日本の周辺国が装備する兵器のデータベース



▼WM-80自走ロケット砲と弾薬補給車(左)


▼WM-80の273mmロケット弾(クラスター弾頭)


▼アルメニア軍で運用されているWM-80自走ロケット砲

▼アルメニア軍のWM-80自走ロケット砲(左)と弾薬補給車(中)


性能緒元(自走ロケット発射機)
重量34.7t
全長 
全幅 
全高 
エンジン空冷ディーゼル 575hp(525hp説も)
最高速度70km/h
航続距離400km
武装273mm4連装ロケット発射機×2
再装填時間5〜8分
乗員5名

性能緒元(273mmロケット弾)
ロケット全長4,582mm
ロケット直径2,730mm
ロケット重量505kg
弾頭重量150kg
弾頭種類高性能榴弾、クラスター弾
推進装置固体燃料ロケットモーター
初速40m/s
最大飛翔速度1,140m/s
射程34〜80km

WM-80 273mm8連装自走ロケット・システム(中国語ではWM-80式273毫米火箭系統)は、北方工業集団公司(NORINCO)の傘下にある東北127廠が開発した大口径多連装ロケット砲である。なお、WM-80とは輸出用名称であるが、WM-80は中国軍には採用されていないので軍の制式名称は存在しない。

【開発経緯】
1980年代中期、中国では西側諸国との関係改善により得られた各種技術をベースとして、西暦2000年前後の時期に必要とされる装備を開発する一連の計画が策定された[1]。陸上部隊の砲兵部門では、射程20km台の122mm榴弾砲、射程40km台の155mmカノン/榴弾砲、敵後方の打撃が可能な短距離弾道ミサイルの開発が重点目標として定められた[1]。これらの計画は、後に86式/96式122mm榴弾砲(W-86/PL-96/D-30)PLL-01 155mm榴弾砲(WA-021)DF-15短距離弾道ミサイル(東風15/M-9/CSS-6)DF-11短距離弾道ミサイル(東風11/M-11/CSS-7)として結実することになる。この計画に対して、155mmカノン/榴弾砲と短距離弾道ミサイルの間が空白になっているとの指摘がなされた結果、新たに射程60km超の大口径多連装ロケット砲を開発することが計画に盛り込まれることになった[1]。

従来であれば、軍が提示した要求に基づき装備調達関連機関が開発を担当する機関・部署を指名して研究開発を実施させるトップダウン的な開発手順を経るはずであったが、小平による改革開放政策に伴い、兵器開発部門にも競争原理が導入されることになり、開発のスタイルは一新されることになた[1]。具体的には、軍と装備調達部門は要求項目を提示、これに対して各研究開発部門から開発案を提案させ、有望と思われるものを試作させ評価試験を行った上で優秀な成果を収めたものを採用するという手法である。競争試作に敗れた装備についても、輸出向け装備として開発を継続させて国外での採用を目指すことが奨励された[1]。

数年間の準備期間を経て、1980年代末には新型大口径多連装ロケット砲の開発計画が正式に始動することになった。この開発計画に応じたのは、長年火砲開発に携わってきた東北127廠、四川航天科工七院(後の四川航天工業総公司)、通常兵器開発部門の弾箭武器研究所、中国航天科技集団第一研究院(別名中国遠載火箭技術研究院。以下では航天科技一院と略す)の四設計局であった[1]。

東北127廠では、83式273mm4連装ロケット砲(WM-40)の開発経験を生かして、泰安8×8重野戦トラックに8連装発射機を搭載、合計8発の273mmロケット弾を搭載するという案を纏めた[1]。ロケット弾は装薬の改良によって最大射程80km超と、WM-40の倍以上の射程を確保することが目指されていた。

四川航天科工七院の案は、完全新規設計の口径302mm、射程100kmのロケットを開発するというものであった[1]。これを四連装ロケット発射機に搭載して鉄馬6×6野戦トラックに搭載するとされた。

弾箭武器研究所と航天科技一院では、各国の大口径多連装ロケットの動向を調査、特に注目されたのが、アメリカのM-270 227mm多連装ロケット・システム(MLRS)とソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムであった。両者とも、今後の大口径多連装ロケット砲はロケット弾自体の誘導システムの高度化による命中精度の向上が不可欠になるとの分析結果に達した。そして、弾箭武器研究所と航天科技二院ではそれぞれ別個にソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムに関する調査・分析を進め、スメルチを手本として誘導システムの高度化に重点を置いた大口径多連装ロケット・システムの設計案を提示するに至った[1]。

これら4つの開発案について各関係機関による検討が行われた。その結果、システムの将来性という点で、弾箭武器研究所と航天科技一院の案が高く評価され、両者に対して競争試作段階への移行が認められた。弾箭武器研究所と航天科技一院の開発案は、その後紆余曲折を経てそれぞれ03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)96式300mm10連装自走ロケット砲(PHL-96/A-100)として結実することになる[1]。

一方で、不採用となった東北127廠と四川航天科工七院の開発案に関しては、輸出向け装備として開発が継続されることになった[1]。東北127廠が開発したのが本稿で取り上げるWM-80 273mm多連装自走ロケット・システム、四川航天工業総公司が開発したのがWS-1 302mm4連装自走ロケット・システム(衛士1)である(WS-1については別項を参照されたし)。

WM-80の試作車両は1990年末に完成、1991年9月には中国東北部の射撃試験場で最初のロケット弾発射試験が実施された[1]。この試験には中国との間で多連装ロケットの共同開発を検討していたトルコ軍の視察団も同席していた。トルコ側ではWM-80とWS-1の2種類のロケット砲に付いて検討した結果、WM-80は命中精度ではWS-1に勝っているが、最大射程ではWS-1が優位に立っていると分析。最終的には射程の長さが決め手となりWS-1の採用を決定している[1]。

WM-80の輸出事業についてはNORINCOが担当している。NORINCOでは、トルコ軍への売込みが不調に終わった後もWM-80の国際市場への売り込みを継続しており、1999年にはアルメニアにWM-80を輸出することに成功した[1][2]。

1990年代、東北127廠ではクウェート軍に採用されたPLZ-45 155mm自走榴弾砲の生産を担当することになり、PLZ-45に盛り込まれた先進的な射撃統制システムや各種装備に関するノウハウを蓄積することに成功[1]。その技術・ノウハウをWM-80の改良に生かして、WM-120 273mm8連装自走ロケット砲 という発展型を実用化させることになる。

【性能】
WM-80は軍レベルの砲兵部隊に配備され、最大射程80kmという長射程を活かして、敵機甲部隊や砲兵の集結地・後方の司令部や補給地点への攻撃を実施することを主要な任務として開発された。

WM-80の兵器システムは、ロケット本体、自走ロケット発射機、前線観測車、コマンドポスト車輌、機器整備車輌、電子機器整備車両から構成される[2]。さらに、オプションでLLX-05気象レーダーシステムやASN-206 UAVを加えることも可能[2]。WM-80を装備する一個ロケット砲旅団は4個砲兵大隊から編制され、一個砲兵大隊は3個砲兵中隊から編制される[2]。砲兵旅団司令部には、コマンドポスト車輌と気象レーダー車輌が、砲兵大隊の本部には大隊級の射撃統制/指揮通信車輌と監視/弾着観測用レーダーが配備される。砲兵大隊や中隊に配備されている前線観測車は4輪駆動車をシャーシに使用している。レーザー測遠機やナビゲーションシステム、通信機、目標位置情報送信装置などを搭載し、観測した目標情報をリアルタイムで提供する。一個砲兵中隊は、自走ロケット発射機×6輌、弾薬補給車×6輌が配備されている[2]。旅団-大隊-中隊の間は、無線/有線通信システムにより自動的にデータの配信が行われる[2]。

WM-80の自走ロケット発射機と弾薬補給車のシャーシには、泰安TAS-5380SQ 8×8重野戦トラックが使用されている[3](資料[2]ではTAS-580と表記されている)。60-1式装軌式牽引車をシャーシとしていた83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)では路上走行速度を初めとする機動力不足が指摘されていたが、TAS-5380SQを採用したことにより路上機動性が大きく向上、ロケットの搭載量も増加した。キャビンには操縦手、操作要員3名、指揮官1名の計5名が搭乗[2]。ロケット発射時には、キャビン前方に爆風避けの防護板を展開する。車体には4つの油圧式スタビライザーが装備されており、射撃時にはスタビライザーを地面に接地させて車体を安定化させる[4]。

WM-80は車体後部に273mm4連装ロケット発射機×2基を搭載する。発射機の動作は電動化されており、仰角は20〜60度、左右射界は各20度である[5]。WM-80は高度な射撃統制システムを搭載している。無線/有線通信により伝達された砲兵中隊や大隊からの目標情報はデジタル弾道計算機により処理され、射撃諸元が自動的に決定される[2]。射撃の誤差は2%以内とされる。なお射撃統制装置のバックアップ用に光学照準装置が発射機左側に装備されている[5]。射撃統制システムの操作は3人で行うが、緊急時には一人での操作も可能[4]。射撃の際には、乗員が搭乗したままで射撃を行うが、必要であれば車外からの遠隔操作により発射を行う[2]。ロケットの発射方式は単射と一斉射撃があり、単射の場合は通常5秒間隔で発射される。

各ロケット発射機には、弾薬補給車が一台用意されている。弾薬補給車もベース車体は発射機搭載車と同じTAS-5380SQであり、WM-80DYの名称が付与されている[2]。WM-80DY弾薬補給車は、換装用の4連装発射機モジュール×2基を荷台に搭載している。キャビン後方には油圧式クレーン(最大牽引力10トン)1基を装備しており、弾薬モジュールの搭載や再装填作業の際に使用する[2]。ロケット発射機はモジュール化されており、全弾発射後は発射機自体を新しいものと換装することで、再装填時間は5〜8分という短時間で行うことが可能[5]。

WM-80の主兵装は273mm無誘導ロケットである。ロケットのサイズは全長4,582mm、直径2,730mm、ロケット重量505kg、弾頭重量150kgと、83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)に比べて大型化されており、それにより射程は83式の40kmから80kmへと倍増している[2]。ロケットモーターは205.5kgのHPTB固体ロケット燃料を使用し、弾体を旋回させながら飛翔することで、尾部の安定翼と共に弾道を安定化させる。WM-80のロケット弾は、-40度から+50度までの気温での運用が可能であり、10年間の運用保障期限が与えられている[2]。

WM-80の使用弾頭は高性能榴弾とクラスター弾の2種類が用意されている[5]。高性能榴弾は34kgの炸薬が装填されており、着弾時に16,822個の弾片が生成され有効殺傷半径は69.8m[2]。信管はWJ-6A機械式着発信管とMD-23A近接信管の2種類が装備されており、状況に応じて使い分ける5]。クラスター弾は広域に展開する歩兵/機甲部隊に対して使用され、弾頭内部に380個の対人/対戦車用子弾を内封している。子弾は成形炸薬弾で80〜100mmの装甲版を貫通可能で、戦車や装甲車の上部装甲を貫通する充分な能力を持つ[2][5]。

【参考資料】
[1]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6〜17頁)
[2]「NORINCO 273mm(8-round) WM-80 multiple rocket system」(『Jane's Armour and Artillery 2005-2006』)905〜906頁
[3]Chinese Defense Today「TAS5380 Heavy Duty Truck」
[4]中国武器大全「中国WM-80式273毫米火箭炮」
[5]Chinese Defense Today「WM-80 273mm Multiple Launch Rocket System」

【関連事項】
WM-120 273mm8連装自走ロケット砲
中国陸軍

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