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雨と傘と

雨の日の出来事だ。
秋から冬への移り変わりで段々冷え込んできたところでの雨でその日は一気に真冬並みの寒さになった。
放課後の部活が終わり、廊下へ出ると外の暗さに驚く。
まだそんなに遅い時間ではないのに冬という時期と分厚い雨雲のせいでもうすっかり暗い。
玄関まで辿り着くと少女が1人、ぽつんと立っていた。
空を見上げ憂鬱そうに溜息をついている。
少女を眺めながら上履きから靴へと履き替えているとその音に反応して少女が振り返る。
見覚えのある顔だった。
クラスメートの滝本沙希さんだ。尤も会話どころか挨拶も交わさぬ間柄だけれども。
別に嫌い合ってる訳ではないのでこうやって顔を合わせれば会話も挨拶もするけど。
「滝本さん。まだ残ってたんだ?」
「…………あ、安藤くん」
僕の名前を呼ぶのに間があったのは彼女が無口だからだ。
決して僕の名前を思い出すのに時間がかかったなどという寂しい理由ではない……よね?
……信じてるよ、滝本さん。
「……保健室で寝てたら、こんな時間になってて」
彼女の言葉でそういえば午後の授業はいなかったな。と今更ながら思い出す。
ていうか起こしてあげなよ、高橋先生。保険医の顔を思いながら心の中で突っ込みを入れる。
「そっか。それじゃまた明日」
「…………うん」
……ん? ちょっと待て、僕。
傘を手に取り、自然と帰ろうするがおかしな事に気付く。
なんで彼女は玄関で立っているんだろうか。
「ねぇ滝本さん」
僕が振り返ると滝本さんは小首を傾げる。
「えーと……今、迎えが来るの待ってるの?」
「…………」
ぷるぷると首を横に振る。
「……もしかして、傘ない?」
「…………」
こくりと頷く。
今日は朝から雨が降っていたので忘れたという事はないはずだ。だとすると……。
「……盗られた?」
「…………」
少し躊躇いながら、こくり。
やっぱり……。
盗られたというより間違えて持っていかれたというほうが正しいのかもしれない。さっきも思ったように雨は朝から降っていたんだし。
まぁどっちにしろ滝本さんの傘がないという事実は変わらない。

傘立てを見るとまだ数本、傘が残っている。まだ残っている生徒がいるのかそれとも置き傘なのか。
うん、後者だという事にしよう。
「置き傘あるみたいだから借りていったらどうかな?」
僕に向けられていた視線に少しだけ非難の色が混じった。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「…………ごめんなさい」
「…………」
「……人の物を勝手に使ったら駄目だよね」
滝本さんはこくこくと頷く。
いや、満足そうに頷いてるけどさ。問題は解決してないんだよ?
とはいえそれが駄目なら残る方法はもう1つしかない。
僕は溜息が出そうになるのを我慢して、右手に掴んでいるものを彼女に差し出す。
「これ使って」
「…………」
「これなら他人のじゃないし、勝手にでもないからいいよね?」
「…………」
そこで首を横に振らないでくれると凄く嬉しかったな、僕。
「僕、折りたたみ傘も持ってるから大丈夫」
このままだと押し問答になりそうだったので無理矢理、滝本さんに傘を押し付ける。
彼女が傘を返してくる前に、僕は忘れ物をしたからと言ってその場から逃げ出した。
勿論忘れ物なんて嘘なので階段まで来たら脚を止め、座りこむ。
携帯電話を弄り、時間を潰す。5分ほど経った所で携帯電話をポケットに直して、再度玄関に向かう。
外に視線を向けると変わらず雨が降っており、やむ気配は無い。
どれだけ急いで帰っても家につく頃にはびしょ濡れになっているだろう。
帰ったらすぐにお風呂に入って身体を温めなければ、と予定を立てる。
もし風邪なんか引いて、明日学校を休む事になりでもしたら滝本さんが自分のせいだと責任を感じてしまうかもしれない。
だから、明日だけは意地でも休めない。

玄関に到着し、靴箱の陰から恐る恐る覗き込む。
そこには少女が1人、ぽつんと立っていた。
……見覚えのある顔と言うかさっきも見た顔と言うか…………なにやってるの、滝本さん?
彼女は空を見ていた先程とは違い靴箱の方を――僕が来る方向を見ていた。あ、目が合った。
僕はしぶしぶ彼女に近付く。
「……帰らないの? 滝本さん」
「…………折り畳み傘は?」
僕の質問スルーですか。しかも折り畳み傘持ってないって当然ばれてるよね、これは。
「体調崩してるんなら早く帰った方が良いよ?」
「…………傘は?」
…………意外と我が強いよ、この娘。
話を逸らそうとしても無理みたいなので正直に答える。
「…………ありません」
「……そう、なんだ」
「……そうなんです」
なんだろう。とても悪い事をした気分なんだけど。僕、嘘はついたけど悪い事はしてないよね?
「…………」
滝本さんが無言で僕の傘を差し出す。
返す。という事なんだろうけど受け取れない。体調を崩している女の子を雨に濡らして帰すわけにはいかない。
どうしようかなぁ……。結局押し問答しなくちゃいけないのかな……?
けど、この様子じゃ聞き耳もたなそうだし……ていうか大体、僕は口下手な方で説得とかは苦手なんだ。
だから、さっき傘を押し付けて逃げたのに……居るんだもんなぁ、滝本さん。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「…………………………うー」
どう説得するか考えて、それでも浮かばないので無言で向き合っていると痺れを切らしたのか滝本さんが唸った。
自分でも無意識な唸りだったのだろう。滝本さんは傘を持つ手とは逆の手で口元を押さえ、頬は薄っすらと染まっている。
……凄い可愛らしい反応だなぁ。と思いながら僕は笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
そんな僕を見て滝本さんは眼つきを鋭くし、差し出す傘を押し付けてくる。
それすらも僕は微笑ましく感じてしまう。
彼女を早く帰す方法を考えていたはずなのにもう少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。
だからだと思う。こんな案を口にしたのは。
普段なら思い付いても提案なんかしない。
だって恥ずかしくて仕方ないから。
「滝本さんの家ってどこ? 送っていくよ」

☆☆

『相合傘』
僕の提案にすぐその言葉を連想したのだろう、滝本さんは無言で拒絶した。
顔を真っ赤にして首を振る姿が可愛いやら、完璧に拒絶されて落ち込むやらの葛藤はさておき、
『滝本さんが1人で傘を使う』と『僕達2人で傘を使う』の二択を迫り、最終的に彼女は僕の提案を呑んだ
(僕が1人で傘を使うという選択肢を突っ込まれなくて助かった)。
そんな紆余曲折を果たし、僕達はようやく帰路につく。
とはいえ僕達は恋人どころか友人とも言えないクラスメートなので微妙な距離が開いている。
滝本さんは恥ずかしいのか俯いて歩いている。
まぁ僕としては彼女が俯いているのは……僕の方を見ないのは助かる。
会話は無く、沈黙が重く圧し掛かる。
滝本さんは無口だし、僕もさっき言った通り口下手だ。
さっきまで話せていたのは『滝本さんに傘を使ってもらう』というテーマがあったからだ。
しかし、自分から誘っておいてこれは少々情けない。
話題を探していると先に沈黙を破ったのは滝本さんだった。
「安藤くんは……優しいね」
「そうかな? そんな事ないと思うけど」
滝本さんは首を振り、僕の否定を更に否定する。
ムキになって否定する気はないけれど、ここで頷いてしまうと会話が終わってしまいそうな気がした。
せっかく滝本さんの方から話を振ってくれたのにそれはなんだか勿体無い。
だからやっぱり僕もまた否定する。
否定材料は学校の玄関に置いてあった傘。
この時の僕の心情を語るのは自分で自分を貶める話になってしまうが、まぁ一度非難されてる事だし会話を続ける事を優先する。
「あれさ、学校に残ってる生徒の傘かもしれないって思ってたんだ。思ってたのに勝手に置き傘って事にして……。
 滝本さんが止めてくれなかったら……使ってたかもしれない」
滝本さんがまた首を横に振る。これはどんな意味の否定なんだろう。
少しだけ間を開けながらも彼女はその答えをくれる。
「……安藤くんは使わない……と思う」
「……そんな事ないよ」
「安藤くんがああ言ってくれたのは……私の為だもん」
滝本さんは小さく、しかしはっきりと話す。
「……私が濡れないように安藤くんは言ってくれたんだよね?」
「…………まぁ……うん」
「安藤くんは……自分の傘がなかったら……濡れて帰るんじゃないのかな?」
「……買い被りだよ」
否定はしてみたけれど反論は出てこない。
滝本さんに傘を貸すと決めた時、濡れて帰る覚悟もまた決めていた。
そういえば自分が置いてある傘を使うという発想はなかったな。と思い返す。

「……実は、ね」
滝本さんを言葉を続ける。
無口な彼女がまだ続けてくれる。
「玄関にいた時……帰ってる人は他にもいたの」
それはそうだろう。
他の部活動だって当然あるし、この時間帯でも下校する生徒はぼちぼちいるはずだ。
「けど……声をかけてくれたのは安藤くんだけだった」
「……そうなんだ」
「うん。……すごく嬉しかった」
滝本さんは俯いていた顔を上げ、僕の顔を見つめて微笑んだ。
「…………ありがとう」
優しくて綺麗な微笑み。
僕は心臓が跳ね上がるのを感じ、思わず顔を背けてしまう。
ちらりと彼女の方を見てみるとまだ彼女は顔を上げ、僕の顔を見ていた。
……いや、視線の先は僕の顔じゃなく肩に移動して……まずい。
やがて彼女は僕から視線を外し、反対側を向く。
自分の肩を見て、そして手でも触れている。多分、濡れてないのを確認しているんだろうなぁ……。
僕の肩は濡れている。
当然だ。傘は1つしかなくて、その傘は小さくはないけれどそんなに大きいものでもない。そして僕達の間には微妙な距離がある。
僕としてはびしょ濡れになる覚悟すら決めていたので、このくらいですむならむしろ僥倖で滝本さんも気にしないでくれて良い。
けど、同時に気にするのが彼女らしいとも思う。だからこそ気付かないでほしかったわけだけど。
そんな事を考えていたら、いつの間にか制服の肘の辺りをくいっと軽く引っ張られていた。
視線を向けると滝本さんが僕の制服を指先だけで摘まんでいた。そして僕達の微妙な距離を詰めてくる。
腕を組んでいるかのように密着してきて、この距離は……まるで恋人だ。
滝本さんは俯いて、更に顔を背けているが耳が赤く染まっているのが見える。これだと顔はきっと真っ赤になっているだろう。
僕だってきっと……絶対、赤くなっている。
「…………」
「…………」
僕も滝本さんも無言だ。
何を話せば良いのか分からないし、話そうと思っても多分上手く話せないと思う。
結局、滝本さんの家に着くまで僕達はお互い無言のままだった。
別れ際にもう一度お礼を言われたが彼女は顔を背けていたのでどんな顔をしているかは分からなかった。
もし、彼女が背けなかったら僕が背けていただろうから、どっちにしろ分からなかったと思う。

☆☆

1人での帰路は傘を広々使える代わりにどこか寒々しかった。
どうしてかなんて理由は分かりきっている。
僕は理由の彼女を思い浮かべる。
すぐに浮かんだのは笑顔で、1人でまた赤面する。
動揺する心を落ち着かせると次に思い浮かんだのは腕に残る小さな感触。
顔を真っ赤にしてそれでも身体を寄せてきた。
僕が濡れないように恥ずかしいだろうにそれでも勇気を出してくれて。
それを思うと心が温かくなってくる。
滝本さんは僕を優しいと言ってくれたけれど、彼女こそ本当に優しい娘だと思う。
優しくて意外と頑固な女の子。
無口だけど実は表情豊か。
もっと……もっと色々な彼女を見てみたい。見せて……くれるだろうか。
それは分からないけれど、見る事が出来たら僕はとても嬉しく思うんだろう。
だから少しだけ、頑張ってみよう。
まずは明日、僕から挨拶をしてみよう。
見知らぬクラスメートをやめ、友達になろう。


作者 7-103(6-372氏)
2009年01月06日(火) 08:52:52 Modified by ID:qJtd+iEylw




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