対談 鳥山明・堀井雄二・森下孝三・鳥嶋和彦

鳥嶋: 鳥山さんの活動がマンガから始まってアニメーション、コンピューターゲームと多岐にわたるということで、それぞれのかかわり方の中で彼の絵やキャラクターがどのように受け取られ、どういうところに特質があるのか、そのあたりをお聞きしたいと思います。

森下: 他の作品にくらべても、キャラの一つ一つにすべて存在感があると感じますね。「Dr.スランプ」のキャラにしても、「ドラゴンボール」のそれにしても、たとえ1場面しか出なくてもすごく魅力がある。役者さんもその作品に思い入れちゃったり・・・。

鳥嶋: キャラクター論というのを除いたとしても、ビジュアルとして非常に区別がある、パッと見たときに違うよね。

鳥山: 僕としてはちょっとピンとこないですね。僕程度の区別なら他の作家さんでもちゃんと個々のキャラを持っているんじゃないかと思うんですけど。

鳥嶋: 例えば新しいキャラが出てくるときに、頭の中で考えてから絵として定着するまでの作業というのは、具体的にどういうふうになるの?

鳥山: もちろん最初は敵なら敵でこんな悪いやつでこんなことを考えていて・・・というのから絵には移すんですけど、それほど深く考えないです。でも、やっぱり、一応ほかとは違う特色を持たせようとはしますけどね。気をつけているのは画面全体を含めての白黒のバランスですね。だからぼくのキャラってどこかにかならず黒い部分をいれるようにしてるんです。

鳥嶋: それは背景のなかでパッと目に入りやすいから?

鳥山: そうです。

鳥嶋: 原作からアニメにするときに苦労することなどはありますか。

森下: アニメというのは基本的に映画ですから、すばらしいアクションの絵があれば、そのアクションまでどうやって持っていけるかが問題なんです。鳥山さんの絵は、雑誌で見ても動いているような絵ですから、それを動かすというのは非常に難しいんです。それ以上に動かす。がからそのためには、ためが必要なんです。ギリギリまで動かない。

鳥嶋: 動かすために止めるわけですか。自分で描いたシーンをTVで見てどう?

鳥山: あっ!って思いますよ。盛り上げ方とか絶対マンガじゃ出来ないですものね。

鳥嶋: 筋斗雲の飛ばし方をアニメを見て変えたっていってたよね。

鳥山: ええ、ありました。

鳥嶋: 逆にまったく動かないという前提でつくられている「ドラゴンクエスト」の場合はどう?そのあたりのところで鳥山さんが入ったというのは、ものすごくその後のゲームの流れを変えたよね。

堀井: とにかくモンスターは動かないという設定だったから、動かなくて「おっ!」というような絵を出さなくちゃならない。ある程度プロに頼まなきゃと思っていました。

鳥山: RPGとかいわれても、全然僕はやったことないですからわからないでしょう。始めはやりづらかったですね。

鳥嶋: マンガとは逆にキャラ特性がないわけだから?

鳥山: そう、大体どういうふうに画面に出てくるのかとかも・・・。II以降はもうどんな感じかわかってますから楽でしたけど。ただ、わりとモンスターを描いてて面白いですから。

鳥嶋: やった結果で得たことってある?マンガにフィードバックするような。

鳥山: それは多いですよ。ドラゴンボールなんかでもストーリー全体にかかわってくるような影響を受けましたね。

堀井: 鳥山さんが描くモンスターが成功だったと思うのは、襲ってくるという動きがあって、なおかつ愛きょうがあったというのが大きいところだね。

鳥山: 愛きょうはあるかもしれませんね。やっぱり子供のときに見ていたディズニーとかの影響があるのかも・・・。憎めない部分があるとは思うんです。ディフォルメは昔から好きで、これなんかもアメリカのアニメーションの影響だと思いますよ。とにかく最初に見た「101匹わんちゃん大行進」の印象が強烈でしたから。本を買ってもらって毎日模写してました。

鳥嶋: 犬を?

鳥山: いや、人も。うまいと思いましたもん。リアルだけど、なにかディフォルメがしてあるような感じがすごくしたから。子どもながらにショックでした。

森下: それはいくつぐらいの時ですか?

鳥山: 小学校1、2年かな。といっても外で遊ぶほうが好きでしたけどね(笑)。その後、手塚治虫さんが面白いなと思った。リアルに描くばかりが能じゃないなと思いましてね。こういう思いがけない描きかたもあるんだなって。

鳥嶋: 鳥山さんは資料というのをあまり持たない人でしょう。それにしては結構動物は出てくるしメカは出てくるし。

鳥山: 動物図鑑が好きで毎日見てましたしね。今でもその図鑑はのこってるけど、ぼろぼろですよ。完璧にどこになにがあるか把握するくらい好きでしたね。動物園にもしょっちゅう行ってたぐらい動物が好きだったんですよ。

鳥嶋: それだけ立体的に見ているから、当然資料なんか必要ないわけか。モンスターなんかがあまり怪物怪物しないのもそのあたりなのかしら。

鳥山: あるんじゃないですかね。メカなんかに関しても。

森下: ですから、鳥山ワールドという感じがしますね。遊園地というか。無尽蔵にキャラが出てきて、その中でメカも動物もひとつの人格を持っているような気がしますね。やっぱり遊園地ですよ。

鳥嶋: 絵だけを独立して話すのは難しいだろうけど、楽しく描くというのが基本みたいね。

鳥山: 絵に関してはあまり気づかれないかもしれないですが、意識して変えているんですけど、わかります?全体のタッチをカクカクッという感じに変えてきているんですが。その方がよりスピード感がでやすいですよ。

鳥嶋: なるほど。

鳥山: いつまでも同じことをやっているのは嫌いなほうですから、そういう意味でどんどんタッチなんかも変えていきたいですね。

鳥嶋: その辺が飽きないコツかな?

鳥山: 今後の課題は女体でしょうね、やっぱり(爆笑)。永遠のテーマですよ。うまく描けないですもん(笑)。

「鳥山明 THE WORLD」(1990年1月15日発行) より


森下孝三 「ドラゴンボールZ」のプロデューサー
鳥嶋和彦 週間少年ジャンプの編集長。鳥山明の元担当編集者
(いずれも当時の役職)
2007年08月09日(木) 00:27:16 Modified by mamafufu7




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