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無口折り紙少女(仮題)

「よう、進んでるか?」
「…………………」
 いつものように無造作に部屋に入った俺は、アイツの背中に声をかける。
 でも、返事がないのもいつもどおり。
 アイツはこっちは見向きもせず、一心に折り紙を続けている。
 折り紙と言っても、10cmそこら四方のものを折って鶴だのカブトだの作る、あのレベルの話じゃない。
 アイツ自身をそっくり隠せるくらいの巨大な紙を、しかしそれ一枚のみを寸たりとも切りもせずに
折って折ってひたすら折って延々折って、それで作り出す職人芸だ。確か、今作ってるのはオロチだったか。
 そうして出来上がった「作品」は確かに、とても一枚の紙から折り出したものとは思えないほど精緻で、
躍動感に溢れる。世間で「神の手による」なんて評価がされるくらいだ。
 だが、俺にとっちゃあそんな評価はよく判らない。確かにすごいとは思うし、実際にこうして時折
作業工程を覗いてる俺でも、なんで一枚の紙がああも立体的に折りあがるのかさっぱり理解不能なくらい、
常人には及びもつかない技能だって事はわかる。
 だけど、俺にはそんなことよりも(そんなこと、だ)大切な事があるわけだ。
「ほれ、メシ作ってきたぞ。今日はお前の好きなおかかのおむすびだ」
「…………………」
 相変わらずこちらを振り向きもせず、一心不乱に手は休めないながら……アイツは確かに頷いた。
 ちゃんと聞こえてたらしい。集中すると周りの声すら聞こえないし、下手に集中を乱すとどこまで
折ったか判らなくなるとかで、いつも気を使う……と、周りの人間は言う。
 俺は知ったこっちゃないけどな。
 アイツの作品は、確かにすごい。
 つまり、それだけ集中して、時間をかけないと出来上がらない。当然の話だよな。
 実際、でかいものだと月単位の作成期間がかかる。
 そして、その一日に定めた作業時間を、アイツは天才らしい集中力で一気に折り続ける。時には定めた
作業時間を超過してるのにも気付かずに折り続ける。文字通りの意味で、寝食を忘れて、だ。
 実際、作業に集中するあまり、ぶっ倒れた騒ぎだって過去に起こした事もある。
 さすがにそれは、幼馴染として寝覚めが悪い。
 だからこうして、俺がコイツの作業の間、メシ時のたびにつききりで面倒を見てるって寸法だ。
 ……正直しんどいし、面倒くさい。だが、なぜだか俺以外の人間が作業中に近寄るのを嫌がるし、
俺が面倒を見なければ本気でぶっ倒れるまで続けるしで、どうにも止めるに止められない情況になってる。
 そんなわけで、幼馴染思いの健気な俺は、こうしてメシの世話を焼いているのである、まる。
「ほれ、気をつけて食いな」
「…………………」
 手を休めず、手元から目を離さず、アイツは僅かに顔を傾けた。
 俺はその口元に、おむすびを差し出す。
 あむ、と小さく一口かじりつくアイツ。そのままもむもむとゆっくりとかみ締め、やがてこくんと
小さく喉を鳴らす。それを見届けた俺は、二口目を提供するべく、再びおむすびを口元に寄せる。
 その間も、アイツの手は片時も休まない。さすがにメシを食いながらだけに、いつも見てるよりは
スピードは落ちているものの、一折一折、丁寧に作業を続けている。
 なんていうか……アイツの白くて細い指が滑らかに動いて、一枚の紙を変幻に変化させていく様は、
よく判らない俺でも見惚れるものはある。
「…………………」
「と、すまねぇ」
 アイツの手元に見とれてた俺が、ふとその手が止まったのに気付き顔を上げると、訝しげにこちらを
伺うアイツと目が合った。手元に目を奪われてた俺は、アイツがおむすびを飲み下したのを見逃しちまい、
いつまでたっても次の提供が来ない事に不審がられたようだ。

 俺は慌てて、またアイツの口元におむすびを寄せる。
 だが――アイツの目は、おむすびにも、折り紙にも向かうことなく、じっと俺の目を見つめたままだ。
 咎められてるような気がして、俺は謝った。
「わりぃ、ぼーっとしちまって」
「…………………」
 だが、アイツは小さくふるふると首を振った。怒ってる……わけじゃないのか?
 だったら、なんだってアイツは……?
 妙に焦ってそんなことを考える俺をよそに、アイツは小さく口を開いて。
「…………あたし、迷惑?」
 そんなことを聞いてきた。
 珍しい、アイツの方から口を開くなんて……どうやら、こいつなりに、俺に面倒見られてることを
気にしてたらしい。
 俺は苦笑いした。
「――もう慣れちまったよ」
「…………………」
 俺の言葉に、アイツは小さく首をかしげた。
 しんどいし、面倒くさい。それは確かに俺の正直な気持ちだ。
 でも、それは裏を返せば、見捨てられないって事。そうだよな、本当にイヤなら、止めちまえばいい。
もう何度かぶっ倒れれば、アイツだって改めるだろうし、それで俺もお役御免。
 だけど、そうしないのは……やっぱり、俺だってアイツに続けて欲しいからだろう。
 そう、それに……。
「――お前の指がきれいに動くとことか集中してる顔とか、眺めんのもわりと嫌いじゃないしな」
「…………………!」
 そう。世話はしんどいけど……アイツが折り紙に打ち込んでるのを応援するのは、そんなに嫌でもない。
 ……ん? ふと気がつくと、なにやらアイツの顔が赤いような……?
「どうした? 顔赤いぞ?」
「…………………!」
 俺は、熱でも測ろうかと、アイツの額に手を伸ばす。
 だが、アイツは俺の手から逃げるかのようにばっと顔を背けると、俯いて折り紙の方に顔を向けなおし。
「…………………!!」
「お、おい……?」
 ものすごい勢いで、折り紙を再開した。
 そ、それにしても……なんてスピードだ! しかも手さばきに寸分の狂いもない!
 今まで俺が見てた時のは、本気のスピードじゃなかったってのか?!
 俺は驚愕しながらも、恐る恐る声をかける。
「おい……メシはもういいのか?」
「…………………」
 俺の声に、アイツは応えない。俺は小さくため息をついた。集中モードに入っちまったらしい。
こうなると、もう俺の声は聞こえない。邪魔しちゃ悪いし、退散し時だな。
 俺は手早く片付けると、そっと扉を開けて部屋を出て行……。
「…………………ねぇ」
「ん?」
 行こうとしたとき、俺はアイツに声をかけられた。
 俺は室内を振り返る。アイツはやっぱり、こっちに背中を向けたままだ。
「………………今度は、ツナのサンドイッチがいいな」
「……おう、期待して待っとけ」
「……………ん」
 俺は、こんなささやかな一言で自分でもバカらしいくらいにやる気が出てくるのに苦笑いしながら、静かに
部屋を出て扉を閉める。
 さぁて、次のメシも、精一杯に腕を振るうとしますかね――!

 それにしても……なんだってアイツ、急に本気モードになっちまったのかね?


 余談……予定は大幅に前倒しとなり、今回の作品はその日の夜には完成した。
 のちにアイツも「自分自身、どう折ったか良く覚えてない」と評したこの「ヤマタノオロチ」は、
その折り紙とは思えぬ精緻さとにじみ出るような迫力で、アイツ自身にも再現不能の幻の
代表作となるわけだが……。

 作成中の名前は、単に「オロチ」だった事をアイツと俺だけが知っている。



作者 6-356
2009年01月05日(月) 22:48:41 Modified by ID:z0ZlJTbkWw




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