日本周辺国の軍事兵器 - 09式122mm装輪自走榴弾砲(PLL-09)

▼09式122mm装輪自走榴弾砲(PLL-09)。車体各部や砲塔の格子状や十字・X字型の筋はZBL-08系統の他の派生型には無いPLL-09独特のもの。これは重量軽減要求を満たすため装甲厚を減じた代償として、鋼板にフレームを入れて構造を強化したことによるもの。


性能緒元
重量21t前後
車体長8m前後
全幅3m前後
全高3m前後
エンジンBF6M1015Cターボチャージド・水冷ディーゼル・エンジン(440hp)
最高速度100km/h
水上航行速度8km/h
航続距離800km
武装96式122mm榴弾砲(PL-96)×1(24発)
 12.7mm重機関銃×1
装甲圧延鋼板装甲
乗員4〜5名(車長、操縦手、砲手、装填手1〜2名)

09式装輪122mm自走榴弾砲(PLL-09)は08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)のシャーシに122mm榴弾砲を装備した砲塔を搭載した自走榴弾砲。

中国軍は、08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)を装輪装甲車中心で編成される中型合成旅の中核車輌に位置付ける方針であり、同部隊に必要な各種AFVについてもZBL-08の派生型をもってこれに当てる構想[3]。PLL-09もこの構想に基づいて開発、配備が進められているAFVの1つ。

【性能−シャーシ】
PLL-09の車体と砲塔は圧延鋼板装甲を溶接して製造される。ZBL-08などは主装甲の上にセラミック付加装甲を装着しているが、重い122mm榴弾砲を搭載するにもかかわらず水上浮航性能を要求されたPLL-09は軽量化を余儀なくされた[3]。そのため、付加装甲の装着が見送られたのみならず、装甲厚自体も薄くされ、車輪もZBL-08の標準的なタイヤより軽いものに変更された上に、近年の自走砲では標準的な装備となっている半自動装填装置まで搭載が見送られるに至った[3]。砲塔の装甲を薄くした代償として、PLL-09は車体や砲塔の各部に格子状、十字、X字型の筋交が入るようになった。これは薄くなった装甲板にフレームを入れて構造を強化したことを表すものだとされる[3]。

PLL-09の防御力は、車体・砲塔後部が7.62mm通常弾、車体・砲塔側面が7.62mm徹甲弾、砲塔正面が12.7mm重機関銃弾の直撃に抗堪する程度とされるが[1]、装甲厚を減じていることからその防御性はZBL-08シリーズと比べても低いものに留まっているとみられる。間接防御として、NBC防護装置と自動消火装置を標準搭載している[1]。

車体構造は、車体前方左部がパワーパック、前方右部に操縦手席、車体後部に砲塔に搭載。車体後部には横開き式ハッチが設置されており、兵員の乗降や砲弾や装薬の搬入に使用する。乗員は、車長、砲手、操縦手、装填手1〜2名の合計4〜5名[1]。

エンジンはBF6M1015Cターボチャージド・ディーゼル・エンジンを車体前方右部に搭載[1]。これは独Deuzt社のエンジンを中国でライセンス生産したもの。BF6M10150Cは440馬力の最高出力を発揮し、PLL-09を最高100km/hで走行させる能力を備えている[1]。航続距離は800km[1]。この路上走行能力と長い航続距離を生かして、近年整備が進む高速道路網を用いて迅速な部隊展開を可能とするのは装輪車両であるPLL-09の最大のメリットと言える。不整地での走行を想定して、路面状態に合わせてタイヤの圧力を調整するタイヤ圧中央制御装置を備えている[1]。前述の通り、PPL-09は水上浮航性能を有しているが、これはZBL-08ファミリーが共通して保有する能力であり、中国軍がAFVの渡河能力を重視している表れ。水上での推進力は車体後部に装着されたスクリューにより得て、水上航行速力は8km/h[5]。

【性能−武装】
搭載している96式122mm榴弾砲(PL-96)は旧ソ連の122mm榴弾砲D-30をリバースエンジニアリングで国産化した86式122mm榴弾砲の改良型。口径(121.92cm)や砲身長(32.7口径)には変化は無いが、薬室の容積を拡大しており、初速と命中精度も向上している。96式122mm榴弾砲の最大射程は榴弾で18km、FRFB弾で21km、長射程のRAP弾で27km。通常榴弾やFRFB弾以外にも、照明弾、ビラまき用砲弾、対戦車子弾搭載砲弾、誘導砲弾など各種砲弾が用意されている。PLL-09の砲弾搭載数は24発とそれほど多くないが、これも軽量化による割を食っていることが考えられる[4]。これを補うため、部隊内に装甲弾薬補給車が用意されている。

同世代の中国軍122mm自走榴弾砲では装填補助装置/半自動装填装置が標準的に搭載されているが、PLL-09では軽量化のため未搭載となっている[3]。122mm砲弾の発射速度は、毎分6〜8発とされている[1][4]。砲塔内部は装填作業の空間確保のため比較的広いスペースを取っているが、砲弾庫を分離する余裕はなく戦闘室の砲弾ラックに裸のまま搭載せざるを得ず、被弾・火災時の危険性が指摘されている[4]。砲弾の発射は撃発スイッチもしくは拉縄のいずれかを選択できる[5]。

射撃に当たっては、自走砲大〜中隊の指揮車輌からの射撃諸元をデータリンクにより各車輌に転送、各車輌はその諸元を元に射撃統制装置を使用して一斉射撃を行うが、必要に応じて各車輌ごとでの照準・射撃も行うことも可能。支援砲撃のみならず直接照準射撃もできるが、PLL-09の装甲の薄さから言って緊急事態・もしくは低脅威度な状況以外では直接照準射撃は積極的には行われないであろう。補助武装としては、砲塔上面に12.7mm重機関銃1挺をピントルマウント式に搭載している。砲塔前面には6連装発煙弾発射機が左右に2基搭載されており、必要に応じて煙幕を展開して車輌の姿を隠す。

PLL-09の射撃統制システムは、間接/直接照準装置、弾道計算機、データリンク機能、砲口照合装置と砲弾初速検知用のミリ波レーダー、「北斗」衛星位置測定システム、制御装置などで構成されている[1][4]。近年開発された中国軍AFVと同じくネットワーク技術が積極的に取り入れられているものと思われる。部隊内の僚車や他部隊・他軍種からの情報をデータリンク機能によりやり取りして、そのデータを戦場情報管理システムにより処理して、即座に部隊行動に反映させる能力を備えていると考えられる。砲撃に必要な各過程は自動化されており、砲撃準備から砲撃、そして陣地転換までの一連の過程を二分以内で終わらせることが可能であり、これは近年ますます迅速化する対砲兵射撃から逃れるために欠かせない能力となっている[5]。

PLL-09を配備する砲兵連(中隊に相当)では、ZBL-08のシャーシを用いた装甲指揮車、装甲偵察車、装甲弾薬補給車など主要車輛をファミリー化している。特に重要なのは装甲指揮車であり、車内に複数のコンソールを設けており、大量の情報を処理し、部隊指揮と上級指揮所との結節点となり、隷下の自走砲を指揮して統合作戦を行う要の存在となる[4]。

【運用】
PLL-09は、中型合成旅における旅団クラスの支援火力として部隊に追随して前線に近い距離での直接・間接の火力支援を行う事が想定されている。155mm榴弾砲に比べると砲弾威力・射程で遜色があるが、部隊に随伴して火力支援を行い得る支援火力車輛としての価値は高いと指摘されている[5]。

PLL-09を装備する中型合成旅は、多くの車輌を路上走行性能が装軌車輌よりも格段に高い装輪AFVでそろえているため、近年整備が進んでいる道路網を利用して迅速な前線への展開が可能[2]。装輪車両のメリットとして、装軌車両よりも信頼性が高くメンテナンスの手間も少なくて済む点があり、ZBL-08を母体とする同系列の車輌で部隊を編制する事により整備・維持の利便性はさらに高められている[2]。

PLL-09は陸軍の中型合成旅のみならず、海軍陸戦隊での運用も確認されている。海軍陸戦隊では07B式122mm水陸両用自走榴弾砲(PLZ-07B)を運用しているが、これは装軌車両なので着上陸後の内陸への展開スピードでは装輪車両に遜色があるため、海軍陸戦隊のPLL-09は内陸への迅速な展開を想定して配備されたのではないかと推測されている[4]。

▼PLL-09の後部、側面からの写真

▼PLL-09とセットで運用される装甲弾薬補給車。こちらもZBL-09の派生型の1つ。車体後部ハッチは観音開き式に変更され、車体後部には搬出作業用にクレーンが装備。車内に複数の122mm砲弾収納ラックを搭載している。


【参考資料】
[1]Military-Today「PLL-09 122-mm self-propelled howitzer」
[2]竹田純一『人民解放軍 党と国家戦略を支える230万人の実力』(ビジネス社/2008年)273〜277ページ
[3]Global Security「Self-Propelled Artillery」https://www.globalsecurity.org/military/world/chin...
[4]网易「中国装备志——PLL09式122毫米轮式自行榴弹炮」(2022年12月11日/来源: 自在吃辣椒的喵酱 )https://www.163.com/dy/article/HOABEH700552V2VR.ht...
[5]Global Security「PLL-09 122mm self-propelled artillery」https://www.globalsecurity.org/military/world/chin...

08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)
中国陸軍