みんなの練習帳 - 真夏の体育館
8月の中盤。夏の真っただ中でも、バスケ部の夏川鈴は、学校の体育館で一人、特訓をしていた。

鈴はコートの遠くからボールを投げた。

――コロン。


鈴「よし、入った」

鈴は小さくガッツポーズをする。

そしてその手をそのままパーにし、自分の顔を仰いだ。

鈴「それにしてもあっつい……ジュース買い行こっかな」


外に出ると、目の前に自動販売機があった。

鈴は首をかしげる。

鈴「おっかしいわね……こんなところに自動販売機なんてあったっけ?」

すると、自動販売機がもぞもぞと動き出した。

鈴「ひっ!なに!?」

そして、自動販売機に頭をどつかれ、鈴は気を失ってしまった――。


気がつくと、元の体育館にいた。

鈴「外に出たはずなのに……なんで?」

鈴は立ち上がる――。

鈴「!?」

なぜか立ち上がれなかった。


タンタンタン――。


体育館に、足音が響く。

鈴は顔を上げる。

女の子だ。すらっとした美人。髪は短く、前髪をピンで留めている。

鈴「って、空じゃない!」

空「やっほー、鈴!」

空は手を上げて振った。

空は鈴の友達で、技術部だ。

鈴はさっきの自動販売機を思い浮かべる。

鈴「ひょっとして、さっきの、あんたの仕業?」

空「そうよ。力作なんだから!」

空は胸を張る。

鈴は怒った。

鈴「なんであんなことを!?頭痛かったんだから!」

空「それはね」

空は鈴の手を指さす。

空「あなたを拘束するためよ」

そして、鈴の体の上に馬乗りになる。

鈴「まさか……」

空「あんた、昔っから、くすぐり、弱かったよね?」

空とは、幼稚園の時から一緒で、拘束されてはいないが、よくくすぐられていたのだ。

空「じゃあ、ショータイム、いきましょうか」


空は鈴の両脇に手を添えると、十本の指を一斉に動かす。

鈴に信じられない程のくすぐったさが伝わる。

鈴「あはははははっ!」

暴れようとしても暴れられない。

くすぐりからは逃れられない。

鈴「ひゃはははははあ!もう無理ィひひっ」

空「まだまだ!もっと笑いなさい」

鈴「いははははははははははっ!笑いすぎてェ!おかしくなっちゃう!」

空「そうね……じゃあ、我慢してみたら?」

空は手を止める。

空「じゃあ、十分耐えられたら、やめてあげるわ。ただし耐えられなかったら……」

ゴクッ――。

鈴は唾をのむ。

空「くすぐり地獄、ね」


空「じゃあ、始めるわね。よーい、どん!」

まずは、脇を人差し指でつつかれた。

鈴「んっ……くっ」

空「あら?初めから危ないわね。もっといくよ」

かりかりと掻くように動かす。

鈴「くくくっ……んんん」

空「ほらほらー!」

言葉攻めが加わった。

鈴「んぐぅ……ふーんっ」

顔を真っ赤にして耐える鈴。そろそろ限界だ。

空「ラストスパートね。こちょこちょこちょ」

鈴「くあっ!?ははははははははっ!」

いきなりのこちょこちょというくすぐりだった。鈴は笑ってしまった。

空「くすぐり地獄開始ー!」

空が嬉しそうに叫んだ。


空「思いっきりいくよ?こちょこちょこちょー!」

鈴「やはははははっ!やめてえええっ!」

空「やめないよ。地獄だもんね」

そして、もっと早く手を動かす。

鈴「ひゃあああああっ!くしゅぐったいい!!」

汗で蒸れて、良く滑った。

空「くすぐったいでしょう?もっとくすぐったくしてあげるからね」

鈴「いやああああっ!!あはははははははははははっ!」

鈴が動けば動くほど汗が溜まる。そして、どんどんくすぐったくなっていく。

鈴「ひゃははははははっ!!無理ィ!!むりぃ!!!」

空「夜までやってあげるからね」

鈴「ゆるじてえええ!!じんじゃううう!!!」

空「聞こえませーん」

鈴「あははははははっはっはっははっはあはははっ!!!」

鈴はもう何も言えなかった。

そのくすぐったさに笑い転げるのみ。


くすぐり地獄へ――。



ようこそ。


鈴「あははははっははっははっははっはっははっははあははははっはっははっはっははあははははっはっははっはははっ」