当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。


法律学入門 1.法解釈学とは
法律学入門 3.プログラム言語との類似性

趣旨からの解釈

 さて、「趣旨から出発する解釈」についてもう少し詳しく見てみよう。
 以下のようなルールを考える。

豚ルール:豚を食べてはいけない。
問1 このルールの下で、豚の毛を抜いて食べることは許されるか
問2 このルールの下で、豚を食べた肉食動物の肉を食べることは許されるか

 問の答えは、豚ルールの趣旨がいかなるものかによって変わってくる。以下の2通りの趣旨を考えてみる。

趣旨1 豚は神聖な動物であり、その命を奪うことは許されないから食べてはいけない
趣旨2 豚は不浄な動物だから食べてはいけない

 趣旨1の下であれば、問1のように、豚の命を奪わずに食べることができる部位があれば、食べることが許されそうである。もっともこの場合も、豚の生命力を多大に奪うほどに重要な部位であれば、それは豚の命を奪うも同然ということで、許されない場合も出てくるだろう。また問2についても、人間が自ら豚の命を奪ったわけではないのだから、許されそうである。
 他方で趣旨2の下では、毛であろうとなんだろうと不浄なのは変わりはないのだから、問1は許されないことになるだろう。問2についても、豚を食べることによって同じく不浄になった肉食動物の肉については、食べることが禁止されそうである。
 この例からわかるように、趣旨が違えば、問1や問2のような例外的な事例の処理も変わってくる。趣旨は、これほどまでに重要なものである。
 このような趣旨からの解釈によって、ルールの外延は相当程度の弾力性を持って伸び縮みする。趣旨1の下であれば、本来ルールの「豚」という文言に含まれそうな豚の毛も、食べることが許される。ルールの外延が、「典型例」「中心部」として処理されそうな内側に食い込んでくる。このような解釈を縮小解釈と言う。
 他方で趣旨2の下であれば、「豚」という文言に明らかに含まれそうにない肉食動物にまで、ルールの外延が拡大される。この解釈を拡大(拡張)解釈とか、類推解釈などと言う。拡大解釈と類推解釈は本来(特に刑法の世界では)区別されなければならないものなのだが、両者の違いは曖昧でそこまで気にするものでもないので、興味のある方の自学に委ねる。
 では、肝心の趣旨はどのようにして明らかになるのだろうか。趣旨は、基本的には明文化されていない。そのため、法文を見て、類似の規定や相対する規定と比較しながら、自分で考えることになる。ただ、外国法から無思慮に丸パクリしたとか、古い時代から存在する規定であるとかいった理由で、趣旨がよく分からないことがある。この場合は、輸入元となった外国法を研究したり、古い時代の法をさかのぼって参照したりといった活動を通じて、趣旨を明らかにすることになる。法解釈学は、この作業にかなりのリソースを割いているのが現状である。前述の通り、趣旨は法解釈に非常に大きな影響を当たるものだから、法の明文に何らかの形で織り込み、法と共に伝えられる方が合理的であると筆者は考えている。とはいえ現実に趣旨のよく分からない法規定は存在しており、これを明らかにしないまま解釈論を進めていくと議論が泥沼化するため、趣旨を明らかにするという作業は確実に必要なものではある。

世に溢れる解釈問題

 さて、世の中には法律のみならず、解釈の必要なルールが溢れている。
 前述した例もその一つである。すぐに察しがついたと思うが、前記した豚ルールは、宗教における食のルールを参照にして作ったものである。宗教は、各自が様々なルールを作ってこれを信徒などに課しており、このルールについても法律と同様の解釈問題が生じる。
 「なんで宗教の前近代的なルールなんかについて『豚の毛は食べられるのか』みたいな馬鹿馬鹿しい問題を考えなければならないのか」と思う方もいるかもしれない。しかし、現実に宗教が用いたルールが社会生活に入り込んでいる人にとっては、現実に生起する様々な限界事例についての解釈を行うのは必要で不可欠な知的営為である。現にイスラーム世界においては、イスラーム教が設けた様々なルールが現在もそこに生きる人の社会生活を大きく規定しており、その解釈をイスラーム法の法学者が行っている。イスラーム世界においては、法と宗教はほぼ同義なのである。
 逆に言えば、日本の法学者が解釈を行っているような日本の法令も、それが妥当しない人々から見れば、馬鹿馬鹿しい細かい議論に過ぎないのである。法解釈学とは、解釈の対象となる法が全く消え去った瞬間に、途端に意味を失う儚い学問である(今にして思えば、この儚さこそが、筆者と法学があまり合わなかった大きな原因だと考えられる)。このことは、念頭に置いておく必要があると筆者は考える。法解釈学の価値の限界を常に頭の片隅においておけば、他の学問に対してあまり不遜な態度をとることもなくなるだろう。
 とはいえ、解釈の対象となる法が全く消え去るということはあまりない。法が廃止や全面改正された場合であっても、前法の精神を受け継ぐ後法が通常は作られるため、規定の文言が変わっていても旧来の解釈論は後法にも応用できる。例えば、2005年に商法の会社に関する部分は削除され、新たに会社法が制定されたが、両法には内容を共通する規定が数多くあるため、商法時代の解釈論が会社法の下でも生かされている。また、仮に全く消え去った法であっても、解釈論の「趣旨から考える」という知的作業の練習はできる。ただこの練習は、現実の法規定でなくても、前述した豚ルールでもできることである。

 話が逸れたが、宗教以外にも解釈問題はたくさん、世の中に溢れている。
.譽鵐織襯咼妊店でバイト中に、中学校の学生証を見せて「会員証を作ってください」と頼んできた中学生がいた。店主からは、「会員証を作る場合は原則的に免許証を見せてもらうこと」と言われていたが、そのことを言っても「中学生は免許をとれない」と反論された。どうすべきか。
▲汽奪ーで、イエローカードを1枚既にもらっている選手が、一発レッドに相当する悪質なファウルを犯した場合、レッドを出すべきなのか。2枚目のイエローを出しても退場にできるのだから、それでもいいのか。
C欝蛎圓舛了涌店錣魯瀬屮詭鯔という扱いにしていた場合、天和かつ四暗刻はダブル役満かトリプル役満か。
な譴ら「工作に使うから空いたペットボトルがあったらちょうだい」と言われた。今ここに空いたペットボトルがあるが、アメリカで買った変な形のものである。これでもいいのか。

 いずれも現実の世界において尖鋭な解釈問題が生じている。
 ,蓮店主が作った会員証作成契約におけるルールの解釈問題である。契約においては民法という基本法があり、この解釈も法学の一大分野を為している。社会で働いた経験のある方であれば、自身が課されたルールについて前記のような例外事例に一度とならず遭遇したことがあるのではないだろうか。
 ↓は、ゲームにおけるルールの解釈が問題になっている。これも、宗教におけるルールと同じく、当事者や興味のある人以外の人からとってみれば、「馬鹿馬鹿しい、細かい、揚げ足取りの議論」と言われてしまうかもしれないが、当事者にとっては解決の必要が厳然としてあり、ルールである以上法律の解釈に何ら劣る問題ではないというのは前述した通りである。
 い皀襦璽襪任△襦J譴ら子に与えられた命令の解釈が問題になっています。ペットボトルはペットボトルだが、母の命令にいう「ペットボトル」を縮小解釈すべきかということが問題になっている。
 このように、世には解釈問題が溢れている。
 そもそもルールとは、「要件Aを満たした時は効果Bが生じる」という書き方をされているものである。窃盗罪の例であれば、要件Aに当たるのが 崑梢佑痢廰◆嶌睚を」「窃取した」ぁ崋圈廚任△蝓効果Bに当たるのが、「国家が、窃盗を犯した者に対して、『十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金』の範囲で刑罰を科す権利(刑罰権)を得る」(忘れた方はもう一度条文を参照してほしい)というものである。窃盗罪の文言は必ずしも分かりやすくそういう書き方になっているわけではないが、ほとんどすべてのルールは、このような要件と効果に分類して読み替えることができます。
 そして日常生活においても、この要件と効果による物言いは頻繁に登場する。
「スライダーは見送れ」
「学ランを着た奴は通すな」
「3分以上の連続使用はご遠慮ください」
「ここをクリックすると、以下の約款に同意したものとみなされます」
 例を挙げればキリがない。このような物言いが為されれば、常に要件と効果の両方について解釈問題が生じる。
「スライダーとカーブの間ぐらいの球が来たけどどうしよう」
「見送れって言ってるけどファウルで粘るのはいいのかな」
「学ランは学ランでも白い学ランなんだけど」
「5秒の休憩をはさんだから連続使用じゃないだろ」
 解釈問題に直面した場合、まずはルールを作った人に確認するのが普通である。こうすれば、その作成者が解釈を行い、ルールがより完全なものへと進歩する。とはいえこのような確認を行う余裕がない場合もあり、この場合は自身で判断する必要が生じてくる。この際、解釈学の知見に基づいて論理的な判断を行えば、ルールの作成者になぜそのような判断を行ったのか咎められたときに、納得のいく説明をすることができる。まあ、日常的な解釈問題ではまずはルールの作成者(=解釈権限者)に確認をするべきなのだが。


法律学入門 1.法解釈学とは
法律学入門 3.プログラム言語との類似性

Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

開くメニュー

閉じるメニュー

  • アイテム
  • アイテム
  • アイテム
【メニュー編集】

管理人のみ編集できます