日本周辺国の軍事兵器 - JL1400UB型8×8全地形車「山猫」(CS/VP4)

▼Mi-17-V5汎用ヘリコプターから降車、展開する陸軍特殊部隊のJL1400UB全地形車「山猫」。


 JL1400UB型8×8全地形車「山猫」は、中国陸軍の特殊部隊や国境警備部隊などに配備されている八輪式ATV( all-terrain vehicle:全地形車)である[1]。開発は、中国兵器装備集団公司傘下の中国嘉陵工業股份有限会社(集団)によって行われた[1]。JL1400UBはメーカーでの生産代号で「山猫」の愛称も使われているが、軍の制式名称は不詳。中国兵器工業集団公司がCS/VP4の型式名で海外への輸出活動を行っておいり、ベネズエラへの輸出が実現している[9]。JL1400UBはベネズエラ陸軍と海軍に配備が行われることになる。

【性能】
 JL1400UBは、八輪式シャーシの上に高張力鋼製モノコック式車体を搭載しており、最大6名の乗車が可能[1]。フロント部分にはウインチを内蔵しており、急傾斜地での登坂やスタックした車両の救助などに用いられる。乗員区画はオープントップで、転倒時の安全確保のためロールバーの設置が可能。ロールバーを利用してルーフを取り付けてハードトップに変更したり、ルーフ上に銃架や各種兵装を搭載する事ができる。車体重量は1,750kgで最大1,100kgの搭載能力、1,500kgまでの牽引能力を備えており、小型の野砲やロケット砲の牽引が可能[1][2]。
 エンジンはYC4W85-20(1.4L)直列四気筒ターボチャージド・ディーゼルで最高出力は64kW[1]。エンジンと変速装置は車体中央部に搭載スペースを確保するために車体後部に纏めて配置されている。エンジン室上部にラックを配置して各種機材の搭載に用いることができる。車体後部には2箇所の車外電源が配置されており、これを利用して「北斗」衛星位置測定システムや通信機材、各種端末の取り付けが可能[3]。

 JL1400UBは不整地での高い走破性が特徴で、最大40cmの段差、1.2mの塹壕を突破することが可能[1]。戦車のように超信地旋回を行うことで旋回範囲を最低限に抑えることができる[1]。幅広のタイヤを八輪装備していることで、JL1400UBの接地圧は極めて低いものとなっており、通常の装輪車両では走行困難な雪原や湿地帯、岩場や山岳地帯での良好な走破能力、さらに、河川や沼沢地での運用を想定して水上航行性能が備わっている[1]。JL1400UBは、一度に4つの車輪が破損した状態でも問題なく走行することが可能[3]。

【配備状況】
 JL1400UBは、高い不整地踏破能力を生かして山岳地帯での戦闘を担当する山地旅(旅団に相当)や厳しい気候・地形の多い国境地域の警備を行う辺防部隊に配備され、物資・兵員輸送や監視・警備任務に従事している[3][4]。また、Mi-17ヘリコプターへの機内搭載や、Z-8ヘリコプターZ-8G輸送ヘリコプター(直昇8G)による吊り下げ空輸が可能なことから、陸軍特殊部隊のヘリボーン作戦用車両や空軍空挺部隊向け車両として採用され[2][3]、近年、着上陸専任部隊から緊急展開部隊としての性格を強めている海軍陸戦隊でもJL1400UBの配備を開始した[8]。これらの部隊では、兵員・物資輸送/救護/偵察などの各種任務に使用されるほか、その搭載力を生かした兵器プラットフォームとしても運用されている[1][2]。

【派生型】
 JL1400UBは軍、治安機関、民生向けにさまざまな派生型の開発が行われている。兵員輸送車型は自衛用火器としてロールバーや車体各部に機関銃や擲弾発射機の搭載が可能。兵器プラットフォームとしては107mm多連装ロケットや型式不明の4連装ロケット(ミサイル?)発射機などを搭載した車両が存在するが、輸出向け派生型の中には30mm機関砲を搭載したRWS(Remote Weapon System)を搭載したものも確認されている[6]。このほか、車体構造を大きく変更した派生型や車輪数を4×4式に変更した車両などが開発されている[6]。主な派生型は下図を参照。
【派生型一覧】
JL14000UB基本型。乗員6名が搭乗。兵員・物資輸送、救護、偵察・巡回、治安任務などに使用。輸出用名称はCS/VP4型8×8軽型全地形車「山猫」[7]。
兵器プラットフォーム型車体中央に各種兵器を搭載。63式107mm12連装ロケット砲や型式不明の8連装ロケット(対戦車ミサイル?)発射機を搭載した車両が確認されている[2][5]。
120ミリ自走迫撃砲型輸出向け名称はCS/SM10。中国軍での運用は確認されていない。車体後部に後装式の120mm迫撃砲を装備。同120mm迫撃砲は直射/曲射のいずれも可能で、射程は1,000〜6,000m[10]
81ミリ自走迫撃砲型輸出向け名称はCS/SS6。81mm口径の迫撃砲は中国軍では使用されておらず輸出向けに開発された車輛。車体後部に後装式の81mm自動迫撃砲を装備。同迫撃砲は直射/曲射のいずれも可能で、射程は6,000m以上。毎分40発という高い発射速度を有する[10]
「山猫」軽型戦闘車型輸出向け派生型。車体後部に機関砲(資料[6]だと30mm、資料[10]だと23mm機関砲と異なる口径が紹介されている)を装備したRWSを搭載。乗員2名[6][10]。
迫撃砲偵察指揮車型輸出向け名称はCS/VE5。中国軍での運用は未確認。迫撃砲射撃に必要な、前線の偵察、弾着観測、射撃修正の指示などを行う車両[10]。
「山猫」全地形救援牽引車擱座した「山猫」やトラックなどの車輛を牽引救難するために開発された[10]。
「山猫」物資輸送車型フロントエンジンに変更。荷台部分を最大限に拡大して物資輸送力の強化が図られている。乗員2名[6]。
「山猫」4×4型フロントエンジンに変更。車輪を8×8から4×4に変更し、車体後部に荷台を配置。車輪の減少に伴い車体長も短縮されている。乗員3名[6]。

JL1400UB性能緒元[1]
重量1,750kg
全長3.84mm
全幅1.792m
全高1.45m
エンジンYC4W85-20(1.4L)直列四気筒水冷式ターボチャージド・ディーゼル(64kW)
最高速度(陸上)65km/h
最高速度(水上)4km/h
航続距離400km
武装機関銃、擲弾発射機、多連装ロケット砲、RWS(30mm機関砲搭載)など各種装備の搭載が可能
装甲なし
乗員6名
搭載能力1,100kg
牽引能力1,500kg

【参考資料】
[1]翼刀「2015年中国国際応急災装備技術展覧会報道」『現代兵器』2015.11(中国兵器工業集団公司)6〜14ページ
[2]military-today.com「Chinese 8x8 ATV」
[3]新浪军事「中国山猫战车可翻70度陡坡 车轮坏一半仍能用」(2014年12月12日)
[4]新华网-军事「轻型全地形车列装部队」(责任编辑: 黄烁、来源:解放军报/2012年12月15日)
[5]铁血社区「中国全地形车震撼曝光 外形像“山猫”火力更猛」(2014年9月9日)
[6]铁血论坛「[原创]中国空降兵现役伞降重装兵器家族点播」(2014年12月24日)
[7]铁血论坛「[原创]实拍:全地形车还算摩托车吗?」(2013年4月26日)
[8]新浪网-军事「转型空突全球投送!我海军陆战队列装山猫全地形车」(2018年4月9日)http://slide.mil.news.sina.com.cn/h/slide_8_203_62... (2018年5月1日閲覧)
[9]新浪网-军事「造南美解放军!委内瑞拉再买中国山猫全地形车」(2017年6月26日)http://slide.mil.news.sina.com.cn/l/slide_8_199_53... (2018年5月1日閲覧)
[10]「小”山猫”,大用途 - ”山猫”8×8全地形车系列化武器家族」『兵工科技』2016年23期(兵工科技杂志社)19〜22頁

【関連事項】
JL1400UB型8×8全地形車の派生型
中国陸軍
中国空軍