日本の周辺国が装備する兵器のデータベース



▼自走ロケット砲と指揮車輌(左端)。

▼再装填車輌。



性能緒元(自走ロケット発射機)
重量21.0t(シャーシのみの重量)
全長 
全幅 
全高 
エンジン 
最高速度60km/h
航続距離650km
渡渉深度1.1m
武装300mm10連装ロケット発射機
乗員5名

性能緒元(ロケット弾)
直径301mm
全長(A100-111/A100-311)7,276mm/7,100mm
重量(A100-111/A100-311)845kg/835kg
弾頭重量200〜250kg
弾頭種類クラスター弾、榴弾、対戦車/対人子弾など
射程(A100-111/A100-311)40〜80km/60〜120km

96式自走ロケット砲(PHL-96/A-100)は露スパルフ研究生産共同体製の9K58スメルチに非常によく似た多連装ロケット・システムで、中国国家航天局(China National Space Administration:CNSA)の下部機関である中国航天科工集団公司(China Aerspace Science & Industry Corp.:CASIC)の傘下にある北京の中国航天科技集団第一研究院(別名:中国遠載火箭技術研究院:China Academy of Launch Vehicle Technology:CALT。以下では航天科技一院と略す)によって開発された[2]。

【開発経緯〜新型大口径多連装ロケット砲の競争開発】
96式の開発は1980年代末にまでさかのぼる。1980年代中期、中国では西側諸国との関係改善により得られた各種技術をベースとして、西暦2000年前後の時期に必要とされる装備を開発する一連の計画が策定された[8]。陸上部隊の砲兵部門では、射程20km台の122mm榴弾砲、射程40km台の155mmカノン/榴弾砲、敵後方の打撃が可能な短距離弾道ミサイルの開発が重点目標として定められた[8]。これらの計画は、後に86式/96式122mm榴弾砲(W-86/PL-96/D-30)PLL-01 155mm榴弾砲(WA-021)DF-15短距離弾道ミサイル(東風15/M-9/CSS-6)DF-11短距離弾道ミサイル(東風11/M-11/CSS-7)として結実することになる。この計画に対して、155mmカノン/榴弾砲と短距離弾道ミサイルの間が空白になっているとの指摘がなされた結果、新たに射程60km超の大口径多連装ロケット砲を開発することが計画に盛り込まれることになった[8]。

従来であれば、軍が提示した要求に基づき装備調達関連機関が開発を担当する機関・部署を指名して研究開発を実施させるトップダウン的開発手順を経るはずであったが、小平による改革開放政策に伴い、兵器開発部門にも競争原理が導入され開発のスタイルは一新された[8]。具体的には、軍と装備調達部門は要求項目を提示、これに対して各研究開発部門が開発案を提案して有望と思われるものを試作させ評価試験を行った上で優秀な成果を収めたものを採用するという手法である。競争試作に敗れた装備についても、輸出向け装備として開発を継続させて国外での採用を目指すことが奨励された[8]。

数年間の準備期間を経て、1980年代末には新型大口径多連装ロケット砲の開発計画が正式に始動することになった。この開発計画に応じたのは、長年火砲開発に携わってきた東北127廠、四川航天科工七院(後の四川航天工業総公司)、通常兵器開発部門の弾箭武器研究所、そして航天科技一院の計四設計局であった[8]。

東北127廠では83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)の開発経験を生かして、泰安8×8重野戦トラックに8連装発射機を搭載、合計8発の273mmロケット弾を搭載するという案を纏めた[8]。ロケット弾は装薬の改良によって最大射程80km超と、WM-40の倍以上の射程を確保することが目指されていた。

四川航天科工七院の案は、完全新規設計の口径302mm、射程100kmのロケットを開発するというものであった[8]。これを四連装ロケット発射機に搭載して鉄馬6×6野戦トラックに搭載するとされた。

弾箭武器研究所と航天科技一院では、各国の大口径多連装ロケットの動向を調査、特に注目されたのが、アメリカのM-270 227mm多連装ロケット・システム(MLRS)とソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムであった。両者とも、今後の大口径多連装ロケット砲はロケット弾自体の誘導システムの高度化による命中精度の向上が不可欠になるとの分析結果に達した。そして、弾箭武器研究所と航天科技二院ではそれぞれ別個にソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムに関する調査・分析を進め、スメルチを手本として誘導システムの高度化に重点を置いた大口径多連装ロケット・システムの設計案を提示するに至った[1]。

これら4つの開発案について各関係機関による検討が行われた。その結果、システムの発展性において、弾箭武器研究所と航天科技一院の案が高く評価され、両者に対して競争試作段階への移行が認められた。不採用となった東北127廠と四川航天科工七院の開発案は輸出向け装備として開発が継続されることになり、東北127廠案はWM-80 273mm8連装自走ロケット砲、四川航天工業総公司案はWS-1 302mm4連装自走ロケット砲(衛士1)として実用化されることになる。

【冷戦終結後の状況変化】
弾箭武器研究所と航天科技一院の両案が競争試作に移行したが、これに大きな影響を与えることになったのは冷戦の終結と、それに伴うソ連/ロシアと中国との関係改善であった。中国はロシアの進んだ兵器技術を導入して中国軍の装備近代化を一挙に進める方針を採用し、ロシアから積極的に兵器の輸入や技術導入を進めるようになった[8]。1993年4月に締結されたロシアからの包括的な兵器輸入契約において、9K58スメルチ多連装ロケット・システムについても輸入許可を得ることに成功。1997年には、中国国営機器輸出入公司(CPMIEC)を通じて少数のスメルチとロケット弾をロシアから極秘裏に受け取っている[2]。

弾箭武器研究所と航天科技一院の開発案では、スメルチを参考にそれに相当する多連装ロケット・システムを開発する算段であったが、今やロシアから直接現物を調達し、技術支援を受ける形でスメルチを国産化することが可能となった。この状況を受けて、弾箭武器研究所では開発計画を大きく変更し、当初案をベースとしつつ、ロシアから得られた各種技術を盛り込んだ「中国版スメルチ」を開発するという方針を採用、これが後の03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)として結実する[8]。

これに対して航天科技一院は、進展中の多連装ロケット・システムの開発をそのまま継続する方針を採った[8]。これは、開発中のロケットの飛翔制御システムやロケット技術においてスメルチと遜色の無い性能を確保できるとの見通しがあったことが背景にあった[8][9]。

弾箭武器研究所のロシアからの技術導入やそれを設計に反映させる作業はかなりの手間を要したことは間違いなく、同研究所の自走ロケット砲の制式化は2003年までずれ込むことになった。それに対して、当初案通りの開発を進めた航天科技一院では開発は比較的順調に進展し、2000年には中国精密機械進出口公司(CPMICE)によりA-100 300mm10連装ロケット・システムとして国際市場向けにその存在を公表[2]。さらに、2002年には評価試験と実地運用を兼ねて、広東省広州の第1砲兵師団への配備が開始された[2]。

しかし配備の翌年、弾箭武器研究所が開発した自走ロケット砲システムが、03式300mm12連装ロケット砲として中国軍に制式採用され、こちらが中国軍の主力大口径多連装ロケット砲として配備されることになったため、航天科技一院の96式300mm10連装自走ロケット砲の生産は少数で終了した[8]。

96式300mm10連装自走ロケット砲が、03式300mm12連装自走ロケット砲に敗れた原因の1つとしては、独自開発のロケットの飛翔制御システムの実用化に手間取ったことが挙げられる[8]。2004年までには問題の解消に漕ぎ着けたが、既に03式が制式化されたこともあり軍の決定を覆すには至らなかった[8]。

【性能】
96式自走ロケット砲は直径300mmの大型ロケット弾を10発搭載しており、その射程距離は標準型のA100-111型ロケット弾で40〜80km、射程を延伸したA100-311型ロケット弾で60〜120kmに達する[11]。ロケットの全長は7.267m、直径30cm、発射重量840kg(弾頭重量235kgの場合)。ロケット弾には200〜250kgまでの各種弾頭を搭載可能で、集束子弾破片弾頭、対戦車/対人子弾収納弾頭等が用意されている。搭載弾頭は目標に対してそれぞれ最適のタイミングでばら撒かれるように設定されている。集束子弾破片弾頭は広域目標の打撃に使用され、約500個の子弾を内蔵している[2][9]。対戦車/対人子弾収納弾頭に搭載された約子弾は約50mmの装甲を貫通する能力を有しており、兵員殺傷半径は7m。ロケット1発で60〜140平方メートルの区域を制圧可能[9]。200〜250kgという弾頭重量はアメリカのMLRSに使われているロケット弾の弾頭重量のほぼ2倍にあたる。

ロケット弾は発射後回転して飛翔し、弾体後部に折り畳まれて収納されていたフィンを展開する事によって軌道を安定させる。ロケット弾には飛翔制御システムが内蔵されており、発射後3秒間に事前にプログラミングされた軌道と実際の軌道の偏差を検知し、ガスを噴射する事で軌道修正を行う。これにより命中精度は在来型無誘導ロケット弾の3倍に高まったとされる。これは96式の開発の手本となったスメルチにも採用されている技術であった。ただし、ロケット弾の飛翔制御装置は技術的に難度が高く、96式の初期量産型では無誘導型のロケットが使用されていた。飛翔制御システムの実用化に成功するのは2004年以降であり、これによって96式は設計通りの命中精度を確保できるようになった[8]。96式は搭載している全弾(10発)を60秒で撃ち尽くす事が出来る。再装填にかかる時間は約20分。

ロケット弾を搭載する8×8車輌は泰安特種車輌公司が開発したTAS-5380八輪大形トラックで、車体重量は21トン、最大積載量22トン。TAS-5380は八輪駆動により極めて良好なクロスカントリー性能を有しており、水深1.1mまでの渡渉能力を持つ。ロケット弾発射時に車体を安定させるため、両側面に4つの油圧ジャッキを装備している。車輪はパワーステアリングと、地形に合うように調整できる中央タイヤ圧制御システムを持っている。また射撃精度を増すためにGPS等の精密位置測定システムと環境センサーなどから成る射撃管制システムを装備している。航続距離は約650km。

96式自走ロケット砲の部隊編制は、ロケット弾10発を搭載した発射車輌6〜9輌、再装填車輌6〜9輌、指揮車、気象観測車から構成されるロケット砲連(中隊に相当)を最小単位としている[10][11]。指揮車は衛星航法支援システムと気象観測システム、統合射撃指揮・管制システムを搭載している。指揮統制は、まずロケット連隊の司令部が偵察部隊や上級司令部から敵情報を受けてコンピューターによって発射諸元を算出し、傘下のロケット大隊の即応状態、残弾量を見て目標破壊方法と投射弾量を決定する。この決定は通信回線を通じて大隊に送られ、大隊では自動気象測定システムからのデータを使って気象情報が準備される。大隊司令部は各中隊に攻撃目標の指定と各種データを伝達し、射撃開始の指示を行う。これらのやり取りは高度に自動化されており、衛星通信、デジタル通信で行われる。各中隊の自走ロケット砲は各種諸元を元にして90秒以内に射撃体勢を整える[9]。96式は、陣地展開から6分後には射撃が可能となり、ロケット発射後は敵砲兵の対砲兵射撃を避けるため3分以内に陣地から移動する[9]。一個ロケット砲中隊は、中隊射撃によって80発から120発のロケット弾を発射し、4万から6万発に上る子弾を敵陣に投射する事が可能[10]。

【不採用後の展開】
96式の中国軍への配備は限定的なもので終了したが、CPMIECは96式に「A-100(もしくはA100)」の輸出名称を付与して各国への売り込みを行っており、2007年にはパキスタンからの発注を得ることに成功した[5]。これは一個大隊規模の購入であり、評価試験を行った上で追加購入の可能性もあるとの事。パキスタンがA-100を購入したのは、隣国インドがロシアから9K58スメルチ多連装ロケットを調達することへの対抗措置である。その後、パキスタンでは中国との間でA-100のライセンス生産に向けた交渉を実施している事が報じられた[6]。「漢和防務評論」の取材によると、タンザニアも少数のA-100の調達を行ったとされる [7]。また、CASICでは、96式/A-100の技術をベースとして射程延長型のA-200 300mm8連装自走ロケット砲を開発している。

2010年3月には中国国内の防衛関連企業の再編に伴い、CASICと同じくCNSAの下部機関である中国航天科技集団公司(CASC)の傘下企業として、兵器の輸出を主な業務とする中国航天長征国際貿易有限公司(ALIT)が設立。CASICやCASCなどの各種兵器の輸出業務に携わることとなり、A-100についてもALITが各国への売込みを担当する様になった[12][13]。ただし、既に契約済みのユーザーについては引き続きCPMIECが担当することになっている[13]。

【参考資料】
[1]江畑謙介「中国にコピーされたロシア製多連装ロケット弾発射システム―最強の砲兵武器スメルシュ」(『軍事研究』2000年8月号/株ジャパン・ミリタリー・レビュー)110〜122頁。
[2]Chinese Defense Today「A-100 300mm Multiple Launch Rocket System 」
[3]Kojii.net
[4]Jane's Defence Weekly
[5]UPI Asia.com「Pakistan imports Chinese rocket launchers 」(Andrei Chang/2008年9月25日)
[6]「巴基斯坦準備生産A100」(『漢和防務評論』2009年6月号/No.56)26頁
[7]「中国向坦桑尼亜出口A100多功能火箭炮」(『漢和防務評論』2009年6月号/No.56)46頁
[8]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6〜17頁
[9]MDC軍武狂人夢「A-100 300mm卡車底盤多管火箭系統」
[10]坦克與装甲車両「中国A-100式300mm自走火箭炮」
[11]腾讯网「A100远程多管火箭弹系列可有效覆盖地面目标」(2010年11月22日)
[12]平可夫「中国向泰国転移WS1B技術」(『漢和防務評論』2010年9月号/No.71)26頁
[13]平可夫「中国航天長征国際貿易有限公司正式亮相」(『漢和防務評論』2010年9月号/No.71)27頁

【関連事項】
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