当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2016年4月1日に放映された「爆笑問題の検索ちゃん 芸人ちゃんネタ祭りスペシャル!」を見た。当初見る予定はなかったが、爆笑問題もネタをやるということだったので、見た。
 筆者は、「検索ちゃん」の通常放送回を見たことがないので、それを踏まえた感想は書けない。とはいえ、「複数の芸人を集めてネタをやってもらう」という今回のようなスペシャルは、通常放送回云々とは関係なく単純なネタ番組として見ることができるだろうから、あまり通常放送回を見たことがあるかどうかは関係ないだろう。

 肝腎のネタ番組としての出来であるが、普通である。
 基本的には芸人たちが自ら考えたネタの垂れ流し番組であって、スタッフが番組をおもしろくするためにそれ以上の努力をした形跡があまり見られない。ネタ後に芸人たちとMCの爆笑問題とが絡むシーンはあるので、このシーンすらないENGEIグランドスラムよりはいくらかマシではある。マシではあるが、ネタ後のトークは、爆笑問題の横にいる小池栄子が話題をフって芸人がそれに答えるという内容であって、台本の存在を強く感じさせる予定調和的なものでしかない。「笑わず嫌い王決定戦」みたいに、もっと尺をとって欲しいし、後ろに控えている爆笑問題以外の芸人たちももっとトークに絡んできてほしい。今回の放送では、中川家の礼二が後ろから茶々を入れるシーンが2度ほどあるだけだった。これは、礼二みたいな実力と度胸のある芸人だからできたことである。
 小池栄子も、手カンペを持ちながら話題をフってはダメである。それだと「事前にトーク内容は打ち合わせがしてあるんだな」と視聴者が感づいてしまうので、そういうものを持たずにもっと自然な感じで話題をフった方がいい。小池ならできると思っているからこそ言っていることである。


以下、各ネタの寸評である。
1.トレンディエンジェル
 うん。まあ、うん。いや、なんというか……、うん。うん。

 ハゲ絡み以外のボケの割合が増えてきているので、それは非常によろしい。
 あとは、まだまだボケを一つずつ重ねていくだけの「足し算の漫才」「ぶつ切り漫才」なので、それを解消していく試みが必要である。特にボケの一つ一つがダジャレ的でしょうもないものが多いトレンディエンジェルには、強く求められる部分であると思う。
 今回この「解消の試み」として唯一入っていたのが、前半のくだりで触れた田崎真也が後半にも再登場する部分である。こういうのを、もっと増やしてほしい。

2.オードリー
 春日の無軌道なボケに若林が乗っかるシーンが何度もあったが、2人で同じことをやられても背筋が寒くなるだけだったのでやめた方がいいと思う。あと、今回の春日のボケはオノマトペを使用するものが多かったが、裏を返せばワンパターンだったということなので、もっと変化が欲しい。

 根本的な問題として、ネタ中に提供されるズレが「春日が変」という一本だという点は変わっていない。何度も言っているが、だから「オードリーの漫才は一種類しかない」のである。若林が春日に乗っかったのはそれを解消する試みだったのかもしれない。試みとしては買うが、奏功はしていなかったので、再考を求める。

3.バカリズム
 「いろは歌が濁音を使っているのは妥協だ」と文句をつけ、自分で新しいいろは歌を作るというネタ。
 筆者も投稿ネタとして自作のいろは歌を作ってみたことはあるので、作るとなると非常に大変だというのは分かる。ただ「濁音を使うなよ」と文句をつけておきながら「ゐ」や「ゑ」の使い方は文法的には間違っていたし、「つ」の代わりに「っ」を使っていたりと妥協している部分があったので、筆者には説得力がなかった。スタジオの客は特に気にせずに笑っていたので、細かい美意識の部分でしかないだろうが、他の芸人はネタ後のトークでもっとツッコんでやって良かったのではないだろうか。

 それと、バカリズム自作のいろは歌に(おそらくバカリズムが描いている)イラストを付けていたが、その内容にも少し注文を付けたい。
 相当細かいので、ネタを見た人じゃないと分からないだろうが、ネタを見た人にだけ伝わればよい。

◎1本目
・「専務と猫」のイラストの左側にスペースがあるので、ロケクルーを描いてほしい。
・「WHY!?」のイラストは、テレビを見ている人のリアクションだと分かるようなイラストにした方がいいのではないだろうか。1つ前の「専務と猫」のイラストをそのまま小さくしてテレビの中におさめ、そのテレビを見ている人を後ろから描く、というようなアングルである。

◎3本目
・「ええ セコムもひくわ」のイラストは、せっかくそこまでで変な家を紹介してきたのだから、その家の全景を描いて、それを見ているセコムの人のイラストにした方が良かったのではないだろうか。「ええ」だけでセコムの人のアップを出して、「セコムもひくわ」のときに家の全景を出すという形でもいい。
・空き巣も1枚目に登場した以降出てこないので、もっと登場シーンを増やしていいと思う。

 なんというか、全体的に描くべきものの量を節約して手を抜いている印象を受けたので、そこをもうちょっと改善してほしいということである。いろは歌を作る段階で力尽きたのかもしれないが、そこはプロ意識で乗り越えてほしい。

4.NON STYLE
 これもどちらかというとボケを一つずつ重ねただけの足し算の漫才気味で、いつもNON STYLEの漫才にある伏線みたいなのがなかった。テンポが良いのと「刑事ネタ」という統一的なテーマがあるのが救い。

5.東京03
 いつもの東京03のコントのように、少し長めにフリを作って、それを突如崩すというネタである。
 今回のネタは、「おっさんのサラリーマンが3人寄り集まって部下の愚痴を言い合ってい」るというのがフリのシーンである。おっさん達は、部下に説教すると何かにつけて「いや違うんですよ」とか「それは分かっていますよ」などと口答えをされるとこぼす。これは、「彼らであれば人から怒られても口答えをせずに素直に聞く」という基準状態を設定するためのフリである。
 その後彼らが計画していた旅行の移動手段が確保できていないことが発覚し、その役目を担っていたおっさんの一人(角田)が他の二人から詰問される。この時に角田が「いや違うんですよ」と口答えをする。ここで最初に設定した基準状態からのズレが生じ、これが笑いを呼び起こすことになる。

 全体的には構成が非常にしっかりとしているとともに、ありそうな話でもあるため、いい意味で役者のコントみたいである。展開が見えても笑えてしまうのは、実際に似たような場面が現実の生活でいくらでも出てくるからだろう。それを見つける観察眼も流石である。
 ただ崩しの後のボケはずっと一本調子であるため、飽きてしまうのも確かである。もう少し変化が入れられればもっと伸びると思うのだが。

6.ヒロシ×東貴博×土田晃之
 この番組のために組まれたスペシャルユニットらしい。
 内容は、ヒロシの「ヒロシです…」というネタをこの3人が順々に言っていくというものである。
 筆者は、ヒロシのネタはおもしろいと思っている。それは、一言ネタそれ自体のクオリティもさることながら、きちんと悲壮感漂う自虐の演技ができているからである。東と土田はそれが今一つ足りなかったので、もっと練習した方がいい。

7.アンジャッシュ
 非常にアンジャッシュらしいコント。
 お父さんがアメリカ人という設定が後で生きてくる伏線の張り方などは、流石である。

8.ナイツ
 見たことあるネタ。
 ナイツの漫才も、足し算の漫才でしかないのだが、ボケの一つ一つが筆者の好みに合うので、見てはいられる。
 最後にドラマのシリアスな演技を再現するくだりがあったが、塙がカミカミだったので、あそこはもうちょっと何とかした方がいい。

9.友近
 音楽に合わせて踊ったり動いたりしながら料理を作っていくネタ。その音楽のPVを見ている感じにもなる。
 何でか知らんが筆者にはハマらないので、ハマらないとだけ言っておく。

10.中川家
 この人たちはこれでいいだろう。
 なんかどの漫才を見てもいつも同じことをやっているような気がするが、それでも見ていられるのはクオリティが堂に入っているからだろう。アドリブを入れてもかっちりとした台本がある部分と変わらない感じでしゃべれているのは、その証左である。

11.爆笑問題
 さて、改めてこの2人のネタを見たら言いたいことがたくさん出てきたので、何とか整理しようと思う。

 爆笑問題の漫才の核は、太田の毒のあるボケである。話題にされるのは、主に時事ネタである。
 漫才の構成としては、まず田中が時事ネタについて紹介するフリのトークを行い、それがひと段落したところで太田がボケる。それに対して田中がすぐさまツッコむ。この1セットを、ひたすら繰り返して積み上げていく形で漫才は進んでいく。そのため、田中はツッコミの後にすぐ次の時事ネタについてのフリのトークを行うことになる。
 この1セットと1セットの間の相互の関係は希薄であり、話題にする時事ネタに対して太田が毒を吐いて、田中がツッコむことでフォローを入れる、というのを複数の時事ネタについてひたすらやっていくだけである。

 典型的な「足し算の漫才」「ぶつ切り漫才」なのである。

 この漫才がウケるための最低条件は、まずツッコミに迫真性があることである。ツッコミが本心でボケのことをおかしいと思っているように(客に)見えないと、漫才が上滑りしてしまう。ナイツの土屋・サンドウィッチマンの伊達など、足し算の漫才でも売れている漫才師のツッコミはみな本心から本気でツッコんでいるように見える。この点、田中のツッコミは問題ない。本心から太田の発言をおかしいと感じてツッコミを入れているように見える。本当にボケの発言をおかしいと思っているか、そうではないとしたら本気でツッコむ演技ができているかのどちらかである。

 逆に言うと、爆笑問題の漫才における強みはそこだけである。田中のツッコミに迫真性があるという点だけなのである。それはナイツやサンドウィッチマンも持っている強みなので、特に着目すべき部分ではない。田中は演技力があるようにも見えないので、別に本心から太田のことをおかしな人だと思っているだけだろう。その2人が出逢えたのは、運が良かったというだけの話である。

 これを改善するにはどうするか。
 一つは、ボケそれ自体のクオリティをもっと上げていくという方向がある。ボケに関してはどうしても個人の好みが大きい部分があるので、それ自体を云々してもあまり実のある議論にならない。なのであまり踏み込みたくはないのだが、爆笑問題に関しては一つだけ言えることがある。
 すなわち、爆笑問題のボケの強みは、先述の通り「毒」であるが、テレビでこれを磨くにはかなり手前の位置で限界にぶち当たってしまうということである。毒のある笑い、誰かを傷つける度合いの強い笑いをやろうと思ったら、インターネットには到底勝てない。テレビでインターネットレベルに毒のある笑いをやったら、すぐさま色々な方面からクレームが入って封殺されてしまうだろう。つまり、ボケのクオリティを磨くというのはこれ以上は難しいのである。

 となると、他の方法をとるしかない。
 そのうちの一つが、何度も述べている通り伏線を張るとか、ボケの間に相互の関連性を仕込むなどといった台本の「練り」の作業を入れることである。今回のネタで見られた例だと、トレンディエンジェルやアンジャッシュのように前半で触れた話題を時間差をつけたうえでもう一度出すというのは伏線の一例である。同じボケをもう一回やるという「天丼」も伏線の一種だろう。爆笑問題の漫才には、基本的にこういうのが一切ない。あっちで出た時事ネタを叩いて、今度はこっちで出た時事ネタを叩いてと言うのをひたすら繰り返すという意味では、モグラ叩きのような漫才だとも言える。

 更にもう一つのやり方として、テンポを上げるというものがある。爆笑問題の漫才は、田中のフリのトークが長いので、テンポが非常に悪くなっている。田中がストレートにツッコんだ後に違う時事ネタに移るためのトークをするため、ぶつ切り感が強くなっているのである。同じ足し算の漫才でも、トレンディエンジェルやナイツのように細かくボケを入れながらテンポよくやっていけば、もう少しぶつ切り感は減るし、笑いの絶対量も多くなるはずである。それをやるためには、NON STYLEの今回の漫才のように全体を通して統一的なテーマを設定するのも一つの手である。「時事ネタ」というのは、政治から社会からスポーツからニュースで取り上げられるようなあらゆる話題を含んでくるため、統一性があるようで全然ないテーマである。もっとテーマを狭く絞った方が、ある話題から別の話題への移動もスムーズにできるようになるため、ぶつ切り感も減るだろう。
 タカアンドトシの「欧米か!」のようにツッコミの台詞を工夫してもいい。「欧米か!」というツッコミが入ると、タカはすぐさま次の欧米チックなボケに移ることができるため、テンポを崩さない。田中のツッコミは概してストレートで見たまんまをそのまま言っているため、次の話題に移るたびにいちいちフリのトークを入れる必要があって、テンポを崩しているのである。

 ここに書いたことができないなら、漫才という形でやってはダメである。フリートークのような感じでやらないといけない。今回の爆笑問題はネタの際にMC時のカジュアルな衣装からわざわざビシッとしたスーツに着替えていたが、それではお客さんが「これから漫才でおもしろい話が聞ける」と考えてハードルを上げてしまう。
 にもかかわらず、爆笑問題の漫才はフリートークレベルのクオリティしかないのである。あれなら、最初から衣装を変えずにフリートークの形でやった方がマシなのである。

 爆笑問題カーボーイという2人がやっているラジオ番組のウェブサイトには、「彼らの漫才のプロトタイプとも言えるフリートーク」という記述がある。筆者は、「漫才もこのプロトタイプのままなんでないですか」ということを言っているのである。

 まあ、ずっとこうだから、多分ずっとこうなんだろう。

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