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南康級病院船は中国政府公務船の「瓊沙号」貨客船をタイプシップとして建造された中国海軍初の病院船。NATOコードはQIONGSHA class(チォンシャ型/瓊沙型)[1]。

同級建造の経緯は1974年1月に発生した西沙諸島を巡る中国と南ベトナム軍の交戦に遡る。中国軍はこの戦闘の結果、南ベトナム軍を排除して西沙諸島全域を占領する事になった。しかしこの戦闘において多くの負傷者が発生、当時の中国海軍は洋上での十分な救急救命能力は有しておらず、重傷者の多くが十分な早期治療を受けることが出来ずに死亡する結果となった[2]。これを深刻な事態として受け止めた海軍の指導部と中央軍事委員会では、負傷者の救命措置と搬送を行う病院船の開発を実施することを決定した。当時の中国は国際的に孤立した状態にあり、外国の病院船に関する情報を集める事は困難であった。開発陣は各国海軍の海上医療救護体制や病院船に関する公開資料を収集する所から作業を開始せざるを得なかった[2]。病院船に関する情報の収集後、開発陣は当時中国で建造されていた各種のフェリーや貨客船の中で病院船への改装に適した船舶の選定を行った。最終的に開発陣が選定したのは、1974年に建造が開始され1977年に就航した中国政府公務船の「瓊沙号」貨客船であった[2]。海軍は西沙諸島守備隊への物資輸送用に「瓊沙号」貨客船をタイプシップとした南運830級兵員輸送艦の調達を検討しており、この内1隻を病院船として建造する事を1977年に決定した。建造は広州造船廠によって行われ1980年起工、1981年進水、1982年に海軍に引き渡された[2]。

竣工時の艦名は「南輸833」(艦番号Y-833、後「運輸833」に変更)と兵員輸送艦としての艦名のままであったが、この時点ではまだ海軍籍には編入されておらず病院船としての有効性を確認するための運用試験が重ねられる事になった。海軍では1982年6月に実施された演習に「南輸833」を参加させ洋上での医療救護訓練を実施したが、その過程で様々な不具合があることが明らかになった。これを受けて1983年から改装作業に着手、負傷者の迅速な搬送のため両舷の通路の面積を拡大、舷側の乗降口の増設、薬剤調合室や重症患者治療室、洗濯後の衣料や敷物の乾燥用の赤外線乾燥室の新設など11項目の改良が施されている。「南輸833」は改装後、複数の演習に参加して良好な医療救護能力を有すると判断された。1986年4月に軍内外の専門家による各種技術性能実証試験が開始され、中〜近海における病院船として十分な能力を有しているとの試験結果が得られた。1991年3月15日、同艦は病院船「南康」として正式に海軍籍への編入が行われた[2]。就役と同時に「南康」で医療活動を実施する中国海軍初の海上医療隊が編制されている。同部隊には女性スタッフも配属されていたが、彼女達は中国海軍初の長期洋上活動に従事する女性軍人であった[2]。

【性能】
南康級病院船の主なスペックは以下の通り。満載排水量2,150t、全長86.0m、全幅13.5m、喫水3.9m。主機は8NVD48A-2Uディーゼル3基で合計出力は3,960hp。推進軸は3基で最高速力は16kts、航続距離は3,000nm。連続作戦可能日数は12日間。シーステイト9までの状態での航行が可能。艦固有の乗員は59名+医療スタッフ[1][2][3]。

同級の構造は前述の通り「瓊沙号」貨客船をタイプシップとしている。中央船楼首型船体を採用しており、上部構造物後端に並列式に設置された煙突はデリック・ポストを兼ねた構造になっている[4]。病院船ではあるが自衛用火器として、艦橋上部と艦尾の銃座に合計4基の14.5mm連装重機関銃を搭載している(未搭載の場合もある)。艦内の医療施設は傷病者分離所、手術室、ワクチン室、通常病床、重傷者治療室、伝染病者専用室などから構成されており、負傷者の迅速な救急救命治療が可能となっている[2]。治療用の医療診察機材も充実しており、X線検査室、化学検査室、その他の電子診療施設、医薬保管室、消毒室、薬剤調合室などが備えられている。合計ベッド数は219床で、通常100名から130名の負傷者の収容・治療が可能[2][3]。収容された負傷者はこれらの医療施設において救急救命措置が施され、その後陸上の医療施設に搬送されて本格的な治療を受ける事になる[2]。

【就役後の状況】
中国海軍では「南康」の就役後、準同形艦の「南運832」兵員輸送船についても「南康」と同様の改装を施して病院船としている。両船はいずれも南海艦隊に所属する[1][3]。南康級病院船2隻の整備によって中国海軍は初めて専用の病院船を得ることに成功した。ただし「南康」級は元々負傷者への初期救命救急治療を行う事を前提として建造された病院船のため、その医療施設は救急救命治療に関する物が中心で船上で大掛かりな手術を行う能力は有していなかった[2]。また船体が小型のため搭載可能な医療施設や収容人数にも限界がある点、ヘリコプター格納庫や発着甲板を有しておらず傷病者の緊急搬送に有効なヘリコプターを運用出来ないのも問題であった。

中国海軍では南康級の運用経験からより高度な治療能力を有する大型病院船の必要性を痛感する事になり、21世紀に入って920型病院船(アンウェイ型/安衛型)の建造に着手した[2]。また0891A型練習艦(世昌級/シーチャン級)を使用してコンテナ型の医療施設モジュールの開発が行われ、徴用したコンテナ船や客船などを必要に応じて短時間の改装で病院船に転用するノウハウの構築が進められることになった[2]。

性能緒元
満載排水量2,150t
全長86m
全幅13.5m
喫水3.9m
主機ディーゼル3基×3軸
 8NVD48A-2Uディーゼル3基(3,960hp)
速力16kts
航続距離3,000nm
乗員59名+医療班。傷病者100〜130名の収容が可能

【輸送能力】
傷病者100〜130名(ベッド219床)
貨物350トン

【兵装】
近接防御14.5mm連装重機関銃4基
注:未搭載の場合もある。

同型艦
1番艦南運833→南康→南医09Nányùn832→Nánkāng→Nányī09Y833→南運833→南康→833→南医09広州造船廠で病院船として建造。1980年起工、1981年進水、1982年海軍に引き渡し。改装と運用試験を経た後1991年病院船「南康」として就役。南海艦隊所属。2013年退役[6]-
2番艦南運832Nányùn832Y832→南運832→832広州造船廠で建造。兵員輸送艦として就役後に病院船に改装南海艦隊所属
注:艦名や艦番号については情報が不足しており、上記の内容は現時点で判明した範囲内のもの。艦番号の南康と833の順番は逆の可能性がある

【参考資料】
[1]Jane's fighting ships 2007-2008 (Jane's Information Group)148頁。
[2]陳光文「浮動的生命之舟--中国海軍的医院船」(『艦載兵器』2010年4月号/No.128)31〜40頁
[3]Chinese Defence Today「Qiongsha Class Troop Transport / Hospital Ship」
[4]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)98頁。
[5]鼎盛军事「医疗船资料集(南康号、南医09、南运832等)」
[6]鼎盛论坛「中国海军新一代岛礁运输船研判」(2014年9月24日)

【関連事項】
南運830級兵員輸送艦(チォンシャ型/瓊沙型)
中国海軍

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