日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼85-IIM式主力戦車


▼パキスタン軍所属の85-IIAP式主力戦車(WZ-1228)


▼85-IIM砲塔内部図(砲塔前面の白抜き部分が複合装甲)


性能緒元(85-IIAP式主力戦車/WZ-1228)
重量41.5トン
全長10.28m
全幅3.45m
全高2.3m
エンジン12150ZLBW 水冷ディーゼル 730hp
最高速度57km/h
航続距離700〜900km(外部燃料タンク搭載状態)
潜水深度5m(OPVT潜水渡渉装置使用時)
 2.5m(OPVT無し、短時間)
武装2A46 125mm滑腔砲×1(40〜44発)(48口径と51口径の説がある)
 54式12.7mm重機関銃×1(500発)
 59式7.62mm機関銃×1(2,500発)
 84式76mm発煙弾発射機×12
装甲車体前面及び砲塔前面が複合装甲
乗員3名(車長、砲手、操縦手)

1980年代のパキスタン軍の装備していた戦車は、中国製の59式中戦車(WZ-120/ZTZ-59/T-54)、アメリカ製のM47、M48戦車、ソ連製T-54/55といずれも戦後第一世代に属する戦車であった。隣国インドはパキスタン軍を上回る数の戦車を保有し、さらにT-72の配備や国産の第三世代戦車アルジュンの開発に着手しており、パキスタン軍の戦車戦力は質量ともに劣位にあった。パキスタンはこの状況を打開するために、同国の主要な兵器供給国であるアメリカと中国に接近した。アメリカにはM1A1エイブラムズの供給とパキスタンでのライセンス生産の許可を要請した。アメリカもアフガニスタン紛争を受けてパキスタンへの支援を強化しており、エイブラムスの供給についての検討を開始した。両国が合意に達すれば、エイブラムスの生産はタキシラのパキスタン重車両修理工廠(HIF)で実施される計画であった。しかし技術移転の範囲の問題、高額な戦車であるエイブラムスを配備するための予算的裏づけ、60トンの重量のエイブラムスを運用するためには従来の軍の装備では対応できないだけでなく港湾施設や道路などのインフラの根本的な改善が必要などの理由から両国はなかなか合意に達することが出来なかった。1988年のソ連のアフガン撤退と1989年の冷戦の終結でアメリカにとってのパキスタンの戦略的価値は低下し、次第にパキスタンへの支援も減少していった。翌1990年、アメリカはパキスタンによる核開発疑惑を理由に軍事援助を停止、これによってエイブラムズの供給、ライセンス生産の計画も完全に途絶してしまった。

一方、中国とパキスタンの交渉は1986年から開始され、80年代後半から本格的な各種協力体制の構築が行われた。各種契約を経て1990年5月に両国はパキスタンの戦車戦力近代化と戦車自給体制構築のための技術移転・共同出資比率・行動計画等に関する総合的計画に調印した。

この計画は4つの段階で構成されていた。まず最初の段階では、HIFで現有の59式中戦車の改造を実施し、第2段階で69-IIMP式戦車69式戦車(WZ-121)のノックダウン生産を実現する。そして、第3段階では中国・パキスタン共同開発の第二世代戦車(後の85-IIAP式戦車)をHIFでライセンス生産、最終的に新規開発の第三世代戦車(後の90-II式戦車(MBT-2000/アル・ハーリド))をHIFで生産することが計画された。戦車生産の経験のないパキスタンで直ちに戦車を国産化するのは困難であることから、段階的に戦車の開発・生産に関するノウハウを蓄積して最終的に完全な国産化を実現するという方法が採用されることになった。段階的手法は戦車の生産面でも採用されている。まず、59式戦車の修理と近代化改装により59式戦車のコンポーネントに関するノウハウを蓄積する。そしてノックダウン生産される69-IIMP式戦車のコンポーネントの半分は59式戦車の物が流用される。この後にライセンス生産される第二世代戦車(85-IIAP式)は、新規開発のコンポーネントは半分で、残りは59式、69-IIMP式のコンポーネントがそれぞれ20%、30%流用される。最後に生産される新規開発の第三世代戦車(アル・ハーリド)では55%のコンポーネントが新規開発で、残りは59式から10%、69式から15%、85式から20%のコンポーネントが流用されることが決められた。コンポーネントの共通化によって、既存の59式戦車のコンポーネントの有効利用、生産ラインの共通化、開発・生産コストの削減が目的であった。また69-IIMP式、85-IIAP式、アル・ハーリド戦車はコンポーネントの共通化によって、既存の59式戦車用の整備インフラで運用・整備を可能にすることが求められた。

85-II式戦車(風暴II型/WZ-1227F2)の項でも触れたようにパキスタンは1980年代後半、85-II式戦車にソ連製 2A46 125mm滑腔砲をカセトカ自動装填装置ごと搭載することが可能かどうかという打診をNORINCOに対して行っている。これはインドのT-72、アルジュン戦車に対して、長砲身化したとはいえ105mmライフル砲の85-II式の火力では対抗し得ないのではないかというパキスタンの危機感が背景にあった。なおパキスタンが120mm滑腔砲ではなく125mm滑腔砲の搭載を打診したことについては、1984年段階で中国が125mm滑腔砲の国産化に成功しており早期の戦力化が可能であったこと、中国の次世代戦車(後の98式戦車)が125mm滑腔砲の採用を決めたことなどが要因となったとされる。

NORINCOは先のパキスタンの打診を受けて、1990年6月から85-II式戦車に2A46 125mm滑腔砲とカセトカ自動装填装置を搭載した戦車の開発に着手した。開発主任は85式戦車に引き続き方慰先技師が担当。この火力強化型の存在は翌1991年に公開され、85-IIM式主戦坦克の名称が与えられた。

85-IIM式戦車の基本的な車体形状は85-II式戦車を継承しているが、カセトカ自動装填装置を車内に納めるために全長と車幅が拡大されている。車体は溶接鋼板製、砲塔は溶接鋼板製の前部と鋳造鋼板製の後部を溶接して一体化させた上で、複合装甲モジュールを装着する構造になっている。自動装填装置の採用で装填手が不要となったため、搭乗員は砲塔右部に車長、同左部に砲手、車体前方右部に操縦手の3名になった。125mm砲の搭載や車体拡大によって、戦闘重量は41.5トンに増加した。85-II式、85-IIA式ではVR-36 水冷ディーゼル(800hp)と半自動式流体クラッチを採用したが、実地試験では良い成績を出せなかったこともあって、85-IIM式戦車では80/88式以来の12150ZLBW 水冷ディーゼル(730hp)に戻された。ただし出力が低下し重量は増加したものの、最高速度は85-II式と同じ57km/hとなっている。

85-IIM式戦車の最大の特徴は中国の戦車として初めて2A46 125mm滑腔砲とカセトカ自動装填装置を搭載したことである。これは中国が1980年代に某国より入手したT-72のリバースエンジニアリングから得た技術であり、その後の中国の戦車砲の基盤となる存在であった。俯仰角は-6〜14度。ブリーチを含む機械的部分と砲身を容易に分離可能で、迅速に砲身が交換出来るのが特徴。砲身はサーマルスリーブで保護されている。発射可能な砲弾はAPFSDS-T弾、HEAT弾、HEAT-FRAG弾などであり、この内APFSDS-T弾では、砲口初速1,730m/秒、最大射程2,500〜3,000m(夜間有効射程は850〜1,300m)、射距離2,000mで460mm厚の均質圧延鋼板(RHA)を貫徹できる。このほか、ロシア製の各種125mm砲弾をそのまま使用することも可能。なおパキスタンに輸出されたAPFSDS-T弾は弾芯のL/D比が20:1のタイプのこと。のちに中パ共同で劣化ウラン弾芯を持つAPFSDS-T弾が開発され、2,500mにおいて命中角60度で厚さ350〜400mmの均質圧延鋼板(RHA)を貫徹する能力を得た。125mm砲弾の搭載弾数は44発で、そのうち22発が車体中央底部のカセトカ自動装填装置に搭載されている。カセトカ自動装填装置は、砲塔直下の回転式トレイに弾頭と半燃焼式分離装薬を配置し、必要な弾種を機械式ラマーで拾い上げてブリーチに装填する方式で、弾種の選択、砲弾・装薬の装填、射撃等の一連の課程を完全に自動化しており1分間に6〜8発の射撃が可能。手動装填も可能であるが、その際には発射速度は2発/分に低下する。カセトカ自動装填装置の採用は、自動装填装置の実用化を早期に実現し、砲塔容積を拡大することなく主砲の口径増大を可能とした。反面、カセトカ自動装填装置の弱点である被弾時に致命的な二次爆発を誘発しやすい点、分離装薬式のため一体装薬式の西側120mmAPFSDS弾に比べて弾芯延長による貫通力増大が困難である等の欠点も引き継ぐことになった。

85-IIM式戦車の射撃統制システムは85式戦車のISFCS-212射撃統制システムを引き続き採用。ISFCS-212はイスラエル製FCSでNORINCOでライセンス生産されたものである。この射撃統制システムは、レーザーレンジファインダーと弾道コンピュータ、環境センサー(気温、風向きなど)、2軸砲安定装置、暗視装置、コントロールパネルなどをリンクさせたものである。ISFCS-212のTLR-2型レーザーレンジファインダーは、200mから3990m(5000mという説もある)の範囲での目標の射程計算が可能であり、測定数値は環境センサーの情報とともに自動的に弾道コンピュータに入力される。目標発見から射撃までの所要時間は6秒。システムの自動化が進んだことで行進間射撃(時速25km/h以内)も可能となった。射撃統制システムは車長用照準機にも連動しており、車長によるオーバーライドが可能。夜間暗視装置は中国第二世代の微光増幅式パッシブ式暗視装置を採用。

85-IIM式は車体前面と砲塔前部に複合装甲を搭載した。85-II式では砲塔の複合装甲ブロックは溶接されていたが、85-IIM式ではブロックと砲塔を6つのボルトで固定する方式に変更された。これは複合装甲ブロックの換装を容易にするための改良であると推測される。車体前面と砲塔前面の対弾性能は85-II式と変化はなく、対運動エネルギー弾でそれぞれ350mm/500mm、対成形炸薬弾で450mm/650mm。砲塔後半部分の籠型ラック、砲塔両側面の84式76mm発煙弾発射機(12基)、車体側面へのゴム製波型サイドスカートの装着なども85-II式を踏襲している。

85-IIM式の試作車両は1990年12月に完成し、1992年からは完成車両がパキスタンに送られて現地での運用試験が開始された。パキスタン陸軍は大規模な試験を実施し、試験で洗い出された不具合や改良点は中国側に伝えられ、実用化を目指した改良が加えられた。運用試験は1992年末まで行われ、それをフィードバックした所定の改修を加えた上で85-IIAP式主戦坦克(WZ-1228)として制式化された。85-IIAP式は85-IIM式の部分改修型であり基本性能については変更はない。主要な変更点としてはパキスタンでの戦車国産化計画で決定された事項通りに、新規開発のコンポーネントを半分として、残りは59式、69-IIMP式のコンポーネントをそれぞれ20%、30%流用するようにされたことである。これによって85-IIAP式は85-IIM式よりも調達価格の低減化に成功し、生産・整備面で既存の戦車インフラを活用することが可能となった。85-IIAP式は中国では試作車両以外の生産は行われず、専らパキスタンで生産が実施された。

(生産数の変遷)
1992年97両
1993年35両
1994年82両
1995年51両。ほか戦車回収車20両
1996年3両
(参照:Jane's Armour and Artillery 2005-2006)

パキスタン軍は85-IIAP式の夜間探知能力の向上のため、中国製の微光増幅式夜間暗視装置を英BAEシステムズ社アビオニクス部製の赤外線暗視装置(探知距離7000m、識別距離3000m)に換装するアップデートを実施している。

NORINCOでは、パキスタンでの実用後に中国軍でも85-IIM式が制式採用されることを期待していたが、中国軍では数量を試験的に導入するに留めて制式採用は見送られた。中国軍は85-IIM式の開発過程で得られた125mm滑腔砲やカセトカ自動装填装置、複合装甲などの各種ノウハウをもとに新型戦車を開発することを選択したためであり、この車両が後に96式戦車(88C式戦車/WZ-122H/ZTZ-88C)として制式採用されることになる。

85-IIAP式は初期のT-72に相当する能力の戦車であり、パキスタン軍にとっては1997年にウクライナからT-84戦車を導入するまでは最も有力な戦車でありインドとの戦力ギャップを埋める貴重な存在であった。また、長年の懸案であった戦車の国産化を(ライセンス生産という形ではあるが)実現した記念すべき車両でもあった。中国にとっても、海外パートナーとの共同開発によって開発リスクを分散しつつ各種戦車技術のノウハウを実践し蓄積するための貴重な機会となった。

本車の派生型としては通信能力を強化した指揮車型や戦車回収車型が存在するとも言われているが、その詳細については不明。

【2007年12月7日追記】
スーダン情勢に関するサイト"Sudaninside"によると、スーダン軍において85-IIM式戦車が「Al Bashier」戦車として採用されているとのこと。UPI Asia Onlineの2008年9月6日付の記事"China upgrading tanks for export to Africa"によると、スーダンの85-IIM式の採用は2001〜02年頃とされる。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)のSIPRI Arms Transfers Databaseによると、スーダンへの85-IIM式の輸出は2001年に決定し、2002年から2003年にかけて10両が輸出されたとしている。

【2008年9月7日追記】
UPI Asia Onlineの2008年9月6日付の記事"China upgrading tanks for export to Africa"によると、東アフリカのウガンダ共和国が85-IIM式戦車を少数調達したとのこと。85-IIM式は、ウガンダが最初に採用した中国製戦車となる。

【2013年3月7日追記】
NORINCOでは、96A式戦車の技術を85-IIM式にフィードバックすることで能力向上を図った輸出向け戦車VT-2シリーズを開発[15](VT-2については96A式の輸出版との説も有る[21][22])。2012年4月にマレーシアで開催されたDSA 2012兵器博覧会にVT-2の模型を出展した[21]。

VT-2は下記の様な4種類の派生型が存在する[15]。これはユーザーの様々な要望にこたえるためのオプションと思われる。
第一案基本型。85-MII式をベースとして、エンジンを12150ZAL(800馬力)に換装、合わせて動力系統をパワーパック化。125mm戦車砲と新型に換装、射撃統制装置を96A式と同一のものにする。
第二案第一案をベースとして、中国製FYシリーズ爆発反応装甲を装着して防御力を強化。
第三案第一案をベースとして、砲塔に改良を加え、車長用パノラマ独立サイトを装備。
第四案第三案をベースとして、FYシリーズ爆発反応装甲を装着して防御力を強化。

VT-2の重量は42.5t(爆発反応装甲装備型)。12150ZAL(800馬力)搭載の場合、出力重量比は19.7hp/t。最高速度は59km/h、航続距離は500km(内部燃料のみの数値と思われる)。VT-2には砲発射対戦車ミサイルの運用能力も付与される予定[22]。

VT-2は、既に生産ラインが確立している戦車に最新の技術を盛り込む事により、ライフサイクルコストの低減と高い性能を両立することが可能となったとしている[21]。既にパキスタン軍が自国の85-IIAP式に対してVT-2に準じたアップグレードを実施することを決定したとの事[15]。ただし、同国のVT-2アップグレードの具体的な中身については不明。

【参考資料】
[1]坦克装甲車両 2005年6月号「鉄騎従這里騰飛-首款国産第二代主戦坦克ZTZ80」(坦克装甲車両雑誌社)
[2]  同上   2008年3月号「"中国創造"又譜新篇章(下)-我国研制的90-II式外貿主戦坦克」
[3]現代艦船-軍事力量 2005年増刊「戦獅双勇-従85IIAP到MBT-2000」(現代艦船出版社)
[4]世界航空航天博覧 第111期2005年1月号「多元視点-俄羅斯人看中国坦克発展」(世界航空航天博覧雑誌社)
[5]世界武器報道-火力分析 2005年7月号「亜洲第三代主戦坦克的発展歴程」(北岳文芸出版社)
[6]月刊グランドパワー 2004年9月号「中国戦車開発史(4)」(古是三春/ガリレオ出版)
[7]Jane's Armour and Artillery 2005-2006

[8]Chinese Defence Today
[9]Global Security
[10]SIPRI「SIPRI Arms Transfers Database」
[11]Sudaninside "Military Industry Corporation"
[12]UPI Asia Online "China upgrading tanks for export to Africa"(Andrei Chang/2008年9月5日)
[13]戦車研究所
[14]坦克與装甲車両
[15]MDC軍武狂人夢「85/96式主戰坦克」
[16]中国武器大全「中国坦克族譜」
[17]環球展望「中国坦克専家談”外貿”坦克発展」
[18]新政期課程網「中国主力戦車」
[19]紅狐狸軍事天地「関于中国坦克発展的蛛絲馬述」
[20]新浪軍事「中国59式到88式主戦坦克的技術発展」
[21]Army Recognition「The Chinese Defence Company NORINCO unveils new main battle tank VT2 at DSA 2012」(2012年4月18日)
[22]平可夫「更多96A主戦坦克細節」(『漢和防務評論』2012年6月号)35ページ

【関連項目】
85-II式戦車(風暴II型/WZ-1227F2)
85-III式戦車

中国陸軍

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