日本周辺国の軍事兵器 - 86式120mm迫撃砲(W-86)



性能緒元
口径120mm
全長2,360mm(牽引状態)
全幅1,560mm(同上)
全高1,080mm
戦闘重量206kg
牽引時重量291kg
砲身重量88kg
砲架重量27kg
砲床重量91kg
砲弾重量13.8kg(榴弾)
砲弾種類高性能榴弾、煙幕弾、照明弾、射程延長弾、精密誘導弾など。
装薬番号0〜4
最大発射速度20発/分
砲口初速341m/s
最大射程7,700m
最小射程400m
上下射角45-80度
左右射角各4度(二脚使用時)/360度(底盤を軸に砲身を回転させる
要員7〜9名

86式120mm迫撃砲(W-86)は、中国北方工業総公司(NORINCO)が1980年代はじめに開発した重迫撃砲である。

中国軍では迫撃砲は歩兵部隊の団(連隊に相当)〜営(大隊に相当)レベルの重要な火力支援兵器としての役割を果たしているが、団レベルだと100mmもしくは120mm迫撃砲を、営レベルでは82mm迫撃砲を保有していた[1]。そして一部の歩兵師(師団に相当)の砲兵団はさらに大口径の160mm迫撃砲を保有していた。機械化が十分でなかった時代の中国歩兵にとって、実質的に運用できる支援火力としては迫撃砲のみという時代が長く続くことになった[1]。

団レベルで運用する重迫撃砲として1950年代にソ連の120mm迫撃砲M43を国産化した55式120mm迫撃砲を国産化、そして82mm迫撃砲と120mm迫撃砲の間をカバーするため55式100mm迫撃砲を開発していた[2][3]。しかし、前者の重量は300kg、後者は275kgと、歩兵主体の部隊が中心で軍隊の機械化が端緒に着いたばかりの当時の中国軍にとっては、その大重量は輸送に大きな負担をかけるものであった。歩兵による搬送ではその重量は大きなネックとなり駄載搬送が基本とされたが、駄馬が使えない急峻な山地の歩兵搬送には困難が伴った[2]。チベット高原のような高山地帯では空気が薄くなるため平地に比べて体力が減耗し、兵士一名が搬送可能な重量は20〜30kgにまで低下するので、120mm迫撃砲の運用は特に難しかった[3]。16kgの砲弾を2発携行搬送するのも困難であって、輸送できる弾数も大きく制約されるなどの問題が多発した[3]。

これを受けて、120mm迫撃砲の軽量化が図られ64式120mm迫撃砲が開発された[3]。64式は総重量を55式の275kgから174kgへと大幅に軽減した。ただし砲身重量は60kgと歩兵一名での携行は依然として困難であった。中国軍ではこの状況に対処するため軽量化した100mm迫撃砲を開発して120mm迫撃砲に換えることを決定し、1971年に71式100mm迫撃砲として制式化された[3]。71式は小口径により威力・射程ともに120mm迫撃砲に劣ったが、総重量は74.5kgと大幅な軽量化を達成し、各部品の重量も砲架21kg、砲身28kg、底盤25.5kgと単兵搬送可能なレベルに抑えることができた[3]。射程は4700mと120mm迫撃砲には劣ったが、重量軽減により運用面での負担を軽減することに成功した。71式に続いて、80式100mm迫撃砲、89式100mm迫撃と三世代にわたって100mm迫撃砲が開発され、改良を重ねる中で射程については6.4〜6.5kmと55式120mm迫撃砲の最大射程5.5kmを超える性能を確保し、砲弾威力も相応に向上したが口径差に起因する威力の違いは完全には克服し得なかった[2][4]。

1980年代にはいると、自動車化された歩兵連隊(摩托化步兵団)では輸送力の向上に伴い重迫撃砲を122mm榴弾砲に置き換える動きが進む[5]。ただし置き換えられたのは120mm迫撃砲が主であり、軽量で歩兵携行が容易な100mm迫撃砲は運用が継続される。さらに装甲歩兵大隊(装甲歩兵営)や機械化歩兵合成大隊(摩步合成営)所属の迫撃砲中隊(炮连)でも100mm迫撃砲は配備が継続された[5]。

団レベルでの主力迫撃砲は100mm口径となったが、100mm迫撃砲の開発と並行して120mm迫撃砲についても開発が続けられ、1980年代になると86式120mm迫撃砲(W-86)が登場する。これは重量を64式の174kgには及ばないものの55式より100kg減じた206kgとしつつ、7.7kmの最大射程を確保することに成功した。中国軍での運用についての情報は乏しく、資料[8]では、歩兵連隊の砲兵大隊(团属炮兵营)に配備され、歩兵大/中隊への火力支援を実施するとの記述もあるが、上記のように122mm榴弾砲や100mm迫撃砲が歩兵連隊の支援火器の主流を占める状況では大量生産は見込めず、採用はなされたものの少数配備にとどまったとされる[6]。

W86は主に輸出向けに生産がおこなわれアルジェリアやカンボジア、ヨルダンなどへの輸出に成功している[5][6]。W86自体は標準的な性能の120mm迫撃砲であったといえるが、当時の中国軍の兵器体系にうまく適合せずに大量配備には至らなかった。ただし、海外市場の獲得には成功し、それを背景として各種派生型が開発され21世紀になって採用された新型120mm迫撃砲の開発のたたき台にもなるなど、W-86の存在は後にさまざまな形となって生きてくることになったと評価し得る。

【性能】
W86は前装式の120mm迫撃砲で、砲身、2脚砲架、底盤、照準機で構成されている。砲身内にライフルリングは刻まれていない滑腔砲[7]。一門の操作に要する人数は7〜9名[7]。

重量は射撃体勢で206kg、牽引用の二輪を付けた状態で291kg。分解して搬送することも可能であるが、砲身88kg、砲架27kg、底盤91kgと歩兵の携行は困難な重量であり[7]、車両輸送や駄載輸送が基本となる。車両輸送の際には分解搭載のほかに、砲身基部に二輪を装着して砲口に牽引用具を付けることで牽引輸送を行うことも可能。

射撃の際には、底盤を設置し、砲身と砲架、照準器を装着して、砲口から砲弾を装填して射撃を実施する。W86用に開発された新型砲弾であれば7.7kmの最大射程を発揮する[7]。旧来のソ連及び中国製120mm迫撃砲弾にも互換性があるが、これらの砲弾を用いた場合、最大射程は5.5kmに留まる[7]。最大発射速度は毎分20発であるが、現実的な数字は毎分12発とされる[7]。運用可能な砲弾としては、高性能榴弾、煙幕弾、照明弾などに加えて、その後も輸出向け市場の開拓を目的として、衛星位置誘導砲弾、レーザー誘導砲弾、終末誘導弾といった多種多様な砲弾が開発されている[8]。

【派生型】
86式の派生型としては、85式装甲兵員輸送車にW-86を搭載して自走砲化したYW-381 120mm自走迫撃砲が開発された[9][10]。YW-381は、車体後方の兵員室にターンテーブルを設け、その上にW-86を搭載。射撃の際には兵員室上部の円形ハッチを開放して砲弾を発射する[10]。120mm迫撃砲のほか、自衛用火器として12.7mm重機関銃一丁を搭載。車体左側面には、W-86用の砲架と底盤を外装しており、必要に応じて砲を組み立てて通常形式での射撃も可能となっている[10]。ただし、YW-381は輸出向け装備として開発され、中国軍に配備される事はなかった。

YW-381のベース車体である85式APCの生産は1989年で終了したので、W-86搭載シャーシはその後継車両である89式装甲兵員輸送車(YW-534/WZ-534/ZDS-89)に変更され、この車両はジンバブエへの輸出が確認されている[10]。

2014年に開催された珠海航空ショーでは、東風EQ2050四輪駆動車にW-86を搭載した車載式自走迫撃砲が展示された[11]。これはEQ2050の荷台に油気圧式の架台を設置して、その架台に背負い式にW-86を搭載。走行時には砲身を先端にした状態で格納され、射撃体勢に入るときには機力を用いて架台を展開、底盤を設置させて砲架を接地すれば砲撃が可能となる。分解した各部品を組み立てるよりもはるかに迅速に展開-射撃-撤収の一連の作業をこなすことが可能となった。砲弾と装薬は、荷台の左右に儲けた砲弾ラックに収納される。シャーシのEQ2050はソフトスキン車両であり、荷台も迫撃砲や砲弾ラックをオープントップで搭載しているので、対迫撃砲射撃を受けた場合の生存性は期待できない。それゆえ、迅速な射撃と撤収を可能とする新機構を採用することで生存性を向上させることを意図したものと考えられる。

この車載式120mm迫撃砲自体の輸出は確認されていないが、2018年になってW-86ユーザー国の一つのアルジェリアにおいてメルセデスGクラスの荷台に機力式架台を設けて、そこにW-86を搭載して車載式迫撃砲化した車両が確認された[12][13]。この車両は自走迫撃砲と弾薬輸送車で構成され、後者は40発の弾薬を搭載する。射撃では、高精度を発揮するために慣性航法、GPS、衛星通信の各システムが用いられる[12]。この車両と中国の車両との関連については不明だが、120mm迫撃砲を車載化するという発想は共通しているものの架台の形状が異なることから、これはアルジェリアで開発されたシステムであると[13]では判断している。

また、W-86を90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)に搭載したSM-4型120mm自走迫撃砲も開発されており、これもアルジェリアで採用されている[8][14]。SM-4は、WZ-551/551Aの車体後部をかさ上げし、そこに120mm迫撃砲を搭載した自走迫撃砲である。ただし、車載化に当たって砲に設計変更が加えられており、射撃時の反動軽減のため砲上部に油圧式緩衝器を新設、砲身と砲架の駆動は機械化され搭載された高度な射撃統制システムに従って自動制御されるなどの改良が施されており、W-86をそのまま搭載したわけではない[15]。SM-4は、ユーザーの要望に応じて様々な車両への搭載が可能となっており、タイ陸軍向けにはVN-1装輪歩兵戦闘車をシャーシとした自走迫撃砲が輸出されており、このほかWZ-551の大幅改良型であるVN-2C装輪装甲車への搭載も可能[16]。

【参考資料】
[1]每日头条「解放军的120迫榴炮啥都好,但还是有这个缺憾」(2018年5月21日/由 观察者网新媒体)https://kknews.cc/military/g54x82y.html(2022年1月13日閲覧)
[2]网易「我军100毫米迫击炮发展史,从250千克下降到75千克,山地作战利器」(2022年1月10日/来源: 红外铲史官)https://www.163.com/dy/article/GTC5G0BV0535AF0T.ht... (2022年1月13日閲覧)
[3]网易「威力惊人但极为笨重的64式120毫米迫击炮:萨沙的兵器图谱第245期」(2021年10月30日/来源: 萨沙)https://www.163.com/dy/article/G7HEADH705159NLJ.ht... (2022年1月13日閲覧)
[4]网易「国产新120迫击炮亮相演兵场!都2021年了,为何迫击炮还没淘汰?」(2021年8月28日/来源: 迷彩虎军事)https://www.163.com/dy/article/GIFSKG1J05159TSH.ht...(2022年1月13日閲覧)
[5]每日头条「揭秘中国陆军的120迫榴炮家族 性能完虐美俄」(2017年1月13日/由 火炮军事)https://kknews.cc/military/zmoq45g.html(2022年1月13日閲覧)
[6]SIPRI公式サイト「SIPRI Arms Transfers Database -Trade Registers」https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_r... (2022年1月13日閲覧)
[7]Weaponsystems.net「120mm Type W86」https://weaponsystems.net/system/1154-120mm+Type+W... (2022年1月13日閲覧)
[8]每日头条「兵器工业宣传片发布:八轮车载120mm迫击炮,引发军迷的关注」(2021年9月25日/由 国平军史)https://kknews.cc/military/36x9ljo.html(2022年1月13日閲覧)
[9]新浪网「【军迷评车】红色战神(图)」(2003年9月19日/坦克装甲车辆) http://mil.news.sina.com.cn/pc/2003-09-19/29/365.h... (2022年1月13日閲覧)
[10]每日头条「津巴布韦街头的战车并非运兵车,神秘装备揭开中国特种战车秘史」(2018年10月26日/由 小牛皮轰轰)https://kknews.cc/military/g9venky.html (2022年1月13日閲覧)
[11]CarNewsChina.com - China Auto News「Zhuhai Airshow: Dongfeng EQ2050 gets a 120mm mortar」(2014年11月6日/W.E. Ning)https://carnewschina.com/2014/11/06/zhuhai-airshow... (2022年1月13日閲覧)
[12]Defence Web「New mortars for Algeria」(2018年5月4日/Written by defenceWeb) https://www.defenceweb.co.za/land/land-land/new-mo... (2022年1月13日閲覧)
[13]新浪网「不如买正版!阿国新型自行迫击炮疑山寨我国猛士同款」(2018年5月3日/来源:电波震长空XYY)http://slide.mil.news.sina.com.cn/l/slide_8_61342_...
[14]Defence Web「Algeria reveals new Chinese weaponry」(2019年1月11日/Written by defenceWeb)https://www.defenceweb.co.za/land/land-land/algeri...(2022年1月13日閲覧)
[15]每日头条「开年军工第一喜:国产SM4出口北非 该国拥7款中国武器」(2019年1月10日/由 星军事)https://kknews.cc/military/ab3zeoj.html(2022年1月13日閲覧)
[16]每日头条「国产外贸八轮120迫击炮亮相!涂装很亮眼,泰国陆军已抢先订购」(2021年9月24日/由 电波烨长空)https://kknews.cc/military/2ovq89e.html(2022年1月13日閲覧)

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