当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

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漫画表現

A.

 ドラゴンボールとかを見れば分かると思いますが、漫画における髪の毛は、ベタッと塗ってしまっても髪の毛に見えます。
 ところが、同じ毛でも、腋毛や陰毛は、ベタッと塗ってしまうと、毛に見えなくなるのです。バランにしか見えません。
 だから、漫画で腋毛や陰毛をきちんと毛と分かるように描く場合は、もう少し1本1本の毛をきちんと描く必要があります。それは、結構な手間なのです。描かなければならない線の絶対数が増えるのです。
 だから、漫画では、趣味嗜好や主義主張にかかわらず、腋毛や陰毛は省略されている場合が多いのだと思います。


B.

 筆者は、絵が下手です。ヘタなりに、せめてなんだか分からないものは描かないようにしよう、ヘタでもいいから最低でも何を描いているかは分かるようにしようということを意識して、画力を鍛えてきました。といっても、鍛えるためだけに絵を描いていたということはなく、描きたいものを描いているうちに、だんだん画力が上がってきたというだけです。上の絵を見ただけでも異論があるかもしれませんが、これでも上がったのです。少なくとも上の絵も何を描いているかは分かるでしょ。
 ヘタなりに一生懸命考えながら絵を描いてきたせいか、色々と画力については思うところが生じました。
 画力は、デフォルメ力とコピー力に分解することができます。
 デフォルメとは、ここでは通常の意味より広い意味で使っていますが、対象を絵にするに際して、対象が持っている視覚的な情報のうち、絵に再現するものを取捨選択する過程のことを指します。絵は、対象が持っている視覚的な情報を全て再現するわけではありません。分かりやすい例を挙げれば、白黒の絵は、色という情報を捨象しています。カラーの絵でも、写真と比較すれば分かると思いますが、対象が持っている視覚的情報を全て再現できているわけではないでしょう(そもそも絵がそういうものであるという前提に関しては異論があると思いますが、そこは面倒くさいので措いておきます)。
 絵を描くに際しては、紙の上に再現する情報の取捨選択という過程を不可避的に経ています。これを、デフォルメと呼んでいるのです。通常の字義のデフォルメは、対象が持っている特徴の強調という意味でしょうが、それも、強調すべきでない情報を相対的に弱めるという意味では、ここでいう広義のデフォルメの延長線上にあります。ちなみに、実は全ての絵においては、対象が持っている視覚的情報の取捨選択のみならず、絵の上に再現することが決定された情報の誇張や付け足しも行われています。この付け足しの先にあるのが通常の字義の「デフォルメ」なわけです。
 このデフォルメは、うまいことやらないと、何を描いているのかが分からなくなります。どうやればうまくやれるかは、絵を見る人間たちの共通理解にある程度支えられています。絵を見る人が、「これは人だ」「これはリンゴだ」と共通して理解すれば、そのデフォルメはうまくいっているということになるからです。その共通理解には、長い人間と絵の歴史の中で一定の蓄積があり、それがデフォルメの「作法」となっています。画力の高い人は、この作法をある程度自然に身につけていますが、画力の低い人は、これがよく分かっていません。だから、一から勉強していく必要があります。「リンゴは何をどう描けばリンゴに見えるのか」を学んでいく必要があるのです。この作法は、やはり個人差があり、それが画風になっていると思うのですが、ただ単に人に伝える絵を描く場面においては、そういう個人差の以前に共通理解としての作法がやはりあるのです。

例。




 それをちゃんと言語化・体系化して美術の時間に教えることができれば人類の画力がかなりの程度底上げできると思うのですが、そういう体系の存在を筆者は寡聞にして知りません。筆者も、これから絵を学ぶ人のためになればと独学で覚えた作法を必死で集積していますが(上記の頭髪・腋毛・陰毛の話はその一例です)、未だ体系化はできていません。もしかしたら、描く対象が何かによって文字通り千差万別になるので、体系というレベルで抽象化されるようなものはないのかも知れません。それでも、まだ絶望するには早いと思っているので、色々と考えております。本当は、筆者が知らないだけで、もうあるのかも知れません。あるとすれば、それを知らないのは不幸であるし、それを学校でちゃんと教えないのも不幸であります。
 ちなみに画力のもう一つの要素であるコピー力とは、デフォルメを経て再現することが決まった情報を正確に紙の上に再現する能力です。「A点からB点まで直線を引こう」と決めたときに、これを正確に引く技術力と、それを実現するためにはどのような道具が必要で、どのようにやればいいかに関する知識から構成されています。これは、デフォルメ力よりも訓練による向上の余地が大きいものと思っています。例えば、既に(漫画家という他者の)デフォルメを経ている漫画の絵を映し書きする局面では、コピー力のみが問題になります。こういう練習でもコピー力は鍛えることができます。あと、このやり方だとその漫画家個人のデフォルメの作法も学ぶことができるでしょう。言語化して説明できるレベルにはならないにしても、身には付くと思います。ただまあ、一般的なデフォルメの作法は、その漫画家個人が採用している限りで学ぶことができるのみではないでしょうか。このコピー力に関しては、筆者もデフォルメ力よりは大きく向上した自信があります。

C.

 デフォルメによって、絵を描く人は自分が紙の上に再現する情報を選び出すわけですが、再現する情報が多ければ多いほど、(基本的には)対象に近付いていくことになるので、絵もうまく見えます。ただ、再現する情報が多いと、単純に引かなければならない線の絶対量が増えていくので、労力も増します。ここで労力を惜しまずに絵を描ける精神力も、画力の一つです。そういう意味では、画力というのは直感的なセンスみたいなものよりも、より多くの線を描き、対象が持っている情報をより多く再現する「勤勉さ」が大事になってくるのです。


D.

 絵が下手な人のひとつの特徴として、「同じ絵が2回描けない」というのがあります。
 例えば、キャラクターデザインの段階で、以下のようなキャラを考えて絵にしてみたとします。




 絵が下手な人は、このキャラクターの横顔や、違うアングルからの絵を描けないということはよく言われますが、そもそもこの正面を向いた絵をもう1回描くことができないのです。同じ絵を二度と描けないのです。常に一期一会なのです。
 以下が筆者が本気になってもう一度描いてみた「同じ」絵です。



 実際の漫画でこういうことをやられるとキャラの同一性の認識に齟齬を来すレベルだというのがよく分かると思います。
 だから、コピペのハンコ絵の多用という手法を思いついたわけ。

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