当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2016年10月16日に放映された「クイズ☆スター名鑑」初回2時間スペシャルについての原稿はメディアゴンに掲載されましたが、一部編集部から削除されてしまった箇所がありました。その点を若干(というより、大幅に)敷衍したのが本稿です。

 「クイズ☆スター名鑑」の看板コーナーは、「芸能人!検索ワード連想クイズ」です。このコーナーがおもしろいのは、ちゃんとした正解がある状態で、出演者がアドリブで大喜利をしているからです。

 そして、メディアゴンの原稿の方でも書きましたが、これが、人工ボケにおける笑いの一つの完成形だと思っています。もっと分かりやすく言うなれば、人工ボケにおける笑いでは、これ以上におもしろいやり方はないのではないかという考えに筆者が至りつつあるのです。

 この「アドリブ大喜利コント」の他の例として思いつくのは、「はねるのトびら」でやっていた「星野監督」というコントです。これは、星野監督に扮する堤下がツッコミ役になり、選手たち相手にノックの練習を始めるものの、選手役の板倉・梶原・塚地・馬場が代わる代わるボケてばかりで全然練習にならないというコントです。選手役の4人は、コントセットの中に置いてある野球グッズを使ってモノボケ(おそらく、大部分はアドリブ)を繰り出していき、そこにいちいち堤下のパワフルなツッコミが入ります。これも、「きちんとノックを受ける」という正解がある舞台設定において、出演者が次々にアドリブでボケているという意味では「芸能人!検索ワード連想クイズ」と一緒なのです。

 「はねトび」には他にもっとコントらしいコントもたくさんありましたが、筆者が一番笑えて一番好きなコントはこの「星野監督」でした。もっと台本を固めてボケていくタイプのコントは、このアドリブでの大喜利に勝てていなかったのです。現に「星野監督」は、その後も設定を微妙に変えた細かなバリエーションがいくつも作られています。ただ、「堤下がツッコミ役で、最初に「正解」の行動を指示するものの、ボケ役はボケてばかりで全然堤下の思うようにいかない」という基本線は全てのバリエーションで維持されています。

 そして前述の通り、筆者は全ての人工ボケコントはこの「アドリブ大喜利コント」に勝てないのではないかと考えています(あくまで人工ボケの中での話なので、天然ボケであればこのアドリブ大喜利コントを上回る笑いはいくらでも例があります)。だからこそ、コント55号も、明石家さんまも、この手のコントばかりやっていたのではないかとか思うのです。

 さて、この「アドリブ大喜利コント」の基本的な部分をまとめておきましょう。

1.出演者
ツッコミ役にきちんとした実力派を最低1人(2人以上いてもいいが、必須ではない)
ボケ役が最低3人、理想的なのは4〜5人。6人以上だとちょっと多い。

 「芸能人!検索ワード連想クイズ」にはボケ役の回答者が全部で3人×4チームで12人いますが、実質的に大喜利に参加しているのは有吉・藤本・おぎやはぎ+αぐらいなので、4〜5人という理想形に収まっています。
 コント55号でボケ役をやっていたのは二郎さん一人だったので、いくら力があるとは言ってもどうしてもバリエーションに限界がありました。もう少し人数がいた方が色々なタイプのボケが出てくるので、観客の飽きを防止することができると思います。

 ツッコミ役は、欽ちゃんやさんちゃんのように、きちんとした実力を持っていないとダメです。ボケ役のどんなボケも(天然の部分も含めて)見逃さない観察力、それをきちんと言語化して観客にも伝わるようにツッコむ瞬発力が必要です。ボケ役は、最悪誰でもいいのです。次々にボケる瞬発力は欲しいですが、ヘタクソならヘタクソな点をツッコめば笑いは生み出せます。逆に言うと、ツッコミ役には、きちんとしたボケにはきちんとツッコみ、ヘタクソなボケにはヘタクソな点をツッコむという「選球眼」も求められるのです。これは、並大抵のことではありません。
 「芸能人!検索ワード連想クイズ」では淳が、「星野監督」では堤下がツッコミ役を担っていました。堤下ですら、少し物足りない感じがあります。堤下のツッコミは、パワフルで迫真性があるのはいいのですが、語調は強め一本であり、ワードチョイスなどにもあまり多様性がありません。

 アドリブ大喜利コントで一番大事なのは、きちんと実力のあるツッコミ役を用意することなのです。

2.舞台設定
 きちんと「正解」を設定する。

 「IPPONグランプリ」や「笑点」みたいにボケるのが正解であってはダメです。「星野監督」における「きちんとノックを受ける」という行動のように、「それをやったらコントが終わってしまう」という正解の行動を最初に設定して、フリとして観客にも提示します。これがあるからこそ、ボケにおいて「その正解の行動をとっていない」というズレが際立つのです。

 基本的にはこれだけです。台詞とかは細かく考える必要はありません。あとは、演者のアドリブに任せます。
 これだけで一番おもしろいコントができるのだから、台本を考える立場だと遣る瀬無くなってしまうでしょう。筆者は、このアドリブ大喜利コントが結局一番おもしろいのではないかと気付いてから、コントの台本を考えるのがバカらしくなってしまいました。
 上記の通り、演者にはツッコミとボケを合わせて最低4人が必要です。だから、2人や3人でコントをやっているグループは、それだけでもう「一番おもしろいコント」はできないということになってしまいます。その結論はあまりに絶望的だと思うので、筆者は日夜「反例」がないかと考えていますし、ネタ番組を色々見て、2人や3人でもできる「アドリブ大喜利コントよりおもしろいコント」がないかと探し続けていますが、今のところ出会えていません。それが、逆に「結局一番おもしろいコントはアドリブ大喜利コント」という仮説への確信を強くしてしまっています(前述の通り、あくまで人工ボケの中の話なので、天然ボケはまた別です)。

 父にこの仮説をぶつけてみたら、「俺はアドリブ大喜利コントには飽きている」という趣旨の返答が返ってきました。まあ、コント55号やさんまさんと仕事をしてきた人なので、散々アドリブ大喜利コントを見せられているからこその返答かもしれません。ただこの父の発言を踏まえれば、父が飽きるほど笑いの世界でアドリブ大喜利コントが多用されているということであって、ということは結局それが一番おもしろいという結論にほかならないのかもしれません。客を笑わせることができれば、演者や放送作家といった「作り手」が飽きているかどうかはどうでもいいことです。いくら自分たちが飽きていようと、客がそれを望むのであればやらなきゃならないのがプロってもんでしょう。

 筆者はまだこの仮説を完全には認めたくないので、前述の通り反例探しは続けますが、もう屈服は時間の問題です。どうしましょう。

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