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ゆうびときらず


 僕が隣のおばさんの家に呼ばれたのは、十分前。
 適当に準備をして徒歩約二十秒。
 ぴんぽーん。
「あら、いらっしゃい。助かるわ」
 そう言っておばさんは僕を歓迎する。
 用件はこう――”あの子、また引き篭もっちゃって”。
 別に学校にはちゃんと行っているし、外から見れば問題はないように見える。
 けど、雪花菜(きらず)は日常生活によくストレスが溜まるらしく、そんな時は部屋に篭る。
 彼女の部屋の前まで来て、いつもの掛札。

 どぅ のっと でぃすたーぶ

 平仮名でお茶目に書かれているけど、一日中この状態がザラでは体が心配だ。
「じゃあ私は買い物に出かけてくるから、あとはよろしく」
 昔から家族ぐるみで付き合いがあるからと言っても、おばさんも調子良いなあ。
 確かに、頼まれるのも分からないでもない。
 とん、とん。
「夕尾(ゆうび)だけど、雪花菜ちゃん?」
 …とた、とた、とた。
 がちゃり。
「……ぁ」
 やや小柄な雪花菜が、僕の目に映った。
 長い髪をツインテールにしている彼女は、いつ見ても可愛いと思う。
 そう、こういう状態の時も、僕とだけはコンタクトをしてくれる。
「――っ」
 無言のまま、抱き着いてきた。
 僕も抱き締め返すと、その体は温かくてふかふかしている。
「おはよう」
 言ってみれば、僕は彼女の精神安定剤みたいなもの…かな?

 手を引かれて部屋の中に入った僕。
 雪花菜が何をしていたのか、分かった。テレビゲームだ。
 それもどうやら、今日は彼女の大好きなレースゲームを一緒にしたい――ということらしい。
 彼女は、こういう時に用意して、今ではすっかりお馴染みになった僕用の座布団を敷く。
 ぽんぽん、と合図をして僕を待つ姿が、健気で愛くるしい。
 ありがたく座らせてもらうと、すぐに彼女も隣に座ってコントローラーを握らせてくる。
 嬉しそうな顔。一緒に遊びたかったんだと、言わなくても滲み出るくらいに。
「……じゃ」
 そして、一転して画面に釘づけになる視線。
 ボタンを押す。設定を決めて、使う車種を決めて、コースを決める。

 なう ろーでぃんぐ

 すぐにレーススタート。
 雪花菜は普段からこれをやっている。なのでそこそこ速い。
 ただ僕もたまに付き合ってあげている訳で、完全な初心者って訳じゃない。
「――!」
 白熱する展開。横目でちらっと彼女を見ると、真剣そのものなのが少しおかしい。
 彼女は意外とよくいるタイプだけど、加速の時は身を乗り出す。カーブの時は自分も一緒に体を傾ける。
 ――のめり込んでいる、って言うのかな。他のゲームでもそう。
 やっぱり、見ているとおかしい。そして、見ていて飽きない。
「あー…負けちゃった」
 僅差で競り勝つと、僕の方を見て、零れそうなほどの笑顔。
 彼女は意外と負けず嫌いで、時には適度に手を抜いてあげることが要求される。
 本気になって対抗は大人気ない…けど、したこともあって、そこでムキになる姿は可愛かった。
 でも、彼女のストレスになっては元も子もない。
 それに、年下の子をいじめるような感覚で、ちょっと気が引ける。
「……えへ」
 にっこりしてもう一度、と人差し指を立てる彼女。
 僕と彼女は同い年。けど、彼女の方が少し、子どもっぽい。

 しばらく遊んで、休憩。
 一時間置きに休む。その辺は几帳面なのか、雪花菜は徹底している。
「今日は、ご飯は食べた?」
「……」
 途端に俯いて、首を横に振る彼女。
「ダメだよ。ほら、おばさんがお弁当作ってくれてるから、食べないと」
 そう言って、来た時に手渡された弁当箱を掌に。
 すると彼女は、しゅんとしつつも頷いてくれた。僕は頭を撫でてあげる。
「――ぅ」
 表情はまたすぐに明るくなった。それどころか、気持ち良さそうに目を薄く閉じて、声を漏らす。

 らんち たいむ

 そんな可愛いフォントで描かれた弁当箱を開けると、中にはとても彩りが良く、美味しそうなおかずが並んでいた。
 おばさんこんなに料理が上手なのに、普段あまり食べないなんて勿体無いなあ……。
 とん、とん。
「何?」
「……」
 雪花菜は必要な時以外は、言葉を紡がない。特に、僕と一緒の時は。
 何故なら、一つ一つ口にしなくたって、分かり合えるから。
 元々、彼女は体はそれほど強くなくて大人しい子。
 それで篭りがちで、話し相手もいなくて…そんな要因が重なって、無口になってしまった。
「…一緒に食べてほしいの?」
 こくり。
 でも、一緒にいる時間が長いと、こういうことも自然と感じ取れるようになってくる。
 小さなケース入りのお箸を手にとって、まずは彼女が一口。
 ごくん。
 そして僕に、箸を渡してくる。
 交互のやりとりは、そのまま何度か続く。これもいつものこと。

 食事が終わると、雪花菜は少し元気になったのか、部屋を出てお茶を用意してくれた。
 ただし、僕も手伝ったけど。
 こく、こく。
 部屋で二人、お茶を飲む。
 ゆっくりと、流れる時間まで遅くなるくらい、少しずつ飲んでいく彼女。
 どうしてこんなに可愛いんだろう――って思いながら見つめていると、異変。
「! …けほっ、げほ」
「大丈夫?」
 むせた彼女に寄り添うと、心配いらない――そんな表情で笑ってくれた。
 安心して視線を外すと、テーブルの上に写真立てと、添えられた青色の造花。

 ふぉーげっと みー のっと

 勿忘草。
 直訳”私を忘れないで”。
 僕と雪花菜、二人で写った写真には、小さくその言葉が書かれてある。
「…」
 彼女を、時には放り出したくなることだってある。
 頼られすぎていて、逆に恐いとも思う。僕がもしいなくなったら……。
「――っ!」
 僕の余所見が過ぎたのか、彼女は不機嫌そうに、腕を回してきた。
「雪花菜?」
「……」
 温もりが少し、熱っぽいように感じ始めて、彼女の顔も少しだけ、赤い。
 求めに応じて、そのまま抱き合う。
「……ふぁ」
 吐息と一緒に、体が寄りかかってくる。僕に、全て委ねるようにして。
 包み込んで、支える。頬擦りされると、少しくすぐったい。
 大丈夫。心配しなくても、きっと上手くいく。僕も、彼女も――。
「ただいまー」

 びくっ!
 そんな反応と共に、慌てて僕の体から離れる彼女。
 でも、どんなに平静を装っても、顔が赤いよ? 僕もだけど。
 
 僕は隅に縮こまる雪花菜に近づいて、手を差し出す。
「一緒に、居間に出よう?」
「……」
 こくり。
 手を繋いで、立ち上がる。さあ、ドアを開けて。
 するとちょうど、買い物バッグをいっぱいにしたおばさんが、そこにいた。
「あら、夕尾くん…それに、雪花菜?」
「……」
 おばさんは、申し訳無さそうにしている彼女を見て、安心したように笑った。
「ありがとう」
 そして僕と手を握ったままの彼女に、近づいて――。
「夕尾くんと、仲良くね」
 …こくり。

 からめる ぷでぃんぐ
 
「美味しい」
 おばさんと雪花菜が作ってくれた、手作りプリン。
 僕も少し手伝ったけど、これは癖になりそう。レシピメモしようかな。
 るるるるる、るるるるる。
「私が出るわ」
 おばさんは席を立って、棚の電話を取る。
「……?」
 話が終わる。何やら、楽しそうな雰囲気だった。
 がちゃん。
「――ごめんなさい、安永さんからのお誘いだわ。少し出かけるわね」
 こく、と雪花菜が頷くと、おばさんはすぐに準備を始める。
 プリンを食べ終えた時には、軽いお洒落が出来上がっていた。
「行ってきます。夕尾くん、良かったらもう少しだけ…雪花菜の相手をしてあげてくれないかな?」
 …本当に、調子良いなあ。でも、了解です。
「……」
 そして再び、僕と雪花菜は家に二人きりになる。
 不意に彼女の方に目が行く。彼女も、僕を見ていた。
 笑った。こちらも思わず、顔が綻ぶ。
「……ゆー、び?」
 何に気づいたのか、ぱた、と椅子から下りると、彼女は僕の元に。
 手には、新しいプリンを持って。
「……はい」
 自分のスプーンで表面を掬うと、僕に食べさせてくれた。
 おかわりは、二人で分けっこということ。

 しかし最後の一口に、暗黙の駆け引き。
 僕は雪花菜にあげたいし、彼女は僕に食べさせたそうにしている。
「……!」
 何かを思いついたように、彼女は嬉しそうにそれを、自分で食べた。
 ホッとした僕――そのタイミングを見計らっていたのだろうか。体を寄せて、頬に触れてくる手。
 顎をそっと下げられたかと思うと、彼女は目を閉じて、キスしてきた。
「ちゅ……」
 甘く絡みついてくる舌。凄く積極的なアピールに、思わず腕が、その体をしっかりと抱き締める。
 切ないくらいに気持ちが昂って、熱はキスをより扇情的にする。
「ぷ、はぁ……」

 すうぃーと きす

 そっと顔を離して、どきどきしながら余韻に浸る。雪花菜もまた、同じように。
 可愛い顔が、僕を見上げてきた。

「美味しかったよ、雪花菜」
 そう言うと、彼女はご機嫌な笑顔を見せて、僕の胸に埋まる。
 高鳴る心臓の音が、感情から心の奥底まで、全てを彼女に筒抜けにしてしまいそう。
 でも、凄く温かくてふかふかで気持ち良くて、愛しくて切なくて、苦しいのに止まらない。
 ただ優しくその体を抱いて、無心に抱いて、時間を止めたい。
 そうしたいだけ。
「……ありがとう」
 彼女が胸の中で、そう言った。消え入るような声だけど、優しかった。
 僕と会う日、どんな些細な用事でも必ずこう言う彼女。
「そんなこと、言わなくて良いよ」
 当たり前だから。本当はずっと、傍にいてやりたいくらいなのに。
 そしてまた、顔を覗かせてきた彼女の唇を、奪う。
 僕は雪花菜が好き。どうしようもないほどに。
 可愛い人を守りたい、という気持ちを、こうやって理解していく。
「……は、ぅ」
 キスを終えた僕らは、部屋に戻る。
 そしてベッドに二人で、横になる。限りある時間の中で、幸せに包まれて。
 向き合って、丸くなって、互いに指を絡ませる。額をくっつけて、目を閉じる。
『……』
 無言のまま儀式のように、心を落ち着けて意識を休める。
 安らかに、彼女だけを感じられるように。

 そのまま少しお昼寝をして、起きた。
 少しだけ早く目が覚めた僕を、追うように意識を取り戻す雪花菜。
「元気に、なった?」
 横になったまま、こく、と彼女は頷いた。
 体を起こして、もう一度抱き締める。
「……ふ」
 その意識が、僕の頭の中に流れ込んでくるようだ。
 ”ここにいてくれて、うれしい”――と。

 …… あい らぶ ゆー

 その後、二人でもう一度ゲームをして、少し遅くなりそうなおばさんの為に、家事と夕飯作りを手伝った。
 ほとんど雪花菜が自発的にやったんだけど、おばさんはとても喜んでくれた。
 一緒に食事をして、それから僕は、やっと任を解かれる。
「……ばいばい」
「うん。また明日」
 名残惜しそうな顔をされると、ちょっと辛い。家は隣なんだけどね。
 そして人前だとべたべた出来ないのは、僕も彼女も同じ。だから、思う。
 次、また呼ばれるのはいつだろう? 勿論、気兼ねなく来て良いとは言われている。
 でも、彼女が元気のない今日みたいな日でもないと、二人で気兼ねなく、触れ合えない気もする。
 看病してもらう優しさが、たまに恋しくなるような、そんな感覚と少し似ている?
「ただいま」
 家に戻り、簡単に親と話をして、部屋に戻る。
 とりあえず、元気になって良かった――部屋に置いたままにしていた携帯に、そう打ち込んでメールする。
 すぐに返事が返ってきた。
 ”だいすき”。
 
 僕たちはストイックな恋愛をしていると、仲の良い友達に言われる。
 体も、たまに欲を払えずに熱くなることがある。男と女だから、仕方ないかもしれない。
 けれど、雪花菜は特別。恋人であり、家族のような存在でもある。
 関係に波が出来る時もあるけど、とても大事な人であることに変わりはない。
 だから、今現在の制約ある中で、精一杯愛し合いたい。徳に背かず、慎ましい仲で良い。
 それでも見出せる幸せに満足出来るほど、彼女が好きだから。
 ”僕も大好きだよ”。
 短い中に、思いを込めて。
2011年08月23日(火) 10:04:25 Modified by ID:uSfNTvF4uw




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