日本周辺国の軍事兵器 - コンテナ型船舶医療モジュールシステム

練習艦「世昌」に搭載されたコンテナ方船舶医療モジュールシステム


コンテナ型船舶医療モジュールシステム(中国語では集装箱型医療模塊系統/船舶医療模塊系統などの名称がある)は、各種医療器材・施設を収納した複数のコンテナで形成されており、それを搭載することで徴用したコンテナ船や貨客船を迅速に病院船として運用することを可能とするシステムである[1]。

1990年代初め、中国海軍では南康級病院船(キョンシャ型/瓊沙型)2隻の就役により病院船不在という状況は解消したが、同級は排水量2,150トンと比較的小型なため搭載機材や収容人数に限界があり、その任務は救急救命医療を中心として高度な治療は陸上の医療施設で行うことを前提とするなど、病院船としての能力はそれほど高いものではなかった[1]。海軍では南康級の運用実績から、より能力の高い病院船の必要性を痛感し、民間のコンテナ船や客船などを徴用して短期間で病院船に改装するという構想であった。これは1981年にイギリスがフォークランド紛争において、民間船舶を動員して病院船に改装した実例を範に取ったものである[1][2]。この構想に基づいて民間徴用船舶を短期間で病院船に改造するため開発されたのが、本稿で取り上げるコンテナ型船舶医療モジュールシステムであった。同システムの開発は1996年に開始されたとされる[1]。海軍では0891A型練習艦(世昌級/シーチャン級)をテストベッド艦として、医療用モジュールの搭載・運用試験を実施。本システムの有効性を確認した[1]。

【システムの構成】
コンテナ型船舶医療モジュールシステムは、標準的なサイズである20フィートコンテナと40フィートコンテナを合計18個使用する[1]。コンテナの積載量を表わす単位であるTEU(twenty-foot equivalent unit:20フィートコンテナ換算)で表わすとその容量は26TEUとなる[1]。この内14個が医療関連施設モジュール、2つが各施設を接続する通路モジュール、2つが空調施設モジュールとなっている。

医療関連施設モジュールは手術準備室、手術室、看護室、隔離病棟、集中治療室、重症火傷患者治療室、歯科医療室、耳鼻科咽診療室、特別診療室、X線検査室、検査室、消毒室、薬剤貯蔵室、管理センターから構成されている[1]。これらの設備は都市の医療センターに匹敵する能力を有しているとされる[3]。各医療モジュールは通路モジュールによって連結される。またコンテナ間には複数のパイプが配置されており、空調、電気、給排水、通信、空気清浄、スプリンクラー、中央換気装置用の7つの配管が用意されている[1]。医療モジュールには200台を越える医療機材が配置される[1]。病床は200床が用意されているが、それ以上の需要があると予想される場合はコンテナ数を増加する事で対応可能。これらの医療用モジュールには負傷者の救急救命治療に当たる軍医を中心として複数の診療科の軍医と医療スタッフが配属され、傷病者の救急救命治療だけでなく洋上病院として各種専門治療を施すことが可能となっている[1]。同システムのテストベッドとして使用された「世昌」は船体中央部にコンテナを搭載し、後部甲板をヘリコプターの発着スポットに充てており、ヘリコプターを使用して傷病者を迅速に搬送することが可能となっている。

【開発後の状況】
コンテナ型船舶医療モジュールシステムの開発成功により、中国海軍は病院船に関する基本的なノウハウを確立したといえる。中国海軍ではこの成果を踏まえて、専用大型病院船である920型病院船(アンウェイ型/安衛型)の建造に着手する事になった。同システムは国際標準サイズのコンテナを使用する事により、鉄道や船舶輸送、航空機などの輸送手段を利用して迅速に遠隔地へと輸送することが可能[1]。そのため平時にはモジュールを各地に保管しておき、必要に応じてコンテナを輸送して徴用したコンテナ船や客船などにコンテナを搭載する事で、短期間に病院船としての運用が可能となる。各モジュールは通常のコンテナと全く同じ外観のため、コンテナの集積地点を撮影しても普通のコンテナと船舶医療モジュールを区別することは困難であり、コンテナの保有数からどの程度の民間船舶を病院船に転用可能かを類推することは出来ない[1]。また輸送の際にも通常のコンテナ貨物と見分けが付かないため、病院船としての改造の意図をぎりぎりまで秘匿することが可能というメリットが有る[1]。

2008年には100個以上のコンテナ型船舶医療モジュールを搭載して病院船とする改装を行った3万トン級の輸送船「庄河」の写真が公開された[4]。同船の詳細は不明であるが、多数のモジュールを搭載している事から、その傷病兵収容能力は極めて大きいと思われる。有事の際には、同様の方法で徴用された民間船舶が短期間の改装を経て病院船に転用される事になる。

▼コンテナ型船舶医療モジュールのテストベッドとして運用された「世昌」

▼100個を越えるコンテナを搭載して病院船に改装された3万トン級の大型輸送船「庄河」(艦番号865)

▼「庄河」に搭載された医療モジュール。各コンテナを連結する通路、パイプ等が見える

▼コンテナを利用して仮設したヘリコプター発着甲板にKa-28ヘリコプターを着艦させて傷病者搬送(訓練?)を行うシーン


【参考資料】
[1]陳光文「浮動的生命之舟--中国海軍的医院船」(『艦載兵器』2010年4月号/No.128)31〜40頁
[2]平松茂雄『江沢民時代の軍事改革』(勁草書房/2004年)211〜214頁。
[3]平松茂雄『江沢民時代の軍事改革』(勁草書房/2004年)219頁。
[4]China Defense Blog「PLAN hospital ships」(2008年11月10日)

【関連事項】
0891A型練習艦(世昌級/シーチャン級)
中国海軍