パステルカラーの淡い靄が立ちこめている幻想的な空気の部屋、
そのような場所には、おそらく精霊でも宿っていると言えそう。
そこで魂は、己の不甲斐なさを嘆いたり、明日の夢を描いたり、
心置きなく寛いで、心身の傷や疲れを取去り・癒やしたりする、
仄暗い夕空の青みを帯び、或いは、淡い薔薇色の夕焼けのよう、
満ち足りた後のひと時、夢に漂い味わう眠りは、悦楽であろう。
その部屋の調度はどれも、気だるそうにユッタリと拵えられて、
ぐったりとしていて、果てしない夢に浸り続けたいようである、
植物や鉱物の在り様、夢の雲海を漂い続けている、そんな感じ、
色とりどりの織物は、花のようで、空のようで、夕陽のようで、
どんな芸術品を飾りたてた壁でも、これに適う物はないだろう、
人の手になる芸術なんて、純なる幻に比べた時は、卑しいのだ、
解かりもしない心のなかの、美の価値を、どう越えられようか、
神の領域の一部分たりとも、浅智恵に塗り換えよう等は、冒涜、
この世界はバランス良く配分されていて、調和に満ちて美しい、
輝く太陽は世界に勇気を齎し、満天星は甘美なる優しさを齎す、
そこに微睡む生き物の魂は心地良くて、雲となって飛びまわる、
そのただ中で満足りて、溢れ出て、淡い靄となり、香気が漂う。
窓々や寝台に纏わり揺れているのはオーガンジーのカーテンか、
溢れて毀れた雪解水が滝津瀬の清らな流れとなっているようで、
その寝台に目をやれば、夢から脱け出た女王が横たわっている、
それにしてもどうしてここに、誰に伴なわれてきたのだろうか、
この幻想と悦楽の間の寝台に、いかなる魔力が連れてきたのか、
ともあれ今、彼女は、幻想の彼女はここにゐて、安らいでいる、
黄昏の闇を切裂く、その眼光の鋭さは、怖ろしい鑿の切れ味か、
今、改めて思い起こせば、その彼女の恐ろしい悪魔性が見える、
その眸は何気なしにでも見とれた者の魂を惹き付けて放さない、
捕らえられた犠牲者の魂は屈服して、敢え無く、最後をとげる、
この黒い二つの眸は好奇心に燃えていて、いつも褒美を強請る。
それにしてもこれまで私は、この眸を何べん眺めたことだろう、
今の私の幸せを、どんな悪魔の存在がもたらしたと言えようか、
おお!神秘、静寂、平和、香気、魅惑に包まれて、至福なる我、
人々は幸せを吹聴するけれど、私なればこその幸せと言いたい、
否、幸福の極みにあるといっても、それがなんだと言えようか。
認識できる幸せといい、悟る幸せといっても、自己満足であり、
絶え間なき、至上の命の歓喜の渦のなかを、人は揺られるだけ、
翻弄されて嵐の海を漂う小舟、私は歓喜の渦に揉まれるばかり、
時間はもはや無くなって、永遠、陶酔が敷詰められた異質空間、
その時、身の毛もよだつのは、戸口に鳴り響く、重厚なノック、
あたかもそれは地獄の夢でも見ていた時と言えばいいだろうか、
まるで、みぞおちにツルハシを叩きこまれたような気持がして、
そして時を置くこともなく、ゴーストは入ってきたのであるが、
それは法律の名において私を拷問しにきた執達吏であり、また、
私の暮しの苦悩に加えて、彼女の暮しの卑俗さをのせる謀略か、
悲惨な暮しぶりを私に訴える、無恥な娼婦であろう、あるいは、
新聞編集者の使いが原稿の続きを催促にくることも考えられる。
天上の間、偶像、諸々の夢の女王、偉大なルネが表した風の精、
それらは全て、ゴーストの手荒なノックで吹飛び、跡形もない。
それは惨めなものである、そんな状態の現実が戻ってくるのだ、
あばら家、いつ崩れるか知れない、この家が、私の住いなのだ、
ここにあるのは、塵まみれの角が落ちた、愚にもつかない家具、
燃えることのない、燠(おき)のない、痰で汚れた煖炉があり、
埃に雨脚がついた悲しげな窓。塗り潰された未完の原稿もある、
それに、不吉だった日の上に鉛筆の印がつけられたカレンダー。
欠けた所のない感受性に酔う筈だった私の世界の香気は、嗚呼!
吐き気を催す、得体の知れぬ黴臭さ、鼻持ならない煙草の臭い、
今、この空間に在る人は、すえた廃墟の臭いを嗅ぐことになる、
この狭苦しく、かくも嫌悪に満ちたなかに見慣れた品物、一つ、
それは古くて怖ろしい恋人、凡ての人々の恋人が、私に微笑む、
おお! 慰められ、また苦しめられる、それは、一壜の阿片剤、
おお、実に! 時間が再び現れ、そして現実が厳かに支配する、
この忌わしい老人と共々に、追憶の、悔恨の、痙攣の、恐怖の、
苦悩の、悪夢の、憤怒と神経病の、呪詛の行列等が、元に還る、
今や、紛れもなく、諸々の秒は、高らかに物々しく響をたてる、
柱時計を飛びだしていきながら、秒の一つ一つが人々に告げる、
「我は命、耐えがたきところの者を容赦なく呵責する命!」と。
説明しがたい、そんな恐怖をもたらすところの、ありきたりの、
幸福、 凡そ、あなたの生涯において知るであろう幸福だけど、
その幸福をもたらすのに要するは僅かに、一個の秒の存する間。
実に時間が支配するかのように、秒は粗暴な独裁権を掌握する、
私が牡牛でもあるかのように、その二本の針で駆りたてていく、
「そら、やい、しっ! 畜生奴、汗を出せ! もっと苦しめ!」
そのような場所には、おそらく精霊でも宿っていると言えそう。
そこで魂は、己の不甲斐なさを嘆いたり、明日の夢を描いたり、
心置きなく寛いで、心身の傷や疲れを取去り・癒やしたりする、
仄暗い夕空の青みを帯び、或いは、淡い薔薇色の夕焼けのよう、
満ち足りた後のひと時、夢に漂い味わう眠りは、悦楽であろう。
その部屋の調度はどれも、気だるそうにユッタリと拵えられて、
ぐったりとしていて、果てしない夢に浸り続けたいようである、
植物や鉱物の在り様、夢の雲海を漂い続けている、そんな感じ、
色とりどりの織物は、花のようで、空のようで、夕陽のようで、
どんな芸術品を飾りたてた壁でも、これに適う物はないだろう、
人の手になる芸術なんて、純なる幻に比べた時は、卑しいのだ、
解かりもしない心のなかの、美の価値を、どう越えられようか、
神の領域の一部分たりとも、浅智恵に塗り換えよう等は、冒涜、
この世界はバランス良く配分されていて、調和に満ちて美しい、
輝く太陽は世界に勇気を齎し、満天星は甘美なる優しさを齎す、
そこに微睡む生き物の魂は心地良くて、雲となって飛びまわる、
そのただ中で満足りて、溢れ出て、淡い靄となり、香気が漂う。
窓々や寝台に纏わり揺れているのはオーガンジーのカーテンか、
溢れて毀れた雪解水が滝津瀬の清らな流れとなっているようで、
その寝台に目をやれば、夢から脱け出た女王が横たわっている、
それにしてもどうしてここに、誰に伴なわれてきたのだろうか、
この幻想と悦楽の間の寝台に、いかなる魔力が連れてきたのか、
ともあれ今、彼女は、幻想の彼女はここにゐて、安らいでいる、
黄昏の闇を切裂く、その眼光の鋭さは、怖ろしい鑿の切れ味か、
今、改めて思い起こせば、その彼女の恐ろしい悪魔性が見える、
その眸は何気なしにでも見とれた者の魂を惹き付けて放さない、
捕らえられた犠牲者の魂は屈服して、敢え無く、最後をとげる、
この黒い二つの眸は好奇心に燃えていて、いつも褒美を強請る。
それにしてもこれまで私は、この眸を何べん眺めたことだろう、
今の私の幸せを、どんな悪魔の存在がもたらしたと言えようか、
おお!神秘、静寂、平和、香気、魅惑に包まれて、至福なる我、
人々は幸せを吹聴するけれど、私なればこその幸せと言いたい、
否、幸福の極みにあるといっても、それがなんだと言えようか。
認識できる幸せといい、悟る幸せといっても、自己満足であり、
絶え間なき、至上の命の歓喜の渦のなかを、人は揺られるだけ、
翻弄されて嵐の海を漂う小舟、私は歓喜の渦に揉まれるばかり、
時間はもはや無くなって、永遠、陶酔が敷詰められた異質空間、
その時、身の毛もよだつのは、戸口に鳴り響く、重厚なノック、
あたかもそれは地獄の夢でも見ていた時と言えばいいだろうか、
まるで、みぞおちにツルハシを叩きこまれたような気持がして、
そして時を置くこともなく、ゴーストは入ってきたのであるが、
それは法律の名において私を拷問しにきた執達吏であり、また、
私の暮しの苦悩に加えて、彼女の暮しの卑俗さをのせる謀略か、
悲惨な暮しぶりを私に訴える、無恥な娼婦であろう、あるいは、
新聞編集者の使いが原稿の続きを催促にくることも考えられる。
天上の間、偶像、諸々の夢の女王、偉大なルネが表した風の精、
それらは全て、ゴーストの手荒なノックで吹飛び、跡形もない。
それは惨めなものである、そんな状態の現実が戻ってくるのだ、
あばら家、いつ崩れるか知れない、この家が、私の住いなのだ、
ここにあるのは、塵まみれの角が落ちた、愚にもつかない家具、
燃えることのない、燠(おき)のない、痰で汚れた煖炉があり、
埃に雨脚がついた悲しげな窓。塗り潰された未完の原稿もある、
それに、不吉だった日の上に鉛筆の印がつけられたカレンダー。
欠けた所のない感受性に酔う筈だった私の世界の香気は、嗚呼!
吐き気を催す、得体の知れぬ黴臭さ、鼻持ならない煙草の臭い、
今、この空間に在る人は、すえた廃墟の臭いを嗅ぐことになる、
この狭苦しく、かくも嫌悪に満ちたなかに見慣れた品物、一つ、
それは古くて怖ろしい恋人、凡ての人々の恋人が、私に微笑む、
おお! 慰められ、また苦しめられる、それは、一壜の阿片剤、
おお、実に! 時間が再び現れ、そして現実が厳かに支配する、
この忌わしい老人と共々に、追憶の、悔恨の、痙攣の、恐怖の、
苦悩の、悪夢の、憤怒と神経病の、呪詛の行列等が、元に還る、
今や、紛れもなく、諸々の秒は、高らかに物々しく響をたてる、
柱時計を飛びだしていきながら、秒の一つ一つが人々に告げる、
「我は命、耐えがたきところの者を容赦なく呵責する命!」と。
説明しがたい、そんな恐怖をもたらすところの、ありきたりの、
幸福、 凡そ、あなたの生涯において知るであろう幸福だけど、
その幸福をもたらすのに要するは僅かに、一個の秒の存する間。
実に時間が支配するかのように、秒は粗暴な独裁権を掌握する、
私が牡牛でもあるかのように、その二本の針で駆りたてていく、
「そら、やい、しっ! 畜生奴、汗を出せ! もっと苦しめ!」

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