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Hello, Again 8


8 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:22:24 ID:gmqv1Xj9


*  *  *



「え?今度あの提督と話し合うん……?」
「まあね……」
「あの人なぁ……私の話なんて全く聞いてくれへんかったのに大丈夫なん?」
「クロノくんも来てくれるから多分大丈夫だよ」

地上本部のロビーではやてと遇ったなのはは、丁度人のいない時間帯だとばかりに
食堂で近頃の仕事の近況やフェイトのことなど、コーヒーを片手に話していた。

「せやけどあの人、若造が気に食わんのか知らへんけど
あのときクロノくんがちょっと言うたくらいでは休暇の許可くれんかったんよ?」
「みたいだね……」
「それにあれや、リンディ総括官にしてもクロノ提督にしても、
身内が口出しするのは規則違反的なところもあるし、その艦の管轄のことは
その艦内で処理するべきやっていう考えの人が多いからな」
はやては天井を仰ぎ見て言った。
それに対してなのはは、解ってる、というようにゆっくりコーヒーを啜る。
それからカップをテーブルに置いてから一呼吸置いてはやてに言う。

「フェイトちゃんも連れて行くよ」
すぐにはやては視線を戻してなのはを見た。
「え、どこに……本局に?」
「うん」
「提督に直接会ってもらうん?」
「そのつもり」

なのはの考え通り、確かに今のフェイトの様子を見れば
流石に頑固な提督も納得するだろうとはやては思った。

「でも本当は連れて行きたくないんだけどね……」
「……まぁ出来れば記憶が戻るまでは控えたいよな」

フェイトにとっての危険分子、つまりP.T.事件関連のことだが、
本局に行けばその情報にフェイトが出逢うこともありうる、それは避けたい、
そうなのはが考えているのははやても解っている。


そんな話をしていると、偶然スバルが食堂に入って来るのが見えた。
スバルの方もなのはとはやてに気づき、手にしたトレーに昼食を乗せる前に
すぐさま二人のところまでやって来た。





9 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:26:14 ID:gmqv1Xj9


「なのはさん!部隊長!」
「おお、スバルやんか〜」
「暫くぶりだね」

スバルは席に着かず立ったままだった。
はやてが、座らへんの?と尋ね、さらになのはが椅子を引こうと手を伸ばすが、
その前にスバルが姿勢を正して言った。

「あの!この間はすみませんでした、勝手なことして!」

この間、とはフェイトに会ったときのことだとなのははすぐに解った。

「……いいよ、もう」
「だけどキャロもエリオも本当に辛そうで、どうにかしてあげたくて!」
「うん……私があの子たちのこと解ってなかっただけだったね」
「えっ……」
スバルはてっきり怒られるとでも思っていたようで、
なのはの困ったような様子に対して驚いていた。

「フェイトちゃん喜んでたよ。ありがとう、スバル」
「あ、ほ、ほんとですか」
「うん、何もマズいことは起きてないし、本当なら私がエリオたちのこと気にして
あげなくちゃいけなかったんだよね。だからスバルのしたこと、助かったよ」

そしてスバルはそう言われて漸く緊張が解けたように
いつものフニャフニャとした笑顔になった。

「はぁ〜よかった……」
「ティアナにもお礼言っておいてくれるかな」
「あ、はい!それはもちろん……あの二人をフェイトさんに会わせてあげたいっていうのは
ティアが言い出したことですから」

今度はなのはが少し驚く。
てっきりスバルがやったものだと思い込んでいた。
ティアナならもっと冷静な判断を下したのではないかと考えていたから。

「そうなの?」
「はい、ティアが何度かエリオとキャロに会いに行っててくれたみたいで。
いつもフェイトさんに助けてもらっていたから、少しでも恩返したい、だからフェイトさんのためにも
エリオとキャロのこと気にかけてあげなきゃって言ってました」

なのははティアナがそんなふうに思っていてくれたことを知らなかった。

「執務官補佐になってから、いつもフェイトさんの役に立ちたいって言ってましたから」

そしてまた自分の不甲斐無さを感じた。

「それやったらキャロも安心やね、なのはちゃん」
「……うん……」
「エリオたちのことはティアと私が必ず支えますから!」
「……そっか、うん……すごく助かる」
「それに私でよければ早朝訓練と夜間訓練の代行とか引き受けますよ!?
なのはさんが早くフェイトさんのところに帰れるように!」





10 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:28:47 ID:gmqv1Xj9


後輩に自分のことで心配をかけて本当に申し訳ないとなのはは思った。
けれどそれ以上にスバルの心強く温かい言葉は嬉しかった。

「その気持ちはなのはちゃんも嬉しいやろうけど、
なのはちゃんの代行はちょっと許可取るんが難しいと思うで……」
「え〜?そうなんですかぁ?……え〜……」
残念がるスバルになのはが言う。
「ありがとうスバル、その言葉だけで充分元気でたよ」
「ホントですか!?」
「うん。ティアナにも本当にありがとう、感謝してもしきれないって伝えてほしい」
「はい!」

それからスバルはやっと椅子に腰を下ろし、ご一緒してもいいですか、と訪ねた。
「いいけどスバル、トレーにまだ何も乗ってないみたいだけど?」
スバルは慌てて残り少ないパスタを取りに走った。
なのはとはやてはその後ろ姿を見て笑った。



「前はスバルがなのはちゃんにベッタリで、ティアナは『なのはさんなのはさん言って
バカじゃない』とか言うてたクセに、今ではティアナも似たようなもんやねんな」

「うん?」

「エリオは小さい言うても流石に男の子や。私が会いに行ったとき、しっかりキャロを
慰めてやってたんやで?二人とも……エリオは特にフェイトちゃんによう似てるよな」

「フェイトちゃんに?……そうなのかな?……はやてちゃん、どうして笑ってるの?」

「ん?いや、六課ってええ子らに恵まれてたなぁと思ってな、嬉しくなってん」

「……うん、そうだね。あの子たちが後輩で本当によかった……」


――皆フェイトちゃんを想ってくれてるよ
――皆フェイトちゃんを待ってるよ

――だけど私が一番想ってるんだよ……?





11 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:30:13 ID:gmqv1Xj9


*  *  *



ポストに入った郵便物をリビングのローテーブルに置くと、
その中にあった一枚の絵葉書がフェイトの目に留まった。

深い緑の森に囲まれた広大な平原と、遠くに広がる険しい山々の風景だった。
差し出し元の住所はミッドチルダ南部のアルトセイムで、
なのはの知人からの『お元気ですか』『以前局でお世話になりました』という
内容らしかったが、フェイトには文章などどうでもよく、
ただその風景が母の映像を呼び起こすのだった。

一時間はその場に座り込んでそれを見ていた。

寂しくなった。
孤独だと感じた。

それはやはり母がもういないと再確認してしまうからだろうか?
きっと母がフェイトを想ってくれていた証拠だ。
こうして母を思い浮かべると、ほら――


『アリシア』


――ほら、……あれ?


『こっちへいらっしゃいアリシア』


――母さん……?


『私のかわいいアリシア――』


――母さん……私の名前は


「フェイトちゃん?」





12 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:33:34 ID:gmqv1Xj9


振り向くとなのはが制服のボタンを外しながらフェイトの方へ歩いて来る。
仕事から今戻ったばかりだ。
「なのは……」
なのははフェイトの側にある程度近づいたところで、瞬間ピタリと足が止まった。
フェイトが手にしている絵葉書の風景が見えたからだ。
フェイトが今にも泣きそうな顔なのはそれが原因だからに他ならない。
そして再び動く足は即座にフェイトに向い、
腕は持っていた荷物をその場に置いてフェイトを抱きしめた。
「……なのは……」
「うん……」

涙は出ていなくてもフェイトの声は既に泣いているようなものだった。



この頃なのはは、フェイトが自分を好意的に思ってくれてきている、
今現時点では一番信頼されているのではないだろうか、とそんなふうに感じていた。

実際フェイトは随分なのはに懐いていた。
なのはに毎日笑顔を見せてくれるようになっていたし、
寝るときは自分から側に寄って来てくれる日も増えた。
なのはのような教導官になりたいだなんて言ってくれた。

しかし……

フェイトの中で大切なのはやはり母親なのだと、
こんなふうに悲しまれると痛いほどそれを解ってしまう。

まだ悲しみが癒されるには時間が経っていないことは解っている。
こればかりは誰しも仕方のないことだ。
だからこうしてフェイトの痛みを自分も感じてやることしか出来ない。

「辛いよね……今は寂しいんだよね……」
「……うん……ごめん……またなのはを困らせて」
「そんなことないよ、辛いの解ってるから……」

そう納得していたはずなのだが……

なんだろうか、この遣る瀬なさは?

なのははあまりに母を想うフェイトのその気持ちに憤りを感じていた。
どういうワケか、感じてはいけないと思うほどその想いは強くなっていく。

「……母さんとね、よく花を摘みに行ったんだ」
「……うん?」
「奇麗な所なんだよ」
「うん、そっか…」
「それでね、膝の上に乗せてもらったり、そのまま寝ちゃうまで子守唄歌ってくれたり」
「うん……」
「すごく優しかったんだよ」
「……そう……」
「すごく優しかった…」





13 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:36:31 ID:gmqv1Xj9


自分は我が侭だ、となのはは思う。
愛情を注ぐだけのつもりが、それを受け取ってもらえないと感じれば
考えてはいけないことまで考えてしまう。

――フェイトちゃん……プレシアさんのこと、そんなに大事にしなくていいよ……
――その人はフェイトちゃんに大事にされる資格ない
――だってプレシアさんは本当は……


「母さんのためなら何でもしてあげたいって思ってた」


なのはの中である言葉が思い出される。
『誰でも……最愛の人のためなら何でもしたいと思うよ』


………そう……
………そんなにも………

そんなにも母親を想っているんだよね……



――私ではなく


自分を好きだと言ったはずの、想ってくれていたはずのフェイト。
しかし今フェイトが見ているのはなのはのいない場所。
フェイトがその瞳に映しているのは自分ではない人。
フェイトの心は今、なのはではない人のものだ……


――もしも……このままずっと思い出してくれなければ……
フェイトちゃんはもう私に気持ちを向けてはくれないの……?


アルフが怖れていたことを、なのははずっと前から怖れていた。
そしてなるべく考えないようにしていた。
認めたくないから。
だが日が経つにつれ、それを考えずにはいられなくなった。

少し前までフェイトの心を支配していたのは自分だったはずなのに、
そうではなくなった事実が垣間見える度に、なのはの心は酷く掻き乱される。
長い間ずっと片思い同士でやっと報われた関係が、もうこの世にいない、それもフェイトを
愛してもいなかった人のために壊されるなんてなのはにはどうしても許せない。

――このまま記憶が戻らないままだったら……

フェイトを傷つけまいと作った嘘のせいでフェイトは母に捨てられたことを知らない。
だからフェイトが母を想う気持ちは揺るがない。
だとすればフェイトがなのはの手を取ることは……

もうないのだろうか?





14 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:40:11 ID:gmqv1Xj9


――そんなの……嫌……
――私を選んでくれないなんて……嫌…!
――どうすれば……!?


そうだ……

プレシアが言い放った血も涙もないあの言葉を再びフェイトに言えば、
そうすれば前と同じようになのはに目を向けてくれるようになるだろうか……?



「私、母さんのことが大好きだったんだよ」

肩越しにフェイトがそう呟いた。

「私の全てだったのに」

なのはは抱きしめていた腕を解き、ゆっくりとフェイトと向き合った。
潤んだ紅い瞳は悲しく優しく、そして限りなく純粋だ。
何の疑いも持たずなのはの前で無防備にしている。
なのはに心を開き、もうなのはを信頼しているからこそ語られるフェイトの素直な気持ち。
そのフェイトに……

『フェイトちゃんのお母さんね、フェイトちゃんのこと大嫌いって言ってたよ』

そう、言ったなら……

フェイトは泣くだろう。
嘘だと言うだろう。
二度となのはに心を開かなくなるだろう……


どん底に突き落とされるのは自分だ――


そして知る。
そんなことしてしまったら全てが終わりだと。


なのはは本当のことを言いたい気持ちをぐっと堪え、下唇を噛み締める。

――自分であのことは言わないって決めたのに、
  それなのに自分でこの子を傷つけようとしてどうするの、なのは!

それから一度深呼吸をしてフェイトに言った。

「フェイトちゃん、私フェイトちゃんが大好きだよ」





15 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:43:08 ID:gmqv1Xj9


「……なのは……」
「すごく好き」
「……そう……なの……?」
「うん、だからフェイトちゃんが悲しくなったらいつでもこうやって慰めてあげるよ。
このくらいしか出来ないけど」

『好き』の中に友情以上のものを込めて。
こうやってフェイトが気づかないように気持ちを伝えることしか出来ない。

――きっといつか元に戻るんだから、それまでの我慢なんだから……

なのはがフェイトの両側の頬を手で包み微笑むと、
少ししてフェイトの方もなのはに微笑んだ。
「……ありがとう……」



結局は今のままなのだ。
何も動かない。
何も変化がないままでいる。

だから余計に不安になる。

かつて自分を想ってくれた人は本当にいたのか?
本当に想っていてくれたのか?
何か証拠をくれたか?
自分を必要としてくれていたのか?

……そんなことまで心の何処かで思ってしまう――






18 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:52:02 ID:gmqv1Xj9



*  *  *



こうして優しくなのはに抱きしめられていると、
フェイトは自分の胸の辺りが温かくなっていく気がした。
体温のせいではない何かがそうさせる。

そしてまた脳裏にある光景が――

青々とした葉の間から見える1人の少女の姿。
純白のジャケットとあのデバイス――レイジングハート。

別の光景では少女が自分に何かを訴えようと話しているが、フェイトには何も聞こえない。

何処かの橋の上から海面を見ている自分。
波の音を聞きながら誰かを待ってる。

そして足下の地面が崩れていく様子。
崩壊する岩の中で誰かに手を伸ばす自分。



誰に?誰に伸ばした手?
母さんに?
そして自分に伸ばされた手は誰の手……?



――これって……何なんだろう

――私、何かを思い出そうとしているの……?
――ううん……違うな……

――何かを……感じようとしている……?



――解んない……



「好きなの」

解らないままだったが、再びなのはに抱きしめられてそうやって耳元で囁かれると
フェイトはそれを考えるのを止めた。
今はただなのはの温もりに身を預けたかった。
「フェイトちゃんのこと大好きなんだよ?」
そうして腕に強く力を込められると、孤独な気持ちが少しは癒えて行く気がした。
それからこう思う。

なのはに抱きしめられるとなんだか……心地いい……

なのはにこうされるの、好きだ……





20 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:56:00 ID:gmqv1Xj9


*  *  *



四度目に会いに行った時、ヴィヴィオはなのはが迎えに来たのだと思い
急いで駆け寄って来ると嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
前も、その前もそうだったように。
フェイトママは治ったかと尋ねられ、もちろんなのははまだだと答えるしかない。
だからまだお家へは帰れないんだよ、そう伝えるしかない。

――だってフェイトちゃんが戻らないから……会わせられない

――でもそれだけじゃないの
――私が無理なの

――フェイトちゃんが私の気持ちを受け入れてくれないから、
  だから私の心はぐちゃぐちゃで、私は私でいられない……

――ヴィヴィオのママでいられない……


「運動会行けないのヴィヴィオ我慢したよ」
「ごめん、だけどプールの授業が始まるまでにはきっと、ね?」
「……今日もヴィヴィオ置いて行っちゃうの……?」
「ごめんね」
「今度いつ来るの?フェイトママと一緒にいつ迎えに来てくれるの?」
「……そのうちだよ」

なのはがいい顔をしないことでヴィヴィオの中にも不安が芽生えた。
このまま置いて行かれるんだということがよく解った。
そして二度と家には帰れないのではないかという恐ろしい不安。

「なのはママ、ヴィヴィオのこといらないの……?
だからヴィヴィオのこと置いていくの……?ヴィヴィオ悪い子なの?」

「ヴィヴィオ……違うよ、そんなことないよ」

色違いの左右の目からは大粒の涙がボロボロと落ちた。
なのはのスカートの裾を握りしめたまま離さずに。

「フェイトママはもうヴィヴィオのこと嫌いになっちゃったの……?
だからヴィヴィオに会ってくれないの……?ヴィヴィオの作ったケーキ忘れたこと怒ったから?」
そこまで言うと、大泣きし始めてそれ以上は言葉になっていなかった。

「フェイトちゃんはヴィヴィオのこと嫌いになったりしてないよ!?」

なのはは自分も泣いていることに気づかないまま必死で訴えた。
いつものママとしての姿ではないだろうが、そんなことはどうでもいい。
「嫌いになんてなるはずない!」
守るべき存在をこんなにもおざなりにしているんだという事実、
今放った言葉が現状では真実とは言えないこと、それがなのはの胸に抉るような痛みを与える。





21 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 00:59:16 ID:gmqv1Xj9


「ヴィヴィオは悪い子なんかじゃない!本当に……とってもいい子だよ……」

それからしゃがんでヴィヴィオの小さな肩を両手でしっかり包むと、
そのままヴィヴィオの呼吸が少し整うまで、そして自分がまた冷静になるまで待った。

「フェイトちゃんはヴィヴィオに会いに来れないけど、
でもそれはヴィヴィオがフェイトちゃんに怒ったせいじゃないよ」
「……ほんと……?」
「本当だよ。フェイトママだって早くヴィヴィオに会いたいに決まってる」

――本当にそうならいい……
そう思いながらなのははヴィヴィオに言って聞かせた。

「よく聞いてヴィヴィオ。フェイトちゃんの病気はね、いつ治るか誰も解らないの。
だからいつヴィヴィオに会えるのかも解らないし、いつ迎えに来てあげられるか解らない」
「……」
「ヴィヴィオを置き去りにはしないよ」
「……」
「なのはママがヴィヴィオのこといらないなんて思うワケないよ。ヴィヴィオは
なのはママの一番大事な宝物なんだから。いつだってそう思ってる」
「……うん……」
「その気持ち、ヴィヴィオには伝わってなかったのかな……?」
「……つたわってる……」
「よかった……」

善くも悪くもこの一年と暫くの間、ヴィヴィオと本当に血が繋がっていないという事実から、
何か事ある度に『自分にとってヴィヴィオがどんな存在か、またヴィヴィオにとって
自分はどんな存在か』ということを考えさされてきた。
そしてその答えと気持ちを、言葉でも行動でもヴィヴィオには素直に表現していたつもりだった。
だからきっと幼心にもなのはの愛情を感じ取ってくれているのだろう。

「今はヴィヴィオじゃなくて、別の大切な人のところに行くけど……
なのはママは……私がそんなふうにヴィヴィオを一番大事に思っていられるためには、
その人が側にいてくれないと駄目だから」
「どうして……?」
「……どうしてかな……多分もう……その人は私の人生の一部だから……
私の人生を作っているほとんど全てがその人だからだよ」

ヴィヴィオはなのはの言っていることが上手く理解出来なかった。
なのは自身も、それがヴィヴィオに向けたのか他の誰に向けた言葉なのか謎だった。
幼いヴィヴィオだけではなく、長く生きた者でさえ知らずに一生を終えることが多いこの気持ち。
それは紛れもない真実。
真実の愛を見つけた者だけが知る鎖。

「ママ、ヴィヴィオわかんない……」
「そうだよね、ごめんね……?どう言えばいいかな」
「……でもなのはママが辛いのイヤ」

お互い泣き顔の母娘はどちらが慰め役なのか端から見てももう解らないだろう。
なのはにも解らないから。





22 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/10(木) 01:04:24 ID:gmqv1Xj9


「なのはママがヴィヴィオのママでいてくれるなら、ヴィヴィオもうワガママ言わないから……」
「……ヴィヴィオ……待っててくれるの?」
「うん、だから泣かないでママ」
「……うん……」

余計に溢れそうになった涙を指で拭っていると、ヴィヴィオが小指を立てた拳を伸ばしてきた。

「やくそく」

いつかなのはがヴィヴィオにした指切り。

「ヴィヴィオいい子でいるからきっと迎えにきて、ママ」

まだヴィヴィオも目の縁にたくさん涙が溜まっていたが、その眼差しは凛としていた。

「ヴィヴィオ……うん……」
なのはは何処か自信を持てないままにその指に自分の小指を差し出した。
それから弱々しくもヴィヴィオにこう言った。

「必ずまた三人で一緒に暮らせるから」

ヴィヴィオは、ぜったいだよ、と言い、なのははそれに頷いた。


――今は出来ないけれど……絶対そうなるよね
――そうじゃないと……私、幸せになれない……

――フェイトちゃん……ねぇお願いだから……娘を置き去りにする私でいさせないで


やがて日が落ち、それがなのはの帰る時間を告げる。
ヴィヴィオは桃子に肩を抱かれ、去って行くなのはの後ろ姿にずっと手を振っている。
遠くから「いってらっしゃい」となのはに向って叫ぶ声が聞こえた。
なのはは振り向かない。
振り向くとまた泣いてしまうから。



ヴィヴィオは心の何処かで思ったのかもしれない。
大好きな母親を困らせたくないと。
エリオやキャロがそうしたように。
だから自分から指切りをした。
また果たされないかもしれない指切りの約束を。


『ちゃんと帰ってくるから』


そう、前と同じ
約束が果たされないのは、なのはママのせいじゃない――




なのはが自らの故郷で待つヴィヴィオに会いに行ったのはこのときが最後となった。



Hello, Again 9
2009年08月30日(日) 16:53:19 Modified by coyote2000




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