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「猛士」軽装甲車(中国語だと軽型突撃車、軽型装甲車等の名称が存在)は、EQ2050汎用4輪駆動車「猛士」をベースとして開発された装輪装甲車である。

野外走行能力に優れ、一定の搭載能力を有する四輪駆動車のシャーシを利用して装甲車を開発するのは近年各国で行われている開発手法の1つであり、EQ2050についても中国北方工業集団公司のVN-3装輪装甲車、陝西宝鶏専用汽車有限公司の「野狼」装輪装甲車、重慶廸馬工業有限公司の廸馬KL11/東風EQ2111SF装輪装甲車(DMT5100XFB)といった車両が実用化されている。

中国軍では、イラク戦争などの戦訓を参考に、対テロ戦争や非対称戦争、市街戦での車両の防御力の重要性を再認識していた[1]。EQ2050は設計段階から付加装甲の装着を想定しており、2006年には装甲強化タイプとして発展型EQ2058が公開されていたが、より本格的な装輪装甲車が必要との結論にいたる[1]。これを受けて、軍の装備調達部門を司る総装備部から「猛士」のメーカーである東風汽車公司に対して、高機動装甲車に関する技術的、戦術的要求が提示された[1]。東風汽車公司は総装備部の要求を検討した結果、「猛士」四輪駆動車をベースにした装輪装甲車を開発することを決定。これは既に開発済みのシャーシやエンジン、駆動系統を流用することで、開発期間と費用の低減が可能となるだけでなく、ファミリー化による調達コストの低減、部品や機材も共通なので整備や兵站面での負担も軽減されるメリットが生じる。ただし、独立懸架式サスペンションについてはEQ2050の流用ではなく新規設計が行われた。これは、装甲車化に伴う重量増への対応と、車体の延長など派生型開発を容易にするための措置であった[1]。

東風汽車公司では、「猛士」装甲車の開発においては、4×4(ショートボディ型)、4×4(ロングボディ型)、車体をロングボディよりさらに延長した6×6型、といった各種タイプを用意することにしたが、これはユーザーからの多様な要望に柔軟に対応できるようにするためであった。「猛士」装甲車が中国軍だけでなく、武装警察にも採用されたのは、上記の配慮が功を奏したとみなすことができるだろう。「猛士」装甲車の試製車両は2010年末に完成し、新疆ウイグル自治区南部の部隊に試験配備され、走行性能や防弾能力のテストが実施された[2]。この時期の情報についてはまだ明らかになっていない所が多いが、すでに実績のある「猛士」四輪駆動車をベースとして開発されたことから、大過なく各種試験を終えたものと考えられる。

【性能】
「猛士」装甲車の基本構造は原型となった「猛士」四輪駆動車と共通しており、エンジンや変速機を備えたシャーシにモノコック構造の車体を搭載するというもの。車内配置は原型を踏襲しており、最前部にエンジンと変速機が配置され、車体中央が操縦席、その後方が兵員や物資の搭載スペースとなっている。車両の乗降は車体側面に計4基配置されている側面ドアか車体後部ドアから行う。車体上部のハッチは4×4型が3基、6×6型は4基が用意されている。

車体は圧延溶接鋼板製の装甲板を組み合わせて製造される[1]。「猛士」装甲車の防御能力は、車体正面が100mの距離から発射された7.62mm徹甲弾に抗湛し、正面以外の装甲は100mの距離から発射された7.62mm通常弾に抗湛する[1]。フロント防弾ガラスも、100mの距離から発射された7.62mm通常弾への対応を想定したものだが、脅威度が高い場合はスリット入りの装甲板を下ろして防弾ガラスをカバーする[1]。近年、地域紛争で多発するIEDや地雷への対応策として、車体底部はV字型になっており、車内に配置されたガラス繊維と強化プラスチック製複合装甲とあわせて爆発の衝撃波や弾片から車内の乗員を守るようになっている[1]。「猛士」装甲車は、50mの距離に着弾した105mm砲弾の破片や、車体下部でのTNT火薬3kgの爆発に対応する防御能力を備えている。さらに、必要に応じて車体底部を含む各所に付加装甲を装着することで生存性を向上させることが想定されている[1]。

「猛士」装甲車のパワートレーンは、原型の「猛士」四輪駆動車にも搭載されている米カミンズ社製液冷ターボチャージドディーゼルエンジンだが、装甲車化により原型の倍近く重量が増えたことから、機動性を低下させないためエンジン出力の強化が行われた[1]。エンジンは前輪よりも後ろにおかれたフロント・ミッドシップ構造で、ラジエータのみが前輪より前に配置される形式を採用している。車体前方に置かれたラジエータとエンジンは、被弾時に装甲を貫通した弾薬を食い止める役割も期待されている[1]。サスペンションの構造は原型を踏襲しているが、重量増に対応するため、所要の設計変更と材質の変更がなされている。トランスミッションは全自動無段変則式で、タイヤ空気圧調整システムやASR(anti slip regulation)、ABS(Antilock Brake System)とあわせて、良好な走行性能を保障している[1]。「猛士」装甲車の走行性能は、最高速度110km/h、停止状態から60km/hまでの加速に要する時間は15秒。35cmの段差を乗り越え、角度60度の坂を登坂する能力を備えている[1]。車体先端には電動式ウインチが設置されており、急勾配での登坂や、泥濘からの脱出、他のスタック車両の引き上げなどに利用される。このほか、各派生型を通じて共通の装備としては、乗員の戦闘能力の維持に寄与するエアコン、NBC防護システム、自動消火装置、「北斗」衛星位置測定システムなどを挙げる事ができる[1]。

【派生型】
前述の通り、「猛士」装甲車はユーザーの多様な要望に応じるため、4×4(ショートボディ型)、4×4(ロングボディ型)、車体を4×4(ロングボディ型)よりさらに延長した6×6型といった各種車体が用意されている。以下、それぞれの派生型について説明する。なお、これらの呼称は公式のものではなく、当サイトで便宜的に付けたものである。

派生型 4×4(ショートボディ型)
基本型となる4×4(ショートボディ型)の車体サイズは、全長5,100mm、全幅2,350mm、車高1,980mm。重量は4.45tと、原型となった「猛士」四輪駆動車の自重3.15tから1t以上重くなっている[3]。標準重量は4,450kg、最大積載時5,700kg。搭載ペイロードは1,200kg。乗員は、運転手席と助手席にそれぞれ1名、車体後部に4名の計6名が乗車する[3]。試作車両では、車体後部天井が嵩上げされていたが、中国軍に採用されたタイプではフラットな天井に変更されている。

4×4(ショートボディ型)は偵察・警戒任務、人員輸送任務、連絡任務などに用いられていると考えられる。同車を使った派生型としては、通信車型と偵察車型の存在が確認されている[1]。通信車型は、車体上面にアンテナを追加装備、車体後部は各種通式機材の設置場所となっており、助手席と後部座席に通信要員が配置され、通信機材や戦場情報システムの操作を行う[1]。偵察車型は、ミリ波レーダー、赤外線暗視装置、レーザー測遠器といった偵察任務に必要な各種センサーを搭載している[1]。これらのセンサーは伸縮式アームの上にまとめて設置されている。伸縮式アームは最大10mの高さまで展開可能であり、車体を隠した状態での情報収集を可能としている。ミリ波レーダーは、最大70kmまでの戦車、ヘリコプターの探知が可能であり、赤外線暗視装置は35〜50kmまでの目標識別能力を有している。得られた情報は無線通信、もしくはデータリンク機能を用いて後方の指揮所に伝達される[1]。

武装は、車体中央上部ハッチに機関銃や擲弾発射機を搭載できる銃架を用意しているほか、車体両側面には乗車戦闘用の銃眼が各一基配置されている。偵察車型の試作車両と思われる写真では、遠隔操作を可能とする12.7mm重機関銃付きRWS(リモート・ウエポン・システム)を備えているが、これが量産型でも装備されるかは現時点では不明。このほか、煙幕展開に用いる発煙弾発射機を必要に応じて装着する[1]。

派生型◆宗4×4(ロングボディ型)
このタイプは、中国軍の歩兵一個班(分隊)をまとめて乗車させる能力を備えた装甲兵員輸送車として開発され、緊急展開部隊や機械化歩兵師/旅(師団/旅団に相当)の主力装備として配備が開始されている[1][4]。装輪式で高い路上走行性能を有する「猛士」装甲車は、中国国内で急速に建設が進む高速道路網を利用して戦区をまたいだ長距離展開が可能であり、展開能力の向上を目指している近年の中国陸軍に適した装備といえる。中国軍では「東風防護型突撃車(10人型)」と呼称されている[5]。

歩兵一個班(分隊に相当)を一台に乗車させるため、車体後部を延長して乗員区画を拡大し、乗員数は4×4(ショートボディ型)の6名から8〜10名にまで増やされている。車体の大型化に伴い、標準重量は4.8tにまで増加しているが、機動性は4×4(ショートボディ型)と同等の水準を維持している[1]。搭乗歩兵は背中合わせに配置された座席に着座する。車内は、歩兵が小銃や各種装備品を身に付けた状態でも不自由なく移動できる余裕があり、ロケットランチャーなど大型装備用ラックを設置するだけの容積を確保している[1]。乗員の乗降は車体側面に計4基配置されている側面ドアと車体後部ドアから行う。車体側面のドアは、前側は他のタイプと同じ横開き式だが、後ろ側のドアは、真中から上下に分かれる構造になっており、下側は踏み台となる[1]。これは歩兵の迅速な乗降に資するための設計とされる。後部ドアとその直後の車体側面には外部視認用の窓を配置しているが、これは後ろにスライドさせて開閉する事が可能で、車体上面のハッチと共に乗車戦闘に用いることもできる。ただし、4×4(ロングボディ型)には、他のタイプには装備されている銃眼はないことから、同車の歩兵は下車戦闘を基本としているのが伺える。車外には複数の装備取り付け具が設置されており、外部燃料タンク、工具、兵員の荷物などを外装するのに使用される[6]。

武装は、操縦席の後方に7.62mm機関銃や12.7mm重機関銃、35mm擲弾発射機などの搭載が可能な銃架を配置しており、下車した歩兵班に対して火力支援を行う。この銃架は車内からの操作が可能で、搭載火器の操作は乗員が直接手動で行う場合と、車内から遠隔操作する二種類の選択が可能[1]。遠隔操作モードの採用で、市街戦や低強度戦闘などの近接戦闘や狙撃による被弾の危険が高い戦場で、銃手が身を危険にさらすことなく火力支援を行えるようになった[1]。このほか、煙幕展開に用いる発煙弾発射機を必要に応じて装着する[1] 。近年の装甲戦闘車両に欠かせない装備となっている情報システムについては、歩兵分隊の指揮に必要な野戦指揮システムや「北斗」衛星位置測定システムを装備していることが判明しているが、具体的な内容についてはまだ不明な点が多い[7]。


派生型――6×6型
「猛士」装甲車6×6型は、4×4(ロングボディ型)よりさらに高い搭載能力を確保するために開発された[6]。足回りを六輪式に変更し車体は4×4(ロングボディ型)よりさらに延長、車体後部の乗員搭載区画は天井をかさ上げして容積確保に努めている。車体は大型化しているが、機動性については他のタイプと同等の水準が維持されており[7]、エンジン出力を向上させるなどの措置がとられた可能性がある。6×6型には軍隊での運用を想定した装甲兵員輸送車型と、治安機関で運用される装甲人員輸送車型の二種類が存在する。前者の中国軍での運用は確認されていないが、後者は治安任務を担当し有事には軍の補助戦力となる武装警察で採用され、「CBF215猛士反恐(対テロ)突撃車」の制式名称を付与されている[1][5]。

軍用装甲兵員輸送車型は、東風防護型突撃車(10人型)の車体後部を延長して6×6式に変更したような設計で、容積確保のため車体後部天井が一段高くなっている。乗員は合計12名で、東風防護型突撃車(10人型)とは異なり搭乗歩兵は向かい合って着座する。武装は操縦席直後の銃架に搭載され、12.7mm重機関銃や98式120mm対戦車ロケットランチャー(PF-98)など各種兵器の搭載が可能。

武装警察向けのCBF215は、武装警察隊員12〜14名が搭乗する装甲人員輸送車として使用されている [1]。武装警察では、92式装輪装甲車をベースとしたWJ-94型やGA-06型4×4装輪装甲車を装備しているが、これらの車両は重量10t前後と治安機関で使うには大型・豪華に過ぎ、整備・維持コストが余計にかかることが問題になっていた[1][8]。CBF215は、これらの装甲車よりも半分程度の重量で運用・整備コストを低く抑えられることが、武装警察での採用の要因と見られている[1]。CBF215は戦闘車両ではないので、中国軍に採用された東風防護型突撃車(10人型)とは異なり、車体側面には多くの外部視認用窓が設置されている。車体後部の3箇所の窓には銃眼を配置しており、車内からの射撃を行うことが想定されている。フロントガラスを含む外部視認用窓は、全て投石などから防護するための金網が装着されている[1]。固有の武装としては、操縦席直上に本格的なRWS(リモート上ポンシステム)を搭載する[1]。このRWSは、機関銃(7.62mmもしくは12.7mm)と35mm擲弾発射機を並列装備しており、基部には拡声器とサーチライトが取り付けられている。操作は車内からの遠隔操作によって行われる。このほか、車体後部上面には6連装催涙弾/発煙弾発射機二基を設置する。

【今後の展望】
「猛士」装甲車は、中国軍の機械化歩兵旅や偵察分隊、国連PKO部隊として海外に派遣された平和維持部隊、武装警察での運用が確認されている。ファミリー化を前提とした設計を施していることから、今後も多様な派生型が開発されるであろう。原型となった「猛士」四輪駆動車は、高い機動性や多様な環境での適応性が評価され、2006年の制式化以降すでに一万両以上が生産・配備されているが、その特性を受け継いでいる「猛士」装甲車もかなりの数が調達されるものと考えられる。

▼4×4(ショートボディ型)

▼東風防護型突撃車(10人型)。4×4(ロングボディ型)を使用している

▼武装警察に配備されたCBF215「猛士」対テロ突撃車

▼6×6軍用装甲兵員輸送車型


[1]「地面突撃模塊第八方隊−“猛士”軽型装甲車」(『兵工科技 2015年増刊−紀念中国人民抗日戦争世界反法西斯戦争勝利70周年閲兵特刊』/兵工科技雑誌社/2015年9月)48〜50頁
[2]新浪网−军事「我军山地步兵旅列装猛士装甲突击车」(2015年10月1日)
[3]東風汽車公司作成パンフレットより
[4]「勝利日大閲兵主要装備概覧」『現代兵器』2015年10月号(中国兵器工業集団公司/2015年9月/6〜37頁)9頁
[5]东风网「官媒坦承99A坦克故障率偏高 阅兵训练曾抛锚[图]」(2015年10月3日)
[6]「強軍衛国”兵之器”−勝利日閲兵式受閲装備介紹―高機動突撃車」(『兵器−2015増刊B 抗日戦争暨反法西斯戦争勝利70周年閲兵専刊』/北京《兵器》雑誌有限責任公司/2015年9月)26頁
[7]「地面突撃模塊第九方隊−“猛士”6×6反恐突撃車」(『兵工科技 2015年増刊−紀念中国人民抗日戦争世界反法西斯戦争勝利70周年閲兵特刊』/兵工科技雑誌社/2015年9月)51〜52頁
[8]「強軍衛国”兵之器”−勝利日閲兵式受閲装備介紹―反恐突撃車」(『兵器−2015増刊B 抗日戦争暨反法西斯戦争勝利70周年閲兵専刊』/北京《兵器》雑誌有限責任公司/2015年9月)27頁

【関連項目】
EQ2050汎用4輪駆動車「猛士」
中国陸軍

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