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たとえ
 たとえとは、文字通りたとえることです。「たとえる」とは、ざっくりと言えば比喩のことですが、要はある事物や言動を、類似性のある別の言葉によって言い換えることです。言い換えさえすれば本書の定義では「たとえ」になるので、修辞学で言うところの「比喩」よりは広い意味になるかもしれません。比喩には、「ような」「みたい」「ごとし」など比喩専門に用いられる言葉を使って、比喩であることを受け手に明示する「直喩(明喩)」と、こういった言葉を用いない「隠喩(暗喩)」とがあります。笑いの場面では両方とも用いられます。
 抽象的な話ばかりでも分かりにくいので、例を挙げましょう。たとえば、「料理をやったことのない芸人が料理に挑戦!」という企画で、芸人Aが作り上げたカルボナーラが、ものすごく臭かったとします。それを食べて臭いと感じた芸人Bは、どのような言葉を発すれば、笑いをとることができるでしょうか。




 い魯キの使いで松本さんが用いたたとえであります。素晴らしいたとえなのでここで使わせていただきました。にいうケムラーはウルトラマンに登場する怪獣です。なぜケムラーを使ったかは後に説明します。
 ,蓮◆崕い」という事実をそのまま伝えるものです。これは、たとえではありません。△蓮△燭箸┐涼罎任眥肖箸吠類されると思われます。「みたいな」という言葉を用いているからです。い禄ぜ学で言うと直喩になるのか隠喩になるのかはよく分かりませんが、どちらかというと隠喩に近いのではないでしょうか。
 この例を見れば分かると思いますが、たとえというのは、ある事物や言動をそのままの言葉で伝えずに、別の言葉で言い換えることです。臭い物を食べたときでも「臭い」ということをそのまま言葉に出すのではなく、別の言葉で臭さを表現するのがたとえです。
なぜこれが笑いに用いられるのでしょうか。
 まずたとえとは、先の例で言えば、カルボナーラがどのように臭いかを伝えるものであります。これは、カルボナーラ自体が作出しているズレが、どのような形のズレかを受け手にも分かるように説明する補助手段であって、そういう意味ではたとえはツッコミの役割を果たしています。
 次に、たとえ自体が生み出すズレがあります。それは、「通常用いないような言葉で説明している」というズレであります。い呂修領磴任靴董⇔鼠が臭いことを説明するのに、ケムラーやハエがといったような料理を形容する言葉として相応しくなさそうな言葉を用いているのが、ズレということになります。ここでは、たとえはボケの役割を果たしています。つまり、たとえとはツッコミとしての要素とボケとしての要素を兼ね備えているということです。後者の要素のみを取り上げて、単なるボケとしてたとえを用いることも可能です。
 このたとえによるズレは、たとえる対象と、たとえに用いる言葉のジャンルが離れていれば離れているほど、大きくなります。もい癲⇔鼠というジャンルと、怪獣あるいは昆虫というジャンルの乖離が大きいからこそ、たとえによってズレが生み出されているのです。ただし、ジャンルが離れているということは、その言葉をその対象のたとえに用いることに気がつきにくいということをも意味するので、両者のつながりを見抜くために技術や経験が必要になってきます。
別の例を挙げてみましょう。ある芸人の背中がほくろまみれで汚かったとします。どのようにたとえましょう。



 はフットボールアワーの後藤さんが「はねるのトびら」においてインパルスの堤下さんの背中を見て言い放ったツッコミであります。赤飯も、プラネタリウムも、人体というジャンルと乖離した言葉であって、これを用いるのがズレになるというのが分かると思います。当然ながら、ジャンルが乖離してさえいればよいというものではなく、たとえる対象とたとえに用いる言葉には類似性がある必要があります。この例では、ほくろまみれの背中も、赤飯も、プラネタリウム、背景とは違う色の点が散りばめられているという点で類似性があるわけです。前述したように、「ジャンルは離れているけれど似ている」言葉を見つけるのは、そんなに容易なことではありません。普段からアンテナを張っておかないと、引き出しを増やすのは難しいでしょう。
 ちなみに,蓮△修里泙鵑泙離張奪灰澆任垢、これはさまぁ〜ずの三村さんが得意とするツッコミで、「たとえという技法が広く蔓延っているにもかかわらず敢えて見たまんまをいう」というメタなズレを提供する手法であります。まあ、そういう選択肢もあり得るという理解でいいです。
 無論、たとえが生み出すズレは数あるズレのひとつに過ぎないので、これまで説明してきた他のズレを組み合わせることができます。最初の例では、は、ウルトラマンに登場した怪獣というマニアックな言葉が、マニアックによるズレを作出しています。い蓮都内のハエが全部寄ってくるという程度の極端な言説によって、ズレが生み出されているとともに、「ハエ」という大便を想起させる言葉遣いは、下ネタというズレをも想起させるものでもあります。これらのズレを複合的に考えて、適切な言葉を選んでいく必要があります。このたとえの素晴らしさは、「極端」の程度も適切なレベルに抑えられているところです。「地球上のハエ全部」や「国内のハエ全部」ではなくて「都内のハエ全部」に押さえつけたのが、松本さんの面目躍如でしょう。
 ダウンタウンの松本さんは、このたとえの技能が突出して優れた芸人だと筆者は考えています。たとえとは、前述の通りジャンルが離れた言葉を持ってくる技法ですが、これは、多少洒落た言い方をすれば、たとえる対象とたとえに用いる言葉の外面上の差異を乗り越えて、両者の本質における類似性を見抜き、これを叙述する試みであって、言語による疎外を乗り越えるという知的営為が必要になってきます。これを瞬時にアドリブでやってのける松本さんの技術は、やはり天性のものでしょう。


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