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Hello, Again 9


344 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:33:47 ID:XSVlzw9A


*  *  *



海でフェイトが記憶を失ってから二ヶ月が過ぎた。

相変わらずフェイトが元に戻る気配はなく、変化といえば箸がほぼ使えるようになったことと
ライオットザンバーの全ての形状を自在に操れるようになったことくらいだ。
はやての好意で再び訪れたシグナム曰く「これ以上腕を磨かれても相手に困る」とのこと。
それからなのはとは相変わらずで、着実に『仲良く』はなっていたが、
時々母を思い出すのか酷く落ち込み塞ぎ込むことがあるのも相変わらずだった。



そして今日は問題の提督と本局で会う約束の日。


なのははクローゼットから黒い制服を取り出してフェイトにそれを着せた。
それからフェイトと一緒に鏡の前に立ってその姿を映させた。
艦内で発作を起こしたときにはティアナや医師によってこの上着は脱がされていたから、
実質フェイトがこの制服を見るのは初めてだ。
「これ執務官のだよ」
「そうなんだ。これ着て行くの?」
「うん、ネクタイ窮屈かもしれないけど今日だけだからね」

――この制服もフェイトちゃんにとっては最初で最後かぁ……

「かっこいいでしょ」
以前好きだったその姿を見ながらなのはは言った。
フェイトは、どうだろう、と返事しながら襟元を触っている。
「なのはも色違い着てるよ?」
「ふふ、そうだけどね、違うの」
そうして雑談しているうちに二人を迎えに来たクロノから「表に車を止めて待ってる」と通信が入った。
なのはとフェイトは大急ぎで残りの支度を済ませて家を出た。


「やあフェイト。話は聞いてると思うが、俺は君の義兄でクロノっていうんだ。よろしくな」

非常に簡単な挨拶だった。





345 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:36:49 ID:XSVlzw9A


クロノは自分を忘れてしまった妹にどう接すればいいか不安に思わなかったのだろうか?
いや、そんなことはない。
フェイトとあまり目を合わせないクロノの姿を見て、なのははそう思った。
きっとクロノだって悩んだはずだ。
その結果、不器用な彼が選んだのがこれなのだ。
無関心を装って周りに心配をかけさせないようにするのが誰よりも上手なつもりだから仕方ない。

「あの、こちらこそ、よろしくお願いします、クロノ……お兄ちゃん?」
「お、お兄ちゃんはよせ!」

気を使って言ったつもりのフェイトだったが、クロノには逆効果だったようだ。
「ご、ごめんなさい」
「あ、いや、まぁ別にいいんだが……いきなり兄だと認めるのは君が難しいと思ってな……」

フェイトがクロノのことをどんな人物か解らなくて気をもんでいるというのに、
兄がこんなことで照れてどうする、となのはは思った。
しかし今はそんなことを観察している時間はないので「とりあえず急ごう」と兄妹の間に割って入り、
二人を車に押し入れた。


運転中、助手席に座ったフェイトは時々クロノの方を見ている。
後ろでなのはは、フェイトが自分よりもハラオウンの家族に懐いてしまったら、と複雑な思いだった。

「義母さんにはまだ会った事ないだろ?」
「はい」
「不安がらなくていいからな。今はちょっと都合が合わなくてフェイトに会ってやれないが、
義母さんはそのうちフェイトに会えること楽しみにしてるから」

兎も角クロノはフェイトのことをなのはに任すことを許してくれているのだ。
『リンディさんはちょっと都合が合わない』ことにしてくれるのだから。
何も文句は言うまい。



本局に到着し、普段は来る事のない棟の長い廊下を歩く。
ある区間まで来ると警告の文字が壁のモニターに大きく表示された。
『この先は重要機密区間です』
『一定クラス以上の身分証が必要です』
それから突き当たりの扉の前で機械音声が流れる。
『身分証明カードをセンサーに通して下さい』
クロノとなのはが順番に扉に付いた機械にカードを読み込ませ、フェイトはそれを真似て同じように行動した。

『無限書庫、右折』
『機密資料室01〜05、左折』
『管理外世界研究室、直進後右折』
『古代遺物仮保管室01〜10、直進後左折』

等々、扉の中の廊下には様々な表示が目の前を流れて行く。





346 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:41:19 ID:XSVlzw9A


なのはたち三人は直進して右の廊下へ進む。
提督は今日、この先訪れる予定の管理外世界への準備でここに来ている。
その研究室の向いに設置された小会議室へ三人が入ると、既に提督は席について待ち構えていた。
ボールペンの先を机にカツカツと打ち付けて、いら立っている様子だった。


「今日は用があってここに来ているだけで、早く艦に戻らねばならん」

さっさと本題に入りたまえ、とクロノと同じ制服姿のその男が言った。
三人は彼の前に横一列に並び、立ったまま用件を述べることにした。

「今日は前に話した通り、ハラオウン執務官の離職を認めてもらいたく――」
「やあハラオウン執務官。久しぶりだな」
「えっ……」
提督はなのはの話を中断させてフェイトに声をかけた。

「君が兄の力を頼るほど落ちぶれるとは」
「……」
突然そう言われ、フェイトは何も返せずに黙っていた。
なのはとクロノの二人もいきなりのキツい言葉に対応出来ないでいた。

「提督、フェイトは自ら離職を望んでいます。ですから――」
なんとかクロノが言い出そうとするが、再び男の声がそれを阻止した。
「そうか、フェイト・テスタロッサ執務官、と言わねば今は反応出来ないのかね」

フェイトは何を言われているのか理解し、戸惑いながらも答えた。
「ハラオウンで構いません……だけど私、執務官の仕事は出来ません……」
「そうだな。どうやら今の君では何も出来ないようだ」
「……」
「だから君が戻るまでもう少し待つと言っているだろう。それともその戦闘力だけでも使わせてもらうのはどうだ?」
「……えっ?」
「管理外世界は常に正体の解らぬ者がウヨウヨしている。
その世界での任務に対して魔導師ランクの高い執務官の数は常に不足している状態だ。
症状がよくなるまで君には犯罪者どもをねじ伏せるための前線潜入任務だけでも与えられるぞ?」

なのははすぐに猛反対の声をあげようとした。
これまで懸命に働いたフェイトを簡単に歩兵扱いするなど許せない。

「そんなの出来ません」

しかしなのはが言うまでもなく、先に返事をしたのはフェイトだった。

「……理由もなく命を懸け合って戦うなんて、出来ません……」
「……理由ならある。犯罪者は悪だからだ」
「だけど私には……そんな理由関係ありません。私は誰かのためでなければ……誰かを傷つけることは出来ないです」

そして今はその誰かは存在しないのだ。





347 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:46:17 ID:XSVlzw9A


「君のそういうところは前から好かん!犯罪者に同情するな!」
「そ、そういう訳では……」
「妹は何もそんな」
「提督、ハラオウン執務官は今はそんなこと考える状況では」
なのはたちがモタモタと訴えていると、提督はさらに強く言った。
「犯罪者は抹消しなければならん!そうでなければ我々の仕事は結局片付かんのだからな!!」
それから一言付け加えた。
余計な一言を。

「……元犯罪者でも我々の仕事に貢献してくれる者は別だがね」

冷ややかな声で口にされた『元犯罪者』とは。
幸いフェイトは自分のことだと気づいていないし、提督もそれを解っていてワザと言ったのだ。
クロノは肝を冷やし、なのはは歯をギリリと噛み締めた。
しかしフェイトはただ同じことをもう一度言っただけだった。

「……執務官の仕事、出来ません」

提督はペンの動きを止め、フェイトを凝視している。
そして居心地悪そうにしているフェイトにクロノがそっと声をかけた。
「フェイト、もう行っていいぞ。部屋の外で待っててくれ」
「え、うん……」
クロノは次に提督に言った。
「彼女の意思は今本人が言った通りです。後は我々が話します」
提督はクロノを睨みつけたが、そうだな、と一言漏らし、フェイトが出て行くことを認めた。
なのはとしても一刻も早くフェイトをこの場から逃がしたかった。
こままだとこの意地の悪い男がフェイトを傷つけるにちがいないと思ったからだ。
「フェイトちゃん、すぐ終わるから心配しないで」
フェイトはクロノの顔を、そしてなのはの顔を不安そうに見てから部屋を後にした。



「……本当にもう使えないようだな」

扉が閉まってからすぐに提督が言った。

「え……?」
「残念だがあの様子では彼女は私の期待にはもう答えられないようだ」

――別に……フェイトちゃんはあなたの期待に答える理由ない
――フェイトちゃんはそんなもののために働いていた訳じゃない

「そして高町教導官、六課で共に任務に励んだ君もさぞや失望したことだろうね」
「は……い?」
「あの優秀だったハラオウン執務官がこうなっては、君も顔が立たないだろう」

かつて二人が揃えば勝てぬ相手はないと名を馳せた、
その片割れがこんなことになっては、と提督は言った。
「……」

――何なの、この人は一体……何故こんな人がクロノくんと同じ提督なんかに……
  何故フェイトちゃんの上司なの!?





348 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:53:06 ID:XSVlzw9A


腹の中に沸々と込み上げる怒りのせいで、こめかみの辺りがピクリと動いた。
握りしめた拳の中で爪が身に食い込むのを止められない。

「そういう訳です。兎に角これで妹の――執務官の辞職届は受け取っていただけますね」

なのはの様子をチラリと見ていたクロノが一歩前に出てそう言った。
そして同時になのはに念話を送る。

―なのは、落ち着け。この男が私利私欲しかないことは解っていたことじゃないか―
―そういう奴だからこそ上手く優秀な部下の上にありつけただけだ、そんな奴相手にするんじゃない―

確かにクロノの言う通り、今なのはが提督に何を言ったところで事態は変わらない。
冷静にそう思ったところでなのはは自分が普段よりも心に余裕がないんだと気づいた。
このモヤモヤとした気持ちを怒りに任せてぶつけて、それで楽になるならどんなにいいか。

それからなのはは握りしめていた拳を緩め、クロノがフェイトの辞任届を提督に渡すのをじっと見ていた。




その頃廊下で一人佇むフェイト。
小会議室の扉にもたれていたフェイトは弱々しい溜め息を1つつき、深く俯いた。
提督の声はここまで届いていたのだ……

『君もさぞや失望したことだろうね』

フェイトは思った。

そうか……やっぱり私はなのはの足を引っ張ってたんだよね
なのはも今の私より優秀な執務官がいいと思ってたに決まってる
そう思われて当然だけど……
なのはにがっかりされるとこんなに辛いんだ……知らなかった……

……だから辞めてよかったんだよね
これ以上足手まといのままいるよりはずっといい

それに……
どうして私がこんな仕事をしていたかなんて知らないもの
犯罪者のことなんて私には関係ないよ
私には……関係ない……



……今の私、誰もいらないのかな――




「フェイト執務官、来ていらしたんですか」

ふと声をかけられ、顔をあげるとこちらに歩いてくる人物がいた。
フェイトはもちろんその人物を知らなかったが、局の制服を着ている上に自分を執務官だと言うのだから、
以前は知人だったことに違いない。
「休暇明けられたんですか」
「あぁ、うん……いや……」
「おや?休日に出勤ということですか?」
「え、と……まぁ」





349 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 02:57:44 ID:XSVlzw9A


自分でも自分のことがよく解らないのに一々事情を説明するのはどうだろうと思い、
曖昧な返答をしているとその局員は、それは兎も角、と別の話を切り出した。

「以前フェイト執務官から単独で依頼を受けていた件ですけど、まとまりましたよ」
「え、私……?」
「ええ、嫌だなぁ執務官!暫く休んでいる間に忘れたとか言わないで下さいよ?
11年も前の事件の資料を一から洗い出してのデータ整理と更新、時間かかったんですよ?」
「……そう、ですか……」
「まぁ……以前からフェイト執務官がこの事件をご自身のことだから
きちんと調べたいっておっしゃていたのは覚えてますし、
僕のような者があなたの役に立てるなら光栄ですから。また何か必要あれば言って下さいね」
「はい……」
「それで追加したものも含めて整理したデータは資料室のコンピューターに登録済みです。
まとめた文書類は同じ部屋のストッカーの、以前と同じ位置にあります」

局員がそこまで言ったところで小会議室の扉がスッと開き、なのはとクロノが出て来た。

「待たせたな、フェイト」
「あ、クロノ、なのは……終わったの?」
「うん、まぁね。ちゃんと届け受け取ってもらったから」
「そっか」

それからなのはがフェイトの隣にいる局員に目をやると、その局員はなのはとクロノに一礼をして、
では僕はこれで、とフェイトに言った。
そして去り際に思い出したようにもう一度フェイトに声をかけた。

「また今度改めてお教えしますが、プレシア事件のファイルはパスワード55678312、
アルバザード関連のみをまとめた方は8899598です」

今度こそ去って行く局員の背中を見送る三人は時が止まってしまったかのように動けなくなっていた。
沈黙。

当然なのはとクロノの思う事は1つ――しまった――だ。
そしてフェイトは二人の心配通り……
――プレシア事件?――

「なのは、今あの人『プレシア事件』て言った」

フェイトが理由を求めてなのはの顔を見る。
クロノが、そうだったか?と如何にも聞こえなかったように言う。

「そうだよ。母さんの名前だ」
「……同じ名前の別人かも?」
「ううん、そんなことないと思う。さっきの人が調べていたこと、フェイト執務官自身のことだって言われたもの」





350 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/07/17(木) 03:04:45 ID:XSVlzw9A


いよいよ言い逃れに苦しくなったが、それでもなんとか切り抜けようとなのはとクロノは必死だった。
「事件ってどういうこと?母さん何したの??」
「何も……してないよ。事故だもん、プレシアさんのことは」
「あの局員は慌てていたんだろう。『事件』と『事故』を履き違えたんじゃないのか」
「そうなのかな……」
「そうだよ!それより私お腹空いちゃって」
「フェイトはここの食堂言ったことないだろ?味はなかなかいいんだ。今から」
「アルハザードって何か知ってる??」

アルハザード……
何の目的でプレシアがそこへ行こうとしたか、それさえ言わなければ差し支えはないのかもしれないが……
なのははどう言うべきか悩んでいた。

「おとぎ話だ」

クロノがそう言ったのでなのはも慌ててそれに賛同する。
「うん、ただの架空の世界のことだよ」
「……どんな所なの?」
「えっと……確か……どんなことでも可能にしてしまうほど高度な技術があったとかなんとか……」
「あくまで伝説だ。そんな理想郷は存在しないんだが、信じている者がまだ研究しているだけさ」
「それが母さんと何の関係があるんだろう??」
「……さぁ……それは……プレシアさんも信じていたのかもしれないね」
「……」

信じていた理由は誰も知らないことにしよう。
なのははそう考えていたが、フェイトが何も言わなくなったので自らは口にしなかった。

「さぁそろそろ行こう。俺はもう空腹で限界だ」

クロノが仕切り直した言葉に、フェイトは何処かしっくりこないといった様子のまま頷いた。

「おとぎ話はまた今度ゆっくり教えてやるから」
「……うん……」


これでもう二度とフェイトがあの提督には会うことはない。
そう思うとなのはは少し気が晴れた。

機密区間を出てから、まだ人のいない午前中の食堂にて三人だけのささやかなフェイトの送別会を行った。
もちろん送別会といってもフェイト自身はここで働いたこともないのでそういう意識はなく、
ただなのはとクロノの二人が心の中で以前の彼女に「お疲れ様」と呟いたに過ぎなかった。
フェイトは二人の思いも知らず、折角のクロノの推薦料理に手もつけないで何か思いに耽っていた。


フェイトはただ頭の中で数字を忘れないように暗記していた。


――55678312、8899598、55678312、8899598、55678312、8899598……






Hello, Again 10
2009年08月30日(日) 16:53:50 Modified by coyote2000




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