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パリの憂愁(3)芸術家の告白

秋の夕方の侘しさときたら、なぜこんなに遣り切れない想いになるのか。ああ、切なさに
私の胸は張裂けそうである。これはどうしたことだろう。つまり秋の黄昏の触手に触れて
人はメランコリーになる、しかもなにが何だか分からないままに、人は鬱々として落ちつ
かない気持ちにさせられる。その触手の凄まじさときたら、天地創造とともに生れてより
今日に至るまで、成長を遂げ続けてきて、これを超えるものは有り得まい。

天の原、大海原の大いさに、与かり溺れ・微睡むは、夢遊桃源。孤独、寂寞、蒼穹の純潔
の尊くも有難き、あたかもそれは水平線にふるえる小さな帆である、その小さく、孤立し
た帆影は、癒やされることのない私の胸中をなぞらえたものか。さらには単調な波のメロ
ディーも。これらの総てが私を通して思考し、あるいは、これらを通して私が思考する。
結局、途方もない夢想のなかでは、忽ち融け合う自我。 思考すると私は述べたけれど、
音楽を以て、絵画を以て、理屈でなしに、三段論法でなく、演繹法でなく、結果より導き
だされた、即ち、結論である。

私を介するにせよ、何かを介するにせよ、真実を見つけた悦びのさ中にありながら、その
緊張から息苦しくて身悶えしながらも、思考を究め続けるこの作業は止まらない。過度に
張りつめた私の神経は、只々、苦痛に喘いで、波打っている。

今、天空の奥の深さを知って狼狽する私が居る、そしてその清澄さに憤る私がいる。海の
図太さにも素知らぬ気な景観にも、私は苛立ちを覚えて、抵抗やみ難くある。ああ、永遠
に悩まなければならないのか、それとも、身を引いて、永遠に美を避け続けなければなら
ないのか、私を解放せよ、自然よ、仮借なき魔女よ、私を地べたに打ちすえて勝利を奪い
去る我が宿命の敵よ、私の希望・私の誇りを誘って試みることはやめろ。 美を探究する、
それは今日の知識が打ち負かされるに先だって恐怖の叫びをあげる所の、一つの決闘
といえるのだ。

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