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黒い犬は吠えない

アパートの敷地の前で、レトリーバー系の中大型犬が死んでいた。
否、まだ死んではいない。息はしている。
ただ、車に撥ねられたのだろう、右後足があらぬ方向に折れ曲がっている。
加えて、腹にあばらが浮き出るほどに痩せ細っていた。
首輪はしているが、汚れきったなりを見るに、恐らくは捨てられて日が浅い元飼い犬だろう。
さて、どうしたものだろうか。
俺は買い物袋を提げたまま、玄関の前で途方にくれていた。
折角の休日、まず買い物を済ませ、その後はゆっくり茶でも飲みながら読書と決め込もう。
優雅なプランは、その初端から水を差されてしまった。
最善の対処法は、無視し放置すること。
だが、そうすると帰りもこの犬と対面する羽目になる。
いつまでも軒先に犬の死体が転がっている状態は、流石に好ましくない。
他のアパートの住民にも迷惑だろう。
次善は保健所への連絡。
手を汚すのはプロの方々に任せる。
どの道じきに衰弱して死ぬのは目に見えているのだ。遅いか早いかの違い。
ならば、一思いに殺してやる方がましだ。
問題は、電話をする俺まで罪悪感を感じる羽目になること。
毎日豚や牛を食べている身分で"かわいそう"などと思うのは矛盾しているだろうが、目の前にいるかいないかは大きな違いだ。
人間だって、地球の裏側で何人非業の死を遂げても、関わりがなければ痛みは感じない。
だが、この犬は、確かに俺の目の前で生きている。
今さら見なかったことには出来ない。
最悪の策はこの場でラクにしてやることだろうか。ハンマーか何かで。
俺は溜息を吐いて膝をつくと、死に掛けの犬をそっと抱え上げた。
それは軽いが、温かかった。
「……動物病院ってどこにあるんだ?」


「何でこんなことになったんだか」
半日後、俺の部屋で毛布に包まれすやすやと眠る黒い犬を前に、俺は頭を抱えていた。
その右足には包帯と固定ギプス。
獣医は彼女、どうやら雌らしい、の怪我を処置し、世話の見方を教えてはくれたが、里親までは紹介してくれなかった。
首輪の電子タグは壊れており、飼い主の所在は不明。
一応それらしい迷い犬を探しては貰えるようだが、故意に捨てられた可能性は高く、望み薄らしい。
幸か不幸か、俺の住むアパートはペット可である。
兎に角、飼い主が見つかるまでは俺が面倒を見るしかない。
ホームページを利用して里親募集でもしてみようかとも思ったが、ネットに繋いではいるもののメーラーの立ち上げすら覚束ないアナログ人間にはいささか難易度が高い。
取り合えず、里親探しは後回しだ。
今日はこいつの世話やらペット用品の用意やらで疲れてしまった。
明日は仕事がある。早く寝てしまおう。
俺は眠る黒犬に毛布を掛け直すと、電灯を消した。


頬を撫でる奇妙な感触に目を覚ます。
目を開けると俺の眼前で、黒い獣が大口を開けていた。
(食われる!?)
慌てて身を起こし、部屋の隅まで一足で跳び退く。
そのケダモノは俺の奇行を不思議そうな目で眺めていた。
意識が覚醒してくるにつれ、昨日の顛末を段々と思い出していく。
「ああ、確か犬を飼う羽目になったんだな……」
目覚まし時計を見ると、タイマーが鳴る丁度二分前を差していた。
「怪我は大丈夫か?」
相変わらず彼女は後ろ足を引きずっている。
俺は溜息を吐き、犬を抱えて台所に向かうと、買ったばかりの餌を皿に盛ってやった。
前に皿を置くが、彼女は動こうとしない。
「食欲が無いのか?」
それを"食って良い"の合図と受け取ったのか、犬は漸く餌を食べ始めた。
彼女が食べている間に洗面所で洗顔を済ませると、部屋で着替える。
台所に戻る頃には皿の中は綺麗になっていた。
ふと、放置しておいたペット用簡易トイレを見る。
驚くべき事に、きちんと用が足してあった。
本来は外で飼うことの方が多い犬種の筈だが、躾が良かったのだろうか。
「……慣れてるんだな。俺としては非常に助かるが」
頭を撫でてやると、犬は僅かに尾を振る。
この分だと留守にしても、暫くは大丈夫だろう。
俺はコートに袖を通し、革靴を履くとノブに手をかける。
「じゃあ、行って来る」
口慣れない言葉に違和感を感じながら、ドアを閉めた。


仕事は楽しいかと問われれば、俺は素直に頷けない。
楽しいものではなく、辛いことは多い。
でも、やりがいはある。
元々技術職が性に合ってはいたし、功績が認められれば嬉しくはあった。
だから、と言うわけでもないが、仕事は真面目にやっている。
進んで残業もこなしている。
仕事に打ち込んでいる間は、煩わしいプライベートな人間関係を忘れられた。
だが、今現在部屋にいる懸念事項は忘れたからといって存在しなくなる訳ではなく、今日は仕事を早めに切り上げ帰宅することにする。
午後7時、いつもよりずっと早い時間に俺は自宅の鍵を開いた。
「ただいま」
返事を期待しているわけではないが、あの犬がよたよたと出迎えてくれる場面を想像してはいた。
だが、電灯のスイッチを入れても、台所には誰もいない。
部屋に上がり、個室とユニットバスを覗いてみるが、誰もいない。
クローゼットやたんすを開け放つが、やはり誰もいない。
俺は外に飛び出すと、隣近所で足を引きずった黒い犬を見なかったか訊いてまわった。
向かいの主婦が昼ごろ姿を見たと言うだけで、どこに向かったかは見当もつかない。
それから深夜まで探し回ったが、どこにもいなかった。
あの犬は、もう居ない。
彼女は去った。


不思議なことが一つあった。
あれから各部屋のドアを調べてみたのだが、どれもきちんと施錠されていたのだ。
玄関のドアも、俺が開けるまで鍵がかかっていたのは確かだ。
完全な密室。
あの犬はどうやって逃げ出したのだろうか。
後一つ、下駄箱の上に置いてあったはずの部屋の鍵が無くなっていた。
まるであの犬が鍵を持って玄関のドアを開け、わざわざ施錠して出て行ったみたいだった。
馬鹿馬鹿しい。
鍵は無意識にどこか別の場所に置いて忘れてしまったのだ。


それから数日、いつも通りの日々が流れた。
朝目を覚まし、出勤して、夜遅く帰宅する。
その繰り返し。
保健所にはそれらしい犬を見たら保護して貰うよう連絡したが、それだけ。
もう、自分からは探しに行っていない。
だが、真新しいペット用品は捨てられなかった。
どこかであの犬が帰って来てくれることを期待していた。


その金曜日は、雨が降っていた。
いつもの様に夜遅くアパートにたどり着いた俺は、自宅を前にして固まった。
見知らぬ少女が俺の部屋の前に立っていた。
ミドルティーンくらいの、黒い地味なワンピースを着たショートカットの少女。
何故か濡れ鼠の上、裸足だった。そして右の素足には包帯。
異様で、関わりたくない存在だ。
少女は俺の存在に気付くと、そっと右手を差し出した。
握られた何かを、思わず受け取ってしまう。
それは、先日なくしたものと良く似た鍵だった。
まさかと思いながら、ドアの鍵穴に差し込み捻ると、開錠される。
「失くしたんだと思ってたよ、ありがとう。……これをどこで?」
この鍵を持っていると言うことは、あの犬の場所を知っているかもしれない。
少女は何がしか言おうとして口を開くが、すぐにうな垂れて口を閉じてしまう。
「犬」
少女の肩がぴくりと震える。
「黒い犬で、足に怪我をしてるんだ。知っているのか」
頷く少女。肯定。
「あの犬の飼い主なのか?」
今度は頭を振る。
「どこにいるのか知ってるのか。いまあいつはどこに――――」
思わず少女の肩を掴んで、詰め寄っていた。
困惑している少女の顔を見て、手を離す。
「……教えてくれないか」
だが少女は、何か言おうとしては、それを旨く言葉に出来ず黙り込んでしまう。
雨音に紛れるか細い声。
俺は気長に待った。
何十秒、何分そこに立ち尽くしていただろうか。
少女が目を閉じ、両手を握る。
ふっと雨音が止んだ。
突然、彼女の体が青白い炎に包まれた。
「――――ッ!?」
俺は慌てて飛び退く。
人体発火と言う超常現象を前にして、完全に動転していた。
なんとか消火器を手繰り寄せ、どう操作するか手間取っている内に、いつの間にか炎は止んでいる。
少女が立っていた場所に、足を引き摺った黒い犬が佇んでいた。


「成る程、そう言うことか」
などと簡単に納得できた訳ではないが、俺は濡れ鼠少女=黒犬を自宅に招き入れた。
今は人間の姿でシャワーを浴びている。
一応、水道の使い方は理解しているようだ。
うら若い乙女が壁一枚向こうで入浴している状況に居心地の悪さを覚えなくもなかったが、乙女以前に彼女はヒト科ですらない訳で、色々と悩むのは馬鹿馬鹿しく思えた。
レトルトのご飯とカレーを温めていると、例の少女が風呂場から出てきた。
濡れていた元の服は洗濯機の中に放り込んであり、今は俺の服の内から出来るだけ小さめのサイズを見繕ったものを身につけている。
それでもぶかぶかで、裾と足を引き摺り、歩きにくそうだった。
「飯、人間ので良かったか?
玉葱入ってるカレーだが」
頷く少女。
カレーなんぞ刺激物の塊だが、本来は犬である彼女に消化できるのだろうか。
温めた後気付いても後の祭りだが。
取り合えず皿に盛った白飯の上にかけると、テーブルについている彼女の前に置く。
俺も彼女の向かい側に座ると、早速スプーンを手繰った。
「やはり食えないのか?」
手をつけようとしない少女を見ると、不安になる。
その時、彼女の腹から気の抜けたような音が漏れた。
少なくとも腹は減っているらしい。
少女は赤くなって顔を伏せる。
「食えないなら犬用のを用意するが」
彼女はふるふると首を振ると、以外にも器用にスプーンでご飯をすくった。
どうやら食器の扱いも不自由しないらしい。
少女はそのまま湯気を立てるご飯に、何度も息を吹きかけた。
(……単なる猫舌か)
冷ましたカレーを問題なく口に運んでいるのを見て安心する。
二人はそのまま無言で食事を続けた。
「この5日間、何してた」
少女はスプーンを手繰る手を休め、暫く口を開けたり閉じたりしていた。
「喋れないのか?」
首を振ると少女は漸く重い口を開いた。
「ミチを、探してました」
大人びた、それでいて柔らかい声だった。
「ミチ?」
「飼い主」
成る程。
「俺に拾われた後、人間の姿で部屋を出て、それからずっと探し回ってたのか」
首肯。
「いつから人間の姿に化けれるようになった?」
判らないらしく、首を振る。
「気付いたのは、最近、です」
どうやら他の犬に化け方を教わった訳でも、悪の組織に改造された訳でもないようだ。
何にせよ、生物学上珍種中の珍種、その手の学会に発表すればセンセーションは間違い無しだろう。
否、彼女一匹を調べた所で系統立った種としての分析は出来ないわけだから、研究対象としては成り立たないか。
それでも、ワイドショーの主役にはなれそうだ。
(……アホらしい)
俺は馬鹿げた考えを一瞬で消去すると、残りのカレーをかき込んだ。
丁度彼女も食べ終わったので、俺は二人分の食器をまとめて席を立つ。
「あの」
流しに向かう途中で呼び止められる。
黒犬の彼女はぺこりと頭を下げた。
「お世話に、なりました」
そのまま足を引き摺って玄関に向かおうとする少女の首根っこを捕まえる。
「待て、どこへ行く気だ」
彼女は困ったような顔でうな垂れる。
「また飼い主を探しにいくのか。靴も無いのに」
当然の様に頷く少女。
「それなら、まず足を直せ。直るまで家でじっとしてろ。
あと探すにしてもねぐらは必要だろう。ここを拠点にすれば良い」
少女は俺に捕まったまま、逡巡していた。
「……ひょっとして、俺に襲われると危惧してるのか?」
きょとんとした顔で見返される。
「食べるん、ですか?」
食べるの意味が違う。
文明機器を扱えるので安心していたが、こういう面では全く世間摺れしていない様だ。
「例えだ。安心して良い。襲いやしない」
それを聞いても、少女はまだ迷っているようだった。
ぽつりと、呟く。
「迷惑、かけます」
「今頃空腹で倒れてるんじゃないかと心配させられる方が迷惑だ」
少女は気まずそうに顔を伏せる。
そのまま暫く悩んだ後、彼女は漸く俺の厚意を受けてくれた。
「お世話に、なります」


「お前の部屋だ。好きに使うと良い」
と言っても、今は布団と夏物や不用品を込めたダンボール以外何も無い。
前の主の荷物は、もう無い。
四畳半がやたらと広く見える。
「必需品は買い揃えるべきだな。
明日は俺も休日だし、買いに行くか。医者に足を見てもらう必要もある」
いつまで彼女がこの家に居るかは判らないが、二日三日で本来の飼い主が見つかるとも思えない。
彼女はすまなさそうに顔を伏せた。
「取り合えず今日は遅いから寝たほうが良い、布団の使い方とかも判るか?」
少女は頷くと、自分から布団を敷き始める。
意外にしっかりしている。人間に成り立てとは思えない。
「色々と気になることも多いだろうが、今はゆっくり休め。
おやすみ――――、そういえばまだお前の名前を知らなかった。
俺は小川毅(ツヨシ)と言う。オガワでも、ツヨシでも、好きに呼べ。
お前は何て呼べば良い?」
「ミチと家族には、パトラッシュと」
「……別の名前を考えた方が良さそうだな」
勿論、女の子の。
2011年03月28日(月) 22:25:40 Modified by ID:E1Kb05pzbg




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