日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼2014年に開催された珠海航空ショーに出展されたST-1


ST-1型装輪105mm突撃砲(中国語だとST-1型8×8輪式105毫米突撃炮)は、国際市場への売込みを前提として開発された装輪式の火力支援車両。中国兵器工業集団公司のグループ企業である北方機械集団公司によって開発され、輸出事業は北方工業集団公司(NORINCO)が担当している[1]。

NORINCOでは、既に6×6式装輪装甲車に105mmライフル砲を搭載したWMA-301型装輪突撃砲を実用化しており、複数国への輸出に成功している。ST-1はサイズに余裕があり、より大出力のエンジンを搭載しているVN-1装輪歩兵戦闘車をシャーシとして利用することで性能の向上を図り、さらなる市場の開拓を意図して開発された車両であり、低強度紛争、対テロ作戦、地域紛争といったさまざまな脅威に対応しうることが謳われている[1]。ST-1の設計主任の範社衛技師によると、ST-1は同クラスの装輪火力支援車両に比べて、多用途性能、戦略/戦術機動性の高さ、攻・防・速の総合的な性能、低い運用コスト、という4点で優位性を備えていると発言している[1]。

【性能】
前述した様に、ST-1のシャーシは、同じくNORINCOが輸出向け車両として開発したVN-1装輪歩兵戦闘車のそれをベースにしたものが使用されている[1]。8×8装輪装甲車のシャーシを使用したことで、6×6式装輪突撃砲に比べて車内容積は余裕あるものになり、乗員の戦闘力の維持や各種装備の搭載スペースの確保に有利となったとされる。VN-1と多くのコンポーネントとを共通化していることは、整備や訓練の手間を省き、補給や部品供給面でのメリットや生産コスト削減といった効果があり、輸出におけるセールスポイントとなる。ただし、VN-1のシャーシをそのまま転用した訳ではなく、装輪突撃砲として最適化するためかなりの設計変更が施されたとされる[1]。設計変更の1つは。VN-1のシャーシよりも車高を抑えたことで、これは車体シルエットを少しでも小さくすることで被発見率を下げて生存性を向上させる狙いがある[1]。VN-1は水上浮航能力を有しているが、ST-1では大型砲塔搭載による重量増や防御力改善の代償として水上浮航能力は廃止され、VN-1にあった車体後部のスクリューは廃止されている[1]。

車体はアルミ合金装甲製[1][2]。(注 VN-1は圧延溶接鋼板装甲とされているので、ST-1では材質を変更した事になるが、その理由については不明。実は、VN-1自体がアルミ合金製だったと推測することもできるが、こちらも立証できるだけの材料に乏しく、今後の検討課題。)その防御力は、車体正面は距離100mから発射される12.7mm徹甲焼夷弾に抗堪、車体側面は距離100mからの7.62mm徹甲焼夷弾に抗堪する[2]。必要に応じてセラミック付加装甲を装着して防御力を強化する事が想定されており、北方機械集団公司では装甲による直接的防御に加えて、ユーザーの要望に応じてアクティブ防御システムを搭載することも可能としている[1]。

シャーシの配置は、前方右部が動力室、左側が操縦手席、その後方が砲塔区画を含む戦闘室で、車体後部には横開き式ハッチを備えている。乗員は砲長(戦車の車長に相当)、砲手、装填手、操縦手の4名で構成され、操縦手が車体前方左側の操縦手席、残り三名は砲塔内に搭乗する。砲塔配置は、砲塔左部に砲手と車長、左部が装填手という配置[2]。車体後部には兵員3名を登場させるスペースがあり、予備の弾薬や物資を搭載するのにも利用できる[1]。車体側面の装甲の傾斜角はVN-1よりも緩やかでほぼ直角の部分も存在するが、これは大型砲塔を搭載するために必要な車内容積確保を意図した措置[2]。

搭載エンジンに関する情報は不明だが、公開されている出力重量比からの推測で315kw(422馬力)以上の出力のエンジンを搭載しているとの推測がなされている[2]。懸架装置は、前二軸が油気圧サスペンション、後二軸がトーションバーを採用[1]。操舵は第一、第二軸の車輪で行われる。動力伝達系統はVN-1と同じH型伝動機構を採用してが、この方式はシステムが複雑になるが、車体中心に動力系統がある装輪式装甲車に比べて車高を低くすることが可能となり、動力部系統を小型化できるので車内容積を広く取ることが出来る利点を有している[2]。ST-1のタイヤは防弾機能を備えたもので、破損して空気が抜けた状態でも最高30〜40km/hの速度で100kmの走行が可能[2]。各タイヤには空気圧調整システムが装備されており、路面の状態に合わせてタイヤの空気圧を調整する機能を備えている[2]。高温地帯への輸出も視野に入れてエアコンが標準装備されており、車体右側最後部には室外機が設置されている[2]。

【武装】
ST-1の主兵装である105mmライフル砲は、反動低減のため砲身先端に多孔式マズルブレーキを装着しており、駐退複座機の改良と合わせて後座長を延ばす事で砲の反動を抑えている。これによってST-1は全周射撃が可能となり、傾斜角12度の坂で砲塔を真横にして射撃しても問題ないことが確認されている[1]。

105mmライフル砲の使用弾種は、APFSDS(装弾筒付徹甲弾)、HE(高性能榴弾)、HEAT(対戦車榴弾)、射程5,000mの砲発射ミサイルなどが用意されているほか、各国で使用されている105mmライフル砲向けの砲弾をそのまま使用する事が可能[2]。砲弾の装填は人力で、発射速度は毎分6〜8発[1]。(メーカーによると、要望があれば自走装填装置への変更も可能としている。)搭載弾数は30発で、砲弾の搬入には車体後部ハッチを使用する。副武装としては、主砲同軸に7.62mm機関銃1挺、砲塔上部の車長用ハッチに12.7mm重機関銃1挺がピントルマウント式に搭載、このほか砲塔後部の両側面に4連装発煙弾発射機を二基装備している。副武装についても顧客のさまざまな要望に応じる用意があり、遠隔操作式のRWSの採用も可能とのこと[1]。

ST-1の射撃統制システムは、レーザー測距器、独立式ペリスコープ(砲長用)、弾道計算機、二軸砲安定装置、弾道計算機、各種環境センサー(傾斜、横風、温度)、暗視装置などで構成されており、行進間射撃も可能で高い初弾命中精度を実現している[1][2]。脅威度の高い目標を砲長が発見した際は、その目標へ優先的に照準を指向できるオーバーライド機能を有している。暗視装置は、コストや運用状況に応じて微光増幅式やパッシブ赤外線式などから選択可能[1]。近年のAFVの必須装備となりつつあるデータリンク機能や戦場情報システムなどについても、ユーザーの要望に応じた対応が可能であるとのこと[1]。

ST-1の砲塔システムは、設計時点から異なるシャーシへの搭載も想定されている[1]。既に89式装甲兵員輸送車のシャーシにST-1と同じ砲塔システムを積んだST-2型装軌式105mm突撃砲が実用化されており、ST-1と共に国際市場への売込みが図られている[3]。

【想定される運用】
ST-1は、近年各国で頻発している非対称戦争や内戦、対テロ作戦などにおいて、機械化歩兵部隊や緊急展開部隊の火力支援車両として運用することが想定されている[1]。装輪車輌としての高い戦略機動性を生かして緊急展開を行い、搭載する105mm砲により、敵陣地の破壊、戦車を含む装甲戦闘車輌との交戦、直接射撃と間接射撃による火力支援、機動力を生かした輸送車輌部隊の護衛、地域の警戒監視など多岐に渡る任務に従事することが可能[1]。ただし、装輪車輌であり防御能力も限定されている事から、戦車のような運用は行われず、基本的に火力支援兵器として使われる車輌であるといえる。8×8装輪装甲車に105mm砲を搭載した火力支援車両は、各国で開発が進められており競争相手が多いことから、ST-1がどれだけ市場を確保できるか今後の展開が注目される。

性能緒元
重量24トン
車体長
全幅
車体高
エンジン
最高速度100km/h
航続距離1000km
武装105mmライフル砲×1
 12.7mm重機関銃×1
 7.62mm機関銃×1
 砲発射型対戦車ミサイル
 4連装発煙弾発射機×2
装甲アルミ合金装甲+付加装甲
乗員4名(車長、操縦手、砲手、装填手)

▼ST-1の試作車と思われる車両。車体後部に水上航行用のスクリューが存在するなど、生産型と比較すると細部にかなりの相違がある


【参考資料】
[1]曹励雲・黄国志・張璐「訪ST-1型8×8輪式105毫米突撃炮総設計師範社衛」(『現代兵器 2014年増刊(供法2014年珠海航展特輯』/中国兵器工業集団公司/2014年11月20日)22〜29ページ
[2]予陽「2014珠海航展国産地面武器装備」(『坦克装甲車両・新軍事』2014年第12期/《坦克装甲車両》雑誌社)4〜11ページ

【関連項目】
VN-1装輪歩兵戦闘車(07P式/PF-2006)
中国陸軍

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