TL-10（天龍10）は洪都航空工業集団公司が開発した小型対艦ミサイル[1]。2004年には艦対艦型（TL-10A/JJ-10）の存在が明らかにされ[2]、2年後の2006年に開催された珠海航空ショーでは艦対艦型だけでなく、新たに空対艦型（TL-10B/KJ-10）も展示された[1]。以前はFL-8の名称も使用されていたが、現在ではTL-10に統一された[3]。なおTL-10は輸出向けの名称であり、中国海軍に採用された場合は艦対艦型がJJ-10（艦艦10)、空対艦型がKJ-10（空艦10）の制式名が与えられるとされている（兵器ショーでの展示でもJJ/TL-10A、KJ/TL-10Bと両方の名称を合わせて表記されていた）。2013年の時点では中国海軍への採用は確認されていない[3]。
TL-10は中国軍からの発注によって開発されたものではなく、メーカーである洪都工業公司が自主開発したミサイルである。イランへの輸出を前提として洪都工業公司とイランが共同開発・生産したとされており、イランでは「Kosar」の名称で量産化が実施されている[3]。なおイランでは似たような過程で中国から導入・ライセンス生産しているC-701対艦ミサイル（鷹撃7）にも「Kosar1」「Kosar2」の名称を付与しているので混同しやすいが、「Kosar」がTL-10、「Kosar1」がC-701、「Kosar2」がC-701Rの現地生産版になる[4]。2008年11月に開催された珠海航空ショーではTL-10の改良型と思われるTL-1（JJ/TL-1）が公開されており、洪都工業公司がTL-1の改良を進めていることが明らかになった。
【性能】
TL-10は主に沿岸域での運用を前提として、排水量40〜700t級の小型水上艦艇への攻撃を想定して開発された[1]。TL-10にはミサイル艇などの小型艦艇に搭載される艦対艦型のTL-10A（JJ-10）と、ヘリコプターに搭載される空対艦型のTL-10B（KJ-10）の二種類のバリエーションが存在する[3]。両者の基本的な構成は共通しており、誘導システムが変更されている[3]。ミサイルのサイズはTL-10A/Bとも共通で、全長2.5m、直径180mm、翼幅568mm、重量568kg[1]。ミサイルの形状は、円筒形の本体中央にX字型に切り落としデルタ翼の安定用フィン4枚、本体尾部に同じくX字型に全遊動式飛翔制御翼4枚が配置されている[3]。TL-10の飛翔速度は最高でマッハ0.85、射程は4,000〜15,000m[1]。推進装置は固体ロケット・モーターで、二重燃焼室設計が導入されており、推進力を2段階で変更する能力を備えている[3]。本体最後部には5つの排気口が設けられており、各排気口からの噴流を調整することで高い運動性を得ることができる[3]。この推進システムや排気口システムは、洪都工業公司がTL-10と同時期に開発したTL-6対艦ミサイル（天龍6）と共通のシステムを採用しているとされる[3]。弾頭部分は高性能炸薬を使用した半装甲貫通（Semi-armor piercing：SAP）型で弾頭重量は30kg[1]。信管の詳細は不明だが、衝撃信管と遅延信管の組み合わせで目標の船体内部での起爆が可能となっていると推測されている[3]。
ミサイルの誘導システムは艦対艦型のTL-10Aが光学（TV）誘導システム、空対艦型のTL-10Bがアクティブ・レーダー誘導システムを採用している[3]。TL-10Aは先端部にファイバー製の半球計のドームを備え、その中にTVシーカーを内蔵している。発射後はTVシーカーが捉えた画像を艦艇に送信し、武器管制員がその画像を基にしてミサイルを目標に指向させる。TL-10Bは先端部にアクティブ・レーダー・シーカーを内蔵しており、発射後の外部からの誘導の必要はない打ちっ放し機能を実現している[1]。ただし発射後に目標を変更する指令アップデートなどの機能は備えていない[3]。命中精度はTL-10A/Bともに85%と言われている[1]。TL-10の設計ではモジュール概念が導入されており、誘導システムについても各種センサーへの換装を容易に行うことが可能であり、光学誘導システムやアクティブ・レーダー誘導システム以外にも、ミリ波・レーダー誘導システムや画像赤外線誘導システムなどの採用も想定されている[1]。
【運用状況】
TL-10は前述の通りイランで「Kosar」の名称で現地生産が実施されている[3][4]。TL-10の輸出に関する業務は中国国家航空技術輸出入公司（CATIC）が担当しており各国への売込みを図っているが、現時点ではイラン以外への輸出は確認されておらず、中国軍での採用も行われていない模様[3]。2008年にはTL-10Bの運用能力を付与されたZ-9Dヘリコプターの存在が明らかになっており、TL-10Bと合わせて各国への売り込みが進められると思われる[5]。
■性能緒元
| 全長 | 2.5m |
| 直径 | 180mm |
| 翼幅 | 0.586m |
| 重量 | 105kg |
| 弾頭重量 | 30kg（HE） |
| 最大速度 | マッハ0.85 |
| 射程 | 4〜18km |
| 誘導方式 | TV誘導（TL-10A） |
| アクティブ・レーダー誘導（TL-10B） | |
| 搭載機種 | 陸上発射器/ヘリコプター等の航空機 |
【参考資料】
[1]「航展跌出新“飛魚”−“天龍”系列反艦飛弾」（『兵工科技2004増刊 第五届珠海国際航展専輯』/兵工科技雑誌社/2004年）32〜33ページ
[2]Robert Hewson「China rolls out naval variant of Z-9 helo armed with new anti-ship missile」（Defense & Security Intelligence & Analysis: IHS Jane's/2008年8月4日）
[3]青木謙知『ミリタリー選書8-軍用機ウエポン・ハンドブック』（イカロス出版/2005年）102〜103ページ
[4]『Air-Launched Weapons ISSUE 47-2006』（Jane's Information Group）174〜175ページ
[5]『Air-Launched Weapons ISSUE 47-2006』（Jane's Information Group）165〜166ページ
[6]新浪網-軍事「图文：航天科工集团TL-1和TL-2反舰导弹」（2008年11月4日）
中国海軍