571 :実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー:2014/10/16(木) 23:25:25.28 0
過去ログ読んでたらアシュアカの波が来てつい
短文ですが数年ぶりにスレをお借りします(アシュアカは初めてです)

URL: www1.axfc.net/u/3343598
タイトル: 散華爽籟
パス: mugen
ネタ元&設定等: スレネタ/独自設定含
カップリング(登場キャラ):アッシュ×アカツキ
性描写の有無: 全年齢
内容注意: アカツキの友人が(捏造、存在だけ)話に出てきます

関係ないけどUNIEでアカツキの身長がアッシュより3cm低いことが判明してて萌えがマッハ



「アレ。 まだアカツキさん起きてないのかな」

何度か呼び鈴を鳴らした後、アッシュはつまらなさそうに昇りきらない太陽の下で欠伸をした。
訪問する予定だったことは当人には知らせた筈だが、忘れているのか。少し天然気質な彼とはいえまさか。
左手に握られた袋―中は朝食の材料が五人分入っている―を見遣り、仮に中の住人が不在であればどうしたものか、と彼は暫く考え込む。
無断で立ち入ることに少し罪悪感を感じながらも門を潜り、当人の無事を知る意味もある、と誰にともなく言い訳しながら鍵のかかっていない扉を開けると、ギィ、と扉の軋む音が響いた。

時刻は午前六時頃、今日は大会等の予定こそ無いが、事前に訪問することは伝えてあるので生真面目な彼ならば起きている筈。
外出しているとも考えづらい、と言うのがアッシュの推論だった。
しかし家の中にアカツキの気配は無い。
寝室、居間や他の部屋をもう一度見回るべきか考えていると、彼の視界に開かれたままの手帖が映り込む。

「…人の名前みたいだけど、読めないや」

万年筆で流れるように書かれたそれを読み取ることは、彼には困難であった。
達筆すぎる文字列から辛うじて解読できた部分を察するに、書き込まれた内容は今日の予定なのだろう。
しかし日付の下に連なる名が自身のもので無かったことが、アッシュの頭を混乱させる。

そうこうしていると、再びギィ、と音を立てて、立てつけの悪い扉が開く。

「…もう来ていたのか。 待たせて申し訳ない」

本来の主の声にアッシュはびくりと体をはねさせるが、当人はさしてそれを気に留めない様子で(あるいは気付いていないのか)羽織っていたインバネスコートを脱ぐ。
鍵もかけないのは不用心すぎじゃないか、そもそも人が来るのに朝から一体何処へ。言いたいことは山ほどあったのだが。

「君が来るから明け三つには帰る予定だったのだがな。 朝食にしよう、まだ食べていないだろう?」

平然とした顔で横を通り過ぎ台所へ向かうアカツキに、脱力したアッシュ。
その瞬間に、彼はふと菊の香を感じた。


―――――


「何度見てもキミの家はフルキヨキニホン、って感じだよネ」

ぐるりと居間を見回し、卓袱台に五人分の朝食をずらりと並べながら、アッシュは大会の合間にテレビで聞いたフレーズをそのまま呟く。
そうか、とだけ返し正座するアカツキ。冷淡なわけでなく単に口数が少ないことを知っている為、さしてアッシュも気にしていない。
飯櫃から茶碗に白米を装い、アカツキへ差し出す。
自分の分を装うアッシュを腹を鳴らしながら眺めるアカツキは、まるで餌を『お預け』されている小動物の様だ。
流石に口にはしないものの、アッシュはクスクスと笑った。それには気付いたのか、アカツキはアッシュを見て首を傾げる。

「いただきます」

両手を合わせ、箸を手に取る。
アカツキの見よう見まねではあるが元々手先の器用だったのが功を奏したのか、生活形式が西洋慣れしたアッシュも箸の使い方に不自由はしていない。
わざと下手に使って手取り足取り教えてもらうのも良かったカナ、器用なのも困りものだね。彼は一人ごちながら味噌汁を啜る。
対面した相手を見れば、箸を動かす手を止めることが無い。いつもの事ながら見ていて気持ちが良いくらいの食べ方だ。
ご飯、次はもっと炊こう。そう思いながら漬物に箸を伸ばすと、アカツキの喉からごくり、と食べ物を飲み込む大きい音が聞こえた。

「そういえばサ、朝から何処に行ってたの? まさか散歩って柄でも無いでしょ、キミ」

アッシュがふと思い出したように問いかけると、アカツキの手が止まる。
それに気付いたアッシュは質問を取り消そうとした。だが、アカツキの唇が言葉を紡ぐ方が早かった。

「墓参りだ」

ドキリ。心臓を射抜かれたような思いがした。
聞いては不味かったかもしれない。そう後悔すれど、今更話を打ち切って別の話を始めるには遅すぎた。
珍しく動揺するが、それを隠そうとしながらアッシュは当たり障りのない言葉を選ぶ。

「…誰の、」
「今日が命日でな、戦時に亡くなった知己だ」

増して言葉に詰まるアッシュ。それを知ってか知らずか、アカツキはまた箸を動かし始める。
その割には、平然としているじゃないか―その言葉さえ喉から出すことができず、彼はただ息を飲んだ。
アカツキの顔には、深い悲しみも見て取れない。当然のことのように語るのみである。
だからこそどう反応すべきかもわからず、妙な居心地の悪さになってアッシュを包む。
暫くの沈黙。二人の間にはただ、箸と器との擦れる音と、時計の秒針の音だけが響いた。

「俺も技官の身とはいえ、あの大戦中なら…いつ彼のように死んでも、おかしくはなかった。
 今思えば皮肉なことだが、俺はあの作戦に『生かされた』のだと、時折思う」

窓から冷たい風が二人の間に流れ込む。
アッシュの鼻を、同じ菊の香が、先ほどよりもはっきりと掠めた。

「彼は護国の為死んだのだ、悲しみこそしない。 …いや、悲しむことは許されない。 だが、」

何かを話そうと開いたアッシュの口から、声にならない息だけが漏れる。
アカツキが今にもあちら側に行ってしまうような気さえ覚える。

「少しだけ、残された瓦全の身を、苦しく思う時がある」

ぽつりぽつりと、言葉を一つ一つ選ぶようにアカツキは呟いていく。

元から彼はあまり感情を表に出さない、それは今も同じだった。
無感情という訳では無く、ストイックなのだ。必要のない感情を表に出すことを好まない。
そのことを、アッシュは何度も話し彼に惹かれていく内に理解していた。
しかし今の彼の声は何処か、寂しげで、苦しそうで、今にも泣きだしてしまいそうだ―そう感じたのが早かったか、体が動いたのが早かったか。

アッシュは無意識に立ち上がり、アカツキの近くに寄り添って彼を抱きしめる。


 彼がこの世界に訪れ自分と出会うまでに関して、アッシュはおおよその事を他人伝いに聞いたのみである。
 アカツキは見た目こそ青年であれ本来は、まるでアッシュからすれば歴史の一ページのような、大戦時を生きた人間だ。
 冬眠制御で当時の姿のまま現代に蘇った彼は、何十年も前の任務遂行の為に動いた。

 その話を概略的に聞いた時から、アッシュは疑問を抱いていた。
 もし彼が任務を遂行完了したなら、彼は一人で未知なる世界をどう生きるのだろう、と。
 彼には、任務遂行以外の、その先の未来は、用意されていたのだろうか、と。


ふわり、風に黒髪が揺れる。
アカツキは一瞬アッシュの行動に目を丸くしたが、暫くすると目を瞑り、自嘲しながらアッシュの肩にゆっくりと顔を埋める。

「俺だけが年を取らず、何十年も生き延びてしまった…こうして苦しむのは、その贖罪かもしれんな」

アッシュは何回目かの菊の香と、近付いてから初めて感じた線香の匂いを感じた。
きっと長い時間、友の墓地で一人で考え込んでいたに違いない、こうして自分の身を責めながら。
自然とアカツキを抱きしめる腕に力が籠る。
黒髪に隠れ表情こそ見えないものの、背中に回された震える腕がアッシュの服を掴む。
それは、彼の感情を証明するには十分すぎた。


―――――


「先ほどは感傷に浸ってしまってすまなかった…俺らしくないな」
「いやいや、気にしないでよ。 誰だって、そういう時はあるはずだし…キミはいつも固すぎなくらいだし」

空になった飯櫃や食器を洗いながら、二人は言葉を交わす。
台所に男二人が並べば流石に狭いが、相手に仕事が任せきりになるのを二人とも良しとしない性分である。
電光服から彼が感電しないかと肝を冷やしながら、アッシュはアカツキに皿を手渡した。
アッシュから自分一人で済まそうか、と提案しても、趣味でない、とアカツキが折れず、結局毎度二人での作業になってしまうのだ。
アッシュが洗った皿をアカツキが拭き棚に戻すことが、二人の間の妥協策である。
まァ二人で居る時間が長いのは悪くないよネ―思いはすれど、言ったところでアカツキがアッシュの感情(あるいは欲)を理解するとは思えない為、言葉を飲み込む。

「…キミは、ボクが死んだら悲しんでくれる?」

黙々と作業を進める最中に何気なくアッシュは尋ねた後、あまり深く考えないで、と付け足すと、数秒考えてからアカツキは開口した。

「流石に、君よりは先に俺の肉体が力尽きると思うが」
「そうじゃなくてサ」

落胆めいた溜め息を一度挟む。
この人は素で言ってるから悲しくなっちゃうね、求めてるのはもっと、違う答えなんだけど。
初めて顔を合わせた時から数えれば何度目かもわからない苦悩をアッシュは苦笑で誤魔化しながら、アカツキの少し赤くなった瞳を見つめ言葉を続ける。

「もしかしたら、ボクだって急に消えちゃうかもしれないよ。 キミの前からか、世界からか、わかんないケド」

目を合わせたままアカツキは再び考え込む。
例えばの話なんだから深く考えないでよ、とアッシュが念を押す。
暫く経った後に気恥ずかしくなったのかアッシュの方から目を逸らしたものの、アカツキは暫く手を止めたまま、アッシュを見つめている。
濡れたままの皿の重なる音が何回か台所に響いた頃、自分の中で納得のできる回答が見つかったのか、ようやくアカツキは口を開いた。

「…涙を流すかどうかはわからんが」

泣かないんだ。
表情にこそ出さず冗談めかして笑うものの、アッシュは内心残念がり、視線を手元に落として最後になった皿の水を軽く切る。
キミって結構冷たい所があるよね、ちょっと寂しいんだけど。
笑い顔を繕ったまま、そんな文句の一つでも言おうかと彼が考えた瞬間、アカツキは言葉を続ける。

「だが、今こうして考えるだけで、胸が苦しい。 …だから、その未来が来なければと、思う」

―ドキリ、と心臓がはねた気がした。

無自覚なんだよな、このヒト。期待しちゃうからやめてほしいよネ、本当さ。
もう一度アッシュは溜め息を吐く。
不幸せ故ではない溜め息。
その意味も、アカツキは理解できていないようだが。

「む、何か俺は不味い事を言ったか?」
「ん…その答えで、許してあげる」

アカツキの不意を突くように、アッシュはアカツキに唇を重ねる。触れるだけのキス。
あからさまに動揺し皿を落としかけたアカツキを見て、唇を離したアッシュはおかしくてたまらないと言うように笑う。
弄ばれ笑われることは気に食わないが―アカツキは唇を革手袋で拭い文句の一つでも言おうとすると、
笑って見せるアッシュの頬が、微かに赤く染まっていることに気付いた。

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