日本周辺国の軍事兵器 - 105mm装輪自走対戦車砲(BK-1970)



性能緒元
重量18.5t
車体長6.8m(砲身含まず)
全幅2.58m
車体高1.36m(砲塔含まず)
エンジン水冷ディーゼル 375馬力
最高速度85km/h
航続距離800km
渡渉深度1.2m
水上航行速度10km/h
武装低反動105mmライフル砲×1(40発)
 12.7mm重機関銃×1(500発)
 7.62mm機関銃×1(1,500〜2,000発)
 76mm発煙弾発射機×8
装甲 
乗員4名

BK-1970は、2001年にNORINCOがその存在を明らかにした装輪式対戦車自走砲である。開発は北方工業公司(NORINCO)傘下の内蒙古第一機械製造集団有限公司により行われた。同社は、1990年代後半から中国軍の次世代装輪装甲車ファミリーの競争試作に参加しており、この車両は同社が製作したテストベット車両の1つである。開発経緯の詳細については08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)の項を参照されたし。

BK-1970は「BK系列輪式通用底盤」と呼ばれる装輪装甲車シャーシをベースに開発された。「BK系列輪式通用底盤」は、各種の兵装を搭載するための共通シャーシとして開発された装輪装甲車である。搭載兵装に対応して6×6型、8×8型が用意されているが、どちらも車体前方に操縦手席、中央部が兵装スペース、車体後部が動力部という構造は共通している。車体前方には操縦手と車長席が左右に設けられており、各座席前方には視界を確保するため大型の防弾ガラスがはめ込まれている。防弾ガラスは7.62mm小銃弾に対する耐弾性を有しているが、危険度の高い状況では折畳み式の装甲板で覆うことが出来る。車両の乗降は、車体前部上方にある2つのハッチ、及び車体中央下部の両側面にあるハッチから行なう。動力部を後部に置いたため、歩兵の乗降に便利な後部ハッチは装備できないが、これは「BK系列輪式底盤」が兵員輸送を任務としていないことを表している。動力部を後部に置くことで、兵装を安定性の高い車体中央に配置することが可能となり、砲の発射時の反動を吸収しやすくなる利点があるとされる。

「BK系列輪式通用底盤」の特徴として、足回りの動力系統にH型伝動機構を採用していることがあげられる。これは中国の装甲車としては余り例の無い機構である。この方式のメリットは、車体中央に動力伝達機構がある装輪式装甲車に比べて車高を低くすることが容易になることである。また、動力部系統を小型化できるので車内容積を広く取ることが出来る利点もある。この形式の車両には、中国で運用されているHQ-7近距離地対空ミサイル(紅旗7/FM-80/クロタール)のベース車体であるP4R 4×4装輪装甲車が存在する。おそらくこの車両の動力機構が「BK系列輪式底盤」開発に生かされているのではないかとの推測がなされている。この他、情報によれば中国はロシア製のBTR-90 8×8装甲車、フランスのルノー製VBCI 8×8装甲車やイタリアのセンタウロ8×8戦車駆逐車などを8×8装輪装甲車開発の参考として研究したとのこと(現物の入手ではなく公開史料による調査研究であろう)。BK-1970の開発にはこれらの研究によって得られた情報も参考にされていると思われる。

BK-1970のスペックは以下の通り。重量18.5t、車体長6.8m、全幅2.58m、車体高1.36m。エンジンは375馬力の水冷ターボチャージド・ディーゼルで車体後部に搭載されている。機動性に関するデータとしては、最高速度85km/h、航続距離800km。最小旋回半径9m、最大登坂角度31度、横向きの場合17度、最大1.2mの壕、0.5mの壁を越えることが出来る。渡渉深度は1.2m、車体後部にスクリューが設置されており、最大10km/hで水上航行が可能。乗員は、車長、砲手、装填手、操縦手の計4名。

主兵装の低反動105mmライフル砲は、サーマルジャケットで被覆され砲口部には反動低減用の多孔式マズルブレーキが装備されている。砲の発射時の反動は14万ニュートン。砲の俯仰角は-7度〜18度。砲弾の装填は手動だが装弾補助装置が付いている。発射速度は毎分6〜8発。発射可能な砲弾には、APFSDS-T、HEAT-T、HE弾があるが、同砲は各国で製造されたNATO規格の各種105mm砲弾が使用可能。このほかに105mm砲用の砲発射式対戦車ミサイルの運用能力も有している。これは、中国がロシアから導入した9K116バスチオン(AT-10 Stabber)をベースに開発された。このミサイルは5,000mの射程を持ち、静止目標に対して90%以上の命中率を得る事が出来るという。また戦車以外にも低空を飛ぶヘリコプターも攻撃する事が可能。原型の9K116の貫通力がRHA値で550〜600mmであることから第三世代戦車の正面装甲に対する貫通力は充分とはいえないが、このミサイルの採用によりBK-1990は第三世代戦車を射程外からアウトレンジ攻撃する能力が付与された。補助武装は105mm砲と同軸に7.62mm機関銃が備えられ、また砲手用ハッチには12.7mm重機関銃が装備されている。また、76mm発煙弾発射機8基を砲塔側面に搭載している。

BK-1970は、車体中央に砲塔を置いたことやH型動力系統を採用したため、装輪車両としては比較的車高を低減させることに成功している。これは防御面では有利に働く要素である。ただし、操縦手席前方に大型の防弾ガラスがあるのも防御面で問題になる箇所である。砲塔前面には複合装甲が封入されており、1000mの距離からの25mm機関砲弾や100mの距離からの12.7mm重機関銃の直撃に耐えうる。また必要に応じて付加装甲を装着することも可能。車内にはライナーが張られており、中性子の浸透や弾片の車内への飛散を防ぐ。間接的な防御機構としてはNBC防護装置および自動消火装置が設置されているほか、76mm発煙弾発射機8基を砲塔側面に搭載している。また、車体の塗装は赤外線反射率を低下させる効果がある。

BK-1970は、装輪車両のメリットとして、装軌車両よりも信頼性が高くメンテナンスの手間も少なくて済むとのこと。航法装置としてGPSが採用されている。

BK-1970は空中空輸も可能であり路上速度の速さもあいまって高い戦略的機動性を有しており、軽機械化部隊や快速機動部隊での運用に適している。ただしBK-1970はあくまでテストベッド車両であり、これ以上の開発は行われなかった。

【参考資料】
[1]軍事研究(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[2]「坦克打撃者−中国新型輪式装甲突撃炮」 『火力戦神-THERMODYNAMIC POWER 陸戦編【2】』(彭援朝編集/中国文聨出版社)
[3]Jane's Defence Weekly
[4]Chinese Defence Today
[5]中華網-武器装備庫 「新研制的105毫米8×8輪式自行突撃炮」
[6]捜狐軍事頻道-軍情站「我軍新式輪式装甲車探秘」
[7]roomx的博客 「解放軍装備的幾種輪式突撃炮」
[8]「鉄甲飛騎踏燕来--我国新型8×8輪式歩兵戦車発展全記録」

08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)
122mm装輪自走榴弾砲(BK系列装輪装甲車派生型) 【試作のみ】
120mm装輪自走対戦車砲(BK系列装輪装甲車派生型) 【試作のみ】
105mm装輪自走対戦車砲(BK-1990) 【試作のみ】
中国陸軍