日本周辺国の軍事兵器 - 85-III式戦車

▼85-III式主力戦車(ERA搭載/未搭載)


▼砲塔後部の装具ラックの上にもERAを装備。また排気口の位置が85-IIM式戦車/85-IIAP式戦車(WZ-1228)とは反対の車体左部に移動しているのが確認できる


▼85-III断面図(車体中央部にカセトカ自動装填装置が配置されている)


85-III式主力戦車性能緒元
重量42〜42.5トン
全長9.07m(主砲を含む)
全幅3.42m
全高2.3m(2.2m説もある)
エンジン8気筒165型水冷ディーゼルエンジン 1000hp
 もしくは12気筒150型水冷ディーゼルエンジン 1000hp
最高速度65km/h
航続距離600km(予備燃料タンク使用時)
渡渉深度 
武装2A46 48口径125mm滑腔砲×1(42発。40発説もある)
 85式12.7mm(W-85)重機関銃×1(500発)
 86式7.62mm機関銃×1(2,500発)
 84式76mm発煙弾発射機×12
装甲複合装甲/爆発反応装甲
乗員3名(車長、砲手、操縦手)

85-III式戦車は85-II式戦車(風暴II型/WZ-1227F2)85-IIM式戦車/85-IIAP式戦車(WZ-1228)に続いて海外市場向けに開発された輸出用戦車である。1993年から開発に着手したことから、当初は85-93式主戦坦克の計画名で呼ばれており、後に85-III式主戦坦克と改称された。

85-IIM式戦車は中国最初の125mm滑腔砲搭載戦車であったが、ベースは70年代末に開発された80式戦車(WZ-122/ZTZ-80)であり功防速の各面において早晩旧式化は免れ得なかった。これを受けて1993年に海外市場向け戦車の開発方針が検討され、85-III式の開発が開始された。85-III式は、85-IIM式をベースに攻撃力、機動力、防御力、電子装備等全ての面で能力を向上させることが目標とされた。85-III式の設計において重視されたのが重量軽減であった。検討チームの分析では西側第三世代戦車の戦闘重量は50〜60トン台になっていたが、第三世界の多くの国々では大重量の戦車を運用するのはインフラや整備面での負担から困難であると予想された。第三世界の国々で運用可能な重量として、85-III式の重量は42トンとすることが決定された。重量を増やさず防御能力を向上させるために車体のコンパクト化が行われ、85-IIM式と比較すると全長(10.28m→9.07m)、全幅(3.45m→3.42m)と小型化された(注)。これによって車体重量は目標通り42トン(ERA未搭載時、搭載時は42.5トン)と85-IIM式よりも500kgの増大で抑えられた。

85-III式の設計で重視されたもう1つの点は、パキスタンなどの高温乾燥地帯での運用を前提にして耐熱耐塵処理を設計の第一段階から考慮したことである。エンジンの冷却能力を向上させ、摂氏50度での運用を可能とすることが目指された。ただし、この時点では高温乾燥地帯での運用に関するノウハウの蓄積が充分でなかったためか実際にパキスタンで運用試験を行った際に高温に起因するトラブルが多発することになった。

動力部の開発ではソ連のT-72戦車を意識した設計が各部に施されることとなった。85-III式の戦闘重量は42.5トンと85-IIM式より1トン増加したが、エンジンを新開発の8気筒165型水冷ディーゼルエンジン(1000hp)、もしくは12気筒150型水冷ディーゼルエンジン(1000hp)に換装したことで最高速度は65km/hに向上した。変速機は遊星歯車変速機を2つ、左右それぞれの起動輪にそなえて差動と変速をさせるT-72の変速機を元に開発された油気圧/機械式複合変速機が採用され、操縦手は地形に合わせて全自動変速、半自動変速、手動変速を選択可能。動力部はT-72とは異なりパワーパック化され25〜40分で換装が可能となった。パワーパック化されていない80-II式戦車(BW-122)の場合、機関部取り外しに4時間、換装に4時間の合計8時間を要したので、パワーパック化は整備面での大きな改善となった。また車体長短縮のためパワーパックは横置きとされた。エンジンの排気口の位置は85-IIM式とは反対の車体左部に移動しているが、これもT-72と同じである。

85-III式は2A46 125mm滑腔砲、カセトカ自動装填装置は85-IIM式を踏襲している。射撃統制システムでは弾道計算コンピュータを新型のデジタル式のものに更新しており、走行間射撃能力が向上している。車長と砲手用の二軸安定式照準機には、第二世代型微光増幅式夜間暗視装置が組み込まれ、夜間戦闘能力が向上している。また、中国の戦車としては初めてGPS位置探知装置を採用したのも特徴である。副武装は59式戦車以来の54式12.7mm重機関銃、59式7.62mm機関銃から新型の85式12.7mm(W-85)重機関銃と86式7.62mm機関銃に変更された。

車体前面と砲塔前面には新型のモジュール式複合装甲が装着された。これは85-IIM式の複合装甲よりも対弾性能が向上しており、運動エネルギー弾と成形炸薬弾の双方に対する防御力の高い装甲になっている。複合装甲ブロックは、被弾損壊した場合やより強力な新式装甲が登場した際には容易に換装が可能である。さらに砲塔前部、砲塔後部の装具ラックの上、車体前部には山西省の中北大学で開発されたFY系列双防反応装甲(EAR)を装着することが可能。85-III式に装着されているERAの詳しい防御能力は不明だが、化学エネルギー弾だけでなく運動エネルギー弾に対する効果もあるとのこと。車体側面にはゴム製サイドスカートが装着されたが、前方のものはその上に金属製スカートを追加装着することも可能。被弾時の二次爆発に対しては自動消火装置を採用、本装置は火災を探知すると60秒以内に消火を行い二時爆発を防ぐ能力を有している。

85-III式の最初の試作車両は1994年に完成した。1995年には2両の前期量産型が完成した。この車両はパキスタンの次期主力戦車トライアルにウクライナのT-84戦車と共に参加して、各種実地試験に供された。このトライアルでは、T-84が高温地帯での運用試験でも問題なく稼動することで兵器としての信頼性を発揮したのに対して、85-III式は各種の故障を頻発することになった。特に問題となったのが動力部の問題であった。エンジンは高温地帯での運用を前提に設計されていたものの、実際の試験では故障が頻発することになった。また高温によって変速機の油気圧装置のオイルの循環不順が発生し、大量の蒸気が発生し最終的には変速機が破壊されてしまった。パキスタンはこの結果を受けて、ウクライナから320両のT-84を購入することを決定し、85-III式は未採用に終わった。

85-III式は中国軍でも採用されることはなく製品番号(WZ-)も判明していない。NORINCOでは輸出市場向けに販売を継続し、データリンク化の研究、主動防御システム、ステルス技術、射撃統制システムのデジタル化、誘導砲弾の採用などにより市場価値を高めるための各種改良を行ったが、現在までに採用した国はない。これは、冷戦終結後に大量の東西諸国の中古戦車が低価格で第三世界に再輸出されたこと、85-III式自体の機械的信頼性の問題、85-III式の性能はT-72とほぼ同等であり各国がT-72のアップグレード車両を開発する状況下では市場での競争力に難があること、中国の電子装備の遅れなどが要因として考えられる。また、85-III式の輸出向け価格は、一説には289万8千ドルとされている。これは85-IIM式の260万6千ドルよりもかなり高く90-II式戦車(MBT-2000/アル・ハーリド)に匹敵する価格になっており、この点も85-III式が海外市場で受け入れられなかった要因となっているものと思われる。

注:85-III式の車体長については各種の数値がある。本稿では 武信「中国85-III式主戦坦克」『世界航空航天博覧〈主戦武器〉』第107期 の数値を採用している。なお Jane's Armour and Artillery 2005-2006 では、全長10.369m、車幅3.42m、車高2.3mとされている。

【参考資料】
月刊グランドパワー 2004年9月号「中国戦車開発史(4)」(古是三春/ガリレオ出版)
世界航空航天博覧〈主戦武器〉第107期2004年11月号(世界航空航天博覧雑誌社)
世界武器報道-火力分析 2005年7月号「亜洲第三代主戦坦克的発展歴程」(北岳文芸出版社)
国際展望-尖端科技報道 総第529期2005年12月号「試金石-中国下馬主戦坦克型号内幕」(国際展望雑誌社)
Jane's Armour and Artillery 2005-2006
Chinese Defence Today
Global Security
戦車研究所
坦克與装甲車両
軍武狂人夢
中国武器大全「中国坦克族譜」
環球展望「中国坦克専家談”外貿”坦克発展」
新政期課程網「中国主力戦車」
紅狐狸軍事天地「関于中国坦克発展的蛛絲馬述」
新浪軍事「中国59式到88式主戦坦克的技術発展」

【関連項目】
85-II式戦車(風暴II型/WZ-1227F2)
85-IIM式戦車/85-IIAP式戦車(WZ-1228)

中国陸軍