日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼自走ロケット発射機。


▼再装填車輌。

▼再装填作業中の写真。




性能緒元
重量43トン(自走ロケット発射機の全備重量)/19トン(シャーシのみの重量)
全長11.43m
全幅3.05m
全高3.05m
エンジンV-3D12型ディーゼルエンジン 500馬力超
最高速度65km/h
航続距離650km
渡渉深度1m
武装300mm12連装ロケット発射機
ロケット全備重量800kg
弾頭重量280kg
射程20〜150km
乗員4名

03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)は、中国北方工業公司(NORINCO)と弾箭武器研究所により開発された大口径多連装ロケット・システム[1]。同システムは、ロシアのスパルフ研究生産共同体製の9K58スメルチの強い影響を受けて開発されている。

【開発経緯〜新型大口径多連装ロケット砲の競争開発】
03式の開発は1980年代末にまでさかのぼる。1980年代中期、中国では西側諸国との関係改善により得られた各種技術をベースとして、西暦2000年前後の時期に必要とされる装備を開発する一連の計画が策定された[3]。陸上部隊の砲兵部門では、射程20km台の122mm榴弾砲、射程40km台の155mmカノン/榴弾砲、敵後方の打撃が可能な短距離弾道ミサイルの開発が重点目標として定められた[3]。これらの計画は、後に86式/96式122mm榴弾砲(W-86/PL-96/D-30)PLL-01 155mm榴弾砲(WA-021)DF-15短距離弾道ミサイル(東風15/M-9/CSS-6)DF-11短距離弾道ミサイル(東風11/M-11/CSS-7)として結実することになる。この計画に対して、155mmカノン/榴弾砲と短距離弾道ミサイルの間が空白になっているとの指摘がなされた結果、新たに射程60km超の大口径多連装ロケット砲を開発することが計画に盛り込まれることになった[3]。

従来であれば、軍が提示した要求に基づき装備調達関連機関が開発を担当する機関・部署を指名して研究開発を実施させるトップダウン的開発手順を経るはずであったが、小平による改革開放政策に伴い、兵器開発部門にも競争原理が導入され開発のスタイルは一新された[3]。具体的には、軍と装備調達部門は要求項目を提示、これに対して各研究開発部門が開発案を提案して有望と思われるものを試作させ評価試験を行った上で優秀な成果を収めたものを採用するという手法である。競争試作に敗れた装備についても、輸出向け装備として開発を継続させて国外での採用を目指すことが奨励された[3]。

数年間の準備期間を経て、1980年代末には新型大口径多連装ロケット砲の開発計画が正式に始動することになった。この開発計画に応じたのは、長年火砲開発に携わってきた東北127廠、四川航天科工七院(後の四川航天工業総公司)、通常兵器開発部門の弾箭武器研究所、中国航天科技集団第一研究院(別名中国遠載火箭技術研究院。以下では航天科技一院と略す)の四設計局であった[3]。

東北127廠ではは83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)の開発経験を生かして、泰安8×8重野戦トラックに8連装発射機を搭載、合計8発の273mmロケット弾を搭載するという案を纏めた[3]。ロケット弾は装薬の改良によって最大射程80km超と、WM-40の倍以上の射程を確保することが目指されていた。

四川航天科工七院の案は、完全新規設計の口径302mm、射程100kmのロケットを開発するというものであった[3]。これを四連装ロケット発射機に搭載して鉄馬6×6野戦トラックに搭載するとされた。

弾箭武器研究所と航天科技一院では、各国の大口径多連装ロケットの動向を調査、特に注目されたのが、アメリカのM-270 227mm多連装ロケット・システム(MLRS)とソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムであった。両者とも、今後の大口径多連装ロケット砲はロケット弾自体の誘導システムの高度化による命中精度の向上が不可欠になるとの分析結果に達した。そして、弾箭武器研究所と航天科技一院ではそれぞれ別個にソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムに関する調査・分析を進め、スメルチを手本として誘導システムの高度化に重点を置いた大口径多連装ロケット・システムの設計案を提示するに至った[1]。

これら4つの開発案について各関係機関による検討が行われた。その結果、システムの将来性という点で、弾箭武器研究所と航天科技一院の案が高く評価され、両者に対して競争試作段階への移行が認められた[3]。不採用となった東北127廠と四川航天科工七院の開発案は輸出向け装備として開発が継続されることになり、東北127廠案はWM-80 273mm8連装自走ロケット砲、四川航天工業総公司案はWS-1 302mm4連装自走ロケット砲(衛士1)として実用化されることになる。

【冷戦終結後の状況変化】
弾箭武器研究所と航天科技一院の両案が競争試作に移行したが、これに大きな影響を与えることになったのは冷戦の終結と、それに伴うソ連/ロシアと中国との関係改善であった。中国はロシアの進んだ兵器技術を導入して中国軍の装備近代化を一挙に進める方針を採用し、ロシアから積極的に兵器の輸入や技術導入を進めるようになった[8]。1993年4月に締結されたロシアからの包括的な兵器輸入契約において、9K58スメルチ多連装ロケット・システムについても輸入許可を得ることに成功。1997年には、中国国営機器輸出入公司(CPMIEC)を通じて少数のスメルチとロケット弾をロシアから極秘裏に受け取っている[12]。

弾箭武器研究所と航天科技一院の開発案では、スメルチを参考にそれに相当する多連装ロケット・システムを開発する算段であったが、今やロシアから直接現物を調達し、技術支援を受ける形でスメルチを国産化することが可能となった。この状況を受けて、弾箭武器研究所では開発計画を大きく変更し、当初案をベースとしつつ、ロシアから得られた各種技術を盛り込んだ「中国版スメルチ」を開発するという方針を採用、これが後の03式300mm12連装ロケット砲として結実する[3]。

開発に先駆けて数年をかけてロシアから得られた各種技術の評価分析が進められ、1996年にはそれを踏まえた上での全規模開発に移行した。ロケット弾や射撃統制システムの開発は弾箭武器研究所が中心となり、シャーシの開発は湖北省の万山特種車輌製造廠が担当するとされた[3]。1999年にはシャーシとなるWS-2400八輪重機動トラックの試作車輌が完成。2001年には射撃統制システムの国産化作業が完了し、シャーシとロケット発射筒の組み合わせと射撃試験、指揮管制車輌など運用に必要とされる各種装備の開発が行われた。試作されたロケット砲システム一式は軍需工業監督機関と軍による評価試験を受けた後、2003年後半に「03式300毫米遠程火箭炮(PHL-03)」として制式化された[2]。なお、ロケットの簡易誘導システムを有している事から、「遠程弾道修正火箭炮」という名称も使用されている[9]。

弾箭武器研究所のロシアからの技術導入やそれを設計に反映させる作業はかなりの手間を要したことは間違いなく、03式300mm12連装ロケット砲の制式化には全規模開発開始時から数えても7年の歳月を要している。

これに対して航天科技一院は、進展中の多連装ロケット・システムの開発をそのまま継続することを主張した[8]。これは、開発中のロケットの慣性航法システムやロケット技術においてスメルチと遜色の無い性能を確保できるとの見通しがあったことが背景にあり、最終的に軍の了承を得ることに成功した[3]。開発に時間を要した弾箭武器研究所に対して、当初案通りに計画を進めた航天科技一院では開発は比較的順調に進展し、2000年には中国精密機械進出口公司(CPMICE)によりA-100 300mm10連装ロケット・システムとして国際市場向けにその存在を公表[12]。さらに、2002年には評価試験と実地運用を兼ねて、広東省広州の第1砲兵師団への配備が開始された[12]。

開発ペースでは先行していた96式300mm10連装自走ロケット砲(PHL-96/A-100)であったが、自主開発のロケット飛翔制御システムの実用化に手間取ったこともあり、最終的に中国軍の本格採用を勝ち取ったのは後発の03式自走ロケット砲であった[3]。

03式の中国軍への配備は、2004年から2005年にかけて開始された[2]。

【性能】
03式自走ロケット砲システムは、ロケット弾、自走ロケット発射機、再装填車輌、指揮車輌、気象観測レーダー車輌、観測車輌、通信車輌などから構成される[3]。

ロケット弾を搭載する自走ロケット発射機と再装填車輌は、万山特殊車輌製造廠製WS-2400八輪重機動トラックが使用される。WS-2400八輪重機動トラックは、万山特殊車輌製造廠がソ連のMAZ-543Mをリバースエンジニアリングして開発した大形野戦トラックで、シャーシのサイズは、全長11.43m、全幅3.05m、全高3.05m、車体重量19トン、最大積載量22トン。全備重量は、自走ロケット発射機の場合43トンに達するが、大出力のドイツ製ディーゼルエンジンを搭載し地形に合わせて空気圧を調整できる中央タイヤ圧制御システムなど装備することにより良好な野外機動性を有している。路上最高速度は65km/h。最大航続距離は650kmで、水深1mまでの徒渉水深能力が与えられている。

車体前方には乗員4名の乗員室が配置されており、後部にロケット発射機を搭載する荷台が配置。自走ロケット発射機は、車体後部に12連装のロケット発射筒を搭載しているが、発射筒の形状と配置は開発のベースとなったロシアのスメルチのそれを踏襲している。発射に際しては、第3、第4車輪の間に装備されたジャッキを接地させて車体を安定化させる方式を採用しているが、これもスメルチと同じ手法である[4]。

次弾装填用に自走ロケット発射機一輌につき再装填車輌一輌が用意される。前述の通り再装填車輌もWS-2400を使用しており、車体中央部にロケットの搭載・装填の際に使用する油気圧クレーンを装備、後部荷台に12発のロケット弾を搭載している[2]。12発のロケット弾の再装填に必要な時間は20分[5]。

03式自走ロケット砲のロケット弾は、重量800kg、直径300mmの固体燃料ロケット推進式の大型ロケット弾を採用している[3]。このロケット弾はベースとなったロシアのスメルチで採用されている内蔵式飛翔制御システムが搭載されており、在来型の無誘導ロケット弾よりも命中精度を高めている。ロケット弾は発射後回転しながら飛翔し、弾体後部に折り畳まれて収納されていたフィンを展開する事によって軌道を安定させる。飛翔制御システムは、発射後に事前にプログラミングされた軌道と実際の軌道の偏差を検知し、ガスを噴射する事で軌道修正を行う。開発元のNORINCOでは、ロケットの命中率向上のため、誘導システムにGPS/INSシステムを併用することで命中精度を大きく向上させる計画がある事を明らかにしている[6]。ただし、誘導システムの能力向上は必然的にロケット1発当たりの単価を上昇させる事に繋がるデメリットもあり、現時点では全てのロケット弾にGPS/INSシステムを組み込むことは行われていない[6]。唯一、最も射程の長いBRE3ロケット弾(最大射程150km)のみ、遠距離射撃の際の命中精度確保のためにGPS誘導システムが採用されている[10]。

03式自走ロケット砲には最大射程70km、130km、150kmと射程の異なるロケットが用意されている。この内、最も射程の長い150kmのBRE3ロケット弾は中国軍向けだけに製造されており、輸出向けで提供されるのは射程130kmのロケットまで[6]。弾頭についてはまだ情報が少ないが、BRE2高性能榴弾(射程130km)、BRE3対人子弾収納型(射程150km、GPS制御)、BRC3(射程70km)、BRE4対戦車子弾収納型の4種類の弾頭が公表されている[7][10]。このほかロシアのスメルチと同じく、遠距離目標の偵察を行うため、ロケット弾の弾頭に収納され、発射後にロケットから分離されて目標の偵察を行うUAV(unmanned aerial vehicle:無人機)も開発されている[11]。BRE3は623発、BRE4は414発の子弾を内蔵しているとされる[6]。ロケットの発射は単射、一斉発射の何れも可能。一斉発射の場合、03式は搭載している12発のロケットを38秒で撃ち尽くす事が出来る[7]。

03式自走ロケット砲の部隊編制は、ロケット弾12発を搭載した自走ロケット発射機4〜6輌、再装填車輌4〜6輌、指揮車から構成されるロケット砲連(中隊に相当)を最小単位としている[7]。運用では、事前に構築しておいた陣地に展開して射撃を行う方法と、臨時に展開して射撃を行う方法の二種類が存在する[7]。陣地展開時の射撃手法は、各自走ロケット発射機が指揮車輌や上級部隊からの指令を受けて陣地に展開。指揮車輌は、各自走ロケット発射機の展開位置と目標までの距離を元に各発射機に射撃諸元を伝達する。自走ロケット発射機はこの諸元を入力して、ロケットを発射。敵の対砲兵射撃がない状況では、陣地に展開したまま再装填車輌により予備ロケット弾を装填してもう一度斉射を行う。臨時に展開して射撃を行う場合は、指揮車輌や上級部隊から提供された目標の座標と上空の気象データを基にして、弾道計算機に自走ロケット発射機の位置、気象条件、ロケット推進剤の温度などの諸元を入力して照準をつけてロケットを発射する。一個ロケット砲中隊は、中隊一斉射撃によって96発から144発のロケット弾を発射し、最大2万平方キロメートルに及ぶ範囲を火制する事が可能[7]。

【配備の現状】
03式自走ロケット砲は、2004年から中国軍への配備が開始された。03式は集団軍の砲兵旅(師)、もしくは重師団の砲兵連隊に配備され、集団軍や重師団の直轄支援火力部隊として任務を執行することを想定しており、その長射程を生かして敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点への攻撃を主任務とする。これまでに広東軍区と南京軍区において03式を装備する二個ロケット砲団(連隊に相当)が編制されている[8]。

03式自走ロケット砲の配備は2007年になると一端中断されたという情報がある[3]。配備が進んでいない状況については、自走ロケット発射機が40トンという大重量で車体サイズも大形のため、輸送機による空中輸送は不可能であり、鉄道輸送も限界に近い大きさのため無蓋貨車での輸送には細心の注意を必要とし列車の速度も落とさざるを得ないなど戦略的機動性の面において問題があった。さらに、そのサイズは道路の走行時に取り回しに制限を生じ、野外走行可能な地形が限られてしまう事態を生じていた[3]。このほか、ロケット弾の再装填に20分と比較的時間を要するなど、運用面で表れた各種不具合の改善が要求された事が背景にあると指摘されている[3]。

2008年にはロケット発射機をモジュール化することで再装填に要する時間を短縮したAR-1A 300mm10連装自走ロケット砲や、より小型のシャーシにロケット発射機を搭載したAR-1 300mm8連装自走ロケット砲の存在が明らかにされており、03式自走ロケット砲の不具合を解消する新型自走ロケット砲の開発作業が行われていると見られる。ただし、AR-1/AR-1Aの中国軍での運用は2011年時点では確認されていない。

NORINCOは、03式自走ロケット砲を「AR-2」の名称で輸出向けに宣伝を行っており、2010年にはモロッコに対して一個営(連隊に相当)分のAR-2を輸出することに成功している、モロッコに輸出されたAR-2では、中国軍が使用している射程150Km、GPS制御のBRE3ロケット弾は提供されておらず、BRE2(射程130km)が最も射程が長いロケット弾となっている[10]。

【参考資料】
[1]Military-Today.com「PHL03 Multiple Launch Rocket System」
[2]Chinese Defense Today「PHL03 300mm Multiple Launch Rocket System」
[3]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6〜17頁
[4]江畑謙介「中国にコピーされたロシア製多連装ロケット弾発射システム―最強の砲兵武器スメルシュ」『軍事研究』2000年8月号(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)110〜122頁。
[5]中華網「外境尷尬:中国300毫米火箭炮被指存在厳重欠陥」(2009年7月21日)
[6]「SMERCH的強烈競争対手A100和AR1/2多管火箭炮」(『漢和防務評論』2009年10月号)52〜58頁。
[7]西陸網「中国竜巻風—300MM口径PHL03火箭炮」(2009年2月4日)
[8]China Defense Blog「Confirm, PHL03 300MM MRL is in active service.」(2008年9月1日)
[9]新浪網-陸軍論壇「国産300mm遠程弾道修正火箭炮高調曝光」(2009年6月9日)
[10]「中国向摩洛哥提供AR2遠程火箭砲」(『漢和防務評論』2011年1月号)34頁
[11]中華網「中国300毫米远程火箭炮配备巡飞弹曝光」(2008年1月13日)
[12]Chinese Defense Today「A-100 300mm Multiple Launch Rocket System 」

AR-1A 300mm10連装自走ロケット砲
AR-1 300mm8連装自走ロケット砲
AR-3 300mm/370mm 10/8連装自走ロケット砲
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