なのはさんがフラグをよく立てるSS3
180 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:15:03 ID:Ngxa2kt5
第三話 一人称
「はやてー」
いつものように少し甘えた口調で話しかけてきたヴィータを笑顔で迎えると、はやては再度椅子に腰を下ろした。
とことこ部屋へ入ってくるヴィータの足取りは隊長の時のそれとは違って見えて微笑ましい。
「どないしたん?」
「……あのさ、ザフィーラに会って来たんだろ?どうだったんだよ」
「うん、……まあ、うん」
はやての曖昧な歯切れの悪い答えにヴィータの表情が曇った。
「……なんかあったのか、ザフィーラ」
いくら変態で気持ち悪くてオタクでもザフィーラは気の遠くなるような時間を共に過ごしてきた仲間だ。上辺は嫌って見せていても本音は違う。
答えないはやてを質問への肯定と見做したか、ヴィータはひどく難しい顔をした後、言った。
「まさかあいつが原因だとか……言わないよな」
「……そのまさか、言うたら?」
「……マジかよ……」
「信じたくあらへんけどな……。前のあれもそうやけど、何気に一番の問題児やなあ」
はやてはそう言って少し笑った。その顔つきは柔らかく、どことなく苦笑が混じっている。
「……?
はやてー、ザフィーラどうしたんだよ」
「なんや色々絡んで困ったことになってもーてるけど大丈夫やで、うん」
意味ありげに微笑むはやてに、
「はやてがいいって言うならいーけどよ」
と、少々可愛げのない返答をするヴィータだった。
181 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:15:41 ID:Ngxa2kt5
「フェイトちゃんっ」
「なの、……わ?!」
管理局内、執務官室手前廊下。
ドアを開けた途端、なのはに抱きつかれフェイトはなんとも形容し難い戸惑いを憶えた。慌てて辺りを見渡すも、特に人影はない。どこか照れ性のフェイトは天然ジゴロのなのはのこんな行動に時々慌てさせられる羽目になる。
「……どうしたの?なのは」
しがみついたまま離れないなのはに、嬉しさと照れが半々になる。……家でなら立場は逆なのだが。
悪い報せがあってのこれではないのだろう。長い付き合いの中で手に入れたなのはの呼吸から、フェイトはそう確信していた。今回の『一人称事件』になんらかの進展が生まれたものと見ていいかもしれない。
「はやてちゃんからさっき連絡が入ったの」
「はやて?なんだって?」
「原因、大体わかったって」
「ほんと?」
うん、と顔を上げたなのははどこか晴れた表情を浮かべていて、自然とフェイトにもそれが伝染する。
「……良かったね」
「うん。でもフェイトちゃんの『僕』聴けなくなっちゃうからちょっと残念かも」
「そ、う?」
「うん」
王子様みたいでかっこよかったから、と付け加えられた一言にフェイトの頬が少し染まる。家と外で若干性格にずれが生じるフェイトだが、その表現には少し齟齬がある。
なのはの前でだけ、違うだけなのだ。
「えと、原因なんだったの?」
「……コミュニケーション不足から来る被害妄想」
「え?」
その時、管内を赤い警告音が支配した。
誰もがそれに驚き、座っていた者は立ち上がり、立っていた者は足取りに緊張を付与させた。
フェイトとなのはも勿論その例に漏れることはなく、瞬時に仕事の顔になる。
二人の元に通信が入り、事の次第が知らされた。
「高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官、お休みの所申し訳ありません……!」
「グリフィスくん、何事だろ……?!」
「高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官のご自宅周辺より、強烈な熱エネルギー反応を観測、管理局はそれをロストロギアによるものと判定しました……ッ」
「マジィィィィ?!」
「な、なのは落ち着いて……」
「うちんちぃぃぃぃぃ?!」
「な、なのは落ち着いて……」
「あ、ごめんフェイトちゃん……何かが取り憑いてた……」
182 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:16:21 ID:Ngxa2kt5
おちゃめななのはの変化っぷりに動揺している暇はない。今あるだけの情報を知る為にフェイトは画面に目を向けた。
「グリフィス、分かってることがあれば全部教えてもらえるかな……?!」
「は、はい……!
第一報が入ったのが3分ほど前のことです、観測後即座に発生場所を特定しました。
発生源ははっきりとは分かっていませんが、固有波形パターンは過去発見されたロストロギアのそれと酷似しており、クロノ提督は緊急にデータと照合。仮にですがロストロギアと判定しました。
ですがかなり急な判断ですので判定確認等、細かい部分以前に上層部の許可は下りていません。提督の独断に近いものがありますが提督は長期間ロストロギアに関わってきた実績がありますから信頼は置けるかと……!」
「そうだね、僕もそう思う……。何か命令は下りている……?」
「はい、提督より口頭指示が……!」
画面が切り替わり、クロノが映像上に姿を現した。
「なのは、フェイト、落ち着いて聴いてくれ。……あまり楽しい話じゃない」
「そうだろうね……。だけど落ち着いて聴く心構えは出来てるよ」
「……そうか。では単刀直入に言うが、ほぼ9割の確率でロストロギアが出現している。何かの間違いだろうと過去のデータと照らし合わせてみたが波形がそれに信憑性を与える始末だ……。
誰が呼び起こしたのか、何故あの場で発動しているのかは未だ不明。ふたつの生体反応……、これはヴィヴィオと世話役アイナ・トライトンのもので相違ないな?」
「え……?」
なのはが眉を少し歪めた。
「アイナさんは今日風邪を引いてお休みで……。ザフィーラがヴィヴィオのお世話をしてくれてるの」
「……何だと?」
「お兄ちゃん?何かおかしいの?」
フェイトのお兄ちゃん発言を訂正することもなく、クロノは左手で額を支えた。
「……本当に……そうだっていうのか……」
「クロノ君……?」
「……心底楽しくない話になってきたというだけさ……。はやてがリインフォースとユニゾンを行うことは知っているな?」
「う、うん」
「……似たものと考えればいいのか、それとも全く別物か……」
画面上のクロノの目が、視線を下に向けた為に前髪で隠された。
「ひとつの生体反応から、微力ながらロストロギアのものと同じ波形を観測している」
「……え?」
意味を解しかねて、フェイトとなのはが声を重ねる。
「ロストロギアが、……生体融合を行おうとしているとしか考えられない。こんなことは前例がないし、可能なのかもわからないが……観測状態から推察するに、………………恐らく、ザフィーラに対して……」
クロノが映ったモニターの隣に、グリフィスのそれが展開された。
そしてそこから発せられた報告。
「生体反応、消、失……しました……ッ」
その声になのは、フェイト、二人の顔が蒼褪めていくのをクロノは見ていた…………。
183 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:17:57 ID:Ngxa2kt5
そこは、白い光に包まれた場所だった。
浮遊する自己イメージの中に彼はいた。ぼんやりとした瞳はきっと何も映していないのだろう。だが、虚ろというわけでもなかった。
いやに穏やかな世界。何もないのに心地がいい。
天国なのだと言われれば何の疑問もなく信じるだろう。
……俺は死んだのか?やけに世界が暖かい。なんだか懐かしい気がするのは何故かな。
いつ俺は死んだんだろう。
「……ぃ……、ざっ……!」
……誰かの声が聴こえる。
誰だ?知っている声だ。ユーノ・スクライア?それとも水橋○おり?
誰だろう。
「ざっふぃ!」
……ヴィヴィオ?
お前、死んだらまずいだろう。ママ二人が悲しむぞ…………。
「ざっふぃ、おーきてー」
「………………」
起きてと言われれば起きないわけにはいかない。
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れた顔がザフィーラを見つめていた。
「ざっふぃ、ねむいの?」
「…………………………、
……いや、平気だ。俺、は…………?」
眠っていたのか?
余りにも此処が自分の持つ天国のイメージと一致していた為になんだか知らないが死んだことにしてしまった。俺ほんと色々とやばいな……
背中を起し、辺りを見渡す。
ひたすらに白い空間。どこまでも続く白に、ドラゴン○ールのあの空間が脳裏を走る。
「此処は……、何処だ?」
「わかんない!どこ?」
「わからん」
とりあえず立ち上がる。
手を引っ張られ、下を向くとヴィヴィオはザフィーラを見上げていた。
どこなのかわからない場所だと判明したせいもあるのだろう、少し不安げな表情だった。失敗した、と内心で自分を殴ってから引っ張られた手を解かずにそのまま抱きかかえる。
盾の守護獣、ザフィーラ。
その名に誇りを持ち今まで主に仕えてきたのだ。その守護獣が守るべき相手に不安を与えてどうする。
ザフィーラは自分を叱咤してから力強く言った。
「大丈夫だ、俺が居る。心配するな」
「うん」
184 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:19:21 ID:Ngxa2kt5
ヴィヴィオの声から不安が拭われ、楽しげなものに変わったのを聴いてザフィーラは小さく安堵の溜息をこぼした。
しかし、一体ここはどこなのか。
本当に白しかない空間だった。厳密に言えば白と透明の半ばで、半透明な空間。下を向いても自分が地に足を着けているのかどうかが分かりにくく、そういう意味で少し不安定になりそうだ。
いつだったか作った空間に似ているような気もする。
だがあれは鍵の意味もありザフィーラの魔方陣によってのみ行き来出来る出入り口を作ってあったが、ここにはそんなものは当たり前だが存在しない。先程から通信も試みているが、砂嵐が飛ぶばかりで繋がらない。魔力が言わば圏外になっているようだった。
……どうしたものだろう。手がかりを得ようにも、何もないので見つけようがない。
「ざっふぃ」
「……なんだ」
「しろいねー」
「そうだな」
あまりうろつかない方がいい気がしたので、二、三歩進むだけに留める。試す価値も無さそうだが、魔方陣を展開してみることにした。ひとまずヴィヴィオを降ろし、片膝を着き精神を集中させる。
「じっとしているんだぞ」
「うん!」
ぽう、と蒼い光が二人を包み、髪が揺れた。
「……………………駄目か」
数秒後、ザフィーラは呟いた。
何の反応も見つからない。無意識の内に自作の異次元空間に紛れてしまったという推測は外れたようだった。広がる光景には1ミリの変化も見られない。
しかし、ここが自分の作った空間でないとわかっただけでも進展だ。ザフィーラはそう考え、何故この空間にヴィヴィオといることになったのかを記憶から取り出そうと眼を閉じた。
最も新しい記憶。
ヴィヴィオがトランプを持ってきて、シャマルが通信を入れてきて、そして……。
……記憶に混乱が見られる。
その辺りで鋭利な刃物で切断したかのように途絶えた記憶。不自然とも思えるその途切れ方にザフィーラはくしゃりと髪をまさぐった。
「ヴィヴィオ」
「うー?」
「いつから此処に居るのか憶えているか」
「うーん、えっと、ね」
「何でもいいんだ、何か憶えていたら教えてくれ」
ヴィヴィオが首を傾げながら考える様を見ながらザフィーラはある種の予感を感じていた。
野生の勘とでも言うのだろうか。少なくとも、良い意味での虫の報せではない。そう思った。
185 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:20:44 ID:Ngxa2kt5
「えっと、ね。ざっふぃがえほんのおかたづけしててね、ヴィヴィオはそれおてつだいしてたの」
「ああ、そうだったな、……絵本、な」
「ほいでね、ざっふぃとじじぬきしてたらね、おねえちゃんがきたの」
「……おねえちゃん?」
「うん。ママのおともだちのおねえちゃん」
主はやてだろうか。
特徴を出来るだけわかりやすく、かつ詳細に聞かせると、それははやてだったらしいことが判明した。
……何故俺はそれを覚えていない?
第一、主は何をしに来たんだ?用があるのなら通信で済むだろう、それに主は多忙だ。わざわざ出向く暇があるとは考えにくい。
「主はやては何をしに来たんだ?」
疑問をそのまま口にする。全くもって不可解だ。
「なんかね、ざっふぃはげんき?ってゆってたよ。だからげんきだよっておしえてあげたの」
……待て。
この会話には違和感がある。ヴィヴィオが幼いからという要素も考えられるが、それでもこれはおかしくないか?俺は間違いなくヴィヴィオの相手をしていた。その間一度も家を出ていないし(ほぼ引きこもりなので当たり前だが)、ヴィヴィオから目を離してもいない。
だが何故ヴィヴィオはまるで俺がその場に『居なかったかのように』話をするんだ?
俺がその場に居たのなら、どうしてそんなことを聴くんだ、と不思議に思うのが道理だ。
欠けた記憶、違和感の生じる主の訪問。
俺はヴィヴィオとずっと一緒に居た。それは言い方を変えれば俺とヴィヴィオの見ているものは同一であったということだ。しかし俺は主が訪ねてきたことを知らない。
仮に少しヴィヴィオから目を離したにしてもせいぜいそれは数分だろう。その間に主が現れてその会話――俺の安否を探る質問――を交わした?俺がそれに気が付かなかった?
……そんな馬鹿なことがあるか。
「おねえちゃんがかえってね、そぇからヴィヴィオねむくなったからおやすみして、おっきしたらここにいたの」
ちょま。
一番重要な所が抜けているんだが。
後おっきって言うなおっきって。
186 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/09/01(月) 20:22:30 ID:Ngxa2kt5
「ヴィヴィオっ!!!!」
蹴破られんばかりの派手な音を立ててドアが開けられ、なのはとフェイトは自宅に駆け込んだ。
いる筈の娘と、その保護者の姿を探し全ての部屋を回るが、煙のように二人の姿は消えていた。
へなへなと座り込んだなのはの肩をフェイトが支える。
フェイト自身もヴィヴィオの身が心配でならないが、それ以上にショックを受けているなのはを前にそんな顔は出来ない。フェイトはなのはを抱き起こし、落ち着かせようと声を掛ける。しかし軽い錯乱状態に陥ったなのはに、言葉は何の意味も持たなかった。
一体何が起こったのか。
グリフィスやクロノの話を統合しても全く話が見えてこない。
事件は解決に向かったんじゃなかったのか?
なのはが嬉しそうに報告に来てくれたのに、一体……?!
「なのは、なのは……!動揺しちゃいけないとは言わない、だけど、なのはがそんなんじゃヴィヴィオを連れ戻せない……!」
「でも……っ!」
「私も心配で、……心配で……っ、今だって頭の中大変なんだよ……、でも今は落ち着かなきゃいけない。
私たちは管理局内でそれなりの位置にいるとか、一番それを求められる立場にあるからとか、そんな理由じゃない!
…………ヴィヴィオを助けてあげられるのは……、『ママ』だけだからだよ……!」
「フェイト、ちゃん……」
名前を涙で濁しながら、なのははフェイトの黒い執務官服を濡らした。
「きっと大丈夫だから、……だから、泣くのはヴィヴィオが戻ってきた時まで取っておこう?」
「う、ん……」
「そんなナキムシじゃヴィヴィオに笑われちゃうよ、なのはママ」
フェイトが余裕を含ませた笑みを差し向ける。
「……うん、ごめん」
「強い子だから、……大丈夫」
「……うん」
「それじゃ、がんばろう」
頷いて目尻をぐい、と拭った時には、なのはの表情は空のエースオブエースのそれへと変わっていた。
二人は気が付いていなかった。
そして、それがどんな意味を持っているのかにも……気が付いていなかった。
2009年08月30日(日) 17:42:36 Modified by coyote2000