日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼86式歩兵戦闘車(ZBD-86/WZ-501)


▼海軍陸戦隊向けに洋上航行性能を向上させた86B式歩兵戦闘車(ZBD-86B)



▼86A式歩兵戦闘車。GCTWM(ZPT-99)砲塔を搭載した近代化改修型


性能緒元(86式歩兵戦闘車)
重量13.3トン
全長6.74m
全幅2.97m
全高1.92m
エンジン6V150 水冷ディーゼル 300hp
最高速度65km/h
浮航速度8km/h
航続距離510km
武装WZ-312(ソ連名2A28)73mm低圧砲×1(40発)
 HJ-73対戦車ミサイル(紅箭73)発射機×1(5発)
 7.62mm機関銃×1(2000発)
装甲26mm(砲塔前面)
乗員3名(車長、操縦手、砲手)+8名

86式歩兵戦闘車(ZBD-86/WZ-501)は旧ソ連の歩兵戦闘車BMP-1の中国製コピーである。世界に先駆けた歩兵戦闘車BMP-1の開発は1964年からソ連のチェリャビンスク・トラクター工場で行われた[1][3]。1966年に制式採用され、その後幾つかのマイナーチェンジを受けつつ1983年まで生産が行われ、東側を代表する歩兵戦闘車の地位を占めた。

【開発経緯】
中国は1978年から79年にかけてアフリカもしくは中東某国(エジプト?)から数輌のBMP-1を極秘に入手した[7]。BMP-1の入手後、同車を基にして中国第一世代の歩兵戦闘車を開発する方針が諸関係機関で開始された。リバースエンジニアリングによる完全コピー、たたき台にして独自改良、完全新設計の3案が検討されたが、後二つは開発リスクや改良作業による開発期間の延長が見込まれたので、第一の案が採用されることとなった[7]。BMP-1の製造技術は、当時の中国の軍事工業にとっては水準の高いものでリバースエンジニアリングによる生産には解決すべき課題が多々あったが、結果として装甲戦闘車両製造技術を向上させる貴重な経験となった[7]。リバースエンジニアリング作業は北方車輌廠(現在の北京北方車輌集団有限公司)で実施され、1979年8月、当時の第五機械工業部(後の兵器工業部)が主催した会議において製造代号「WZ-501」が付与され、湖南省湘潭にある国営江麓機械廠(現在の江麓機電集団有限公司)が開発を担当することとなった。1980年4月に設計案が政府機関の承認を受けて試作車両の製造に着手した[7]。設計案は1980年4月末に正式に関係機関の承認を受け、試作車両の製造が開始された[7]。試作車両による試験は1980年末に開始され、実用化に向けた長期の試験と改良作業が続けられた。1984年には、再度アフリカ某国より二輌のBMP-1がサンプルとして入手され、試作コンポーネントの問題解決の模範として供された[7]。BMP-1のコピー生産の為の開発作業は1986年に完了し、1987年4月3日に国務院、中央軍事委員会常規軍工産品定型委員会がWZ-501設計案を批准して、「1986式履帯歩兵戦車(ZBD-86)」の制式名称が付与された[7]。同年には少数生産が開始され10輌を生産、翌年には部隊での運用が開始され肯定的な評価を得た[7]86式IFVはこれまでに約1000両が生産されたと推測されている[2]。

86式は制式化の時点では中国最良の歩兵戦闘車だったが、原型となったBMP-1は1973年の第四次中東戦争や1980年代のアフガニスタン戦争、1991年の湾岸戦争などで攻撃力や防禦性能、居住性などに多くの問題を抱えている事が既に判明していた。これを受けてメーカーである江麓機電集団有限公司は、86式IFVの改良作業に着手した。まず、火力の強化が図られ、陸軍や海軍の37mm対空機関砲の搭載が検討されたが、性能不足や重量過大などの問題から改良案は放棄された。これに替わりスイスのエリコン・コントラバス社(現在はラインメタル社)製35mm機関砲(90式35mm連装機関砲(GDF002)として国産化)や30mm機関砲の搭載が検討された[7]。国内での研究開発と並行して、当時関係を改善させていた西側諸国からの技術導入を図り、86式IFVのシャーシに米FMC社製一人用砲塔(エリコンKBA-B02型25mm機関砲搭載)を装備したNFV-1歩兵戦闘車の共同開発を行っている[8]。さらにNFV-1と並行する形で、1988年からは背負い式一人用砲塔に国産25mm機関砲を搭載した86-1式歩兵戦闘車(WZ-501A1)を開発するなど、さまざまな改良型開発の試みが行われた。

諸般の事情からこれらの車両はいずれも量産化されるには至らず、中国は冷戦終結後に関係を改善したロシアからの技術導入を行って第二世代の歩兵戦闘車である04式歩兵戦闘車(ZBD-97/ZBD-04/WZ-502)を開発することになった。21世紀に入ると、量産された86式IFVには新型のGCTWM/ZPT-99砲塔(30mm機関砲とHJ-73対戦車ミサイルを装備、第二世代の微光増幅式暗視装置を搭載[6])に換装する近代化改装を施して能力向上が図られている。改修後の86式IFVの制式名称は、86A式(ZBD-86A)と改称されている[8][9]。

【性能】
86式IFV(BMP-1)は比較的大型の船型車体を持ち、その前部右側に6V150ディーゼル・エンジン(このエンジンはオリジナルのBMP-1が搭載するUTD-20より出力が大きい)が搭載されている。その左側に操縦手席があり、操縦装置が配置されている。この操縦装置はバイク型のハンドルになっており、油圧でバックアップされて操作は極めて容易である。履帯はゴムブッシュ付のダブルピン結合式で、履帯寿命を延ばすと共に効率的な動力伝達を実現している。操縦席の後方には旋回式キューポラを持つ車長席が設けられている。この車長席はペリスコープ3個と固有の赤外線サーチライトを持っているが、砲塔が右後方にあるため360度全周の視界は確保されていない。さらに車長用ハッチのサーチライトが干渉するので、砲塔の右前部分の一部は死角になって砲撃が出来ない欠点が存在した[8]。(この問題は改良型で、車長用ハッチの暗視装置をサーチライトを必要としない微光増幅式のWG538に換装することで解決を見た[8]。)

車長席後方には1人用の砲塔がある。砲塔の旋回と73mm低圧砲(ソ連の正式名称は2A28。中国での製造代号はWZ-312)、同軸の7.62mm機関銃の俯仰は電動・手動併用だ。73mm低圧砲の装填は自動式で、砲塔バスケットには砲弾40発入り(HEAT弾20発、HE弾20発)のマガジンが配置されている。また7.62mm機関銃の弾薬もひとつの給弾ベルトにリンクされて弾薬ボックスに収められている。73mm低圧砲は対戦車擲弾発射機のようなもので、その発射原理はRPG-7対戦車無反動砲とほぼ同じである。HEAT擲弾の後部に付いている発射薬で撃ち出し、直後に4枚の安定翼が展開、擲弾底部のロケットモーターが点火され700m/sまで加速し目標に向かう。HEAT弾の最大射程は約1,300m。この73mm砲は俯角がほとんど取れないので、自車より低い位置にいる目標には砲を照準する事が出来ない。また砲塔がスタビライザーで安定化されていないため、走行中に発射する事もほぼ不可能だ。主砲上にはHJ-73対戦車ミサイル(紅箭73)の発射レールが装備されている。この対戦車ミサイルは停止中でないと発射する事ができない。再装填は、防盾後方に設けられている再装填用ハッチから行い、車外に出ることなく約1分でミサイルの再装填を行うことが可能。HJ-73の初期型はジョイスティック誘導を採用していたが、狭い砲塔内で照準器を除きながら照準をつけてミサイルを誘導するのは熟練が要求された。HJ-73のコストが当時としては高かったこともあって、86式IFVが実際の演習でHJ-73を発射することは少なかったとのこと[9]。固有の武装のほかに、搭乗歩兵用の武器として40仟仞鐚屮蹈吋奪函1、手榴弾10発を搭載している。このほか、必要に応じてHN-5携帯対空ミサイル(紅纓5/HY-5/9K32ストレラ2)を搭載するスペースを有している。

砲塔より後の兵員室は中央を燃料タンクとバッテリーボックスで仕切られ、その左右両側に各4名分ずつの歩兵席が設けられている。各席には固有のペリスコープと射撃ポートが装備されている。左右の一番前の席の射撃ポートは7.62mm機関銃用になっており、分隊支援機関銃を使用して弾幕を張ることができる。86式の開発で得られた射撃ポートの技術は63式APC85式APC、そしてその後の中国IFV開発に生かされることとなった[7]。86式(の元になったBMP-1は)は核戦争下での乗車戦闘を前提に開発されたのでNBC防護装置も搭載しているが、これは中国のAPC/IFVでは初のNBC防護装置搭載車輌となった[9]。自動消化装置、煙幕展開装置などもBMP-1を踏襲した装備が搭載されている。車体は溶接防弾鋼板で構成されているが、装甲板は極めて薄い。そのため車体右側のエンジンルームや後部の燃料タンクは簡単に発火する。また車高が2mと低いので兵員室が異常に狭く、乗車している歩兵は這うようにして後部ハッチまで進まないと下車できない。車体は水密構造だがウォータージェットは装備されておらず、履帯を回転させる事で浮航する。これは主に内陸の渡河作戦を前提にしたもので、洋上での水上航行は困難である。そのため、海軍陸戦隊向けに水上航行性能を向上させた86B式IFVが開発されている。86B式では、車体後部に取り付けた船外機によって推進力を得る方式が採用されており、水上浮航速度を向上させている。洋上航行に備えて車体の前後には浮力確保のため着脱式のフロートが装着され、波除け用のトリムベーン拡大などの改造が施されている[6]。海軍陸戦隊には86式と86B式の双方が配備されているが、未改修の86式も船体後部に航行性改善のため船外機を取り付けている事例が確認されている。

86式IFVは第38軍集団の機械化歩兵師団など主に北方の陸軍部隊に集中配備されているが、例外的に水上航行性能を強化した86B式IFVが中国南部の広東省の部隊で運用されている。また、86式IFVは、イラン、イラク、ミャンマー、スリランカへの輸出に成功している[2]。

86式歩兵戦闘車ZBD-86WZ-501BMP-1のコピー。基本型。
86B式歩兵戦闘車ZBD-86B海軍陸戦隊向けに開発生産された86式の水上航行性改善型。車体後部に船外機を装着、車体の前後に浮力確保のためフロートを装着、トリムベーンの大型化などの改良が行われている。ATMはHJ-73Cに変更。海軍陸戦隊向けに数百両が製造された[10]
 WZ-503輸出向けに開発された砲塔を外して12.7mm重機関銃を装備した装甲兵員輸送車型。
 WZ-504HJ73B対戦車ミサイルの4連装発射機を装備した戦車駆逐型。試作のみ。
  WZ-504とは異なる形式の戦車駆逐車。こちらも試作のみ。
 86-I式歩兵戦闘車WZ-501A125mm機関砲と同軸7.62mm機銃を装備したWA-314T型1人用砲塔搭載型。25mm機関砲の威力不足やATM発射能力が無いことなどを理由に試作に留まる[8]。
86A式歩兵戦闘車ZBD-86A  30mm機関砲と、誘導方式を改良したHJ-73C対戦車ミサイルを搭載した新型砲塔(GCTWM)テスト車。2000年に86A式履帯歩兵戦車(ZBD-86A)として制式化され、既存の車両もGCTWM砲塔に換装している。車体重量は14.8tに増加。車体後部には86B式と同じく外装式の船外機を搭載することが可能で、水上速力は12km/h。
 NFV-11980年代にアメリカと共同開発した25mm機関砲搭載型。試作のみ。
NBC偵察車 86式IFVベースのNBC偵察車。
装甲観測車  86式IFVベースの装甲観測車型。
自走対戦車ミサイル車輌  HJ-8対戦車ミサイル(紅箭8)を搭載するプラン。輸出向けの構想で、試作には至らず[11]
VN-6型歩兵戦闘車 86A式IFVの輸出名称。GCTWM(ZPT-99)砲塔だけを提供し、既存のBMP-Iや86式IFVに改造なしに搭載する事も可能[12]。
VN-6A型歩兵戦闘車 VN-6のエンジン換装タイプ。エンジンを独ドゥーツAG社製BFM1015型ディーゼルエンジンに変更し、合わせて駆動系統のアップグレードを実施。シャーシに大規模な改造を加えることなく機動力、整備性、操縦性を向上させられるとの事[12]。

【参考資料】
[1]戦車名鑑-現用編-(後藤仁、伊吹竜太郎、真出好一/株式会社コーエー)
[2]Chinese Defence Today「Type 86 Infantry Fighting Vehicle」
[3]戦車研究室
[4]坦克與装甲車両
[5]新浪網 「中国昇級WZ-501歩兵戦車、換装弾炮合一砲塔」
[6]MDC軍武狂人夢「86式裝甲歩兵戦闘車」
[7]江麓「測絵模倣製BMP-1−86式歩戦研製」『兵器』2016年12月号(総211期)52〜58ページ
[8]王笑夢「炮塔武器小口径化的先駆者−中美合作NFV-1歩兵戦車及其発展影響」『坦克装甲車輌』2017年第5期 9〜14ページ
[9]寒氷「測倣的極限−86式歩戦的優点與不足」『兵器』2016年12月号(総211期)62〜65ページ
[10]雨湖「成功的改進−86A、86B式歩兵戦車的研製」『兵器』2016年12月号(総211期)66〜70ページ
[11]袁風・王笑夢「開出国門−86歩戦衍生的外貿型号」『兵器』2016年12月号(総211期)71〜74ページ
[12]江麓公司 寄稿、筆嘯 編集「江麓機電集団有限公司主要外貿産品介紹」『現代兵器』2016.09 30〜37ページ

【関連項目】
86式歩兵戦闘車の派生型

中国陸軍

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