お笑い論・トップ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（１）基礎
基礎体系 フリ→ボケ→ツッコミ
先行研究について
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（１）基礎
基礎体系 フリ→ボケ→ツッコミ 
笑いにおいて用いられる手段を時系列順に体系化すれば、フリ→ボケ→ツッコミとなります。
このうち笑いに不可欠なのは、ボケです。ボケがなければ笑いは生じようがありません。フリとツッコミは、いずれもボケを引き立たせるための補助手段に過ぎません。「俺はツッコミのみで笑ったことがある」という方がいるかもしれませんが、それはツッコミの外形をしたボケである可能性が高いです。
ではまずボケとは何かという話になりますが、ボケとは「ズレを作出する行為」です。ズレとは、基準状態からの乖離を指します。「基準状態」については、一言で定義するのが難しいのですが、ある状況において人が通常予想する状態のことです。
例えば、ベタな例ですが、高校の入学式で、挨拶をするということで壇上に上がろうとした校長先生が、登壇中に転んだとしましょう。ここでは「転ばずに粛々と落ち着いてマイクまで向かう」というのが基準状態となります。転ぶというのは、この基準状態からのズレです。
ズレにも程度があります。小さなズレであれば、通常笑いは生じません。ズレの程度の感じ方は人によって違うので適切な例を挙げるのは難しいのですが、例えば校長先生がやたらと瞬きをしているという程度のズレであれば、笑えないという人の方が多いのではないでしょうか。ここには「落ち着いてマイクまで向かう」という基準状態と比較すると、「落ち着いていない」というズレがあるのですが、程度が小さいために笑いにはつながらないのです。
逆に、大きすぎるズレであると、今度は「ひく」という現象が生じます。校長先生がいきなり小便を漏らし始めた、大量の血を吐いて倒れた、などという例では、ひいたり心配になったりはするでしょうが、笑いはしないでしょう。これも個人差があるので、笑える人もいるかとは思います。
ボケによって笑いを起こすには、程度の適切なズレを作出する必要があります。ズレの程度は基準状態との比較によって決まりますが、この基準状態も状況によって千変万化します。詳しくは後述します。なお、どのような程度がズレとして適切なものかというのは文化や個人によって異なります。笑いに対する許容度が高い関西の方が、より程度の大きなズレをも笑いの対象として許容しているという気がします。
さて、ズレには「笑いが生じないような小さいズレ」「適切なズレ」「ひかせてしまうような大きなズレ」の３種類があることが明らかになりましたが、それ以前の問題として、そもそもこれらのズレの存在が受け手（ズレを感得して笑う人のことを本書ではこう呼びます。テレビであれば視聴者で、舞台であればお客さんです）に知覚されていなければ、笑いは生じません。受け手がズレを知覚していない場合としては、�．坤譴隆霑辰箸覆觧�実をそもそも認識していない場合と、�▲坤譴隆霑辰箸覆觧�実を認識してはいるが、ズレがあることに気が付いていない場合が考えられます。
例えば先述の例で、校長先生がスーツなのに革靴ではなくスニーカーを履いていたとしましょう。�，蓮⇔磴┐亳紊蹐諒�の席で校長先生が何を履いているかが見えないような状態のことを言います。�△蓮�校長先生の足元は見えているが、それがズレであると気がついていない状態です。
ここに登場するのがツッコミです。ツッコミは、校長先生に「なんでスニーカーやねん」ということで、�，両�態の人にはズレの基礎となる事実とズレの存在を認識させ、�△両�態の人にはズレの存在を認識させるという役割を担います。すなわちツッコミは時系列的にはボケに後続するもので、ボケによって作出されたズレの認識を助ける技術なのです。
他方でフリ（前フリともいう）は、時系列的にはボケに先立つものです。すなわち、ボケの前に基準状態が何であるかを強調しておくことで、ボケの段になって作出されたズレをより際立たせるという役割を担っています。あるいは、ボケ単独ではズレとしては不十分なので、前もって基準状態を新たに設定してしまうというタイプのフリも考えられます。
先述の「校長先生が転ぶ」という例でフリを設けるのであれば、例えば校長先生の登壇シーンの前に、他の先生や来賓が普通に登壇するシーンを前もって入れておき、問題なく登れるのが普通であるという意識を受け手に植え付けておくといったことが考えられます。このあとに校長先生が転ぶことで、そのことが普通でないということが強調され、ズレが際立ちます。また、そもそもこの例では、入学式であるということや、それが生み出す厳粛な空気それ自体も、フリとしての役割を果たしています。そういった厳かな空気を感じた受け手は、自身が過去に経験してきた入学式の記憶を呼び起こし、「挨拶に立った校長先生は転ばずに粛々と進む」といった基準状態を想定するからです。このように、フリは必ずしも言動のみによって為されるものではなく、舞台や状況の設定そのものがフリとしての役割を果たすことがあります。
このうち笑いに不可欠なのは、ボケです。ボケがなければ笑いは生じようがありません。フリとツッコミは、いずれもボケを引き立たせるための補助手段に過ぎません。「俺はツッコミのみで笑ったことがある」という方がいるかもしれませんが、それはツッコミの外形をしたボケである可能性が高いです。
ではまずボケとは何かという話になりますが、ボケとは「ズレを作出する行為」です。ズレとは、基準状態からの乖離を指します。「基準状態」については、一言で定義するのが難しいのですが、ある状況において人が通常予想する状態のことです。
例えば、ベタな例ですが、高校の入学式で、挨拶をするということで壇上に上がろうとした校長先生が、登壇中に転んだとしましょう。ここでは「転ばずに粛々と落ち着いてマイクまで向かう」というのが基準状態となります。転ぶというのは、この基準状態からのズレです。
ズレにも程度があります。小さなズレであれば、通常笑いは生じません。ズレの程度の感じ方は人によって違うので適切な例を挙げるのは難しいのですが、例えば校長先生がやたらと瞬きをしているという程度のズレであれば、笑えないという人の方が多いのではないでしょうか。ここには「落ち着いてマイクまで向かう」という基準状態と比較すると、「落ち着いていない」というズレがあるのですが、程度が小さいために笑いにはつながらないのです。
逆に、大きすぎるズレであると、今度は「ひく」という現象が生じます。校長先生がいきなり小便を漏らし始めた、大量の血を吐いて倒れた、などという例では、ひいたり心配になったりはするでしょうが、笑いはしないでしょう。これも個人差があるので、笑える人もいるかとは思います。
ボケによって笑いを起こすには、程度の適切なズレを作出する必要があります。ズレの程度は基準状態との比較によって決まりますが、この基準状態も状況によって千変万化します。詳しくは後述します。なお、どのような程度がズレとして適切なものかというのは文化や個人によって異なります。笑いに対する許容度が高い関西の方が、より程度の大きなズレをも笑いの対象として許容しているという気がします。
さて、ズレには「笑いが生じないような小さいズレ」「適切なズレ」「ひかせてしまうような大きなズレ」の３種類があることが明らかになりましたが、それ以前の問題として、そもそもこれらのズレの存在が受け手（ズレを感得して笑う人のことを本書ではこう呼びます。テレビであれば視聴者で、舞台であればお客さんです）に知覚されていなければ、笑いは生じません。受け手がズレを知覚していない場合としては、�．坤譴隆霑辰箸覆觧�実をそもそも認識していない場合と、�▲坤譴隆霑辰箸覆觧�実を認識してはいるが、ズレがあることに気が付いていない場合が考えられます。
例えば先述の例で、校長先生がスーツなのに革靴ではなくスニーカーを履いていたとしましょう。�，蓮⇔磴┐亳紊蹐諒�の席で校長先生が何を履いているかが見えないような状態のことを言います。�△蓮�校長先生の足元は見えているが、それがズレであると気がついていない状態です。
ここに登場するのがツッコミです。ツッコミは、校長先生に「なんでスニーカーやねん」ということで、�，両�態の人にはズレの基礎となる事実とズレの存在を認識させ、�△両�態の人にはズレの存在を認識させるという役割を担います。すなわちツッコミは時系列的にはボケに後続するもので、ボケによって作出されたズレの認識を助ける技術なのです。
他方でフリ（前フリともいう）は、時系列的にはボケに先立つものです。すなわち、ボケの前に基準状態が何であるかを強調しておくことで、ボケの段になって作出されたズレをより際立たせるという役割を担っています。あるいは、ボケ単独ではズレとしては不十分なので、前もって基準状態を新たに設定してしまうというタイプのフリも考えられます。
先述の「校長先生が転ぶ」という例でフリを設けるのであれば、例えば校長先生の登壇シーンの前に、他の先生や来賓が普通に登壇するシーンを前もって入れておき、問題なく登れるのが普通であるという意識を受け手に植え付けておくといったことが考えられます。このあとに校長先生が転ぶことで、そのことが普通でないということが強調され、ズレが際立ちます。また、そもそもこの例では、入学式であるということや、それが生み出す厳粛な空気それ自体も、フリとしての役割を果たしています。そういった厳かな空気を感じた受け手は、自身が過去に経験してきた入学式の記憶を呼び起こし、「挨拶に立った校長先生は転ばずに粛々と進む」といった基準状態を想定するからです。このように、フリは必ずしも言動のみによって為されるものではなく、舞台や状況の設定そのものがフリとしての役割を果たすことがあります。
先行研究について
基礎となる情報はこんなところです。本書は、ツッコミとフリをボケの補助手段と位置付け、ボケを「ズレ」によって説明するものであり、いわばズレによって笑いの全てを説明し尽くそうとする試みだと位置づけることができます。実際、ギャグ・モノマネ・いじり・天丼などの笑いにおいて用いられる技術は、全てこの「ズレ理論」によって説明することができると筆者は考えています。
以下、各項目をより詳細に説明していきますが、その前に「先行研究」のひとつにコメントをしたいと思います。
笑いの理論は数あれど、その中の比較的有名なものに、二代目桂枝雀師匠が唱えたと言われる「緊張と緩和」の理論があります。これは、そのまんま「笑いは緊張が緩和したときに生まれる」という考え方であり、ダウンタウンの松本さんなどもよくテレビで発言しているため、ここで特に取り上げたいと思います。
筆者の理解では、緊張における緩和というのは、ズレの一形態でしかありません。松本さんの発言などを踏まえると、「緊張と緩和」で典型的に想定されているのは、厳粛な入学式で校長先生が転倒する、ヤクザが失敗した三下に向かって凄む中で屁をこくといったような例ですが、これは「緊張した状態で気が弛緩した行為が為される」というズレなのです。すなわち「緊張と緩和」理論は、ズレ理論と対立する考え方ではなく、ズレ理論に全く包摂できる見解なのです。
お笑い論・トップ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（１）基礎
以下、各項目をより詳細に説明していきますが、その前に「先行研究」のひとつにコメントをしたいと思います。
笑いの理論は数あれど、その中の比較的有名なものに、二代目桂枝雀師匠が唱えたと言われる「緊張と緩和」の理論があります。これは、そのまんま「笑いは緊張が緩和したときに生まれる」という考え方であり、ダウンタウンの松本さんなどもよくテレビで発言しているため、ここで特に取り上げたいと思います。
筆者の理解では、緊張における緩和というのは、ズレの一形態でしかありません。松本さんの発言などを踏まえると、「緊張と緩和」で典型的に想定されているのは、厳粛な入学式で校長先生が転倒する、ヤクザが失敗した三下に向かって凄む中で屁をこくといったような例ですが、これは「緊張した状態で気が弛緩した行為が為される」というズレなのです。すなわち「緊張と緩和」理論は、ズレ理論と対立する考え方ではなく、ズレ理論に全く包摂できる見解なのです。
お笑い論・トップ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（１）基礎
最新コメント