最終更新: nano69_264 2008年05月29日(木) 15:38:44履歴
59 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/19(土) 00:36:52 ID:YB7wH3TK
304 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/21(月) 01:42:17 ID:LFl2MhaP
419 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:14:59 ID:v6cKtDsd
420 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:15:43 ID:v6cKtDsd
421 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:16:45 ID:v6cKtDsd
422 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:17:30 ID:v6cKtDsd
「たまには、おにぎりが食べたい」
大盛りパスタを平らげながら呟いた、スバルのその言葉が始まりだった。
「おにぎり……ですか?」
エリオが首を傾げる。
「キャロは知ってる?」
キャロも首を振った。
スバルは嬉しそうに頷いている。
「ティアは知ってるよね?」
「アンタが前に見せたじゃない。あの、黒いボールみたいな奴でしょう?」
黒いボール?
エリオとキャロは顔を見合わせる。
……食べ物の話じゃなかったっけ?
「ひどいなぁ、あれは海苔を巻いてただけだよ」
……海苔?
聞いたことあるようなないような。
「美味しいのに」
「食べたことないものをいくら美味しいって言われてもね…」
「じゃあ、今度作ってもらうから」
しかし、六課の食堂にはそもそも米がない。
理由は単純。「需要がない」
不思議な話だった。六課にはおにぎり世界(おにぎりワールド・スバル命名)の出身者も少なくないというのに。
というか、部隊長がそもそもおにぎり世界からやってきた人である。
そしてなのはと、出身ではないものの、実家がおにぎり世界にあるフェイト。
さらには、一時期おにぎり世界に住んでいたというシグナム、ヴィータ、シャマル。
隊長格のおにぎり世界率はただごとではない。これで食堂におにぎりがないのは理不尽と言えよう。
まあ、米があればおにぎりは作れる。
そこでスバルは父親に連絡した。実家には米があるはずだ。
「すまん。ギンガが最後の一粒まで余すことなく食い尽くした」
スバルは速攻で電話を切った。使えない親父め、と呟きながら。
そこで、おにぎり世界出身者達に当たってみることにする。おにぎり世界の出身なのだから、
米くらいは備蓄しているに違いない。
ところが、よくよく考えてみると、おにぎり世界から来たのは皆上役なのだ。まさか「米寄こせ」
と言うわけにはいかない。いくらスバルでもそれくらいはわかる。
「そういうときは搦め手を使うのよ」
ティアナがニヤリと笑った。
「エリオに一肌脱いで貰いましょう」
「フェイトさんの作ったおにぎりが食べたい」
エリオがそう言った翌日には、フェイトが米俵を背負って食堂に現れたという。
◆
米俵を食堂に持ち込んだフェイト。しかし、いわゆる炊飯器などはない。
鍋で炊けばいいのだけど、経験がない者にとっては火加減がわからない。
「大丈夫。中学校に通っていた頃、遠足で飯盒炊爨をしたことがある」
「……フェイトちゃん、その日は私たち二人ともお休みして任務に……」
「ごめん。なのはは黙ってて」
「フェイトちゃん、なんやったら、家から炊飯器取って来よか?」
「ごめん。はやても黙ってて。これは私の戦いだから」
「戦い!?」
なんでそこまで拘るのか。
訳がわからない、という顔のはやてをよそに、シグナムは感極まったように立ち上がっていた。
「そうか、テスタロッサ、それがお前の、戦士としての誇りということか……」
「……シグナム、何をどう理解したんや?」
「ならばこの私が協力しよう!」
「フェイトちゃん絡みやったら何でもええんやな……」
既にあきらめ顔のはやて。そして頷くフェイト。
「ありがとうシグナム、貴方のその火力が必要なんだ」
「盛り上がってるとこ悪いけどフェイトちゃん、ヴォルケンリッターをコンロみたいに言わんといてんか」
「ヴォルケンリッターをコンロなんて思ってないよ。コンロはレヴァンティンだから」
「待たんかい」
「うむ。任せて貰おう。ヴォルケンリッター、烈火の将の名にかけて」
「かけるんかいっ!」
巨大鍋に大量にぶち込まれた水と白米。
「えーと、研がんでええの?」
「あ、それならあたしも手伝います。その代わりおにぎり下さいね?」
駆け寄るスバル。
「それじゃあ行きます」
リボルバーナックルの手首部分、ナックルスピナーが高速回転を始める。
「あ、あの、スバル……?」
「大丈夫です、八神部隊長。うちのギン姉もこうやってお米研いでましたから」
今明かされるナカジマ家の秘密。
一方では、シグナムがレヴァンティンの火力調整にチャレンジしている。
「……始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな……テスタロッサ、赤子とは一体?」
「恐らく、赤い子です」
「つまり、ヴィータか」
「なんでだよ! あたしが泣くわけーだろっ!!!」
「泣かせればいい……なの」
「ちょ……なのはっ! なんでお前!! や、やめろ、うわっ、その顔、その顔は!! 悪魔! 悪魔!」
「悪魔でいいよ。悪魔のやり方でご飯を炊くだけだから……」
ヴィータの悲鳴を耳にして、はやてはぼんやりと考えていた。
本当に、食べられるおにぎりが出来るんやろか……?
◆
ヴィータの貴い犠牲で、ご飯は見事に炊けた。因みに全員野外に移動している。
「結構、何とかなるもんやね」
呆れ半分関心半分のはやて。
「じゃあ、おにぎり作ろうか」
フェイトが袖を捲る。
「あのー、私たちも少し分けてもらえると嬉しいかなあって…」
おずおずと切り出したスバルに、首を傾げるフェイト。
「……そうね。流石にこれだけの量はエリオ一人じゃ食べきれないし」
いっそ、いつの間にか集まっている皆で食べようと。
JS事件が解決してからは、ハッキリ言って皆が暇なのだ。
「でも、そうするとフェイトちゃん一人で作るのは大変だよ」
言いながら、なのはも袖を捲り上げる。
「私だって、おにぎりくらいなら」
「……料理と名の付くものなら、はやてが一番美味いに決まってる!」
ヴィータの強い推薦で引きずり出されるはやて。
「うーん。ま、ええか。出身世界の料理を知ってもらうんも、楽しいしな。せっかくの炊きたてご飯やし」
妙に盛り上がり始める一同。
「当然、部隊長でしょ。ヴィータ三尉のお墨付きだよ?」
「いやいや、高町教官の実家は食い物屋らしいからなぁ?」
「自分で持ってきたんだから、執務官だって相当な自信だと思うぞ?」
誰のおにぎりが一番美味しいか、議論が始まっている。
はやて、なのは、フェイトがおにぎりを作っているテーブルの前に並び始める一同。
「スバル、アンタどうするの? やっぱり、なのはさんのおにぎり狙い?」
「全部食べるよ?」
「あ、そ」
「エリオ君は、どうするの?」
「うん。やっぱり、フェイトさんのおにぎりかな」
「やっぱりそうかぁ」
キャロは、それなりに手際よく握っている三人のほうをじっと見ている。
「おにぎりって、ああやって作るんだね」
「うん。始めて見たよ」
「手で直接握るんだ……」
「そうだね」
「汗とか、手の汚れとか付いちゃうんじゃないかなぁ?」
「うーん。でも、そもそもそういう料理らしいし…」
そんなものかなぁ、と首を傾げるキャロ。その背後から聞こえる、男性課員達の話声。
「考えてみれば、このおにぎりって、なんかいいな」
「単純な料理じゃないか」
「おまえ、よく考えろよ。あの教官が、執務官が、部隊長が素手で握りしめたモノをそのまま食うんだぞ!
あの三人の汗とか、手の汚れとか、一切合切俺の口の中にっ!! あああっ、辛抱たまらん!」
「変態がいる……」
そこまで聞こえたところで、再びキャロはエリオを見た。
「……エリオ君、フェイトさんのおにぎりがいいの?」
「そうだけど?」
「……………ふーん…………………変態」
「え? キャロ、何か言った?」
「ううん、なんでもない」
少しの沈黙の後、
「私もおにぎり作る」
「ええっ?」
はやてに負けるのは仕方ない、となのはは思った。向こうはある意味主婦だ。ご飯のプロだ。夜天の王だ。
「おにぎりの作り方」くらい蒐集行使しているかもしれない。
おにぎり希望列ははやて前がトップ、そしてフェイト前、大きく開いてなのは前の順だ。
ちなみになのは列の先頭に立っているのは嬉しそうにワクテカしているスバル。その後でつまらなそうに立っているのはティアナだ。
そして「つき合いだからなっ」と誰に怒っているのかわからないヴィータ。これでは身内票と言われても仕方ない。
ちなみに影になっていて見えないが、ヴィータの後にはフェレットがいたりする。
最下位だけど、見方を変えれば三位なの……と自分を慰めていると、突然発生する第四の列。
「なに?」
フェイトとはやても驚いて列の先頭を見た。
テーブルで、必死になっておにぎりを握っているのはキャロだった。
「うんしょ……熱っ……うううう、熱いよ……でも、頑張るよ、エリオ君……」
必死の姿に、ガンバレとの声援までが。
因みにキャロの列に並んでいるのは、普段から色々と疑惑の目に晒されている男性独身課員一同だったりする。
「リイン、あそこに並んでる連中、チェックしといてな。叩けば埃が出る連中やろ」
「はい……あの、はやてちゃん?」
「なんや?」
「全員です?」
「勿論やん」
「狼さんもいるです」
「………そか……ヴィヴィオのお守り、えらい熱心やと思とったけど。そーいうことかいな…」
なのはは焦っていた。第三位ではない、最下位である。キャロにも負けてしまうのか。
こうなったら、奥の手しかない。全力全開、悪魔と言われても勝つ。エースofエースの名にかけて。
自分があがれないのなら、相手を引きずり落とす。
……はやては無理。策略で勝てるとは思えない。キャロを引きずり落とせば、自分が悪者にされるだろう。
……ごめんね、フェイトちゃん。
なのはは周りの様子を確かめると、まるで今し方気付いたばかりだというように目を丸くして、声を上げる。
「あれ? フェイトちゃん、さっきシグナムさんがご飯を炊いているとき席を外したよね?」
「え? 外したけれど……あれはなのはも一緒に…」
「あ、そうか。トイレに行ってたんだよね」
にゃはははは、と笑い、そしてトドメ。
「そう言えばフェイトちゃん、手を洗い忘れてるよ?」
勝った。となのはは確信した。食べ物である。しかもおにぎりである。手を洗っていないのは致命的。
これでフェイト前の列も……
……って、列が伸びたーーーーーーーーーーーーー!!!
「シグナム、どこ行くんや!」
「テスタロッサの列に並ぶのです!」
「なんやてーーーーー!」
まさかこんなことになるなんて。
なのははさらに焦った。
どこに行くか迷っていたメンバーまでがフェイト前に並んでいる。ここまで六課が歪んでいたなんて……
こうなったらキャロを引きずり落とすしかない。いや、それはまずい。
だから、キャロの真似をする。
キャロの幼女パワーを真似すればいいのだ。
「おにぎりにこれを付けるの」
なのはの取りだした物にざわつく一同。
「ユーノ君秘蔵の隠し撮り写真、高町なのは九歳!」
笑い出すフェイト。
「そのくらいならこっちにも! 義兄さん秘蔵の隠し撮り写真、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン九歳!」
「負けへんっ! グレアムおじさん秘蔵の隠し撮り写真、八神はやて九歳! あと、ザフィーラ秘蔵の隠し撮り写真、主九歳や!」
3人娘の育ってきた環境は最悪だったらしい。あと、撮ってたのか、狼。
結果。
キャロ>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>>>その他
なんのことはない。六課の大多数である女性陣の総スカンを食らってしまっては、勝てるわけがないのだ。
結局女性票のほとんどが健気におにぎりを作るキャロに集まり、挙げ句の果てには皆でキャロを手伝い始めて、
非常に微笑ましい風景が繰り広げられていたのだ。
その一方で醜い争いが続いたことは言うまでもない。
「フェイトちゃんの手にはアルハザード経由の謎の病原菌が!」
「なのはの血塗られた手で握ったおにぎりなんてっ!」
「ヴィータ、シグナム、ええから二人のおひつ壊してまえ!」
その争いをよそに……
キャロの作ったおにぎりを頬張るエリオ。
「おにぎりって、美味しいね」
「いっぱいあるからね」
スバルもニコニコと、そしてバクバクと頬張っている。
「アンタは少し空気読みなさい」
ティアナに引きずられてどこかに連れて行かれるスバル。後に残ったのはキャロとエリオだけ。
「エリオ君が食べてくれるなら、私、また頑張るから。食べたいものがあったら言ってね」
二人は平和だった。
終
(オマケ)
「鯨肉って食べてみたいな」
再びのスバルの甘言に乗せられ、そう口走ってしまうエリオ。
しかし、エリオのために捕鯨船に乗り組んだフェイトが怪我を負ってしまう。
責任を感じ、ストラーダを銛に持ち替えて旅立つエリオ。
しかし、鯨を追うエリオの前に立ちはだかるのは……
「鯨は賢いのよ!」
自称自然保護団体グリーン○ースの尖兵となったキャロだった!
怪しい液体の入ったバケツを抱えたキャロの前に、エリオの捕鯨船はどうなるのか。
次回、魔法少女リリカルなのはEaterS「鯨は貴重な蛋白源なの」
魔法少女、よく食べます。
(いや嘘だからw)
著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU
304 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/21(月) 01:42:17 ID:LFl2MhaP
419 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:14:59 ID:v6cKtDsd
420 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:15:43 ID:v6cKtDsd
421 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:16:45 ID:v6cKtDsd
422 野狗 ◆gaqfQ/QUaU sage 2008/04/23(水) 00:17:30 ID:v6cKtDsd
「たまには、おにぎりが食べたい」
大盛りパスタを平らげながら呟いた、スバルのその言葉が始まりだった。
「おにぎり……ですか?」
エリオが首を傾げる。
「キャロは知ってる?」
キャロも首を振った。
スバルは嬉しそうに頷いている。
「ティアは知ってるよね?」
「アンタが前に見せたじゃない。あの、黒いボールみたいな奴でしょう?」
黒いボール?
エリオとキャロは顔を見合わせる。
……食べ物の話じゃなかったっけ?
「ひどいなぁ、あれは海苔を巻いてただけだよ」
……海苔?
聞いたことあるようなないような。
「美味しいのに」
「食べたことないものをいくら美味しいって言われてもね…」
「じゃあ、今度作ってもらうから」
しかし、六課の食堂にはそもそも米がない。
理由は単純。「需要がない」
不思議な話だった。六課にはおにぎり世界(おにぎりワールド・スバル命名)の出身者も少なくないというのに。
というか、部隊長がそもそもおにぎり世界からやってきた人である。
そしてなのはと、出身ではないものの、実家がおにぎり世界にあるフェイト。
さらには、一時期おにぎり世界に住んでいたというシグナム、ヴィータ、シャマル。
隊長格のおにぎり世界率はただごとではない。これで食堂におにぎりがないのは理不尽と言えよう。
まあ、米があればおにぎりは作れる。
そこでスバルは父親に連絡した。実家には米があるはずだ。
「すまん。ギンガが最後の一粒まで余すことなく食い尽くした」
スバルは速攻で電話を切った。使えない親父め、と呟きながら。
そこで、おにぎり世界出身者達に当たってみることにする。おにぎり世界の出身なのだから、
米くらいは備蓄しているに違いない。
ところが、よくよく考えてみると、おにぎり世界から来たのは皆上役なのだ。まさか「米寄こせ」
と言うわけにはいかない。いくらスバルでもそれくらいはわかる。
「そういうときは搦め手を使うのよ」
ティアナがニヤリと笑った。
「エリオに一肌脱いで貰いましょう」
「フェイトさんの作ったおにぎりが食べたい」
エリオがそう言った翌日には、フェイトが米俵を背負って食堂に現れたという。
◆
米俵を食堂に持ち込んだフェイト。しかし、いわゆる炊飯器などはない。
鍋で炊けばいいのだけど、経験がない者にとっては火加減がわからない。
「大丈夫。中学校に通っていた頃、遠足で飯盒炊爨をしたことがある」
「……フェイトちゃん、その日は私たち二人ともお休みして任務に……」
「ごめん。なのはは黙ってて」
「フェイトちゃん、なんやったら、家から炊飯器取って来よか?」
「ごめん。はやても黙ってて。これは私の戦いだから」
「戦い!?」
なんでそこまで拘るのか。
訳がわからない、という顔のはやてをよそに、シグナムは感極まったように立ち上がっていた。
「そうか、テスタロッサ、それがお前の、戦士としての誇りということか……」
「……シグナム、何をどう理解したんや?」
「ならばこの私が協力しよう!」
「フェイトちゃん絡みやったら何でもええんやな……」
既にあきらめ顔のはやて。そして頷くフェイト。
「ありがとうシグナム、貴方のその火力が必要なんだ」
「盛り上がってるとこ悪いけどフェイトちゃん、ヴォルケンリッターをコンロみたいに言わんといてんか」
「ヴォルケンリッターをコンロなんて思ってないよ。コンロはレヴァンティンだから」
「待たんかい」
「うむ。任せて貰おう。ヴォルケンリッター、烈火の将の名にかけて」
「かけるんかいっ!」
巨大鍋に大量にぶち込まれた水と白米。
「えーと、研がんでええの?」
「あ、それならあたしも手伝います。その代わりおにぎり下さいね?」
駆け寄るスバル。
「それじゃあ行きます」
リボルバーナックルの手首部分、ナックルスピナーが高速回転を始める。
「あ、あの、スバル……?」
「大丈夫です、八神部隊長。うちのギン姉もこうやってお米研いでましたから」
今明かされるナカジマ家の秘密。
一方では、シグナムがレヴァンティンの火力調整にチャレンジしている。
「……始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな……テスタロッサ、赤子とは一体?」
「恐らく、赤い子です」
「つまり、ヴィータか」
「なんでだよ! あたしが泣くわけーだろっ!!!」
「泣かせればいい……なの」
「ちょ……なのはっ! なんでお前!! や、やめろ、うわっ、その顔、その顔は!! 悪魔! 悪魔!」
「悪魔でいいよ。悪魔のやり方でご飯を炊くだけだから……」
ヴィータの悲鳴を耳にして、はやてはぼんやりと考えていた。
本当に、食べられるおにぎりが出来るんやろか……?
◆
ヴィータの貴い犠牲で、ご飯は見事に炊けた。因みに全員野外に移動している。
「結構、何とかなるもんやね」
呆れ半分関心半分のはやて。
「じゃあ、おにぎり作ろうか」
フェイトが袖を捲る。
「あのー、私たちも少し分けてもらえると嬉しいかなあって…」
おずおずと切り出したスバルに、首を傾げるフェイト。
「……そうね。流石にこれだけの量はエリオ一人じゃ食べきれないし」
いっそ、いつの間にか集まっている皆で食べようと。
JS事件が解決してからは、ハッキリ言って皆が暇なのだ。
「でも、そうするとフェイトちゃん一人で作るのは大変だよ」
言いながら、なのはも袖を捲り上げる。
「私だって、おにぎりくらいなら」
「……料理と名の付くものなら、はやてが一番美味いに決まってる!」
ヴィータの強い推薦で引きずり出されるはやて。
「うーん。ま、ええか。出身世界の料理を知ってもらうんも、楽しいしな。せっかくの炊きたてご飯やし」
妙に盛り上がり始める一同。
「当然、部隊長でしょ。ヴィータ三尉のお墨付きだよ?」
「いやいや、高町教官の実家は食い物屋らしいからなぁ?」
「自分で持ってきたんだから、執務官だって相当な自信だと思うぞ?」
誰のおにぎりが一番美味しいか、議論が始まっている。
はやて、なのは、フェイトがおにぎりを作っているテーブルの前に並び始める一同。
「スバル、アンタどうするの? やっぱり、なのはさんのおにぎり狙い?」
「全部食べるよ?」
「あ、そ」
「エリオ君は、どうするの?」
「うん。やっぱり、フェイトさんのおにぎりかな」
「やっぱりそうかぁ」
キャロは、それなりに手際よく握っている三人のほうをじっと見ている。
「おにぎりって、ああやって作るんだね」
「うん。始めて見たよ」
「手で直接握るんだ……」
「そうだね」
「汗とか、手の汚れとか付いちゃうんじゃないかなぁ?」
「うーん。でも、そもそもそういう料理らしいし…」
そんなものかなぁ、と首を傾げるキャロ。その背後から聞こえる、男性課員達の話声。
「考えてみれば、このおにぎりって、なんかいいな」
「単純な料理じゃないか」
「おまえ、よく考えろよ。あの教官が、執務官が、部隊長が素手で握りしめたモノをそのまま食うんだぞ!
あの三人の汗とか、手の汚れとか、一切合切俺の口の中にっ!! あああっ、辛抱たまらん!」
「変態がいる……」
そこまで聞こえたところで、再びキャロはエリオを見た。
「……エリオ君、フェイトさんのおにぎりがいいの?」
「そうだけど?」
「……………ふーん…………………変態」
「え? キャロ、何か言った?」
「ううん、なんでもない」
少しの沈黙の後、
「私もおにぎり作る」
「ええっ?」
はやてに負けるのは仕方ない、となのはは思った。向こうはある意味主婦だ。ご飯のプロだ。夜天の王だ。
「おにぎりの作り方」くらい蒐集行使しているかもしれない。
おにぎり希望列ははやて前がトップ、そしてフェイト前、大きく開いてなのは前の順だ。
ちなみになのは列の先頭に立っているのは嬉しそうにワクテカしているスバル。その後でつまらなそうに立っているのはティアナだ。
そして「つき合いだからなっ」と誰に怒っているのかわからないヴィータ。これでは身内票と言われても仕方ない。
ちなみに影になっていて見えないが、ヴィータの後にはフェレットがいたりする。
最下位だけど、見方を変えれば三位なの……と自分を慰めていると、突然発生する第四の列。
「なに?」
フェイトとはやても驚いて列の先頭を見た。
テーブルで、必死になっておにぎりを握っているのはキャロだった。
「うんしょ……熱っ……うううう、熱いよ……でも、頑張るよ、エリオ君……」
必死の姿に、ガンバレとの声援までが。
因みにキャロの列に並んでいるのは、普段から色々と疑惑の目に晒されている男性独身課員一同だったりする。
「リイン、あそこに並んでる連中、チェックしといてな。叩けば埃が出る連中やろ」
「はい……あの、はやてちゃん?」
「なんや?」
「全員です?」
「勿論やん」
「狼さんもいるです」
「………そか……ヴィヴィオのお守り、えらい熱心やと思とったけど。そーいうことかいな…」
なのはは焦っていた。第三位ではない、最下位である。キャロにも負けてしまうのか。
こうなったら、奥の手しかない。全力全開、悪魔と言われても勝つ。エースofエースの名にかけて。
自分があがれないのなら、相手を引きずり落とす。
……はやては無理。策略で勝てるとは思えない。キャロを引きずり落とせば、自分が悪者にされるだろう。
……ごめんね、フェイトちゃん。
なのはは周りの様子を確かめると、まるで今し方気付いたばかりだというように目を丸くして、声を上げる。
「あれ? フェイトちゃん、さっきシグナムさんがご飯を炊いているとき席を外したよね?」
「え? 外したけれど……あれはなのはも一緒に…」
「あ、そうか。トイレに行ってたんだよね」
にゃはははは、と笑い、そしてトドメ。
「そう言えばフェイトちゃん、手を洗い忘れてるよ?」
勝った。となのはは確信した。食べ物である。しかもおにぎりである。手を洗っていないのは致命的。
これでフェイト前の列も……
……って、列が伸びたーーーーーーーーーーーーー!!!
「シグナム、どこ行くんや!」
「テスタロッサの列に並ぶのです!」
「なんやてーーーーー!」
まさかこんなことになるなんて。
なのははさらに焦った。
どこに行くか迷っていたメンバーまでがフェイト前に並んでいる。ここまで六課が歪んでいたなんて……
こうなったらキャロを引きずり落とすしかない。いや、それはまずい。
だから、キャロの真似をする。
キャロの幼女パワーを真似すればいいのだ。
「おにぎりにこれを付けるの」
なのはの取りだした物にざわつく一同。
「ユーノ君秘蔵の隠し撮り写真、高町なのは九歳!」
笑い出すフェイト。
「そのくらいならこっちにも! 義兄さん秘蔵の隠し撮り写真、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン九歳!」
「負けへんっ! グレアムおじさん秘蔵の隠し撮り写真、八神はやて九歳! あと、ザフィーラ秘蔵の隠し撮り写真、主九歳や!」
3人娘の育ってきた環境は最悪だったらしい。あと、撮ってたのか、狼。
結果。
キャロ>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>>>その他
なんのことはない。六課の大多数である女性陣の総スカンを食らってしまっては、勝てるわけがないのだ。
結局女性票のほとんどが健気におにぎりを作るキャロに集まり、挙げ句の果てには皆でキャロを手伝い始めて、
非常に微笑ましい風景が繰り広げられていたのだ。
その一方で醜い争いが続いたことは言うまでもない。
「フェイトちゃんの手にはアルハザード経由の謎の病原菌が!」
「なのはの血塗られた手で握ったおにぎりなんてっ!」
「ヴィータ、シグナム、ええから二人のおひつ壊してまえ!」
その争いをよそに……
キャロの作ったおにぎりを頬張るエリオ。
「おにぎりって、美味しいね」
「いっぱいあるからね」
スバルもニコニコと、そしてバクバクと頬張っている。
「アンタは少し空気読みなさい」
ティアナに引きずられてどこかに連れて行かれるスバル。後に残ったのはキャロとエリオだけ。
「エリオ君が食べてくれるなら、私、また頑張るから。食べたいものがあったら言ってね」
二人は平和だった。
終
(オマケ)
「鯨肉って食べてみたいな」
再びのスバルの甘言に乗せられ、そう口走ってしまうエリオ。
しかし、エリオのために捕鯨船に乗り組んだフェイトが怪我を負ってしまう。
責任を感じ、ストラーダを銛に持ち替えて旅立つエリオ。
しかし、鯨を追うエリオの前に立ちはだかるのは……
「鯨は賢いのよ!」
自称自然保護団体グリーン○ースの尖兵となったキャロだった!
怪しい液体の入ったバケツを抱えたキャロの前に、エリオの捕鯨船はどうなるのか。
次回、魔法少女リリカルなのはEaterS「鯨は貴重な蛋白源なの」
魔法少女、よく食べます。
(いや嘘だからw)
著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU
- カテゴリ:
- 漫画/アニメ
- 魔法少女リリカルなのは
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