日本周辺国の軍事兵器 - 93式60mm迫撃砲(PP-93)


▼搬送時の状態。左から、砲身、砲床、脚部、砲弾ケース。

▼93式の射撃と着弾。(C)CCTV7



性能緒元
口径60.75mm
全備重量22.4kg
砲身重量9.45kg
支持架重量6.15kg
底盤重量7.3kg
照準器重量0.32kg
砲弾重量2.18kg(榴弾)
有効殺傷範囲17.8m(榴弾)
砲弾種類高性能榴弾、煙幕弾、照明弾など。
最大発射速度20発/分
砲口初速329m/s
最大射程5,564m
上下射角45-85度
左右射角360度
要員5名

93式60mm迫撃砲(PP-93)は、1993年に制式化された迫撃砲であり、中国では「第三世代の60mm迫撃砲」と見なされている[1][2]。

【開発経緯】
93式は、山岳歩兵、空軍空降兵(空挺部隊)、海軍陸戦隊、快速反応部隊など重装備を持てない歩兵部隊の直協火器として開発された[1]。この時代、上記の部隊は通常の陸軍部隊と比較して重装備が少ないのみならず、火砲の輸送に必要な車両やヘリコプターといった輸送手段についても必ずしも十分ではなく、支援射撃を行う火砲には制約が多かった[1]。そのため、歩兵自身が携行搬送できる60mmm迫撃砲の射程を延伸することで、数少ない自前の火砲の能力を底上げして重装備の不足を補うことが目指された[1]。

開発に際しては、軽量化と出来る限りの射程延伸と威力向上を両立する事が図られ、軽合金を多用する事で砲身長を伸ばしつつ重量軽減を実現した。最大射程は5,564mと、同時期に開発された89式60mm迫撃砲(PP-89)の2,672mを大きく超える事に成功し、1クラス上の87式82mm迫撃砲(PP-87/W87)の5,700mに匹敵する射程を達成することに成功した[1]。

1993年に制式化された93式は、上記の通り、山岳歩兵、空軍空降兵(空挺部隊)、海軍陸戦隊、快速反応部隊などへの配備が進められていった[1]。同時期に通常の歩兵部隊に配備された89式60mm迫撃砲(PP-89)が歩兵連(歩兵中隊に相当)の迫撃砲排(小隊)に配備されたのに対して、93式は一段高いレベルの歩兵営(大隊に相当)の迫撃砲連(中隊に相当)が配備先であった[1]。これは両者の立場の違いを表す証左であり、89式が歩兵連の自前の近距離支援火器であるのに対して、93式は重火器に乏しい軽装備部隊が歩兵営のレベルで隷下の部隊に火力支援を行う手段を得るための装備であることを示している[1]。

93式の配備を受けた上記部隊では、それまで歩兵営の迫撃砲連に配備されていた87式などの82mm迫撃砲を93式60mm迫撃砲に装備更新していった[1]。これは上記の部隊の当時の後方支援体制では82mm迫撃砲の能力を活用するだけの支援体制を構築するのは困難なことに起因する措置であった[1]。無論、口径の違いに起因する砲弾のサイズは如何ともしがたく、一発当たりの重量は82mm砲弾の4.2kgに対して1.93kgしかなく破壊力では大きな差が存在するのは否めなかったが、この点については軽量ゆえに多数の弾薬を携行することである程度は補うことが可能であった[1]。なにより、87式が基本的に車両輸送を前提として設計され、歩兵による分解搬送は短距離なものに限定するとして設計されたのに対して、93式は歩兵による分解搬送を前提に開発されたので、輸送インフラで劣るこの当時の上記部隊にとって93式の優位は揺るがなかった[1]。

【性能】
砲システムとしての93式は、砲身、支持架、床盤、照準器、弾薬、整備用工具などで構成されている[2]。搬送時には砲身、支持架、床盤、照準器に分離して歩兵により携行輸送されるが、必要に応じて1名での携行も可能[2]。一個迫撃砲班の定員は12名で2門の93式が配備されている[2]。一門の操作に要する人数は5名(砲長×1、砲手×4)[2]。

93式は長射程と軽量化を両立するために砲身には軽合金を多用して軽量化を図っている[2]。これにより砲身長は1,350mmと89式60mm迫撃砲(790mm)よりも大幅に長くなったが、重量は5.25kgから9.45kgと増加を余儀なくされているが軽合金を使用しなければその差はさらに開いていたであろう[2]。なお、軽合金を用いたことで砲身寿命は93式の方が優位に立っている[2]。

93式の設計上の特徴としては、砲身中央部に円筒形の緩衝器が新たに加えられた点が挙げられる[2]。これは射撃の際に緩衝器が砲身の後退と復座の動作に従って上下にスライドし、衝撃の度合いを和らげて機器の破壊を抑制し、構造の小型化と安定性、高い射撃精度に貢献している。緩衝器の中ほどに砲を支える支持架を取り付ける[2]。支持架は、逆Y字型をしており、中心の棒状器具の上部に方向機、その下に左右に伸びる脚部(分離可能)があり、中程に高低調整機、下部に水平微調整機を揃えている[2]。方向機の右側に調整用ハンドルがあり、その反対側には照準器を装着する[2]。

底盤は丸形で、軽量化のため三か所に肉抜き穴が開けてある[2]。砲身と支持架と床盤の組み立てが間に合わない場合には、砲身のみを地面に設置させ少量の装薬を用いることで射撃を実施できる[2]。

【砲弾】
93式の砲弾は、射程の延伸を目的に新規設計されたものが用いられている[2]。89式60mm迫撃砲のものと比較すると、空気抵抗の少ない紡錘形とされて飛翔距離の延伸に適した形状が採用された。また材質についても鋳鉄製から強度や延性に優れたダクタイル鋳鉄製に変更され、弾片効果を強化して殺傷範囲と威力を増している[2]。主な砲弾についてはPP-93式60mm殺傷榴弾(全長382mm、重量2.18kg、最小射程102m、最大射程5532m、殺傷半径17.8m)、PP-93式60mm鉄球殺傷焼夷弾(殺傷半径20m、焼夷半径12m)、PP-93式60mm発煙弾、PP-93式60mm照明弾(最大高度480m、燃焼時間30秒、照明到達距離1022m)などが存在する[2]。信管の信頼性の向上も図られており、大きく前期型と後期型に分かれている。前期型では信管の作動開始距離が40mとされていたが、後期型ではそれが60〜120mにまで延伸されている。改良型では信管の安全装置が解除される仕組みが、時限式から砲弾の飛翔速度により決定されるようになり、構造が簡単になり運用面でも便利になった[2]。

93式は軽量で長射程、全周囲射撃が可能であることから、最大射程での制圧射撃や最小射程での随伴射撃など戦況に応じて柔軟な火力支援を行うことが出来る[2]。

【配備後の状況】
93式は軽装備部隊における歩兵の貴重な火力支援手段として配備が進められたが、21世紀に入ると状況は大きく変化した[1]。

通常の歩兵部隊に配備されていた89式60mm迫撃砲は、歩兵連に次々に配備された 89式80mm対戦車ロケットランチャー(PF-89)87式35mm擲弾発射機(QLZ-87)、LG1-1型小銃擲弾発射機といった一連の新装備にその地位を追われ、予備装備として保管状態に置かれるに至った[1]。

93式についてもその存在の前提条件が揺らぐことになる。軍の機械化と情報化の進展に伴い、軽装備部隊についても輸送手段の近代化と後方支援体制の充実化が不断に進められた結果、1990年代までのような歩兵が携行する60mm迫撃砲に依存せずとも支援火器や火砲を運用できる体制が整ってきたのである[1]。

特に2014年に行われた大規模な軍制改革の影響は大きく、快速反応部隊の流れを組む中型合成旅では火力支援を担当する火力連に05式120mm装輪自走迫撃砲(PLL-05)×9を配属するに至り、93式を配備する意義は失われた[1]。

重装備に関する制約がさらに大きい山地部隊や空軍空降兵、軽型合成旅などでも、迫撃砲の自走化は進み「猛士」四輪駆動車に82mm自動速射迫撃砲を搭載したPCP-001型82mm装輪自走速射迫撃砲が配備されたことで、これらの部隊でも93式の占めていた地位は大きく揺らぐこととなった[1]。輸送力が強化されたことにより空軍空降兵においても87式82mm迫撃砲が復活を見ており、60mm迫撃砲についても新世代の201型60mm軽量迫撃砲(201式/PBP-201)が登場、さらに、大口径の172型120mm迫撃砲(PBP-172)や空挺降下可能な201型120mm空挺自走迫撃砲(TKUP201型)の配備が開始されるに至り、空降兵においても93式の立ち位置は難しいものになっているのが実情である[1][3]。

【参考資料】
[1]殷杰「国产60毫米迫击炮的浮沉」『坦克装甲车辆』2023年第12期上(《坦克装甲车辆》杂志社)12〜19頁
[2]崔忠旺 徐永强「超远射程:PP93式60mm迫击炮」(轻武器系统丛书编委会 编著『火力真相 解密中国榴弹武器』航空工业出版社/2014年)76〜90頁
[3]王子瑜「不容错过的地面静态展示」『兵工科技』2023/16(兵工科技杂志社) 43〜58頁

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