日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼KS-1(上)と改良型のKS-1A(下)のミサイル本体。翼端の形状が異なっているのが分かる。

▼KS-1A。牽引式発射機とSJ-202フェイズド・アレイ・レーダー。

▼車載化されたKS-1Aミサイル発射機。

▼KS-1管制用のSJ-202フェイズド・アレイ・レーダーの模型(左)とKS-1AのHT-233フェイズド・アレイ・レーダー(右)。

▼KS-1AのH-200フェイズド・アレイ・レーダー。

▼KS-1Aの車載式レーダーであるSJ-231(左)と指揮管制車(右)。

▼別のシャーシに搭載されたSJ-231。

▼2007年にその存在が明らかにされたKS-1Aの改良型。ミサイルを発射筒に収納している。


KS-1性能緒元
全長5.6m
直径0.40m
翼長1.2m
重量900kg
弾頭重量100kg
弾頭破片効果榴弾(HE-FRAG )
推進装置二重推力固体推進薬ロケットモーター
最大速度マッハ4
射程7,000〜42,000m
射高500〜25,000m
誘導方式無線指令

KS-1A性能緒元
全長5.644m
直径0.40m
翼長1.2m
重量866kg
弾頭破片効果榴弾(HE-FRAG )
推進装置二重推力固体推進薬ロケットモーター
最大速度マッハ4
射程7,000〜50,000m
射高500〜27,000m
誘導方式無線指令

【開発経緯】
HQ-12地対空ミサイル・システム(紅旗12/KS-1/凱山一号)は、長らく中国の地対空ミサイルの主力の地位を占めてきたHQ-2(紅旗2/S-75/SA-2)対空ミサイル・システムの後継となるべく、1980年代中頃から開発が開始された中距離地対空ミサイルである。開発を担当したのは、元来061基地と呼称されていた中国江南航天工業集団公司[1]。その存在が公にされたのは、1991年のパリ航空ショーで、KS-1(凱山一号)の名称でその模型が展示された。

KS-1は、1989年に最初の試射を実施、1994年に開発を完了。中国軍への配備が1996年から始まったとの情報もあるが、本格的な配備は行われず中国軍での運用は実験的なものに留まった模様。この時点では、中国軍での制式名称は明らかにはされておらず、輸出名であるKS-1の名前のみが知られていた。KS-1の輸出は中国精密機械進出口公司(CPMIEC)が窓口となり、各国の兵器ショーでの展示を行ったが採用国は現れなかった。当初計画されていたHQ-2の後継となることは無く、HQ-2はさらなる改良を行うことで延命が図られ、またロシアからS-300PMU地対空ミサイルを導入することとなった。

その後、1990年代後半になってKS-1の改良型が開発されていることが明らかになった[2]。改良型のKS-1Aは、2001年からCPMIECによって各国への売込みが開始されたが、2008年段階では海外の採用国は現れていない。KS-1/KS-1Aは輸出用名称であり中国軍での運用の有無は未確認であったが、2007年の人民解放軍80周年記念展覧会では、KS-1に中国軍の制式名称「HQ-12」が付与されていることが明らかになった[3]。2008年になって、雲南省の省都昆明の近郊にHQ-12のミサイル陣地があることが衛星写真で確認されている[4]。その後、四川省の成都、広西省湛江市にもHQ-12の配備が行われており、主に中国西南部のHQ-2やHQ-64を配備していた防空ミサイル部隊の更新装備として調達が進められている[7]。CPMIECは引き続きKS-1Aの各国への売込みを図られていたが、最初の外国ユーザーとしてミャンマーが 4セット分のKS-1A(1セットごとにミサイル発射機×4、ミサイル24発を装備)の配備を決定し2015年から引渡しが開始された[8]。その後、トルクメニスタンがKS-1C、タイがKS-1CMを導入し、3カ国への輸出が実現している[9]。

【性能】
KS-1は、アメリカのMIM-23ホークやロシアのBuk-M1-2等と同規模の中距離地対空ミサイルで、中高度から飛来する航空機やヘリコプター、UAV、空対地ミサイルなどを迎撃することを想定している。戦術弾道ミサイルの迎撃能力は有していない模様。

ミサイル本体のサイズはKS-1が全長5.6m、直径0.40m、翼長1.2m、重量900kg、改良型のKS-1Aでは全長が僅かに延長(5.644m)されているが、重量は866kgと44kg軽量化されている。KS-1/KS-1Aともに、ミサイル中部に4枚のデルタ型の安定翼、後部に操縦翼4枚を装備しているが、KS-1Aでは主翼と安定翼の翼端の切り落とし部分が拡大されている点が識別箇所。ミサイルの弾頭部には破片効果榴弾(HE-FRAG)が装備されており、近接信管と着発信管が用意されている。ミサイルの推進装置は二重推力の固体推進薬ロケットモーターで、射程700〜42,000m、射高500〜25,000m、最大速度はマッハ4、最大加速度20Gで加速度5Gまでの目標を迎撃可能。HQ-2の推進装置は有毒で腐食性のある液体推進薬ロケットモーターであり、推進薬を発射直前にミサイルに注入する必要があったが、KS-1は推進薬を入れた状態での保管が可能となっており、取り扱いや即応性が改善されている。KS-1Aでは、射程と射高の延長が行われており、最大射程は50,000m、最大射高は27,000mへと性能向上を実現している。

KS-1の誘導方式はHQ-2と同じ無線指令方式を採用している。1990年代に登場した同クラスの対空ミサイルでは、中間誘導に慣性誘導システムを採用するケースが多いが、KS-1/KS-1Aは全誘導過程を無線誘導方式に依存している。これは、ミサイルの射程延伸には不利であり敵側の妨害電波などに対する脆弱性が生じる可能性もある。

KS-1は連装式のミサイル発射機を使用しているが、このミサイル発射機はHQ-2のものに良く似た外観であり、設計を流用したことが推測される。発射機は当初地上設置式であったが、改良型のKS-1Aでは地上設置式以外に、6×6野戦トラックに連装発射機を搭載した自走式発射機が登場した。KS-1/KS-1A共にミサイルを外装式に搭載する形式のため、温度や湿度の影響を受けやすいことが指摘されていたが、ミサイルを発射筒に収納したタイプも開発されており、トルクメニスタンへの輸出型で採用された[11]。2013年には射程を延伸した改良型KS-1Cが輸出市場向けに公開された[10]。KS-1Cは最大射程を70kmに、最大射高を27kmに延伸している。

【システム構成】
KS-1防空ミサイル中隊は、ミサイル発射機×4(ミサイル8発搭載)、ミサイル誘導用フェイズド・アレイ・レーダー×1、指揮管制車両、予備ミサイル搭載車(合計18発)、検査・整備車両から構成される。

フェイズド・アレイ・レーダーは、目標の探知からミサイルの誘導までを掌るKS-1ミサイル・システムの中核となる装備である。KS-1の場合は、SJ-202もしくはSJ-212フェイズド・アレイ・レーダーを採用している。このレーダーは、システム一式を車両に搭載した自走型と、レーダーシステムと牽引用車両が別になっている牽引型の2種類が存在する。SJ-202は中国国産のフェイズド・アレイ・レーダーであり、Gバンドの周波数を使用しており、電子攻撃に対して優れた抗堪性を持つとされている。SJ-202は、最大探知距離115km、最大追尾距離80km、ミサイルの最大誘導距離50kmの能力を有しており、最大6発のKS-1ミサイルを3つの対空目標に対して同時に指向させることが出来る。撃墜確率を高めるために、1目標に対して2発のミサイルが使用される設定になっている。SJ-202は、KS-1だけではなくHQ-2ミサイルの誘導にも使用することが出来るとされている。

改良型のKS-1A/HQ-12では、KS-1に比べてミサイルの射程を延伸させ、システムの反応速度やECCM(electronic counter countermeasures)能力を向上させたとの事。また、ミサイル発射機とレーダーが車載化されており、戦術機動性の向上が図られている。

一個中隊の編成は、牽引式もしくは自走式ミサイル発射機×6(ミサイル12発)、フェイズド・アレイ・レーダー×1、輸送車×6、発電車両×2、周波数変換車両×1、指揮管制車両×1。整備部隊が、ミサイルテスト車両×1、予備ミサイル搭載車×3(ミサイル12発)、整備用具搭載車×2、発電車両×1、エレクトロニクス整備車両×1、予備車両×2、ミサイル試験測定車両×1。

KS-1A/HQ-12では、H-200、HT-233、SJ-231の三種類のフェイズド・アレイ・レーダーのいずれかが使用されている。H-200とHT-233は、牽引式のレーダー。H-200の性能は不詳、HT-233は、最大探知距離490km、戦闘機大の目標の最大追尾距離は90km、同時に50の目標を追尾可能[5]。H-200、HT-233ともに6発のミサイルを3目標に同時に誘導する能力を有している。

SJ-231は中国航天科技工業集団第二研究院二十三所が開発した車載型レーダーで、シャーシは8輪もしくは6輪野戦トラック。Cバンドの周波数を使用しており、探知距離は3〜120km、探知高度は50〜27km、最大100目標を同時に探知することが可能。同時迎撃能力が向上しており4目標に対して4〜8発のミサイルを指向させることが可能。

KS-1/KS-1Aは拠点防空と野戦部隊の防空の双方で運用を行うことが出来る。防空陣地に展開する際には、レーダーを中心として、その周りに6両のミサイル発射機を円形に配置する。これはどの方向から目標が飛来しても対処することを可能にするための配置方法である。

【総括】
KS-1/KS-1Aは、フェイズド・アレイ・レーダーなど新機軸も採用されているが、全体の設計では前作のHQ-2から影響を受けた点が多く、1990年代に登場した地対空ミサイルとしては、やや旧式に属するとの分析もある[6]。KS-1は、HQ-2の後継として開発が行われたが、永らく制式化されず運用試験と改良が繰り返されてきた。これは、KS-1の性能が中国軍を満足させることがなかなか出来なかったためと思われる。改良型のKS-1Aの登場で、ようやくHQ-12として中国軍の制式装備として採用されるに到った。

KS-1/HQ-12はHQ-2と共に、S-300PMU/PMU-1/PMU-2やHQ-9など射程100km超の長距離地対空ミサイルや、HQ-7近距離地対空ミサイル(紅旗7/FM-80/クロタール)HQ-17中距離地対空ミサイル(紅旗17/トールM1)などの近距離地対空ミサイルの中間に属する性能を有している。現時点では、中国空軍の防空部隊は長距離地対空ミサイルの導入を優先的に行っており、HQ-12の配備は緩やかなペースで進められている。これには、軍のHQ-12の将来性に対する不安も影響していると思われる。ただし、中国軍には他に同クラスの地対空ミサイルが無く外国からの輸入の話も無いこと、国内技術の育成や企業への仕事の割り振りといった観点からHQ-12の生産と改良は今後も継続されるものと思われる。

【注】
[1]Jane's Land-Based Air Defence「KS-1-KS-1A (HQ-12) low- to high-altitude surface-to-air missile system (China)」
[2]Jane's Land Forces News「Upgraded Chinese KS-1 SAM revealed」
[3]大旗網「我軍地空導弾新三杰:HG64、HQ12和HQ9!」
[4]IMINT & Analysis「The KS-1A SAM System A Site Analysis」
[5]漢和防務評論2008年8月号「中国強化西南空防」(アンドレイ・チャン/漢和防務センター)
[6]現代兵器2007年No.5号「凱山之巅-細説国産KS-1防空導弾系統」(張学峰・張垒•何哲/中国兵器工業集団公司)
[7]漢和防務評論2011年3月号「中国強化中越辺界防空」(Jeff Chen/漢和防務センター)35頁
[8]DEFENSE STUDIES「Myanmar Menerima Batch Pertama Rudal SAM HQ-12/KS-1A」(2015年6月6日)
[9]新浪網-軍事「国货大卖!泰国高调展示购买中国KS-1防空导弹」(2017年2月6日)
[10]EAST PENDULUM「La Thaïlande achète une batterie de SAM chinois KS-1C」(Henri KENHMANN/2016年12月21日)
[11]新浪網-軍事「第二解放军来了!土库曼斯坦用大批中国造武器」(2016年10月19日)

【参考資料】
週刊ワールドウエポン 111号(デアゴスティーニ/2004年11月16日)
漢和防務評論2008年8月号「中国強化西南空防」(アンドレイ・チャン/漢和防務センター)
兵工科技2004増刊 第五届珠海国際航展専輯「KS-1A:準備出国」(兵工科技雑誌社/2004年)
現代兵器2007年No.5号「凱山之巅-細説国産KS-1防空導弾系統」(張学峰・張垒•何哲/中国兵器工業集団公司)
Jane's Strategic Weapons Systems ISSUE 45 - 2006(Jane's Information Group)
Jane's Land-Based Air Defence 2006-2007(Jane's Information Group)

Chinese Defence Today
Jane's Land-Based Air Defence「KS-1-KS-1A (HQ-12) low- to high-altitude surface-to-air missile system (China)」
Jane's Land Forces News「Upgraded Chinese KS-1 SAM revealed」
IMINT & Analysis「The KS-1A SAM System A Site Analysis」
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