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南運830級兵員輸送艦(NATOコード:Qiongsha Class/チォンシャ型/瓊沙型)は、南シナ海の西沙(パラセル)諸島の永興島に駐留する中国軍守備隊への補給を主任務とする輸送艦である。同級は中国政府公務船の「瓊沙号」貨客船の同型艦。

【建造の経緯】
1970年代半ば、中国は南ベトナムとの間で西沙諸島の領有をめぐり対立しており、両国はそれぞれ一部の島を確保して部隊を駐留させていた。1974年1月、西沙諸島において中国軍と南ベトナム軍との間で武力衝突が発生、中国軍は南ベトナム軍を排除して西沙諸島全域の実効支配を確立する事となった(西沙諸島紛争)[2][3]。これらの島嶼の大半は単なる岩礁やサンゴ礁であり、最も大きな永興島(ウッディ島)でもその面積は2.1平方kmに過ぎず人間の定住に適した所ではなかった[3][4]。むしろ中国の狙いとしては、西沙諸島周辺を中国の領海および排他的経済水域として実効支配する事にあった。中国は南シナ海全域を中国の領海であるとしており、西沙諸島に中国の実効支配を及ぼす事はその主張に基づく行動の一環であった。

中国軍はこれらの島嶼部に守備隊を配置していたが、淡水の確保も困難なため殆ど全ての物資を継続的に補給し続ける必要が生じていた。1976年、周恩来総理(当時)は西沙諸島の永興島と海南島との間を結んで物資や人員の輸送を行う貨客船「瓊沙号」の建造を承認した[5]。瓊沙とは中国語で「美しい砂」という意味で、瓊は海南島の別称でもあり、海南島(瓊)と西沙諸島(沙)の間の定期航路船である事を表わしていると見られる。「瓊沙号」は1978年11月に公試を実施、翌1979年から西沙諸島への物資輸送任務を開始した[4]。同船は海軍艦艇ではなく政府所有の船舶(政府公務船)であった。「瓊沙号」は1991年に新しく「瓊沙2号」貨客船が建造された後は「瓊沙1号」と改名され、1997年まで海南-西沙間航路で運行された後、民間に売却されている。なお「瓊沙2号」は2007年に退役しており、現在は中央政府と海南省政府の共同出資で建造された「瓊沙3号」貨客船が海南〜西沙間航路の定期航路船として運行中である[5]。

中国海軍ではこの「瓊沙号(瓊沙1号)」をタイプシップとして、同じく西沙諸島の海軍部隊への物資・兵員輸送を担当する南運830級兵員輸送艦6隻を建造した[6]。この内2隻(南運833、南運832)は病院船としての工事が施されて南康級病院船として運用されている[6]。南運830級は全て南海艦隊に所属し、西沙諸島などの島嶼部に駐留する部隊への業務輸送に従事している。

【性能】
ここでは南運830級兵員輸送艦についてのみ記述し、準同形艦である南康級病院船については別項で扱う。

南運830級兵員輸送艦の主なスペックは以下の通り。満載排水量2,150t、全長86.0m、全幅13.5m、喫水3.9m。主機は8NVD48A-2Uディーゼル3基で合計出力は3,960hp。推進軸は3基で最高速力は16kts、航続距離は3,000nm。艦固有の乗員は59名。同級の輸送能力は兵員400名、貨物350トン[1][6][7]。同級の構造は前述の通り「瓊沙号」貨客船をタイプシップとしている。中央船楼首型船体を採用しており、上部構造物後端には煙突が並列式に設置されている。艦橋前面と煙突はデリック・ポストを兼ねた構造になっており、上部構造物の前後に計2基のデリックが装備されている[8]。自衛用火器として艦橋上部と艦尾の銃座に合計4基の14.5mm連装機関銃を装備している[6]。南運830級は平時の業務輸送を主任務としているので、直接海岸にビーチングして物資揚陸を行う能力は有していない[6]。物資の積み下ろしは港湾施設や艦のデリックを使って行われる。上部構造物後部のダビットには4隻の小型艇が搭載されており、環礁内で接岸が困難であったり、港湾施設の無い基地への物資輸送に使用される。

南運830級は長年にわたり南シナ海島嶼部の中国軍基地への輸送任務に従事してきたが、建造から30年近くが経過していることもあり段階的に退役が進んでいる[9]。2015年には同級の後継艦と思われる輸送艦の存在が確認されており、ネームシップが「南運830」の艦名を襲名したとの情報もある[10]。

性能緒元
満載排水量2,150t
全長86m
全幅13.5m
喫水3.9m
主機ディーゼル3基×3軸
 8NVD48A-2Uディーゼル3基(3,960hp)
速力16kts
航続距離3,000nm
乗員59名

【輸送能力】
兵員400名
貨物350トン

【兵装】
近接防御14.5mm連装重機関銃4基

同型艦
1番艦南運830Nányùn830Y830→南運830→830広州造船廠で建造。南海艦隊所属、2009年ごろ退役南海艦隊所属
2番艦南運831Nányùn831Y831→南運831→831広州造船廠で建造南海艦隊所属
3番艦南運832Nányùn832Y832→南運832→832広州造船廠で建造、後に病院船に改装-
4番艦南運833→南康→南医09Nányùn832→Nánkāng→Nányī09Y833→南運833→南康→833→南医09広州造船廠で病院船として建造。1980年起工、1981年進水、1982年海軍に引き渡し。改装と運用試験を経た後1991年病院船「南康」として就役南海艦隊所属
5番艦南運834Nányùn834Y834→南運834→834広州造船廠で建造南海艦隊所属
6番艦南運835Nányùn835Y835→南運835→835広州造船廠で建造南海艦隊所属


▼南運830を出迎える西沙諸島守備隊


【参考資料】
[1]Jane's fighting ships 2007-2008 (Jane's Information Group)148頁。
[2]平松茂雄『甦る中国海軍』(勁草書房/1991年)154〜156頁。
[3]劉華清『劉華清回憶録』(解放軍出版社/2001年)338〜339頁。
[4]新浪網「体验永兴岛:补给全靠“琼沙3号”」
[5]中華網「西沙“生命船”--- 琼沙1、2、3号」
[6]Chinese Defence Today「Qiongsha Class Troop Transport / Hospital Ship」
[7]陳光文「浮動的生命之舟--中国海軍的医院船」(『艦載兵器』2010年4月号/No.128)31〜40頁
[8]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)98頁。
[9]鼎盛论坛「中国海军新一代岛礁运输船研判」(2014年9月24日)
[10]新浪網「新南运830 一条奇怪的船」(2015年6月23日)

【関連事項】
南康級病院船(チォンシャ型/瓊沙型)
中国海軍

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