ティペットは思った。

ティペットは思った。

たしかに、研究の成果があがったいま、
全世界に知れ渡ることにはなるだろう、と
ティペットは思った。
二年におよぶ超人的な研究をつづけてきて、
「パーク」劇場公開まであますところあと一年。
もちろん、この二年間、
スピルバーグの請け合った条件が
すべて守られたわけではない。
ああしろこうしろといってくる者たちはいたし、
大きな圧力が加えられたことは何度もある。
おまけに、研究内容そのものも変化した。
恐竜が鳥にかなり近いことがわかってくるにつれ、
爬虫類のパペットからの路線変更をせまられたのだ。
鳥のパペットともなれば話はまるっきりちがう。
はるかにむずかしい。
しかも最後の一年間、ティペットの主な仕事は、
ミューレンのチームと
コンピュータ制御のCGI恐竜を演出することだった。
なぜおれに演出などさせるのか。
そんなことのためにここへきたのではない。
とはいえ、研究は成功した。
だれも成就できるとは思ってもいなかったことを――
すくなくともこんな短期間でできるとは
思ってもいなかったことを、
ティペットはなしとげたのだ。
となれば、
自分の専門知識と努力に照らしてみて、
続編の撮影方法に対し、
ある程度の発言権があると思うのは当然ではないか。
なのに、彼の影響力は日増しに衰えていくばかりだ。
恐竜はよみがえった。
恐竜を生みだす手順はルーティーンワークとして確立されている。
VFXテクノロジーは成熟した。
だからスティーヴンスピルバーグにはもう、
フィルティペットはいらないのだ。
2006年05月17日(水) 23:52:10 Modified by moe_channel1




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