
「え………」

 こちらを真っ直ぐ見つめる澄んだ瞳。美遊の真剣な眼差しに気圧されるイリヤだったが、相手の真剣な問に答えるために、口を開く。

「や、やっぱりまだ、遊び半分で戦うなって、思ってるかな………? そ、それは確かに怖いし、悪い人たちが本気で殺しにかかってるってことも知ってるけど」
「知っているかもしれないけど、理解はしているの? 敵は組織、それもそこらのギャングなんてものじゃない。警察も役に立たない、世界の裏の集団。このまま戦い続けて、組織に目をつけられたら、たとえカード回収が終わっても、邪魔者された復讐をしてくるかもしれない。これからの人生に、黒い澱みが残るかもしれない。それでも、戦いを続けるの?」

 戦って死ぬかもしれない。死ななくても、この聖杯戦争を起こした黒幕である組織に狙われ続けるかもしれない。
 それでもいいのかと美遊は言っている。つまりは、

(心配、してくれている………?)

 最初になぜ戦うかと問われたときは、もっと単純にイリヤの行動目的が疑問だったからで、イリヤ自身への興味は薄かったのだと思う。
 だが、今のこの問いは、イリヤの今と未来を、慮って言ってくれているのだとわかった。そうでなければ、イリヤに現状の不味さを丁寧に説明しようとはしないから。
 その真心に対し、イリヤは素直な気持ちを口にする。

「美遊さんだって、戦ってるじゃない」
「それは………私とあなたとでは違う」
「違わないよ! 同い年で、同じ学校に通ってて、同じ魔法少女で、同じ女の子でしょ?」

 そう言ったイリヤを、美遊はどこか驚いたように見つめる。その反応に、どこにそんな驚く要素があったのかとイリヤは戸惑うが、言葉を続ける。

「そ、そりゃ、私は美遊さんのこと何も知らないし、何か事情があるのかもしれないけど、でもやっぱり同じことは同じだと思うんだ。美遊さんだけじゃなくて、凛さんもルヴィアさんも、アヴドゥルさんも、みんな危ないって知っていても、戦っているから………危ないからっていうのは、逃げる理由にはならないかなって思う。それにさ、このまま逃げるのは、やっぱりカッコ悪いじゃない?」

 へへへと笑うイリヤを、美遊は何も言わずに、じっと見つめている。

(ううう………だ、駄目だった? また突き放されちゃう?)

 イリヤが不安に思っていると、

「………本来、ルヴィアさんも、凛さんも、誰も、あなたと関係ないはず。たまたま出会っただけのはず。それでも?」

 新たな問いがかけられた。


「そりゃ………出会ったのはたまたまかもしれないけど………でもそんなこと言ったら、たまたまじゃないことなんてないよ。それを言ったら友達なんて、みんなたまたま出会っただけだし」

 そしてイリヤは何気なく言葉を返した。美遊は、返された言葉を拾い、小さく呟く。イリヤの耳にも届かないくらい、小さく。

「………友達」
「え? 今、なんか言った?」

 イリヤが首をかしげるが、

「何でもない」

 最後にそう言って、美遊は最初から最後まで静かなまま、自分の席へと座り、会話を終わらせた。
 同時に鐘がなり、席に着く時間が訪れたことを知らせる。

「………わかってくれたのかな?」

 美遊の態度を捕えかね、イリヤはむぅと唸りながらも席に着いた。


   ◆


「あんた………」

 帰宅した遠坂凛を玄関の前で出迎えたのは、座り込むアーチャーであった。
 シュレッダーにでもかけられたような、ズタズタの体。無数の傷から血が流れ、重体どころではない負傷だと一目でわかる。

「思ったより早い帰宅だった幸運に感謝しよう。いつ消えてしまうかと気が気ではなかった」
「………誰にも見られていないでしょうね?」
「安心したまえ、敷地内に入るときは注意したし、君もわかっているだろうが、外からは見えない位置に座っている。セールスや郵便配達、宗教勧誘の類も来てはいない」
「そ………じゃあ、早く用を済ませなさい」

 ことさら冷静に言ってくれる凛が、アーチャーにはありがたかった。冷たい素振りではあるが、根は人一倍、感情豊かな少女だ。心の贅肉がどうしても取れない、不覚悟な魔術師だ。

「まったく……好ましいな」
「な……なに言ってんのよ? いいからさっさとしなさい!」

 アーチャーが素直に浮かべた微笑みと、言葉から感じ取れる純粋な親愛を受けた凛は、顔を赤くして急かす。

「ああ、すまない………では話すとしよう。まずこれを受け取ってくれ」

 アーチャーは右手を凛へと差し出す。その右手が持っていたのは、

「! これって………」
「セイバーのクラスカード。なんとか倒したが………このざまだ」

 そして、セイバーのいた神殿や、その神殿の役割を、端的に説明していく。凛は幾度も目の色を変え、口を開きかけ、そのたびに冷静さを取り戻して、話を聞いた。質問でアーチャーの説明を中断している余裕はないという判断であった。
 実際、アーチャーはいつ消えてしまうかわからないほど消耗していた。

「ホムンクルスの製造所はもう機能していないだろう。時間を考えても、同規模のものを別に用意しておけたとも思えないから、魔力供給の優位性は、もう気にしなくていいだろう」

 いかにキャスターといえ、幾つもダミーの拠点を造りながら、あの規模のホムンクルス製造所を、二つ以上造るというのは考えづらい。そこまでできる余裕があるなら、そこまでできる魔術師なら、魔力補給用のホムンクルスなどつくるまでもなく、正攻法で戦って勝利をつかめるだろう。


「それより問題は、セイバーがキャスター陣営のいた神殿を護っていたということ。つまり、セイバー陣営とキャスター陣営、バーサーカー陣営、アサシン陣営の4陣営は、どこまで深いかはわからないが、協力関係にある。バックにいる、ドレスとユグドミレニアも、おそらく………」

 既に脱落したライダー陣営も入れれば、7陣営のうち、5陣営が手を組んでいたわけだ。アーチャーもオンケルの関係者が召喚するはずだったことを考えると、上手くいっていれば6陣営であったわけだ。八百長というレベルではない。
 埋めることのできなかった、たった1つの陣営である、ランサー陣営(ランサーのマスターも、最終的にはオンケルと手を組んだが)を倒し、やってくるであろう時計塔の追手を倒した後、オンケルのバーサーカー以外のサーヴァントを自害させて、オンケルを優勝者にする計画だったのだろう。他の者たちに裏切るつもりがえなかったかはわからないが、ともかく、カレイドステッキという予想外に強力な魔術礼装の参戦により、その計画は現在破綻している。

「どうも調べた限り、オンケルがドレスやユグドミレニアを利用できるような大物とは思えない。オンケルの方が利用されていると考えた方が自然だろう。そもそもクラスカードを利用した聖杯戦争という発想自体、オンケルのものではなく、二つの組織のどちらかの計画だったのかもしれない」

 凛も頷き、同意を示す。
 ドレスの方は良く知らないが、ユグドミレニア家の方は凛も聞き及んでいる。大した魔術の実力もなく、政治力だけでそこそこの勢力を保っている、弱小魔術師集団というのが、凛の認識であり、その認識は間違っていない。ただ、逆に言えば、大した実力もないのに勢力を保てる、その政治力と謀略だけは注意しないわけにはいかない。
 少なくとも、ギリギリ一流に引っかかっている程度の力しかないオンケル・イクスがどうこうできるような、容易な相手では決してない。

「ドレスは、今までも幾つもの聖杯戦争に介入していて、何らかの実験を行っているらしいというが、今回も、やはり実験なのだろう。それにしても――実験ごときで行われるとは、聖杯戦争も安くなったものだ」

 アーチャーは苦笑に似た表情を浮かべる。怒り、悲しみ、嘲り、色々な感情が入り混じった複雑な表情であった。

「どうも今あちこちで行われている亜種聖杯戦争は、根本で勘違いをしている。本来は座より召喚した七体の英霊すべての魂を聖杯に束ね、一気に開放……英霊たちが一度に座に返るエネルギーを利用し、根源への道を開く。それが目的だ。願いを叶えるというのは副次的な効果にすぎない――もっとも、本来の目的を達成できるような聖杯は、そう簡単には生み出せないだろうが。あるいはドレスは、多くの亜種聖杯戦争で情報を集めて、失われた本来の聖杯を完成させるつもりか――いや、これは妄想にすぎないな。忘れてくれ。今重要な考察は、奴らのこの聖杯戦争に対する姿勢だ」

 クラスカードを媒体とした英霊召喚、ホムンクルスを使った魔力補給――どれも斬新な試みだが、全身全霊を尽くして行ったとは考えにくい。セレニケの引き際など、生きるか死ぬかの博打をしている人間の行動と見るには、あっさりしすぎている。実際にできるかどうかの実験にすぎないと考えた方が自然だ。
 おそらく、本当に本気なのはオンケルだけだ。他は、たとえ負けても逃げ延びることができれば、それで十分という考えであろう。

「だが本気でないからくみしやすいとは思わない方がいい。勝敗を度外視するからこそ、常識外の手を打ってくるかもしれない」

 勝利を計算に入れないからこそ、後先を考えない、無謀な真似ができる。普通の戦闘なら、一つの戦いに全力を投入することはない。力を使い果たしたら、次の戦いに負けるためだ。余力は残しておかねばならない。だが、その普通が今回は通用しないかもしれない。


「そして………これは俺のマスターが、最後に調べてくれた情報だが、セイバーのマスターであった、ミセス・ウィンチェスターが根城としている場所がわかった」

 アーチャーがその位置に当てはまる住所を口にすると、凛の目が見開かれる。
 その住所は凛の記憶にあった。留学してそれなりに時間も経過し、故郷の土地勘もおぼろげになっているが、その場所は良く知っている。魔術師として。

「………しまったわね。私としたことが迂闊だったわ」
「どうやら知っているようだな。これで、私が伝えられる有益な情報も品切れだ。ちょうど、時間になったようだし、私は暇を貰うことにするよ」

 そう言うアーチャーの体からは、光の粒が立ち昇り、その体がだんだんと薄らぎ、後ろ側の扉が透けて見えるようになっていく。
 もう、アーチャーは消滅するのだ。

「………結構、使える奴だったわよ、あんた。後のことは任せなさい。手柄はちゃんと頂いておくから」
「フッ………ルヴィア嬢に美味しいところをもっていかれないように注意することだな。君は本当にうっかりだから」
「なっ………あんたに何が………!」

 凛は顔を赤くして怒鳴ろうとするが、アーチャーの温かな眼差しを受けて押し黙る。知った風なことを言われるなど好きではないはずなのだが、このアーチャーに、まるで本当に知っているかのような態度をとられると、何だか本気で怒りきれなくなってしまうのだ。

「いつも済まない………後を頼む………」

 凛の心の内を知ってか知らずか、弓騎士のサーヴァントは、穏やかに消滅した。
 一人になった凛は、残されたアーチャーのクラスカードを拾い。

「いつもって………会ってからちょっとも経ってないじゃないの。結局、全然自分のことを教えてくれないままだったわね………別にいいけどさ」

 言葉とは裏腹に、凛の顔は悔し気で、ちょっと拗ねているかのようだった。


   ◆

「………セイバーが敗れただと?」

 オンケルはその報告に愕然とし、すぐに慌てふためくようなことはなく、冷静さを保とうとしたが、内心の動揺は、細かく震える手に表れていた。恐怖と混乱が彼を襲い、弄んでいるのだろう。

「残念ダガ事実ダ。ダガ、アーチャーモマタ倒レタ。ソコハ痛ミ分ケダ。ダガ、コノ周囲ヲ嗅ギマワル使イ魔ノ気配ガアル。ドウヤラ、コノ拠点モバレタナ」
「ふざけるなっ!!」

 オンケルは冷静さを保ち切れず、壁を強く殴り、怒りを表現する。だが、その程度で脅されるようなミセス・ウィンチェスターではない。

「最強ノサーヴァントハ、マダ健在ダロウ? ナニヲ恐レル?」
「お、お、恐れてなどはいない! だが、だが私のバーサーカーは確かに最強だが、だからこそ多くの魔力を必要とする………」

 バーサーカーは並外れて魔力を大量に消費するサーヴァントである。冬木で行われた聖杯戦争の記録でも、バーサーカーが終盤まで持った記録はない。多くが魔力供給を行いきれず、魔力不足で敗退している。


「ナルホド、確カニ、勝テテモ自滅シテハ意味ガナイナ。ナラバ魔力供給ノ手助ケモシテヤロウ。我々ノ魔力製造施設ハ破壊サレタガ、他ニモ準備ハシテアル」

 そう言われても、オンケルは容易く頷けない。オンケルはキャスターの正体も、キャスターのマスターについても、何も聞かされていないのだ。

「手助けとは、どうやってだ?」
「パスヲ分ケル。カツテ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトガ開発シ、ソレヲ見テ、盗ミ取リ研究シタ成果――魔術師ト英霊ヲツナグ魔力ノパスヲ、令呪ヲ使イ支配スルモノト、魔力ヲ供給スルモノニ分ケル。魔力供給ノパスハ、更ニ多クノパスニ分ケレバ、複数ノ魔術師デ1体ノサーヴァントニ魔力供給ガデキル」
「………ま、待て、それでは貴様らが魔力供給を断てば、バーサーカーは弱体化してしまうということではないか!!」

 キャスターが残っている現状で自分のサーヴァントに対する権利の半分を譲渡するなど、冗談ではなかった。いくら命令権を持っていても、補給を他者に握られていてはおしまいだ。
 イリヤたちを倒したとしても、バーサーカーは疲弊するだろう。そんな弱体化した状態で魔力供給を断たれれば、最弱のキャスター相手とはいえ、勝利できるかどうかわからない。
 ライダーのマスターとして雇ったミドラーがリタイアした今、直接の味方は誰もいない。オンケルが裏切られても、助けてくれる者はいない。

(くそっ、せめてサイコ・ウェストドアーが、計画通りにアーチャーを召喚していれば………!!)

 本来、アーチャーは味方として、オンケルの同士であるサイコが召喚する手はずだった。だが、召喚時にトラブルが起こり、別の何者かがアーチャーのマスターになり、サイコを倒してしまった。
 サイコは記憶を失って、呆然自失としているところを見つけたが、情報の一つも聞き出せぬ状態だったため、バーサーカーに『魂喰い』――生命力を奪うことによる魔力補給。奪われた相手は当然、死に至る――をさせて、最後の利用をしたうえで始末した。

(所詮、時計塔の物品管理をしていただけの2流魔術師。クラスカードを盗み出すのに都合がいいから仲間に引き入れたが………こんなことなら、もう少し優秀な者を選ぶべきだった!!)

 その優秀な者とやらがいたとして、オンケル程度に従うかどうか知れたものではないが、オンケルは心の内でひたすら、もはやこの世にいないサイコの間抜けさをこき下ろした。

(もう仕方ない………提案を受けるとしよう。いや、いや違うぞ! これは、私が『ドレス』を利用しているのだ! こいつらとて、私が必要であるからこそ協力しているのだ! 私がいなければ困るからだ! だから、存分に利用すればいいのだ………そう、『ドレス』とて、優秀な私を失いたくはないのだからな! 裏切られるわけはない!)

 オンケルは苦い顔つきを、急に得意げな笑みに変え、ミセス・ウィンチェスターに居丈高に言い放つ。

「いいだろう………その案を呑んでやる。急いで準備をするがいい!」

 自分が『ドレス』に操られているのではない。『ドレス』を利用しているのは自分であると、自己暗示をかけ、しっかりと悦に浸るオンケル。

 オンケル・イクスの魔術師の家系は五代まで遡る。
 始祖は、ゲルマンの魔術師に基本程度の魔術を習った。三代目であるオンケルの祖父は、ナチスの特殊研究部で働いていた。当時、同じようにナチスと関係を持っていたユグドミレニア現当主であるダーニックは、オンケルの祖父と顔見知りであった。
 その繋がりも、ユグドミレニアがオンケルに声をかけた理由の一つである。その時から、ユグドミレニアは知っていた。イクス一族が、いかに魔術師に向いていないかを。
 イクス一族は、それなりに魔術の才能はある。魔術回路の数も、五代程度にしてはかなり多く、オンケルもその腕前はギリギリとはいえ一流に入るほどのもの。
 だが、その精神性は、我儘な子供のようなものだ。ある程度までは成功できる。だが、勢いだけで登り切れる位置の限界まで行き当たり、慎重や忍耐を必要とする段階に至ると、それ以上進めないのだ。
 そして、自分のやり方は正しいと思い込む傲慢さゆえ、先に進めぬ自分を顧みて反省することができない。ゆえにそこでいつまでも止まってしまうのだ。
 オンケルの祖父も、その未熟な精神ゆえに、魔術の才能を使いこなせなかった。ユグドミレニアはそれを知っていたし、オンケルが祖父によく似ていることも知っていた。


 そんな傲慢で無様な彼に、ミセス・ウィンチェスターは文句の一つを言うこともなく、事務的な返事をした。

「深夜ニナレバ、オソラク早速シカケテクル。ソレマデニ、魔力供給員ハ用意シテオコウ」

 実際、ここで臆病風に吹かれ、聖杯戦争から降りると言われると困っていたところだった。

 そうそう、すぐに用意できるものではないのだ。
 いつでも切り捨てることができて、死んでも全く惜しくない、利用しやすい馬鹿というのは。

   ◆

「あー、本当に結界が破られてるみたいね」

 凛は一目で、かつて彼女の管理下にあった場所が、敵地になっているとわかった。
 かつて張られていた結界は消え、新たな結界が張られている。
 待つのはオンケルとバーサーカー。もしかしたらキャスターやミセス・ウィンチェスター、セレニケも共にいる。

「行くわよイリヤ、ひょっとしたら最終決戦になるわ」
「うん………!」

 イリヤは凛から受け取ったカードに目を向ける。
 弓を引き絞る女戦士の姿を描いたカード。

 もう会えない仲間が、遺したカード。

「行こう」

 知らないところで戦い、知らない所で消えてしまった彼を想い、イリヤは今宵も、戦場に立つ。




 ……To Be Continued
2016年07月18日(月) 23:06:42 Modified by ID:nVSnsjwXdg




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