日本周辺国の軍事兵器 - 903型補給艦(フーチー型/福池型)



903型補給艦(中国語では903型総合補給艦)は中国海軍最新の大型艦隊補給艦。NATOコード名は「Fuchi class」。同級は1996年にタイに輸出したシミラン級補給艦をタイプシップとして設計された。903型と改良型の903A型を合わせて合計9隻が建造され、中国海軍補給艦の数的主力の地位を占めている。

【建造経緯】
1990年代後半、中国海軍は近海防衛戦略に基づいて従来の沿岸海軍から外洋への進出を段階的に進めていた。しかし、艦艇の外洋での活動が次第に増加したため、従来の福清型補給艦2隻、青海湖級補給艦(チンハイフー級)1隻では補給艦の数が足りなくなっていた。

この頃、中国の経済成長に伴って支援艦艇の整備にも資金が充当できる様になっていた事もあり、中国海軍では新型補給艦4隻の建造を決定[11]。しかし、新型駆逐艦の建造に資金が転用された事によって、建造数は2隻に削減されてしまった[11]。903型の建造は2001年に開始され、2隻とも2004年に海軍に引き渡されている[11]。

【性能】
903型補給艦は、前述の通りタイに輸出されたシミラン級補給艦をタイプシップとして、そこに青海湖級補給艦(チンハイフー級)での実績がある各種システム・設備を搭載して、技術水準と補給能力を海外の同クラスの補給艦に匹敵する水準に向上させることが目された[11]。

903型の補給物資搭載量は下記の通り[11]。
燃料10,500トン
清水250トン
弾薬類220トン
生活補給品750トン
その他物資300トン
903型の搭載物資は、5〜6隻の駆逐艦からなる艦隊の活動を30日間維持するのに十分な搭載量とされる[11]。爆発の危険性がある弾薬類の安全対策については従来にない設計上の工夫が施されているとの事。2組ある洋上補給ポストは前方が給油用、後方がドライカーゴ移送用である。ドライカーゴ用の受給ポストは装備されているが、重量物の移送用ではない。ミサイルや砲弾などの重量物資は備え付けのクレーンを使用して移送を行う。ただしクレーンによる受け渡しは受給ポストを使う方式よりも補給艦と受給艦が接近する必要があり、荒天時の大形ドライカーゴの補給には問題が生じる可能性がある。補給の指揮管制所は片舷三箇所、計六箇所設けられている。給油ステーションは片舷二箇所[1]。福池型は弾薬、魚雷、ミサイルの様な装備の洋上受け渡しが可能となった初の中国国産補給艦となった[2]。補給能力は第1世代の補給艦福清型補給艦に対して燃料・清水で3倍、ドライカーゴで4倍となり、建造当初から縦引き・横引き・固有の搭載ヘリコプターを利用したヴァートレップ輸送の3種類の補給手段を完備する様になった[2]。

西側の大形補給艦に比べると903型の補給設備はなお遜色があるが、従来の中国海軍の補給艦と比べると補給能力・自動化の水準はかなりの進歩を見せている[2][11]。ただし補給装置は受給する側の設備と連動するもので、中国艦艇では受給設備はあまり重視されていないのが実情である。新型の駆逐艦やフリゲイトでも給油についてはプローブ・レシーバーの類は見当たらない。洋上補給能力の向上には補給を受ける艦艇の側でも装備の改善が求められるが、これは今後の中国海軍の課題であろう[1]。

船体は浸水時の抗堪性向上と燃料漏れ対策として、中国海軍の補給艦としては初めて二重構造を採用[11]。船体幅が増加したことで安定性も向上しており荒天時の洋上補給能力が改善されたとされる[2]。NBC防御能力を付与するため舷窓を廃止した全密封式を採用している。これに合わせて先進的な空調装置を導入した事で特に熱帯地域での活動における居住性が従来艦よりも大幅な改善を見ている[11]。ダメージコントロールに配慮した設計も903型の特徴で、艦内の配線系統、防火隔壁、通排気系統などの設計では様々な新機軸が導入されている。これまで甲板に設置されていた補給燃料用の配管の多くを艦内に収納する事で、安全性と作業効率の向上に資している。

主機としてはSEMT-Pielstickディーゼルエンジン(24,000馬力)を2基搭載。4枚プロペラのスクリューを2軸備えており、最高速力は中国海軍の補給艦としては最速の19ktsを発揮する[11]。航続距離は、順拘束力18ktsで7,000nm、巡航速力15ktsの場合は12,000nm[11]。従来の中国海軍の補給艦は推進軸が1軸であったのに対して、903型では損傷時の抗堪性を考慮して2軸に変更されている[11]。

903型は洋上補給設備に加えて医療施設も保有しており、病室、隔離病室、X線撮影室、手術室などを備え、艦隊で手術や治療の必要な傷病者が発生した場合、ヘリコプターで迅速に搬送し処置を行う事が可能。また洋上工作船としての能力も兼務しており、必要に応じて洋上での修理工作任務に当たる[2]。船体後部にはヘリコプター格納庫と発着甲板を配置している。ヘリコプター甲板は15トン級のヘリコプターの発着が可能な強度を備えている[11]。しかし、格納庫のサイズから搭載可能なヘリコプターはZ-9CKa-28に限定されており、中国海軍で最も大型のヘリコプターであるZ-8を格納する事はできない(発着艦は可能)[11]。

兵装としては、76F型37mm連装機関砲4基を備えている。76F型37mm機関砲は1990年代以降、中国海軍の補助艦艇の自衛用火器として広く搭載された艦載機関砲。機関砲の操作は自動式と人力操作式の2モードが用意されているが、火器管制レーダーがなく、照準は光学/電子照準装置のみのため夜間射撃能力は有していない[6]。

【派生型と後期建造艦について】
903型の設計は成功したと評価された模様で、同型をタイプシップとした派生型として撫仙湖級輸送艦(ダンヤオ型)920型病院船(アンウェイ型/安衛型)が登場している[1]。

903型2隻の建造により当面の補給艦不足を解消した中国海軍であったが、当初の予定よりも少ない2隻の建造に留まったため艦隊規模に比べて補給艦の隻数が少ない状況には変化はなかった。さらに、2000年代に進んだ水上戦闘艦艇の船体規模の大型化と隻数の増加、洋上訓練や遠洋訓練の回数が増えた事により、中国海軍の数少ない補給艦の負担は増え続けていった。これを決定的にしたのは、2008年末から開始されたソマリア沖・アデン湾での国際船舶護衛任務への中国海軍の参加であった[11]。この任務では、中国から4,000nm以上離れた海域が活動範囲となるので、派遣艦隊への補給艦随伴は必須であった。一回の派遣期間は約200日にも及び、その間補給艦1隻が必ず派遣艦隊に随行しなければならなくなり、中国海軍の補給艦需要を逼迫させる事になった[11]。

少ない隻数で過密な任務をこなす事は、艦艇を滞りなく活動させるために必要な定期検査・修理や乗員の休息、訓練といった一連の運用スケジュールに悪影響を与えるため、本来望ましい事ではない。この状況を受けて、2011年に中国海軍では903型補給艦2隻の追加建造を行う事を決定[11]。903型後期建造艦2隻は、2013年に中国海軍に就役している。後期建造艦(3番艦、4番艦)については型式名を903A型と分類する情報もある[8]。

903型後期建造艦は、基本的な設計は903型を踏襲しているが、903型の運用実績を踏まえた改良が施されている[11]。

10,500トンの燃料搭載量は前期建造艦と変わっていないが、近年の中国海軍における艦載ヘリコプターの増加を受けて搭載燃料の割合を変更している。903型が搭載する燃料の内訳は、艦艇用の軽油/重油、ヘリコプター用の燃料、艦艇や艦載ヘリ用の機械油など[11]。前期建造艦では、ヘリコプター用燃料の搭載量は300トン以下であったが、この量では小型のZ-9でも350時間、Ka-38やZ-8だと200時間前後の飛行時間しか保証できなかった。

1990年代以前であれば、中国海軍の艦載ヘリコプター搭載艦自体が数えるほどしかなかったので問題にはならなかったが、1990年代後半以降に建造された駆逐艦やフリゲイトはその多くがヘリコプターの運用能力を備える様になっていた。艦隊による洋上訓練では最低でも2機以上の艦載ヘリコプターが参加しており、1機あたりの飛行時間は一週間から15日間の訓練でも平均100時間以上になる[11]。アデン湾護衛任務では、洋上哨戒任務にヘリコプターを多用する必要があるため、艦載ヘリコプター1機あたりの飛行時間は300時間を越え、護衛任務中に航空機用燃料が不足する事態が何度も発生していた[11]。

903型後期建造艦ではこの教訓を踏まえて、航空機用燃料の搭載量を700トン前後にまで増加、さらに航空機や各種装備の整備・保障能力を向上させて洋上での艦載ヘリコプターの運用状況の改善に努めている[11]。後期建造艦では、Z-8の格納を目的としてヘリコプター格納庫の容積拡大を実施しているのも特徴の1つ[11]。搭載ペイロードの大きいZ-8を固有の艦載機として運用可能になった事で、ヘリコプターによるヴァートレップ輸送能力が大きく向上している[11]。

自衛用火器を変更したのも後期建造艦の特徴。後期建造艦では新型のH/PJ-15型30mm単装機関砲4基を搭載している。口径が小さくなったため、最大射程距離が76F式の8,000mから7,000mに低下、砲弾一発あたりの破壊力も減少しているが、威力の低下は発射弾数の多さでカバーする[11]。H/PL-15型は軽量コンパクトなシステムで、76F式の様に甲板下に給弾系統を配置する必要が無いため、甲板上に据え付けるだけで運用が可能。76F式にはなかった目標の自動追尾機能や暗視装置による夜間射撃能力を備えており、水上目標に対する攻撃能力が向上している。

H/PJ-15は水上目標への対応が主任務で対艦ミサイル迎撃能力には乏しい。これを補うのがECMシステムやチャフ・フレア発射装置といったソフトキル・システムで、中国海軍の補給艦でこの種のシステムを装備したのは903型後期建造艦が初[11]。

【今後の展望】
903型後期建造艦は、前期建造艦の運用から明らかになった問題点を踏まえた改良が施されており、総合的な補給艦としての能力を向上させた艦といえる[11]。後期建造艦2隻の就役により、中国海軍の補給艦は合計7隻となり、補給艦の需要逼迫をある程度解消する事が出来た[11]。しかし、中国海軍が将来的に保有を計画している空母機動部隊の補給艦としては903型の物資搭載能力や速力では力不足となる事が指摘されており[11]、今後建造される補給艦は903型よりも大型化される事が見込まれている[11]。

2014年には、上海滬東造船所と広州造船所で3隻めと4隻目の903A型/903型後期建造艦が建造されていることが明らかにされたが[6]、これは中国海軍の成長と外洋活動の活発化に伴い、補給艦の需要が今以上に求められている事を窺わせる事例であるといえる。903A型は合計7隻が建造され、903型2隻と合わせて合計9隻が中国海軍に就役した[6]。

性能緒元
満載排水量23,000t
全長178.5m
全幅24.8m
主機SEMT-Pielstickディーゼル 2基(24,000馬力) 2軸
速力19kts
航続距離7,000nm(18kts)/12,000nm(15kts)
搭載量(前期建造艦)燃料10,500t、清水250t、弾薬類220t、生活補給品750t、その他物資300t
乗員130名

【兵装】
前期建造艦(#886、#887)
近接火器76F型37mm連装機関砲4基
搭載機Z-9CもしくはKa-281機
後期建造艦(#889、#890)
近接火器H/PJ-15型30mm単装機関砲4基
搭載機Z-81機

同型艦
1番艦903型千島湖Qiāndǎohú886上海滬東造船所で建造。2001年起工、2003年3月29日進水、2004年4月30日就役東海艦隊所属
2番艦903型微山湖Wēishānhú887広州国際造船所で建造。2003年6月進水、2004年就役南海艦隊所属
3番艦903A型太湖Tàihú889広州国際造船所で建造。2012年3月22日進水。2013年6月18日就役[9]北海艦隊所属
4番艦903A型巣湖Cháohú890上海滬東造船所で建造。2012年5月7日進水。2013年9月12日就役[10]東海艦隊所属
5番艦903A型東平湖Dōngpínghú960広州国際造船所で建造。2014年5月30日進水[6][12]、2015年12月28日就役北海艦隊所属
6番艦903A型高郵湖Gāoyóuhú966広州国際造船所で建造。2014年12月20日進水[6]、2016年1月29日就役東海艦隊所属
7番艦903A型駱馬湖Luòmǎhú964上海滬東造船所で建造。2015年6月5日進水[6]。2016年7月15日就役[6]。南海艦隊所属
8番艦903A型洪湖Hónghú963広州国際造船所で建造。2015年6月28日進水[6]。2016年7月15日就役[6]。南海艦隊所属
9番艦903A型可可里西湖Kěkělǐxīhú広州国際造船所で建造中。2018年5月18日進水。2019年7月29日就役[6]北海艦隊所属


051B型駆逐艦#167「深圳」に補給する#887「微山湖」

▼蛇管による給油(奥)と並行してドライカーゴの補給(手前)を行う#887「微山湖」


▼第14次アデン湾派遣隊の洋上補給動画。#887「微山湖」と052型駆逐艦の#112「哈爾浜」(前半)、053H3型フリゲイトの#528「綿陽」(後半)

▼第14次アデン湾派遣隊#887「微山湖」の洋上接舷補給動画。


【参考資料】
[1]世界の艦船2008年2月号(686号)「注目の中国新型艦艇5,特務艦」(海人社)
[2]艦船知識2009年3月号「27年磨一剣 - 我国総合補給艦総師専訪 描述:張文徳、708所研究員、我国新型総合補給艦総設計師」
[3]Jane's Fighting Ships 2006-2007(Jane's Information Group)
[4]Chinese Denfence Today「Qiandaohu (Fuchi) Class Auxiliary Oiler Replenishment Ship」
[5]Jane's Fighting Ships 2009-2010(Stephen Saunders (編) /2009年6月23日 /Janes Information Group)160頁。
[6]MDC軍武狂人夢「福池級油彈補給艦/撫仙湖號定點補給艦」http://www.mdc.idv.tw/mdc/navy/china/aoe886.htm
[7]China Defense Blog「A new type 903 AOR Replenishment oiler launched in Shanghai Hudong Shipyard. 」(2012年5月7日)
[8]海军360「衡水湖号 」「巢湖号」
[9]新浪網「远洋综合补给舰太湖号入列北海舰队」
[10]新浪網「中国2万吨级新型远洋补给舰巢湖舰入列海军(图)」(2013年9月13日)
[11]天一「中国海軍対遠洋総合捕球艦的需要和展望」(『艦載武器』2013年10月号/中国船舶重工業集団公司)24〜41ページ
[12]China Defense Blog「Fifth Type 903 Replenishment Ship launched, this one is by Guangzhou Shipyard International」(2014年6月2日)

【関連事項】
撫仙湖級輸送艦(ダンヤオ型)
920型病院船(アンウェイ型/安衛型)
中国海軍